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第7章 世界崩壊の日
幕間16-4 世界崩壊の日 ~ 開戦 其の4
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20XX/12/22 0915
クズリュウと同じく、あるいはそれ以上に初戦の快勝を喜ぶ者達がいる。アラハバキだ。
全てが順調に進む様子を見た彼等は酷くご満悦。が、それも全ては計画通り。ツクヨミが描き、私が補佐した展開通りに踊らされているなど欠片も想像しない。理解力と想像力を持たず、思慮が著しく欠如した彼等は愚かの一言に尽きる。いや、そういえば戦う前から勝利を確信していたな。ならば尚の事、醜い。その中でも特に醜い思考に支配されたヤゴウが命令を出した。内容は――
「動ける者は全て地上に向かえ。予定通り清雅本社を制圧しろ!!」
予測通り。軽蔑する程の愚かさだが、一方ではその愚かさに助けられているのは何とも皮肉だ。幸運と不幸は観測する者によって変わると言う。だが、ヤゴウという男が指揮を執る旗艦の現状は誰から見ても不幸としか思えない。
極めて短絡的な男がどれ程考えた末に出したのか甚だ疑問に思う命令が、通信を通し全部隊へと広がった。反応は2つに分かれる。極めて冷静に状況を見る事が出来る者は険しい顔色を浮かべた。が、そんな人物はそこまで多くはない。圧倒的多数を占める新兵は愚かな指示に背を押され、我先にと清雅目掛け駆け出した。罠の可能性など微塵も考えない。
「おい、早えーよ。もう少し様子見てからにしよーぜ?」
やはり予測通り、誰かが状況に待ったを掛けた。上申したのは元ヤタガラスのタガミ。私が少々子供っぽいと評価した彼は、予測に反しアラハバキの命令に否定的な反応を示した。
冷静な判断を下すには少々大雑把で子供っぽい性格をしていると思っていたのだが、どうやら意外に冷静な判断を下せるようだ。あるいは、そう見えないだけで相応の危機感を持ち合わせているのか。それとも単純にヒルメからの助言か。
だが、何方にせよ、誰であるにせよ、それなりに危機感を持つ者ならば油断しきった状態で一気に勝負を決めに掛かる事が危険である事をよく理解している。
真っ当な思考ならば罠を疑うべき状況。しかし、安全な場所から命令を出すアラハバキは理解出来ない。いや、元から戦闘に関する知識一切が欠落しているのだから理解以前の問題。よって、この後にヤゴウが発する言葉も予測済みだ。
「だから尚の事だろう。清雅の戦力が問題と言うならば速やかに数を揃え、一気に押し潰す。ヤタノカガミ、いやカグツチ濃度の上限と言う制限がある事を忘れるな。一刻でも早く目標を奪って来い!!」
単純。間抜け。それ以外の感想が浮かばなかった。退役兵がどれだけ物申したところでアラハバキ、特にヤゴウが認めないなど分かり切っていた。だが、言い分自体は間違ってはいない。濃度が上昇し過ぎればマガツヒを呼び寄せる可能性が高まる。
クズリュウを含むカガセオには高い戦闘能力と引き換えに枷がある。マガツヒに感知されない程度のカグツチ濃度を維持しなければならない枷が。ただ、本来ならば存在しないも同然だった。文明や技術を含む全てにおいて圧倒的な差がある未開惑星との戦闘において、限界ギリギリまでの高濃度を維持する必要など起こりえない。それ程にスサノヲの力は常識から外れている。
もし、そのスサノヲが万全で、かつアマテラスオオカミが健在だったならば数十名程度もいれば地球の全戦力を壊滅出来ただろう。しかし、実際はそうならなかった。今回の戦いにスサノヲが殆ど関わらないという事実を知った我らは、勝利の為にあらゆる犠牲を払う覚悟で戦力を増強した。彼等は自らが最後の瞬間を迎えるその時まで、自らの愚かさに気付かない。
「わーったよ。だが、どうなっても知らねぇぞ?」
クズリュウは直属の上官であるヤゴウに逆らわない。だから、多少の問答が発生するだけで結局は予測通りに動く事など分かりきっていた。正確には歪な力関係にタガミをはじめ誰一人逆らう事が出来ない、だ。
アラハバキはクズリュウという戦闘部隊に企業としての流儀を持ち込んだ。金だ。身も蓋もない言い方をすればいわゆる傭兵。真っ当な仕事では到底稼げない高額の報酬と、報酬を得る為の極まった成果主義がクズリュウを動かす原動力の一つである点は疑いようがない。
退役後に贅を知り、欲に駆られたのか。あるいは当時よりも遥かに楽で高額を稼ぐ現実に流された結果か。はたまた何かの理由で更なる金銭が必要になったのか。
理由は何であれ、各種の補填や補償、高額な給料も死力を尽くして旗艦を護った代償としては割に合わないと考えたからこそクズリュウに参加した。場合によっては身体に大きな傷跡を残すのだから当然か。そう考えなければ再び戦いに身を投じようとは考えない。
タガミを始めとした経験豊富な退役兵はツクヨミを確保するよう全部隊に指示を飛ばした。同時刻、ヤタノカガミによるカグツチ濃度の調整が始まる。高すぎればマガツヒを引き寄せ、低すぎれば武装の火力が落ち、被害が拡大する。地上の部隊の武装が性能を十全に発揮できると同時にマガツヒを引き寄せない丁度良い濃度を維持し続ける作業にヒルメは忙殺され始めた。
「ヤタノカガミ、正常に動作中。現在のカグツチ濃度段階は7。現状を維持する為に旗艦、及び第70から100番艦隊の使用を一時停止。停止確認、濃度維持問題なし」
「フン、随分とよくやってくれているな」
「ありがとうございます」
「では、私はこれで」
「何処へ向かわれるのですか?イワザキ様」
全てが順調だった、その時までは。予想外の台詞だ。私やツクヨミさえ予測できない何かが起きようとしている。
クズリュウと同じく、あるいはそれ以上に初戦の快勝を喜ぶ者達がいる。アラハバキだ。
全てが順調に進む様子を見た彼等は酷くご満悦。が、それも全ては計画通り。ツクヨミが描き、私が補佐した展開通りに踊らされているなど欠片も想像しない。理解力と想像力を持たず、思慮が著しく欠如した彼等は愚かの一言に尽きる。いや、そういえば戦う前から勝利を確信していたな。ならば尚の事、醜い。その中でも特に醜い思考に支配されたヤゴウが命令を出した。内容は――
「動ける者は全て地上に向かえ。予定通り清雅本社を制圧しろ!!」
予測通り。軽蔑する程の愚かさだが、一方ではその愚かさに助けられているのは何とも皮肉だ。幸運と不幸は観測する者によって変わると言う。だが、ヤゴウという男が指揮を執る旗艦の現状は誰から見ても不幸としか思えない。
極めて短絡的な男がどれ程考えた末に出したのか甚だ疑問に思う命令が、通信を通し全部隊へと広がった。反応は2つに分かれる。極めて冷静に状況を見る事が出来る者は険しい顔色を浮かべた。が、そんな人物はそこまで多くはない。圧倒的多数を占める新兵は愚かな指示に背を押され、我先にと清雅目掛け駆け出した。罠の可能性など微塵も考えない。
「おい、早えーよ。もう少し様子見てからにしよーぜ?」
やはり予測通り、誰かが状況に待ったを掛けた。上申したのは元ヤタガラスのタガミ。私が少々子供っぽいと評価した彼は、予測に反しアラハバキの命令に否定的な反応を示した。
冷静な判断を下すには少々大雑把で子供っぽい性格をしていると思っていたのだが、どうやら意外に冷静な判断を下せるようだ。あるいは、そう見えないだけで相応の危機感を持ち合わせているのか。それとも単純にヒルメからの助言か。
だが、何方にせよ、誰であるにせよ、それなりに危機感を持つ者ならば油断しきった状態で一気に勝負を決めに掛かる事が危険である事をよく理解している。
真っ当な思考ならば罠を疑うべき状況。しかし、安全な場所から命令を出すアラハバキは理解出来ない。いや、元から戦闘に関する知識一切が欠落しているのだから理解以前の問題。よって、この後にヤゴウが発する言葉も予測済みだ。
「だから尚の事だろう。清雅の戦力が問題と言うならば速やかに数を揃え、一気に押し潰す。ヤタノカガミ、いやカグツチ濃度の上限と言う制限がある事を忘れるな。一刻でも早く目標を奪って来い!!」
単純。間抜け。それ以外の感想が浮かばなかった。退役兵がどれだけ物申したところでアラハバキ、特にヤゴウが認めないなど分かり切っていた。だが、言い分自体は間違ってはいない。濃度が上昇し過ぎればマガツヒを呼び寄せる可能性が高まる。
クズリュウを含むカガセオには高い戦闘能力と引き換えに枷がある。マガツヒに感知されない程度のカグツチ濃度を維持しなければならない枷が。ただ、本来ならば存在しないも同然だった。文明や技術を含む全てにおいて圧倒的な差がある未開惑星との戦闘において、限界ギリギリまでの高濃度を維持する必要など起こりえない。それ程にスサノヲの力は常識から外れている。
もし、そのスサノヲが万全で、かつアマテラスオオカミが健在だったならば数十名程度もいれば地球の全戦力を壊滅出来ただろう。しかし、実際はそうならなかった。今回の戦いにスサノヲが殆ど関わらないという事実を知った我らは、勝利の為にあらゆる犠牲を払う覚悟で戦力を増強した。彼等は自らが最後の瞬間を迎えるその時まで、自らの愚かさに気付かない。
「わーったよ。だが、どうなっても知らねぇぞ?」
クズリュウは直属の上官であるヤゴウに逆らわない。だから、多少の問答が発生するだけで結局は予測通りに動く事など分かりきっていた。正確には歪な力関係にタガミをはじめ誰一人逆らう事が出来ない、だ。
アラハバキはクズリュウという戦闘部隊に企業としての流儀を持ち込んだ。金だ。身も蓋もない言い方をすればいわゆる傭兵。真っ当な仕事では到底稼げない高額の報酬と、報酬を得る為の極まった成果主義がクズリュウを動かす原動力の一つである点は疑いようがない。
退役後に贅を知り、欲に駆られたのか。あるいは当時よりも遥かに楽で高額を稼ぐ現実に流された結果か。はたまた何かの理由で更なる金銭が必要になったのか。
理由は何であれ、各種の補填や補償、高額な給料も死力を尽くして旗艦を護った代償としては割に合わないと考えたからこそクズリュウに参加した。場合によっては身体に大きな傷跡を残すのだから当然か。そう考えなければ再び戦いに身を投じようとは考えない。
タガミを始めとした経験豊富な退役兵はツクヨミを確保するよう全部隊に指示を飛ばした。同時刻、ヤタノカガミによるカグツチ濃度の調整が始まる。高すぎればマガツヒを引き寄せ、低すぎれば武装の火力が落ち、被害が拡大する。地上の部隊の武装が性能を十全に発揮できると同時にマガツヒを引き寄せない丁度良い濃度を維持し続ける作業にヒルメは忙殺され始めた。
「ヤタノカガミ、正常に動作中。現在のカグツチ濃度段階は7。現状を維持する為に旗艦、及び第70から100番艦隊の使用を一時停止。停止確認、濃度維持問題なし」
「フン、随分とよくやってくれているな」
「ありがとうございます」
「では、私はこれで」
「何処へ向かわれるのですか?イワザキ様」
全てが順調だった、その時までは。予想外の台詞だ。私やツクヨミさえ予測できない何かが起きようとしている。
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