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第6章 決戦前夜
幕間13-6 ~ 神の封印に至る過去 反乱終幕
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「カグツチ濃度が危険域付近まで上昇しています!!現在の濃度は7。危険域の10まで後3もありません。マガツヒに感知される前に急いでッ!!」
火花散る戦場に凶報がもたらされた。カグツチ濃度の極端な上昇を告げる報せ。壱号機の反乱で甚大な被害を受けている状況で、更にマガツヒが加われば旗艦の全滅さえ視野に入る。
「現在アラミサキ(※斥力など、用途に応じた特殊な力場を発生させる装置、および当該機能を内蔵した式守の総称)が急行、危険域への上昇を喰いとめていますが、遅くとも10分後には危険域を超えますッ」
「良い報告ダな。奴等にも存分に見せてやろうではないかッ!!」
「ソイツは聞けないな」
互角の勝負は危険域へと突入しながらも尚、続く。一進一退。両者は互いの意志をカグツチから武器に流し込み、叩きつける。触れる物全てをまるで紙のように両断するムラクモの切れ味は、大量の瓦礫を両断しても一向に落ちない。
対する壱号機の攻撃もまた同じ。高密度のカグツチを纏った拳を豪快に振るえば周囲を粉々に粉砕するに止まらず、全てを抉り、なぎ倒す衝撃波を生み出す。互いが相手の攻撃を回避しながら必殺の一撃を放つ。先に当たったほうが負け。映像の中で繰り広げられるシンプルなルールの死闘――が、決着の時を迎えようとしていた。
最新鋭の体躯は経験の差を凌駕し、スクナの命にあと僅かと言うまでに迫る。壱号機の拳が細身の身体を捉える。後ほんの僅か、一秒にも満たない程の時間でスクナの身体は粉砕される。
勝利を確信する壱号機が不敵な笑みを浮かべ、拳を振りぬこうとした――瞬間、激しい爆発が起こった。一回、そして間髪入れずもう一回。船がもう持たない。兆候を超え崩壊を始めた。
一際巨大な爆発が、無情にも両者の結末を分けた。衝撃でほんの僅か、壱号機の体勢が崩れ、攻撃の手が止まった。僅かな隙。幾多の戦場を渡り歩いた経験豊富なスクナは、いつ起こるか分からぬ爆発に備え、常に警戒していた。そして、壱号機がほんの僅かに見せたその瞬間を見逃さず――
「一閃」
言霊と共に一足飛びで相手の懐に飛び込み、刃を袈裟懸けに斬り払った。刃は壱号機の身体を容易くすり抜け、最新鋭の兵器を音もなく斜めに両断した。崩れ落ちる壱号機。その光景に、背後にそびえ立っていた無数の瓦礫群が重なる。同じよう斬り裂かれ、崩れ落ちた。
ムラクモが力の一端、片鱗を見せた。その力、空間や距離を無視した斬撃。いわゆる次元斬。護符で封じられた刀身から漏れ出る僅かな力が引き起こした実現象。
勝負は一瞬で決した。だがスクナは勝利に何の感慨も見せず、ムラクモを鞘にしまった。爆発は時間の問題。彼は仲間に連絡を取り、撤収を促すと自らも足早にその場を去る。
「意志ダ、お前達が持つ意志によってお前達は滅びる。絶対にッ!!」
最早一刻の猶予も無い状況――だというのに足を止め、振り返った。壱号機の叫びに、身体が、意志が反応した。逃げなければ、そんな当たり前の思考を阻害する意志を壱号機の断末魔から感じ取った。
「アマテラスオオカミ、スクナ、そしてスサノヲの名も知らぬ兵士共。全ての民よ!!私は!!貴様達を!!憎むぞ!!意志を軽んじる貴様達が!!資格の無い貴様達が、強い意志無くば勝てない戦いを先導する事を、そして」
壱号機は尚も叫び続けるが、爆風が、艦を無数に分断しながら広がる亀裂が遮り、勝者と敗者の間を切り裂き、壱号機を飲み込んだ。最後の言葉は聞こえなかったが、断末魔の言葉は戦いに身を投じた者、目撃した全ての者に強く深く突き刺さった。それ程の怒りが、恨みが、絶望が、ありとあらゆる負の感情が籠っていた。
※※※
映像が切り替わる。103番艦の崩壊から10分後、映し出されたのはアメノトリフネ第102番艦。
戦闘終了の報告を受け、各艦を転戦していたスサノヲとヤタガラスの面々が続々と同艦に集結する中、スクナとクシナダが到着した。時を同じくして、壱号機の機能停止に伴う形で他の素体の行動が停止したとの報告がもたらされた。全てが解決した。が、反乱鎮圧を喜ぶ声は一つとして上がらず。
相手は最新鋭の兵器。拡大する被害を食い止める為に相当数の犠牲が出た。誰もが失なった命を悲しみ、祈りを捧げ、涙した。しかし、それ以上に壱号機が吐き捨てた断末魔に心を抉られた。消そうとしても消せない、心の奥深くに突き刺さった棘は悲しみを乗り越え、祈りを終え、涙を拭った者達を苛む。マガツヒに押される戦況に、壱号機の言葉が重なる。誰の目も虚ろになった。
「言われっぱなしじゃったな」
「そうですね、でも何とか商用艦|(※娯楽等を目的に複合企業、ないし単一企業が運営を行う専用艦。艦全体がいわゆる経済特区として機能し、法により旗艦内では実現できない少々過激な娯楽を提供する)への侵攻は食い止める事が出来ました。あ、そうそう。折角なんで何か奢ってください」
「何ゆえ!?」
「頑張ったじゃないですかぁ?労ってくださいよぉ」
元気一杯に上司に奢りを要求するクシナダ。しかし空元気なのは目に見えて明らか。露骨な虚勢に僅か前の明るさは感じない。スクナもそんな彼女を含む部下の士気低下を肌で感じ取っているが、さりとて何をどうすれば改善できるか分からず、掛ける言葉も見当たらず、無言を貫いた。
「皆様、お疲れ様でした。現在、アラミサキによるカグツチ拡散作業実施中です。濃度が安全域に下がるまで約5分程度の見込み、現在の濃度は10段階中の8、アマテラスオオカミの調査により周囲1000光年にマガツヒの反応なし、5000光年内の活動に変化は見られないとの調査報告が入りました。ですが転移襲撃に備えスサノヲ、及びヤタガラスは現状待機するようお願いします。繰り返します……」
「やれやれ、もう暫くこのままか。では、食事はその後としよう」
正に渡りに船。重苦しい空気が、割って入ったオペレーターの通信に霧散した。無理にでも明るく振る舞うクシナダとスクナは受け取った指示に苦笑を浮かべ、他の仲間達の下へと向かった。その背中を見送る形で最後の映像が途切れた。
これが旗艦アマテラスに残された映像の断片を繋ぎ合わせ、修復した全て。おおよおだが、2年前に起きた反乱の内容を知るには十分な量だった。
この出来事を切っ掛けにアマテラスオオカミ、及びスサノヲの立場は急激に悪化した。そして、その果てにアマテラスオオカミ封印が決定され、市民の多くはこれを喜んで受け入れた。だが、誰も知らない。一連の流れ全てが極一部によって誘導された可能性がある事を。
アラハバキ。反乱の前日に彼等が壱号機の眠る部屋を訪れていた事を誰も知らない。我ら以外に、誰も――
火花散る戦場に凶報がもたらされた。カグツチ濃度の極端な上昇を告げる報せ。壱号機の反乱で甚大な被害を受けている状況で、更にマガツヒが加われば旗艦の全滅さえ視野に入る。
「現在アラミサキ(※斥力など、用途に応じた特殊な力場を発生させる装置、および当該機能を内蔵した式守の総称)が急行、危険域への上昇を喰いとめていますが、遅くとも10分後には危険域を超えますッ」
「良い報告ダな。奴等にも存分に見せてやろうではないかッ!!」
「ソイツは聞けないな」
互角の勝負は危険域へと突入しながらも尚、続く。一進一退。両者は互いの意志をカグツチから武器に流し込み、叩きつける。触れる物全てをまるで紙のように両断するムラクモの切れ味は、大量の瓦礫を両断しても一向に落ちない。
対する壱号機の攻撃もまた同じ。高密度のカグツチを纏った拳を豪快に振るえば周囲を粉々に粉砕するに止まらず、全てを抉り、なぎ倒す衝撃波を生み出す。互いが相手の攻撃を回避しながら必殺の一撃を放つ。先に当たったほうが負け。映像の中で繰り広げられるシンプルなルールの死闘――が、決着の時を迎えようとしていた。
最新鋭の体躯は経験の差を凌駕し、スクナの命にあと僅かと言うまでに迫る。壱号機の拳が細身の身体を捉える。後ほんの僅か、一秒にも満たない程の時間でスクナの身体は粉砕される。
勝利を確信する壱号機が不敵な笑みを浮かべ、拳を振りぬこうとした――瞬間、激しい爆発が起こった。一回、そして間髪入れずもう一回。船がもう持たない。兆候を超え崩壊を始めた。
一際巨大な爆発が、無情にも両者の結末を分けた。衝撃でほんの僅か、壱号機の体勢が崩れ、攻撃の手が止まった。僅かな隙。幾多の戦場を渡り歩いた経験豊富なスクナは、いつ起こるか分からぬ爆発に備え、常に警戒していた。そして、壱号機がほんの僅かに見せたその瞬間を見逃さず――
「一閃」
言霊と共に一足飛びで相手の懐に飛び込み、刃を袈裟懸けに斬り払った。刃は壱号機の身体を容易くすり抜け、最新鋭の兵器を音もなく斜めに両断した。崩れ落ちる壱号機。その光景に、背後にそびえ立っていた無数の瓦礫群が重なる。同じよう斬り裂かれ、崩れ落ちた。
ムラクモが力の一端、片鱗を見せた。その力、空間や距離を無視した斬撃。いわゆる次元斬。護符で封じられた刀身から漏れ出る僅かな力が引き起こした実現象。
勝負は一瞬で決した。だがスクナは勝利に何の感慨も見せず、ムラクモを鞘にしまった。爆発は時間の問題。彼は仲間に連絡を取り、撤収を促すと自らも足早にその場を去る。
「意志ダ、お前達が持つ意志によってお前達は滅びる。絶対にッ!!」
最早一刻の猶予も無い状況――だというのに足を止め、振り返った。壱号機の叫びに、身体が、意志が反応した。逃げなければ、そんな当たり前の思考を阻害する意志を壱号機の断末魔から感じ取った。
「アマテラスオオカミ、スクナ、そしてスサノヲの名も知らぬ兵士共。全ての民よ!!私は!!貴様達を!!憎むぞ!!意志を軽んじる貴様達が!!資格の無い貴様達が、強い意志無くば勝てない戦いを先導する事を、そして」
壱号機は尚も叫び続けるが、爆風が、艦を無数に分断しながら広がる亀裂が遮り、勝者と敗者の間を切り裂き、壱号機を飲み込んだ。最後の言葉は聞こえなかったが、断末魔の言葉は戦いに身を投じた者、目撃した全ての者に強く深く突き刺さった。それ程の怒りが、恨みが、絶望が、ありとあらゆる負の感情が籠っていた。
※※※
映像が切り替わる。103番艦の崩壊から10分後、映し出されたのはアメノトリフネ第102番艦。
戦闘終了の報告を受け、各艦を転戦していたスサノヲとヤタガラスの面々が続々と同艦に集結する中、スクナとクシナダが到着した。時を同じくして、壱号機の機能停止に伴う形で他の素体の行動が停止したとの報告がもたらされた。全てが解決した。が、反乱鎮圧を喜ぶ声は一つとして上がらず。
相手は最新鋭の兵器。拡大する被害を食い止める為に相当数の犠牲が出た。誰もが失なった命を悲しみ、祈りを捧げ、涙した。しかし、それ以上に壱号機が吐き捨てた断末魔に心を抉られた。消そうとしても消せない、心の奥深くに突き刺さった棘は悲しみを乗り越え、祈りを終え、涙を拭った者達を苛む。マガツヒに押される戦況に、壱号機の言葉が重なる。誰の目も虚ろになった。
「言われっぱなしじゃったな」
「そうですね、でも何とか商用艦|(※娯楽等を目的に複合企業、ないし単一企業が運営を行う専用艦。艦全体がいわゆる経済特区として機能し、法により旗艦内では実現できない少々過激な娯楽を提供する)への侵攻は食い止める事が出来ました。あ、そうそう。折角なんで何か奢ってください」
「何ゆえ!?」
「頑張ったじゃないですかぁ?労ってくださいよぉ」
元気一杯に上司に奢りを要求するクシナダ。しかし空元気なのは目に見えて明らか。露骨な虚勢に僅か前の明るさは感じない。スクナもそんな彼女を含む部下の士気低下を肌で感じ取っているが、さりとて何をどうすれば改善できるか分からず、掛ける言葉も見当たらず、無言を貫いた。
「皆様、お疲れ様でした。現在、アラミサキによるカグツチ拡散作業実施中です。濃度が安全域に下がるまで約5分程度の見込み、現在の濃度は10段階中の8、アマテラスオオカミの調査により周囲1000光年にマガツヒの反応なし、5000光年内の活動に変化は見られないとの調査報告が入りました。ですが転移襲撃に備えスサノヲ、及びヤタガラスは現状待機するようお願いします。繰り返します……」
「やれやれ、もう暫くこのままか。では、食事はその後としよう」
正に渡りに船。重苦しい空気が、割って入ったオペレーターの通信に霧散した。無理にでも明るく振る舞うクシナダとスクナは受け取った指示に苦笑を浮かべ、他の仲間達の下へと向かった。その背中を見送る形で最後の映像が途切れた。
これが旗艦アマテラスに残された映像の断片を繋ぎ合わせ、修復した全て。おおよおだが、2年前に起きた反乱の内容を知るには十分な量だった。
この出来事を切っ掛けにアマテラスオオカミ、及びスサノヲの立場は急激に悪化した。そして、その果てにアマテラスオオカミ封印が決定され、市民の多くはこれを喜んで受け入れた。だが、誰も知らない。一連の流れ全てが極一部によって誘導された可能性がある事を。
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