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第7章 世界崩壊の日
幕間16-2 世界崩壊の日 ~ 開戦 其の2
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現実離れした光景を前に誰もが冷静でいられず、混乱し、語る言葉を失う。それ程に地球側にとってこの事態は想定外だった。現に、比較的冷静と思われていた関宗太郎でさえ他の有象無象と同じく映像を唖然呆然と見つめるしか出来ないでいた。
宇宙から来るクズリュウと交戦してから僅か数分、たったそれだけで地球軍の混成軍は蹂躙され、前線は完膚なきまでに破壊された。
首脳の集まる会議室も混迷を極める。幾つかの国の代表者はこの壮大な対テロ戦闘の指揮を行う名目で来日した。最低限の責任を果たすと同時に、上手くいかなければこの国の首相に責任を押し付け、上手くいけば清雅に取り入る為だ。
心情を知れば情けなくとも、当事者達からすれば清雅との駆け引きでの敗北は国家の敗北と同義。よって、あらゆる予防線を張り、利用できるならば何でも利用する。そうしなければ政治家失格の烙印を押される。そんな彼等でさえ言葉を失った。
「な、何だこれは?只のテロリストじゃないのか?」
「こんな……ここまで一方的に?何なのアイツ等?誰があんな物をテロリストに渡したの!!」
「いやその前にあんな代物、誰が作れると言うんだ?テロリストと呼ぶには余りにも……オイ関君、早く何とかしたまえ!!」
やがてポツリポツリと口を開き始めたが、事態の打開を目指した内容は一切含まれず、ただ責任者として祭り上げた関首相への非難しか吐き出さない。
「タカヤマ幕僚長、一時撤退だ」
「あ、え。いや……い、致し方ありません。承知した」
「関君!!どう言うつもりかね!!そっちのヤツも何故いう事を聞くのだ!!清雅を見捨てるつもりか?幾ら清雅と言えどもあんな出鱈目な連中相手に……」
「だが、他に手段がない。無駄に死なせて何の意味があるってんです?血を流せばあの変な連中に攻撃が通るってぇならそうしますがね。だが、そんな道理は存在しない。ならば無駄に消耗する前に一度撤退し、態勢を立て直すべきだ。清雅にはこういう時の為に対テロ部隊が控えている。時間は稼げると判断する」
「うぅむ。だが、だが!!もし清雅が落ちる事態となれば貴様の責任だぞ、いいな!!」
「無論、分かっておりますよ」
喧々囂々のやり取りの末に撤退は決まった。自らを非難する声と、混乱により正気を失い慌てふためく有象無象の声を冷静に受け止めようと努める男の号令を受け、撤退が始まる。
悪戯に命と時間だけを無駄にした挙句の命令は、当事者達にしてみれば屈辱以外の何物でもない。現に、命令を受け続々とその場から退避を開始し始めた混成軍の様子を確認すると、誰もが口々にこう叫んでいた。
「悪夢だ!?」
「これは、何かの間違いだッ」
と。戦いに参じた者の誰もが目の前で起きた現象を受け入れられず、混乱と恐怖と絶望その他ありとあらゆる負の感情が渦巻く。そんな様子を、市内の各所に備え付けられたカメラと無人中継機が克明に捉えた。
その感情が動きにも表れる。規則正しく行軍すべき軍隊は、撤退の言葉を聞くやまるで待ってましたとばかり一目散に逃げ始めた。肉体と共に鍛え上げられた精神は、全く想定しない事態を前に脆くも崩れ去った。これも全て予定通り。だからこそ彼らに伝えたかった――
済まない
無意識に漏れた懺悔は、届くはずがない言葉は虚しく空を漂った後、闇の中に霧散した。既に幾つもの命が奪われた。そして、生き残った者の心にも見えない深い傷が刻まれた。
だが、それでも、如何なる犠牲を出しても我らは勝たねばならない。今回の戦争にもし地球側が負ければ、過去に起きた世界大戦以上の悲劇が襲う。ツクヨミが制御する通信システムの消失は世界も、人も断絶する。神が作り上げた世界の崩壊という未曽有の悲劇。実際はそれだけではないのだが、ともかく――ツクヨミだけは何としても守らなければならない。
一方、呆気なく撤退する地球の混成軍の様子にクズリュウの面々は恍惚の表情を浮かべた。初戦は見事に快勝。誰もがあっさりと勝利をもぎ取った事実を喜び、己惚れる。勝利の喜びに混じり、スサノヲへの影口がニヤけた口から零れ落ち始めた。戦闘経験が皆無の部隊なのだから仕方がないが、彼等の心の内は今、油断と慢心に満ち満ちている。
だが、誰も知らない。この絵図を描いた我らと清雅以外の誰も知らない。全ては我らがお膳立てした結果だ。
彼等にはもっと油断して貰う必要がある。我らの立てた計画の為に、ツクヨミの手の上で踊ってもらわねば困る。その為に、今は地球に攻め込んでもらう必要がある。もっと戦力を地球に降下させるよう仕向けなければならない。そうせねば、我らが巻き込んだ者達の犠牲が無意味となってしまう。
犠牲――
よくよく考えてみれば、今回の戦争の真実を知らないという意味ではクズリュウも被害者、犠牲者と呼んでいい筈だ。しかし、心が激しく拒絶する。それに、あの態度だ。私は、その光景に冷静さを失った。
無知であるからこそ、何処までも残虐になれるのか?もし真実を知っていたならば、その行動は変化したのか?画面の向こうに映るクズリュウの勝ち誇った表情と、滑らかな口が語る極めて軽薄な言葉の数々は、そんな疑問を持たせる程に醜かった。
戦闘が開始されてから僅か10分余り。旗艦アマテラス擁するクズリュウは未だ無傷。対して、地球は混成軍の多くが死傷した。
地上を見れば彼等が流した血でところどころが朱く染まり、墜落したヘリや破壊された戦車が幾つも散乱している。一見すれば地球側の被害は甚大。しかし、我らは切り札どころかカード一枚すら切っていない。そして、クズリュウはその事実に気付いていない。
宇宙から来るクズリュウと交戦してから僅か数分、たったそれだけで地球軍の混成軍は蹂躙され、前線は完膚なきまでに破壊された。
首脳の集まる会議室も混迷を極める。幾つかの国の代表者はこの壮大な対テロ戦闘の指揮を行う名目で来日した。最低限の責任を果たすと同時に、上手くいかなければこの国の首相に責任を押し付け、上手くいけば清雅に取り入る為だ。
心情を知れば情けなくとも、当事者達からすれば清雅との駆け引きでの敗北は国家の敗北と同義。よって、あらゆる予防線を張り、利用できるならば何でも利用する。そうしなければ政治家失格の烙印を押される。そんな彼等でさえ言葉を失った。
「な、何だこれは?只のテロリストじゃないのか?」
「こんな……ここまで一方的に?何なのアイツ等?誰があんな物をテロリストに渡したの!!」
「いやその前にあんな代物、誰が作れると言うんだ?テロリストと呼ぶには余りにも……オイ関君、早く何とかしたまえ!!」
やがてポツリポツリと口を開き始めたが、事態の打開を目指した内容は一切含まれず、ただ責任者として祭り上げた関首相への非難しか吐き出さない。
「タカヤマ幕僚長、一時撤退だ」
「あ、え。いや……い、致し方ありません。承知した」
「関君!!どう言うつもりかね!!そっちのヤツも何故いう事を聞くのだ!!清雅を見捨てるつもりか?幾ら清雅と言えどもあんな出鱈目な連中相手に……」
「だが、他に手段がない。無駄に死なせて何の意味があるってんです?血を流せばあの変な連中に攻撃が通るってぇならそうしますがね。だが、そんな道理は存在しない。ならば無駄に消耗する前に一度撤退し、態勢を立て直すべきだ。清雅にはこういう時の為に対テロ部隊が控えている。時間は稼げると判断する」
「うぅむ。だが、だが!!もし清雅が落ちる事態となれば貴様の責任だぞ、いいな!!」
「無論、分かっておりますよ」
喧々囂々のやり取りの末に撤退は決まった。自らを非難する声と、混乱により正気を失い慌てふためく有象無象の声を冷静に受け止めようと努める男の号令を受け、撤退が始まる。
悪戯に命と時間だけを無駄にした挙句の命令は、当事者達にしてみれば屈辱以外の何物でもない。現に、命令を受け続々とその場から退避を開始し始めた混成軍の様子を確認すると、誰もが口々にこう叫んでいた。
「悪夢だ!?」
「これは、何かの間違いだッ」
と。戦いに参じた者の誰もが目の前で起きた現象を受け入れられず、混乱と恐怖と絶望その他ありとあらゆる負の感情が渦巻く。そんな様子を、市内の各所に備え付けられたカメラと無人中継機が克明に捉えた。
その感情が動きにも表れる。規則正しく行軍すべき軍隊は、撤退の言葉を聞くやまるで待ってましたとばかり一目散に逃げ始めた。肉体と共に鍛え上げられた精神は、全く想定しない事態を前に脆くも崩れ去った。これも全て予定通り。だからこそ彼らに伝えたかった――
済まない
無意識に漏れた懺悔は、届くはずがない言葉は虚しく空を漂った後、闇の中に霧散した。既に幾つもの命が奪われた。そして、生き残った者の心にも見えない深い傷が刻まれた。
だが、それでも、如何なる犠牲を出しても我らは勝たねばならない。今回の戦争にもし地球側が負ければ、過去に起きた世界大戦以上の悲劇が襲う。ツクヨミが制御する通信システムの消失は世界も、人も断絶する。神が作り上げた世界の崩壊という未曽有の悲劇。実際はそれだけではないのだが、ともかく――ツクヨミだけは何としても守らなければならない。
一方、呆気なく撤退する地球の混成軍の様子にクズリュウの面々は恍惚の表情を浮かべた。初戦は見事に快勝。誰もがあっさりと勝利をもぎ取った事実を喜び、己惚れる。勝利の喜びに混じり、スサノヲへの影口がニヤけた口から零れ落ち始めた。戦闘経験が皆無の部隊なのだから仕方がないが、彼等の心の内は今、油断と慢心に満ち満ちている。
だが、誰も知らない。この絵図を描いた我らと清雅以外の誰も知らない。全ては我らがお膳立てした結果だ。
彼等にはもっと油断して貰う必要がある。我らの立てた計画の為に、ツクヨミの手の上で踊ってもらわねば困る。その為に、今は地球に攻め込んでもらう必要がある。もっと戦力を地球に降下させるよう仕向けなければならない。そうせねば、我らが巻き込んだ者達の犠牲が無意味となってしまう。
犠牲――
よくよく考えてみれば、今回の戦争の真実を知らないという意味ではクズリュウも被害者、犠牲者と呼んでいい筈だ。しかし、心が激しく拒絶する。それに、あの態度だ。私は、その光景に冷静さを失った。
無知であるからこそ、何処までも残虐になれるのか?もし真実を知っていたならば、その行動は変化したのか?画面の向こうに映るクズリュウの勝ち誇った表情と、滑らかな口が語る極めて軽薄な言葉の数々は、そんな疑問を持たせる程に醜かった。
戦闘が開始されてから僅か10分余り。旗艦アマテラス擁するクズリュウは未だ無傷。対して、地球は混成軍の多くが死傷した。
地上を見れば彼等が流した血でところどころが朱く染まり、墜落したヘリや破壊された戦車が幾つも散乱している。一見すれば地球側の被害は甚大。しかし、我らは切り札どころかカード一枚すら切っていない。そして、クズリュウはその事実に気付いていない。
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