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第7章 世界崩壊の日
幕間16-3 世界崩壊の日 ~ 開戦 其の3
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初戦の快勝に、ズリュウの動きが変化した。大胆。いや、あれは単に大雑把なだけだ。たった一度、初戦の勝利に酔いしれた彼等から感情の一部が抜け落ちた結果だ。
慎重と、恐怖。ほんの僅か、しかし確実に軽くなった精神に背中を押され、クズリュウは我先にと清雅本社へと駆け出した。その様子はまるで競争でもしているかの様で、当初の緊張は完全に消え失せていた。無知故、未経験故、己が恐怖を克服したと勘違いしている。
安堵した。全て、予定通り。だが、全てが順調に進行している喜びの裏で密かに嘆いた。余りにも、愚かすぎる。だが、今は勝たねばならない。自らの内から湧き上がる矛盾を、感情を押し殺し――今後の展開に思考を回す。
愉快で無能なクズリュウの快進撃はここまでだ。本社にはマジンを駆る清雅の精鋭「現人偽神」が控える。夥しい犠牲と執念と時間と金が作り出した結晶、マジンを駆る精鋭は今日この日の為に弛まぬ努力を重ねてきた。
地球製の防御兵装が作り出す防壁はクズリュウの攻撃を防ぎ切り、マジンは逆に旗艦製の防壁を貫く。総合的な兵装の能力は旗艦側のソレとほぼ変わらない水準にまで引き上げられており、故に互角。ただし、唯一の懸念である数を除けば。
しかし、その問題は図らずもあちらが勝手に解消してくれた。新兵が大半を占めるクズリュウはその大半が経験乏しく、知識も付け焼き刃の有象無象。だから、ほんの僅かでも揺さぶりを掛ければ容易に崩れ落ちる。
経験豊富な退役兵や現役兵も幸運なことに絶対数が少なかった。何より主力のスサノヲにはまともな武装を支給せず、挙句に立場も低いという無謀な采配を下した。ダメ押しに適当な理由をでっち上げ居住区域の防衛に回している。体の良い厄介払いだ。だが、それでも長い戦いを生き抜いてきた経験と知識は脅威的だ。よって、鎖による強制介入が行われる前に勝負を決しなければならない。
ツクヨミが聖域から的確な指示を伝える。通信から口々に賛辞、感謝の言葉が送られてきた。誰もが自らの意志で、我らの為に命を捨てる決意を持つ。だが、当の私はその状況を喜んでよいのか分からずにいた。その様に導いた筈なのに。
私は正しいのか、この決断は正しかったのか、そんな答えの出ない疑問が何度も浮かんでは沈んだ。
だが、私以上にツクヨミもその答えを求める。幾つもの画面を見つめ、的確な指示を飛ばす彼女の目は輝いているが、同時に揺れている様に見えた。彼女は指示を出しながら、何時も見ている画面に目を戻した。
荒れた画面、ぶつ切りの音声は誰かが何かを伝えている事だけは理解できるがそれが何であるかは今の彼女には分からない。もうずっと、数百年飽きる事無く見つめ続けるその画面を眺め、そして――
「私は、正しいのでしょうか?」
そう、画面に問いかけた。周囲を覆い尽くさんばかりの数のディスプレイに淡く照らし出されたツクヨミの姿は脆く、儚い。彼女は知っている筈だし、理解もしているし、至って正気で、全機能は正常で、何一つ異常はない。
だから、只の映像から答えが返ってくるなど有り得ないと理解している。しかし、それでも問いかけた。それでも、尋ねずにはいられなかった。
「どうしてだろうか。とても……表現しようの無い痛みが身体の内に走るのだ。そう決めて、私も彼らと共に血で穢れた道を歩むと。だが……それでも……私の中にある大事な何かがこの現実を拒絶しようとする。これは……私は……」
覚悟してい。だが、目の前の惨劇はその覚悟を容易く破壊する。過去に起きた戦争は我らの与り知らぬところで起きた。
だが、今起きている戦いは確実に我らが先導した結果だ。耐えねばならない。飲み下さねばならない、しかし、そうするにはツクヨミは余りにも幼かった。数百年を経ても尚、彼女の精神は純粋無垢な子供のままだった。
慎重と、恐怖。ほんの僅か、しかし確実に軽くなった精神に背中を押され、クズリュウは我先にと清雅本社へと駆け出した。その様子はまるで競争でもしているかの様で、当初の緊張は完全に消え失せていた。無知故、未経験故、己が恐怖を克服したと勘違いしている。
安堵した。全て、予定通り。だが、全てが順調に進行している喜びの裏で密かに嘆いた。余りにも、愚かすぎる。だが、今は勝たねばならない。自らの内から湧き上がる矛盾を、感情を押し殺し――今後の展開に思考を回す。
愉快で無能なクズリュウの快進撃はここまでだ。本社にはマジンを駆る清雅の精鋭「現人偽神」が控える。夥しい犠牲と執念と時間と金が作り出した結晶、マジンを駆る精鋭は今日この日の為に弛まぬ努力を重ねてきた。
地球製の防御兵装が作り出す防壁はクズリュウの攻撃を防ぎ切り、マジンは逆に旗艦製の防壁を貫く。総合的な兵装の能力は旗艦側のソレとほぼ変わらない水準にまで引き上げられており、故に互角。ただし、唯一の懸念である数を除けば。
しかし、その問題は図らずもあちらが勝手に解消してくれた。新兵が大半を占めるクズリュウはその大半が経験乏しく、知識も付け焼き刃の有象無象。だから、ほんの僅かでも揺さぶりを掛ければ容易に崩れ落ちる。
経験豊富な退役兵や現役兵も幸運なことに絶対数が少なかった。何より主力のスサノヲにはまともな武装を支給せず、挙句に立場も低いという無謀な采配を下した。ダメ押しに適当な理由をでっち上げ居住区域の防衛に回している。体の良い厄介払いだ。だが、それでも長い戦いを生き抜いてきた経験と知識は脅威的だ。よって、鎖による強制介入が行われる前に勝負を決しなければならない。
ツクヨミが聖域から的確な指示を伝える。通信から口々に賛辞、感謝の言葉が送られてきた。誰もが自らの意志で、我らの為に命を捨てる決意を持つ。だが、当の私はその状況を喜んでよいのか分からずにいた。その様に導いた筈なのに。
私は正しいのか、この決断は正しかったのか、そんな答えの出ない疑問が何度も浮かんでは沈んだ。
だが、私以上にツクヨミもその答えを求める。幾つもの画面を見つめ、的確な指示を飛ばす彼女の目は輝いているが、同時に揺れている様に見えた。彼女は指示を出しながら、何時も見ている画面に目を戻した。
荒れた画面、ぶつ切りの音声は誰かが何かを伝えている事だけは理解できるがそれが何であるかは今の彼女には分からない。もうずっと、数百年飽きる事無く見つめ続けるその画面を眺め、そして――
「私は、正しいのでしょうか?」
そう、画面に問いかけた。周囲を覆い尽くさんばかりの数のディスプレイに淡く照らし出されたツクヨミの姿は脆く、儚い。彼女は知っている筈だし、理解もしているし、至って正気で、全機能は正常で、何一つ異常はない。
だから、只の映像から答えが返ってくるなど有り得ないと理解している。しかし、それでも問いかけた。それでも、尋ねずにはいられなかった。
「どうしてだろうか。とても……表現しようの無い痛みが身体の内に走るのだ。そう決めて、私も彼らと共に血で穢れた道を歩むと。だが……それでも……私の中にある大事な何かがこの現実を拒絶しようとする。これは……私は……」
覚悟してい。だが、目の前の惨劇はその覚悟を容易く破壊する。過去に起きた戦争は我らの与り知らぬところで起きた。
だが、今起きている戦いは確実に我らが先導した結果だ。耐えねばならない。飲み下さねばならない、しかし、そうするにはツクヨミは余りにも幼かった。数百年を経ても尚、彼女の精神は純粋無垢な子供のままだった。
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