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第7章 世界崩壊の日
幕間16-1 世界崩壊の日 ~ 開戦 其の1
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20XX/12/22 0905
遂に戦争の火蓋が切って落とされた。旗艦も、地球もその様子を無人中継機で追跡し、その光景を固唾を呑んで見守る。先陣を切ったのは旗艦。アメノトリフネを経由し、クズリュウが続々と清雅市へと降り立った。
彼等は地上に作られたハイドリから覚束ない足取りと共に出現すると、20名程で一つの小隊を組み上げ一直線に清雅本社を目指し出した。
対する地球の混成軍は先手を許した形となった事を知り、慌てて清雅本社に向け移動を開始する。正しく精鋭である彼等が出遅れてしまった理由は一つ。戦う相手の正体を全く知らないという一点に尽きる。最も、正直に全てを話したところで素直に信じる者はいないのだから仕方がない。
宇宙からの侵略者。そんな絵空事を真実と受け入れろと言われたとて、余りにも荒唐無稽過ぎて地球人類は信用しない。
もう一つ理由がある。仮に清雅が情報を開示したとて、素直に信じる事が出来ない程に敵意を持たれている。誰も彼もが当然の如く只のテロリストだと考え、どの様な命令を出すか、どの様に遂行するか、その結果はどうなるか、次はどの様に動くかを頭の中に描くが、あくまで常識の範囲内での話。
故に、大いに混乱した。修羅場を何度も潜り抜けた精鋭であろうが――いや、だからこそだ。全員が等しく、常識外の光景に意識を奪われた。優れた兵士たる所以は想像力。常にあらゆる可能性に想像を巡らせ、いかなる事態にも対処する為には経験、深い知識、そして何よりその2つに培われた想像力が必須。
が、欠点が存在する。知識も経験も所詮は地球の常識の範囲内、という大きな欠点が。
よって、清雅本社から数キロ程離れたビル前方、何もない空間から灰色の光と共に湧き出す正体不明の戦闘部隊を想定するなど不可能。遠目に見たならば目の錯覚とでも誤魔化せただろうが、その様子は清雅市の至る所に取りつけられた監視カメラがはっきりと捉えた。送られてくる映像を確認した地球の混成軍はこの時点で軽いパニックに陥り、足並みが一気に乱れた。但し、ただ一人を除いて――
「相手がどんな手品使っているかは不明だ。だが、先手を打たれた事に変わりはない。至急、清雅本社へ急行しテロリストを迎撃せよ」
相当に常識を揺さぶる筈の光景を見て、それでも冷静に状況を判断する人物がいる。関宗太郎。隣県の特別会議室に据え付けられた監視カメラは右往左往する有象無象――全く想定外の事態を前に思考停止する全員に代わり、的確に指示を飛ばす男の様子を私の元に届けた。
各地に散らばっていた地球の混成軍が関宗太郎の号令を受け、一斉に清雅市内に向けて猛進する。恐らく、本心では指示など下したくないだろう。明晰な男の頭脳は、心情的に動きたくないであろう末端の心理など読み切っている。が、現在の立場が許さない。作戦指揮を執った経験がなかろうが、全てを日本の問題だという理由で責任と共に押し付けられた。
目の前の光景は男の予測通りだった。進軍は急造である事を差し引いたとしても統一されておらず、酷く遅い。そんな様子を見た他国の首脳陣はこれ幸いとばかりに関宗太郎を大いに叱責する。
そんな不幸を一身に集めるこの男は、そう言えば随分と清雅源蔵から嫌われていた。日本国の首相とはツクヨミ清雅の傀儡であると同時に日本と世界各国との折衝役を兼ねる。有能でありながら清雅に反抗しない従順さを持つ。その2つがこの国で首相足る人物に求められる条件。しかし、彼は有能過ぎる一方で従順とは言えない態度を示す事が多かった。
だからこそ、ある意味では行動を読み易かった。私は予測していた。彼ならば私が動かずとも行動を起こす確信があった。
関宗太郎の指示から数分後、地球軍の混成軍と宇宙から来たクズリュウが交戦を開始した。先手を打たれた形となった混成軍だが、即座に持ち直すと戦闘を開始した。
何れも尋常ならざる訓練を経て実戦へと投入され、今日まで生き延びてきた歴戦の兵士達。常識を揺さぶる程の光景であっても常に平常心を保つ。想像力に足を掬われても、強靭な精神力により直ぐに立て直す。なるほど、有能だと感心する。
戦意と殺気に漲る鋭い視線には、勝利の確信が宿る。そんな勘違いをするのもまた、無理もない。旗艦側は相当数の転移を行い地上に戦力を派遣したが、一度に転移出来る人数は限られており、混成軍の総数から見れば圧倒的に数が少ない。人数を数えればまだ地上へ降り立ったクズリュウは2000人程度しかいない。
対する地球の混成軍は世界各国の対テロ部隊がこれでもかと投入された結果、現在前線に居る兵士だけでも優に10万は超える。更に最新鋭の兵装も支給された。各国共に懐事情が厳しいというのに、だ。値段をざっと計算すれば軽く一国が傾く程度が投入されている。
が、宇宙と地球には数を圧倒するほどの差が存在する。質と言う、覆しようのない差。最新鋭に偽りなし。ただ、一つ条件が抜けている。我ら清雅を除く最新鋭という事だ。我らの装備ならば旗艦の連中に対抗するなど容易いが、混成軍の最新鋭は言い方は悪いが所詮は地球製。
結果は言わずもがな。戦闘が開始されるや、彼方此方から阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡り始めた。出処は地球の混成軍から。
地球側の最新鋭の武装は宇宙から来る戦闘部隊員が装備するヤサカニノマガタマが展開する防壁を打ち破る事が出来ず、弾除けの為に展開したバリケードは無きに等しい程にあっさりと破壊される。地上を走破する戦車の砲弾が生む衝撃と爆風の中から無傷で現れる敵によって、堅牢と信じて疑わなかった装甲は容易く貫かれ、斬り裂かれ、瞬く間にガラクタへと変えられる。
遥か上空からの攻撃も同じく。轟音を鳴り響かせ、戦場の上空を飛び交うヘリから放たれるミサイルがクズリュウの一団に直撃した。が、敵は衝撃で怯みこそするが傷らしい傷は追っていない。その光景にヘリの操縦士はパニックを起こし、言葉にならない叫びをあげる。
次の瞬間、ヘリは撃墜された。地上から放たれた弾丸が白い光を纏い、うねりながらヘリを貫いた。誘導弾。地球ではまだ大型ミサイル位でしか実現できていない技術を片手で持てるサイズの銃で行っているのだから驚くのも無理はない。
見た事も聞いた事もない武装に蹂躙され、パニックに陥る混成軍。その中で最も混乱させたのは、やはり防壁。誰もが幾重にも攻撃を重ねるが、どれだけ攻撃しても全くの無傷と言う状況は視覚的に最も分かり易く、ダイレクトに脳と常識と思考を揺さぶる。
この状況を映像で見ていた地球側の誰もが絶句した。中継で様子を見ていたコメンテーターの発言は支離滅裂を極め、誰もが正気を失った。口々に目の前で起きる悲劇から目を背け、これは悪い夢か、それとも壮大な映画のプロモーションかと騒ぎ立て始める。
SNSも同じく。識者を気取る者は目の前の光景を信じず、否定し、楽観視していた者は恐怖から混乱し、破滅論者は終末論を喚きたて、娯楽好きなマニアはゲームやアニメの世界に現実が追い付いたと呆れるほどに歓喜した。それ程に目の前の光景は異常だった。
遂に戦争の火蓋が切って落とされた。旗艦も、地球もその様子を無人中継機で追跡し、その光景を固唾を呑んで見守る。先陣を切ったのは旗艦。アメノトリフネを経由し、クズリュウが続々と清雅市へと降り立った。
彼等は地上に作られたハイドリから覚束ない足取りと共に出現すると、20名程で一つの小隊を組み上げ一直線に清雅本社を目指し出した。
対する地球の混成軍は先手を許した形となった事を知り、慌てて清雅本社に向け移動を開始する。正しく精鋭である彼等が出遅れてしまった理由は一つ。戦う相手の正体を全く知らないという一点に尽きる。最も、正直に全てを話したところで素直に信じる者はいないのだから仕方がない。
宇宙からの侵略者。そんな絵空事を真実と受け入れろと言われたとて、余りにも荒唐無稽過ぎて地球人類は信用しない。
もう一つ理由がある。仮に清雅が情報を開示したとて、素直に信じる事が出来ない程に敵意を持たれている。誰も彼もが当然の如く只のテロリストだと考え、どの様な命令を出すか、どの様に遂行するか、その結果はどうなるか、次はどの様に動くかを頭の中に描くが、あくまで常識の範囲内での話。
故に、大いに混乱した。修羅場を何度も潜り抜けた精鋭であろうが――いや、だからこそだ。全員が等しく、常識外の光景に意識を奪われた。優れた兵士たる所以は想像力。常にあらゆる可能性に想像を巡らせ、いかなる事態にも対処する為には経験、深い知識、そして何よりその2つに培われた想像力が必須。
が、欠点が存在する。知識も経験も所詮は地球の常識の範囲内、という大きな欠点が。
よって、清雅本社から数キロ程離れたビル前方、何もない空間から灰色の光と共に湧き出す正体不明の戦闘部隊を想定するなど不可能。遠目に見たならば目の錯覚とでも誤魔化せただろうが、その様子は清雅市の至る所に取りつけられた監視カメラがはっきりと捉えた。送られてくる映像を確認した地球の混成軍はこの時点で軽いパニックに陥り、足並みが一気に乱れた。但し、ただ一人を除いて――
「相手がどんな手品使っているかは不明だ。だが、先手を打たれた事に変わりはない。至急、清雅本社へ急行しテロリストを迎撃せよ」
相当に常識を揺さぶる筈の光景を見て、それでも冷静に状況を判断する人物がいる。関宗太郎。隣県の特別会議室に据え付けられた監視カメラは右往左往する有象無象――全く想定外の事態を前に思考停止する全員に代わり、的確に指示を飛ばす男の様子を私の元に届けた。
各地に散らばっていた地球の混成軍が関宗太郎の号令を受け、一斉に清雅市内に向けて猛進する。恐らく、本心では指示など下したくないだろう。明晰な男の頭脳は、心情的に動きたくないであろう末端の心理など読み切っている。が、現在の立場が許さない。作戦指揮を執った経験がなかろうが、全てを日本の問題だという理由で責任と共に押し付けられた。
目の前の光景は男の予測通りだった。進軍は急造である事を差し引いたとしても統一されておらず、酷く遅い。そんな様子を見た他国の首脳陣はこれ幸いとばかりに関宗太郎を大いに叱責する。
そんな不幸を一身に集めるこの男は、そう言えば随分と清雅源蔵から嫌われていた。日本国の首相とはツクヨミ清雅の傀儡であると同時に日本と世界各国との折衝役を兼ねる。有能でありながら清雅に反抗しない従順さを持つ。その2つがこの国で首相足る人物に求められる条件。しかし、彼は有能過ぎる一方で従順とは言えない態度を示す事が多かった。
だからこそ、ある意味では行動を読み易かった。私は予測していた。彼ならば私が動かずとも行動を起こす確信があった。
関宗太郎の指示から数分後、地球軍の混成軍と宇宙から来たクズリュウが交戦を開始した。先手を打たれた形となった混成軍だが、即座に持ち直すと戦闘を開始した。
何れも尋常ならざる訓練を経て実戦へと投入され、今日まで生き延びてきた歴戦の兵士達。常識を揺さぶる程の光景であっても常に平常心を保つ。想像力に足を掬われても、強靭な精神力により直ぐに立て直す。なるほど、有能だと感心する。
戦意と殺気に漲る鋭い視線には、勝利の確信が宿る。そんな勘違いをするのもまた、無理もない。旗艦側は相当数の転移を行い地上に戦力を派遣したが、一度に転移出来る人数は限られており、混成軍の総数から見れば圧倒的に数が少ない。人数を数えればまだ地上へ降り立ったクズリュウは2000人程度しかいない。
対する地球の混成軍は世界各国の対テロ部隊がこれでもかと投入された結果、現在前線に居る兵士だけでも優に10万は超える。更に最新鋭の兵装も支給された。各国共に懐事情が厳しいというのに、だ。値段をざっと計算すれば軽く一国が傾く程度が投入されている。
が、宇宙と地球には数を圧倒するほどの差が存在する。質と言う、覆しようのない差。最新鋭に偽りなし。ただ、一つ条件が抜けている。我ら清雅を除く最新鋭という事だ。我らの装備ならば旗艦の連中に対抗するなど容易いが、混成軍の最新鋭は言い方は悪いが所詮は地球製。
結果は言わずもがな。戦闘が開始されるや、彼方此方から阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡り始めた。出処は地球の混成軍から。
地球側の最新鋭の武装は宇宙から来る戦闘部隊員が装備するヤサカニノマガタマが展開する防壁を打ち破る事が出来ず、弾除けの為に展開したバリケードは無きに等しい程にあっさりと破壊される。地上を走破する戦車の砲弾が生む衝撃と爆風の中から無傷で現れる敵によって、堅牢と信じて疑わなかった装甲は容易く貫かれ、斬り裂かれ、瞬く間にガラクタへと変えられる。
遥か上空からの攻撃も同じく。轟音を鳴り響かせ、戦場の上空を飛び交うヘリから放たれるミサイルがクズリュウの一団に直撃した。が、敵は衝撃で怯みこそするが傷らしい傷は追っていない。その光景にヘリの操縦士はパニックを起こし、言葉にならない叫びをあげる。
次の瞬間、ヘリは撃墜された。地上から放たれた弾丸が白い光を纏い、うねりながらヘリを貫いた。誘導弾。地球ではまだ大型ミサイル位でしか実現できていない技術を片手で持てるサイズの銃で行っているのだから驚くのも無理はない。
見た事も聞いた事もない武装に蹂躙され、パニックに陥る混成軍。その中で最も混乱させたのは、やはり防壁。誰もが幾重にも攻撃を重ねるが、どれだけ攻撃しても全くの無傷と言う状況は視覚的に最も分かり易く、ダイレクトに脳と常識と思考を揺さぶる。
この状況を映像で見ていた地球側の誰もが絶句した。中継で様子を見ていたコメンテーターの発言は支離滅裂を極め、誰もが正気を失った。口々に目の前で起きる悲劇から目を背け、これは悪い夢か、それとも壮大な映画のプロモーションかと騒ぎ立て始める。
SNSも同じく。識者を気取る者は目の前の光景を信じず、否定し、楽観視していた者は恐怖から混乱し、破滅論者は終末論を喚きたて、娯楽好きなマニアはゲームやアニメの世界に現実が追い付いたと呆れるほどに歓喜した。それ程に目の前の光景は異常だった。
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