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第5章 謀略 渦巻く
幕間11-2 歪みは波紋の様に広がり 楽園を超え 世界を飲み込む 其の2
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「アマテラス、及び全アメノトリフネの諸君。アラハバキ代表、ヤゴウが全部門、及び市民に対し号令を下す。これは諸君らも知る不幸な事故により活動停止を余儀なくされたアマテラスオオカミに代わり指揮権を代行するフォルトゥナ姫の決定でもある」
どうやら演説のつもりらしい。それっぽい言葉の羅列に不快感が込み上げる。オペレーター達も同じようだ。この連中がいなければ事態は悪化しなかった。誰もがアラハバキを忌々しい目で睨み上げるが、当人は視線など構わず演説を続ける。自己陶酔する様は悍ましく、それ以上に愚かだ。
「我々が新たに結成したクズリュウは2日後、大規模な戦闘行動を開始する。標的は映像に小さく映る地球。日本と言う小さな島国の中央に位置するG県、その全域を支配する企業が本社内に秘匿する意志を持つ兵器だ。スサノヲが命懸けで持ち帰ったデータから、奴は今この瞬間も地球に未知のエネルギーを振りまいている。また、地球文明も大きく歪んでいると判明した。遠からず、地球はその兵器なしには何も出来なくなるだろう」
ヤゴウの言葉を聞いたツクヨミの顔が失意に染まる。そんなつもりではなかった。が、現状はヤゴウの言葉通りになりつつある。いや、もう既に――
「何より、かの兵器は連合製。いかなる経緯で地球に渡ったのかは不明だが、何れにせよ21条245項に及ぶ未開惑星保護条例を反故にしたとなれば主星の姫はどれ程に嘆かれるか。地球側の代表には既に要求を伝えたが、受け入れる可能性は極めて低い。ならばこそ、力づくでも回収しなければならない。強引な事は承知している。その為に多くの血が流れる事ももちろん承知している。だが、今ここで行動を起こさねば再び悲劇が起きる。2年前の忌まわしい事件。あの悲劇が再び起きれば、闇の中で鮮やかに輝くあの青い惑星が血に染まるだろう。恐怖に震える者はどうかその痛みと恐怖を乗り越えて欲しい。我々が体験した悲劇を再び起こさぬ為、命を掛けて任務に当たるクズリュウの背中をどうか強く押してやってほしい」
上辺だけをなぞれば相応に見事な演説。だが、反応は様々。違い2年前の事実を知らぬ者は彼の見事な演説に酔いしれ、惜しみない賛辞を贈る。例えば映像に映る市民達の様に。一方で知る者は――
(隠してるな。肝心な事、奪ったら何するかって部分と、システム奪われた地球の行く末も)
(はい。加えて、感情に訴える内容も実に効果的です。悲劇をちらつかせれば大抵の人は騙されます。結果、あの男の言葉を鵜呑みにしました。更に過激派なる組織を作って自らを後押しさせています。反対意見は皆無、仮にあったとしても過激派の脅迫恐喝によって声を上げる事すら困難。口惜しいですが、数を味方につけた時点で彼等の勝利は揺るぎそうにありません)
ヤゴウと共に艦橋を訪れたタガミとヒルメが囁き合う。彼女の指摘する通り、人は少数側に回ると途端に脆く、時には自分が間違っていると錯覚する場合さえある。悲劇を前面に押し出し、理論ではなく感情に訴える狡猾なヤゴウの演説は、思考を放棄した衆愚を都合よく動かす。
演説に隠された本質を見抜いたのは確認した限りタガミとヒルメだけらしい。その2人と、全てを知る我らはこう考える。この薄氷を渡るかのような状況において何故そこまで強気に出れるのか、と。
「その為に、アマテラス、及びアメノトリフネの諸君には是非とも協力して頂きたい。地球は何らかの理由でカグツチが非常に少ない、それを補う為にヤタノカガミの使用を許可して頂きたい。高濃度のカグツチはマガツヒを呼び込むがその段階に入る前に機能停止すれば問題は無いとデータにはある。その判断はこちらで行う。短いが以上で通信を終了する。戦場はあの星になるだろう、市民の皆様に危害が加わる可能性は限りなく零に近い。だからどうか恐れる事無く結果をお待ち頂きたい」
唐突。寝耳に水な提案に市民は動揺した。
ヤタノカガミ――対マガツヒ用の兵器を未開の一惑星に使用する異常事態に、市民達は静まり返った。しかし、長くは続かない。惜しみない賛辞、続けて喝采。演説が終わってみれば市民の多くが熱狂の渦に自らを投げ込んだ。
市民から見れば彼等は英雄に等しい。緊急停止したアマテラスに代わり旗艦の運航を担い、2年前に起きた忌まわしい事件により受けた傷を、まるで予見していたかの如く迅速に復興させたアラハバキを。
(任せていいのか?)
タガミが傍らのヒルメに問う。柄にもなく不安を滲ませる男の押し殺すような声に彼女は僅か微笑み、一歩前へ進み出た。まるで「任せろ」と言わんばりの背を、タガミは無言で見送る。
「私が調整を担当します。データは既にインストール済み、完璧に実行可能です」
ヤゴウの前に立ったヒルメが軽く会釈、自らがヤタノカガミの制御を行うと宣言した。
「万が一失敗したらどうなるか分かっているだろうな?」
ヤタノカガミの制御は作戦の要、だというのにヤゴウは相変わらず己と周囲以外を極限まで軽視する態度を変えない。恐らく――いや、戦いに関する何一つを真面に理解していない。
「承知しております。其れと僭越ながら私の名前はオオヒ……」
「貴様の名前なぞ知った事か!!サルタヒコ、タガミ。クズリュウに伝えろ。奴等は警告を無視した。よって総攻撃を行い、目標を奪う。作戦開始は2日後の現地時刻の0900。持ち帰った情報を精査した結果、濃度低下はあの国の夜間帯に発生すると判明している。が、くれぐれも気を抜くなよ」
「「承知した」」
一通りの指示を出し終えヤゴウはアラハバキのメンバーを従え、艦橋から退出した。遅れてタガミ等も後に続く。残ったのはオペレーター達と素性一切不明の式守、ヒルメ。
どうやら演説のつもりらしい。それっぽい言葉の羅列に不快感が込み上げる。オペレーター達も同じようだ。この連中がいなければ事態は悪化しなかった。誰もがアラハバキを忌々しい目で睨み上げるが、当人は視線など構わず演説を続ける。自己陶酔する様は悍ましく、それ以上に愚かだ。
「我々が新たに結成したクズリュウは2日後、大規模な戦闘行動を開始する。標的は映像に小さく映る地球。日本と言う小さな島国の中央に位置するG県、その全域を支配する企業が本社内に秘匿する意志を持つ兵器だ。スサノヲが命懸けで持ち帰ったデータから、奴は今この瞬間も地球に未知のエネルギーを振りまいている。また、地球文明も大きく歪んでいると判明した。遠からず、地球はその兵器なしには何も出来なくなるだろう」
ヤゴウの言葉を聞いたツクヨミの顔が失意に染まる。そんなつもりではなかった。が、現状はヤゴウの言葉通りになりつつある。いや、もう既に――
「何より、かの兵器は連合製。いかなる経緯で地球に渡ったのかは不明だが、何れにせよ21条245項に及ぶ未開惑星保護条例を反故にしたとなれば主星の姫はどれ程に嘆かれるか。地球側の代表には既に要求を伝えたが、受け入れる可能性は極めて低い。ならばこそ、力づくでも回収しなければならない。強引な事は承知している。その為に多くの血が流れる事ももちろん承知している。だが、今ここで行動を起こさねば再び悲劇が起きる。2年前の忌まわしい事件。あの悲劇が再び起きれば、闇の中で鮮やかに輝くあの青い惑星が血に染まるだろう。恐怖に震える者はどうかその痛みと恐怖を乗り越えて欲しい。我々が体験した悲劇を再び起こさぬ為、命を掛けて任務に当たるクズリュウの背中をどうか強く押してやってほしい」
上辺だけをなぞれば相応に見事な演説。だが、反応は様々。違い2年前の事実を知らぬ者は彼の見事な演説に酔いしれ、惜しみない賛辞を贈る。例えば映像に映る市民達の様に。一方で知る者は――
(隠してるな。肝心な事、奪ったら何するかって部分と、システム奪われた地球の行く末も)
(はい。加えて、感情に訴える内容も実に効果的です。悲劇をちらつかせれば大抵の人は騙されます。結果、あの男の言葉を鵜呑みにしました。更に過激派なる組織を作って自らを後押しさせています。反対意見は皆無、仮にあったとしても過激派の脅迫恐喝によって声を上げる事すら困難。口惜しいですが、数を味方につけた時点で彼等の勝利は揺るぎそうにありません)
ヤゴウと共に艦橋を訪れたタガミとヒルメが囁き合う。彼女の指摘する通り、人は少数側に回ると途端に脆く、時には自分が間違っていると錯覚する場合さえある。悲劇を前面に押し出し、理論ではなく感情に訴える狡猾なヤゴウの演説は、思考を放棄した衆愚を都合よく動かす。
演説に隠された本質を見抜いたのは確認した限りタガミとヒルメだけらしい。その2人と、全てを知る我らはこう考える。この薄氷を渡るかのような状況において何故そこまで強気に出れるのか、と。
「その為に、アマテラス、及びアメノトリフネの諸君には是非とも協力して頂きたい。地球は何らかの理由でカグツチが非常に少ない、それを補う為にヤタノカガミの使用を許可して頂きたい。高濃度のカグツチはマガツヒを呼び込むがその段階に入る前に機能停止すれば問題は無いとデータにはある。その判断はこちらで行う。短いが以上で通信を終了する。戦場はあの星になるだろう、市民の皆様に危害が加わる可能性は限りなく零に近い。だからどうか恐れる事無く結果をお待ち頂きたい」
唐突。寝耳に水な提案に市民は動揺した。
ヤタノカガミ――対マガツヒ用の兵器を未開の一惑星に使用する異常事態に、市民達は静まり返った。しかし、長くは続かない。惜しみない賛辞、続けて喝采。演説が終わってみれば市民の多くが熱狂の渦に自らを投げ込んだ。
市民から見れば彼等は英雄に等しい。緊急停止したアマテラスに代わり旗艦の運航を担い、2年前に起きた忌まわしい事件により受けた傷を、まるで予見していたかの如く迅速に復興させたアラハバキを。
(任せていいのか?)
タガミが傍らのヒルメに問う。柄にもなく不安を滲ませる男の押し殺すような声に彼女は僅か微笑み、一歩前へ進み出た。まるで「任せろ」と言わんばりの背を、タガミは無言で見送る。
「私が調整を担当します。データは既にインストール済み、完璧に実行可能です」
ヤゴウの前に立ったヒルメが軽く会釈、自らがヤタノカガミの制御を行うと宣言した。
「万が一失敗したらどうなるか分かっているだろうな?」
ヤタノカガミの制御は作戦の要、だというのにヤゴウは相変わらず己と周囲以外を極限まで軽視する態度を変えない。恐らく――いや、戦いに関する何一つを真面に理解していない。
「承知しております。其れと僭越ながら私の名前はオオヒ……」
「貴様の名前なぞ知った事か!!サルタヒコ、タガミ。クズリュウに伝えろ。奴等は警告を無視した。よって総攻撃を行い、目標を奪う。作戦開始は2日後の現地時刻の0900。持ち帰った情報を精査した結果、濃度低下はあの国の夜間帯に発生すると判明している。が、くれぐれも気を抜くなよ」
「「承知した」」
一通りの指示を出し終えヤゴウはアラハバキのメンバーを従え、艦橋から退出した。遅れてタガミ等も後に続く。残ったのはオペレーター達と素性一切不明の式守、ヒルメ。
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