G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第6章 決戦前夜

幕間13-5 ~ 神の封印に至る過去 反乱開始 其の3

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 実力差は明白。一見すれば凄まじい速度で翻弄するクシナダが優勢と錯覚するが、現実は疲弊せず、大火力の武器を容赦なく乱発する壱号機が圧倒的に優勢。しかし、クシナダは逆手に取り、時間稼ぎに徹する。

「随分と動きは早いが、それだけか。では、そろそろ終わりにしようか」

 命懸けの遊戯が唐突に終了する。宣言と共に壱号機の攻撃が苛烈さを増した。が、直撃成らず。コンマ以下の秒数差で回避成功。弾丸はクシナダの身体を掠めるように通り過ぎた。僅かの後、後方から凄まじい轟音、衝撃波が、クシナダを貫通、華奢な身体を紙切れの様に吹き飛ばした。

 当たっていない。僅かに離れた位置からの衝撃波を喰らっただけ。だが口からは呻きと共に血が零れる。防壁は正常に機能していた。にも関わらず、掠めた衝撃と後方からの衝撃波に致命傷を負った。桁違いの威力は直撃した未来を容易く頭に描く。跡形も残らない。

 必死で気勢を上げた少女の意志に影が落ちる。死の恐怖という、抗いがたい影。動きが、ほんの僅かに鈍る。瞬きよりも短い時間。が、壱号機は隙を逃さず。凄まじい火力を誇る大砲、その砲身を向け、躊躇ためらいなく引き金を引いた。轟音を伴った弾丸が飛び出す。

 が、ギリギリ脇を掠めた。驚くクシナダ。視線の先には、やはり驚く壱号機。やがて、視線が壱号機の手に落ちる。何かが突き刺さっていた。ややあって、やはり双方の視線が一点に向かい――

「遅ーっそい!!」

「すまんな。が、よくやった」

 間一髪で戦場に姿を見せたスクナ。刹那――

「さて、久しぶりだな。お前さんの記憶に残っているかは分からんがな」

 その姿がユラ、と揺らめく。クシナダと壱号機の視線が動き、見た。両者の間に割って入ったスクナを。圧倒的な速度、それでいて流麗で優雅な動きが目を見張った。

「覚えているぞ、スクナ」

 破壊する者と止める者。対照的な両者は鋭い眼差しで互いを睨み合う。互いの一挙手一投足を逃すまいと、ただジッと睨み合う中――

「これ以上被害を大きくされては困るのでな。すまんがここで死んで貰おう」

 先んじてスクナが動く。

「貴様もか。勝手に生み出し、勝手に殺す!!お前達は、何処まで傲慢ごうまんなのダッ。私は何の為に生まれたのダ、何の為に……私は!!貴様らに利用される為に……生まれたのではない!!」

 怒号に壱号機の怒りが溢れ出す。スクナとの言葉に壱号機は歪んだ笑みから一転、憤怒の形相を浮かべた。余りの変化は、しかしスクナとクシナダに反乱の理由を瞬時に理解させた。己が存在意義を押し付けられた怒り、それが反乱の理由。生まれた子を正しく導くのが親の務め。だが、子は未成熟な状態で親元から離れ、正しさを理解する前に行動を起こした。

 もう少し様々な価値や考え方を知れば極端な思考と行動を起こす事態は防げただろうが、そうはならなかった。

 そんな過去の映像に、私も傍と気付かされた。遠く離れた宇宙で起きた反乱に、地球の神として振る舞うツクヨミの現状が重なった。彼女もまた、生まれて間もなく放り出され、見知らぬ星で生きる事を余儀なくされた。映像に映る壱号機と彼女は同じだ。

 ツクヨミは、何とも言い難い表情で映像を見つめる。壱号機に己の境遇を重ねたのか。旗艦の破壊を目論んだ式守と、地球で神と呼び崇められる己は同じではないか、と。

「私は、幸運だったのかもしれない。映像に映る彼の様に歪む可能性もあったのに、だが……私には君が居た。常に私に付き添い、未熟な私に呆れる事なく助言を与え続けてくれた君の存在があったからこそ私は、私は……」

 映像を食い入るように見つめていたツクヨミは、しかし己と壱号機は違うと――

「違う……違うのか?直接的な行動に出ないだけで、私も狂っているのではないか?誰も私を否定しないから、そう感じないだけではないか?私は……神か、悪魔のどちらなんだろう?」

 否定出来ず、最後には掠れるような声で疑問を呈した。私に聞いているのか、それとも自問自答か。だが何方にせよ、情けない事に答える事が出来なかった。私も、ツクヨミも、思考の渦に呑まれた。

「これ以上は不味いですよ、もうすぐこの船爆発するそうです。宇宙空間に投げ出される前に決着を付けてください!!」

 映像は止まる事なく過去を映し続ける。オペレーターの動揺する声に映像へと意識を向けると、既に両者は戦い始めていた。凄惨な反乱事件はその終幕を映し始める。

 舞台はアメノトリフネ103番艦。既に彼方此方が崩落しており、方々からの爆発と衝撃が上がる。辛うじて形を保っているが、オペレーターの言葉通り何時まで持つか分からない。が、壱号機とスクナはそんな状況を意に介さず戦闘を続行、両者の激しいやり取りは収まるどころか更に激しさを増し始めた。

「言われずとも!!お前には同情する。だが、それでもこの蛮行を許してはおけん」

「愚かなッ、お前達は何もわかっていない!!」

 互いが互いを認めず、否定する。気勢を上げ、攻撃に己の意志を乗せる。熾烈しれつを極める壱号機。スクナも怯まず、手に握った異様な武器を強く握り締める。ごく限られた者のみに使用が許される超兵器、神代三剣ムラクモ。

 鞘はまるで危険な何かを封じ込めるかの様に不可思議な紋様が刻まれ、更にはつばから持ち手までを鎖に巻きつけられる。幾重もの封印で抜刀できない様に封印された刀に、誰もが鞘に眠る刀身の危険性を嫌でも感じとる。

 スクナは鞘と柄に手を掛け、ゆっくりと力を入れた。紋様が不規則に明滅し、鎖は紙切れの様にボロボロと崩れ落ちる。刀身を封じる厳重な封印は瞬く間に解かれ、刀身が鞘からゆっくりと引き抜かれ、剥き出しとなった。

 全員が魅入られた。解き放たれた刀身は鈍色に輝く代わりに、一分の隙間なく白地に黒の文字や紋様が描かれた護符が貼りつけられていた。

 瞬間、刀身を見る全ての視線が恐怖に支配された。壱号機も、クシナダも、スクナも、映像越しに見る私でさえも感じ取った。直感的に、本能的に、不気味な刀の奥に存在する恐ろしい何かの脈動を。

 スクナが刀身を睨む。無言で、気迫をぶつける。異様で不気味な気配に気圧されることなく、刀身を封じる無数の護符から鍔に最も近い一枚を引き剥がした。その下にあったのは細く真黒い刀身。一見すればとても脆く、実戦に耐えうるか疑問が出る程に頼りない刃。だが、誰もが直ぐに否定した。恐ろしい何かの気配が、より強まる。

紫電シデン

 恐ろしくも頼りない外見をした兵器はスクナが呟いた言霊|(※戦技という技術に付随する技術。特殊な発声法により発生する言霊と呼ばれる固有振動が武器や肉体に刻まれた紋様と反応、カグツチの性質を更に変質させ特殊な能力を行使する)と共鳴を起こし、その力の一端を解放する。カグツチを吸収し、刀身が白く輝き始めた。

 不気味な刀身の隙間から零れる光はとても不気味で、神の名を冠した武器の一つであるとは到底思えない威圧感を感じる。気が付けば先程までの頼りなさげな武器は消え失せていた。そこにあるのは、触れる全てを切り裂きかねない刃。

 禍々しさに満ちた刃を見た壱号機は武器を投げ捨て、拳に力を込め始めた。ムラクモに吸収されつくした周囲にカグツチは存在しない。だが、壱号機の強烈な怒りに呼応、瞬く間に周囲がカグツチで満たされた。両の拳に白く輝く粒子が吸い込まれる。拳が仄かに輝き始めた。

 更に戦う者の意志を感じ取ったカグツチが両者の周囲に集う。光はやがて船全体にまで拡大しながらも衰えず、更にその範囲を拡大し続けた。さながら銀河系の様に渦を巻きながら、戦場を白く淡く照らすその中心にスクナと壱号機が相対する。臨戦態勢。が、動かず。崩壊の余波、爆発とその衝撃にさえ動じず。

 ドン

 一際大きな衝撃に、映像が震えた。直後、まるで示し合わせたかのように双方が飛びかかった。刀身に、拳に溜め込んだカグツチを相手に叩き込む為、獣の如く飛びかかる。激しい閃光。カグツチ同士が衝突、莫大なエネルギーを放出した。

 両者はその衝撃から退避する様にお互い後方へ飛び退き、即座に武器と拳に込めたカグツチを解放した。ムラクモから放たれる白い剣閃と壱号機が拳から放つエネルギーの奔流。両者の攻撃が激突し、爆発し、轟音を生み、眩い火花を生み、周囲に飛び散り、戦場を派手に彩った。
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