G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第7章 世界崩壊の日

76話 走って 走って 走りながら

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 20XX/12/22 0900

 意識を取り戻した。視界に広がるのは一面の闇。続けて頭部を覆う何かの感触と匂い、毛布か、と跳ね除け、起き上がる。が、視界はやはり一面の闇。何処だココ?痛みをこらえながら真っ暗な空間を暫く眺め続けた。整然と並ぶロッカー、乱雑に置かれた段ボールが闇の中にボンヤリと浮かぶ。

 施設内のスタッフルームか、と安堵した。もっと面倒な場所に閉じ込められたら自力で脱出するのに苦労しただろう。いや、今は悠長にしている場合じゃない。

 立ち上がろうとゆっくり足腰に力を入れた。深く息を吸い込む度、腹部と頭部に鈍い痛みが走る。我慢し、ゆっくりと足をこすりながら扉の前まで移動した。情けない。小さな部屋が途轍もなく大きく感じる。

 ガチャガチャ

 扉を開けようとノブを回した。が、音が鳴るだけで一向に扉が開かなった。力を入れる度、扉の向こう側で何かが引っ掛かる感覚が伝わる。どうせこんな事だろうと思って、さして驚きはなかった。

 邪魔だ、と言っていた。だから閉じ込めたのか?いや、なら俺に銃の訓練を付ける理由がない。何か心境に変化が有ったのか?何か、何か
――と、必死で考える中で傍と気付いた。こんな考える様な性格だったかな?多分、影響されたんだろう。僅か数日という短い時間なのに。

 時間、時間!?今、何時だ?慌てて部屋の照明スイッチを探し、付けた。パチッという渇いた音。部屋全体を包む白い光。クリアになる視界が部屋の全貌を照らす。やはりスタッフルームだ。

 そのまま周囲を見回し、毛布の傍に見慣れた物を見つけた。訓練に使った銃、いつも身に着けているお守り、銀色の楕円形状をした何か。確か爆弾、だったか?それが3個。最後にハシマから貰った携帯。ディスプレイは開戦予告時刻を表示していた。直後、通知が届いた。リマインダだ。メモが起動し、メッセージが浮かび上がった。

 君がいては邪魔だ、それを持って何処かへ逃げろ

 白い背景に黒字で浮かぶシンプルな伝言。このメモがあの突飛な行動の理由らしい。が、意味が分からない。こんな真似をされて素直に逃げると思っているのか?それに、もう引き返せないまでに首を突っ込んでしまった事が分かっていない訳がない。

 突然の別れに至った理由は考えても分からなかった。徐々に疑問から混乱を経て怒りに変わる。こんな中途半端な優しさは、どう考えてもらしくない。何か言えない理由がある。

 なら話せ、と素直になれないからこんな真似をしたのか。なら、問い質す。怒りが整理できない感情を押し流し、身体を動かす。その矢先、携帯から緊急警報を告げるアラートが鳴り響いた。とうとう戦いが始まった。急いで外に出なければ――と、強引に扉をぶち破った。人間、やれば意外となんでもできるもんだ。

 ※※※

 スタッフルームの外は特に何の変化もなかった。ルミナは――やはりいない。一人で市内へと向かったのは間違いない。

 走り、家電製品コーナーを駆け抜ける。幾つも並ぶテレビが判を押した様に戦闘の様子を報道する。話題の中心は清雅を相手に堂々と宣戦布告をした正体不明の勢力。中継が軍や無人ドローンが撮影した清雅市の様子を伝える。地上のとあるビル、その正面口の何もない地点から突如として湧き出す正体不明の軍隊。

 当然、混乱する。誰も彼もが一様に映像加工を疑うか、余りに現実離れした出来事に閉口する以外の反応が出来ない。が、そんなこんなが恐怖に塗り潰される。

 世界中が驚き、俺達には特に驚かない最新の映像。映し出されたのは、地球の軍隊が未知の戦力に蹂躙じゅうりんされる光景。それも一方的に、だ。

 続々と地上に転移する正体不明の勢力が使用する未知の兵器に、ある者は言葉を失い、ある者は清雅の陰謀だと面白おかしくはやし立て、別のある者は支離滅裂な批判を繰り返す。反応は様々。ただ、夢か幻でも見ているかのような感覚に陥っている点が一致していた。

 無理もない。誰もがこの日、この瞬間まで宇宙人が侵略に来るなんて思いもしなかった。そんなの映画かゲームのシナリオでしか見ない。それに、まだ本番じゃない。まだ出てきていないが清雅が参戦すればもっと混乱する。未知の戦力への対抗手段を清雅が作り出しているなんて、これまたよく出来た創作物の中だけ。

「あの姿は半年前に国連を襲撃したテロリストの特徴と酷似している。宣戦布告が示す通り清雅グループへのテロが実行されたと判断、各員は速やかに排除に当たれ。先にも伝えた通り、清雅グループより本件に関する反応は一切ない。よって、我々は独自の権限で驚異の排除を行う。また、清雅から対テロ部隊が出動した場合は共闘するようお願いする。以後、戦闘に関する詳細な指示は日本国軍陸上総隊司令部タカヤマ幕僚長が下す」

 レポーターの上部に、関宗太郎の指示らしきメッセージが表示された。どうやらあの人は本当に独断で行動を起こすつもりらしい。以前と同じく清雅からの指示は飛んでいない筈だけど、大丈夫かな?

 この国の政治家はほぼ全てが清雅一族の操り人形同然で、一族の思う様に物事を進め、政治に自身の信条を挟む事は許されない。本社社員なら誰でも知る暗黙の了解。ついでに日本の首相と言うだけで各国からの扱いも随分と厳しい。

 一介の政治家が戦いの指揮を執る異様な状況も「日本の問題だから」という、それらしい理由を付けて各国が日本の首相に全てを押し付けた結果。だから誰も疑問を挟まない。とは言え流石に無理筋だと軍の偉い人と交代したようだが。戦闘が激化する。急がなければ――

 テレビに背を向け、走る。目的地は1階の自動車販売店。走って、走って、走りながら、あんな突飛な行動をした理由を考えた。彼女の悲惨な過去。逃げようのない事故を生き延びた代償に望まない身体に変えられ、悪意に晒された過去に行動理由が見えた気がした。

 だけど、それとこれは別。是が非でも追い付く。追い付け。そもそも1人で行動を起こすなんて無謀すぎる。だから、例え邪魔と言われても、必ず助ける。逃げても逃げなくても、後悔するなら胸を張れる方を選ぼうと、あの時に――そう決意した。

 自動車販売店デイトナSG。大衆車から高級車まで手広く商売する清雅グループの一社。元々は海外の会社で、清雅グループに買収され完全子会社した無数の一つ。

 「ただ今試乗キャンペーン実施中」そんなポスター後目に事務所を目指す。目的はその試乗車。鍵の場所は事務所内の金庫。県外の販売店で起きた盗難事件以降、社用車から施設の施錠至るまで鍵の管理を徹底するよう通達があった――筈だが、金庫の扉が何故か開け放たれていた。

 逃げる時に閉め忘れのた?いや、急な避難ではないから有り得ない。なら先客か?でも、清雅製の電子金庫を外部の誰かが開けるなんて素人には不可能。それこそ余程に名の通った――ナントカって組織の神父?だったか、そのレベルじゃなければ。ただ、そんな人物が都合よく清雅市内にいる訳がない。

 ともかく、今は車の確認だ。あんな突飛な行動する位だから、タイヤに穴を開けていく程度はする確信はあったが、あの時点で残り1時間強。流石に時間がなかったのか――いや、妙に律儀というか生真面目で、だから必要以上に損害与えたくなかったんだろう。ただ、車がなくても自転車使うし、それでも駄目なら走って向かうんだけど。

 とにもかくにも感謝しつつ鍵を持ち出し、足の速そうな車を選び、出鱈目にキーを押す。見つけたら残りの鍵の山を金庫に押し込め、受付に向かい、羽島の端末で精算を済ませ、フロア入口のガラスを豪快にブチ破って外に出た。

 探す当てはある。羽島から受け取った端末は2台、なのにスタッフルームには1台しかなかった。何かに使う為に持っているなら、本社で居場所を調べられる。

 アクセルを踏み込み、速度を上げる。最初の目的地は清雅本社へと続く地下駅。既に戦場になっていて、もしかしたら物理的に封鎖されているかも知れない。その時どうするか、なんて考えていない。我ながら出鱈目だと思う。計画性もまるでない。

 だけど、不思議と恐怖を感じない。勝手に、1人で戦場に飛び込んだ彼女の事が気になって仕方がなくて、それ以外の全部がどうでも良かった。
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