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第7章 世界崩壊の日
幕間16-5 世界崩壊の日 ~ 開戦 其の5
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「何方に向かわれるので?」
誰も予想だにしていなかったのは環境の面々も同じ。突飛な言動はアラハバキの一者、イワザキ。堪らずヒルメが問い質した。
一気に緊張が走る。いわゆる思い付きや適当な考えといった意志の揺らぎから生じる行動は神さえ予測困難で、その為に状況予測精度を大きく下げ、稀に予測しえない程に大きな事象さえ引き起こす。良い方にもだが、特に悪い方に。タケミカヅチ計画が最たる例だ。
大勢が決したのならば艦橋から戦場を眺めていても時間の無駄、そう考えた可能性は否定できない。考え過ぎかもしれない。が、それでもイワザキは何を考え、どんな行動を起こすのかツクヨミは演算し始めた。
戦いは始まり、もう後に引き返すなど出来ない。多くの犠牲を出しながらこの時に備えた。だから、ほんの些細な行動であってもつぶさに観察し、対応し、勝利を揺るぎないものにせねばならない。
あらゆる情報から人の意志を予測し、対応する。アマテラスオオカミですら困難な演算を行うツクヨミの顔に、若干の焦りの色が浮かび始めた。
「地上だよ。もう勝敗は決しただろう?地球は負ける運命だ、遅いか早いかだけの違いしかない」
「どうせ真っ先にツクヨミとかいうシステムを確保したいのだろう?」
「それもあるが……ククッ、クハハハッ。直接この目で見てみたいのだよ。人が何も出来ずに死んでいく様を、悲劇にまみれた運命を。こんな機会でもなければ見れないからねぇ」
その言葉にツクヨミは演算の手をを止めた。焦りはやがて悲しみに変わった。が、先ほどよりもずっと濃く、深い。
「なんだ、それは……」
悲壮な呟きに混じる彼女の感情は、私であっても痛い程に理解できた。私の中にも全く同じ感情が生まれ、即座に消えた。程なく、取って代わり冷酷な程の侮蔑が生まれ、私の中を満たしていくのを感じた。
イワザキが笑う。とびきりの、満面の笑みで。他3名の顔も同じく、醜く歪んでいた。
対して、オペレーター達の反応は真逆。悪趣味極まりない発言は、真っ当な神経を持つ大半のオペレーター達の気分を害するには十分だった。漏れ出た本音を拾ってみれば、「最悪」だの「イカレてる」だの「そのまま死んでくれ」だの散々な有様。
もううんざりする程に見てきた彼等の醜悪な一面は底を打ち、もう驚くような言動はしないだろうと思っていたが――更に底があるとは想像だにしなかった。
最悪な形の発露で醜悪極まりないが、これもまた意志。人の性格は単純ではない。単純に一つの考えだけで物事を決める者はそう多くはない。圧倒的大多数は覚えた知識や環境が育んだ価値感、常識、関わった人物の影響など幾つもの要素を組み合わせて最終的な行動を決定する。
未だ不快な笑みを顔に貼りつけるあの男も同じ筈だが、一体どんな環境で育てば死と恐怖に怯える顔を見たいなどという醜悪な決断を下せるのか。
宇宙を彷徨う鋼鉄の檻が歪んだ性格を育んでいるのではないか?私は極めて冷徹な視線を向けながら、同時に想像だに出来ない程に醜悪な人物の心の内を予測しようと試みる。そうしなければ、冷静さを保てなかった。
「フフッ、一人占めしないならばどうぞご自由に」
「やれやれ、今まで大人しくしておったかと思えば。そういえば主、ヤタガラスに落ちた過去があったと言っておったな?道理で落ちるわけじゃて。常日頃から運命じゃなんじゃと言うとるが、必然じゃぞそれは。生まれ以前ではないか」
「好きにすればいい。だが例の鍵は置いていけ。万が一にでもなくされては困るのでな」
「フフッ、じゃあ私も一枚預かっても宜しいかしら?」
「疑り深いな。では一つは私が引き続き預かるから、残りの2枚は君達で仲良く管理したまえ」
鍵と、その言葉にイワザキは懐からプレートを取り出した。合計して3枚。赤色と金色で構成された、規則的な模様をあしらった小さなプレート。イワザキは内2枚をヤゴウとオオゲツに手渡した。
刹那、ヒルメが確かにそのプレートに視線を向けた。いや、睨んだ。次の瞬間には視線は戻り、調整作業も再開していた。が、確かにほんの僅かの間ではあるが、ヤタノカガミの調整すら無視してまでプレートに意識を向けた。何が狙いか、何を狙うのか――
「では、そこの君。地上までのハイドリを作りなさい」
そんなヒルメを他所に、プレートをヤゴウとオオゲツに手渡したイワザキは、待ちきれないとばかりにオペレーターに命令を出す。
「し、承知しました。艦橋外の第15番転移装置を検疫所に繋ぎます。お戻りの際はもう一度私に連絡を下さい……クッソスキカッテイイヤガッテ」
逆らうなど出来ないオペーレーターは止むを得ないと地上への直通の道を開いたとの報を聞いたイワザキは上機嫌でその場を後にした。何の力も持たない者が戦場に立つ事がどれ程に危険か理解していないのか、過剰な好奇心は身を滅ぼす事さえ知らぬ愚か者か。後も先も全く考えていないその様子は、旗艦アマテラス内の大企業重役とは思えない程に子供っぽく見えた。
誰も予想だにしていなかったのは環境の面々も同じ。突飛な言動はアラハバキの一者、イワザキ。堪らずヒルメが問い質した。
一気に緊張が走る。いわゆる思い付きや適当な考えといった意志の揺らぎから生じる行動は神さえ予測困難で、その為に状況予測精度を大きく下げ、稀に予測しえない程に大きな事象さえ引き起こす。良い方にもだが、特に悪い方に。タケミカヅチ計画が最たる例だ。
大勢が決したのならば艦橋から戦場を眺めていても時間の無駄、そう考えた可能性は否定できない。考え過ぎかもしれない。が、それでもイワザキは何を考え、どんな行動を起こすのかツクヨミは演算し始めた。
戦いは始まり、もう後に引き返すなど出来ない。多くの犠牲を出しながらこの時に備えた。だから、ほんの些細な行動であってもつぶさに観察し、対応し、勝利を揺るぎないものにせねばならない。
あらゆる情報から人の意志を予測し、対応する。アマテラスオオカミですら困難な演算を行うツクヨミの顔に、若干の焦りの色が浮かび始めた。
「地上だよ。もう勝敗は決しただろう?地球は負ける運命だ、遅いか早いかだけの違いしかない」
「どうせ真っ先にツクヨミとかいうシステムを確保したいのだろう?」
「それもあるが……ククッ、クハハハッ。直接この目で見てみたいのだよ。人が何も出来ずに死んでいく様を、悲劇にまみれた運命を。こんな機会でもなければ見れないからねぇ」
その言葉にツクヨミは演算の手をを止めた。焦りはやがて悲しみに変わった。が、先ほどよりもずっと濃く、深い。
「なんだ、それは……」
悲壮な呟きに混じる彼女の感情は、私であっても痛い程に理解できた。私の中にも全く同じ感情が生まれ、即座に消えた。程なく、取って代わり冷酷な程の侮蔑が生まれ、私の中を満たしていくのを感じた。
イワザキが笑う。とびきりの、満面の笑みで。他3名の顔も同じく、醜く歪んでいた。
対して、オペレーター達の反応は真逆。悪趣味極まりない発言は、真っ当な神経を持つ大半のオペレーター達の気分を害するには十分だった。漏れ出た本音を拾ってみれば、「最悪」だの「イカレてる」だの「そのまま死んでくれ」だの散々な有様。
もううんざりする程に見てきた彼等の醜悪な一面は底を打ち、もう驚くような言動はしないだろうと思っていたが――更に底があるとは想像だにしなかった。
最悪な形の発露で醜悪極まりないが、これもまた意志。人の性格は単純ではない。単純に一つの考えだけで物事を決める者はそう多くはない。圧倒的大多数は覚えた知識や環境が育んだ価値感、常識、関わった人物の影響など幾つもの要素を組み合わせて最終的な行動を決定する。
未だ不快な笑みを顔に貼りつけるあの男も同じ筈だが、一体どんな環境で育てば死と恐怖に怯える顔を見たいなどという醜悪な決断を下せるのか。
宇宙を彷徨う鋼鉄の檻が歪んだ性格を育んでいるのではないか?私は極めて冷徹な視線を向けながら、同時に想像だに出来ない程に醜悪な人物の心の内を予測しようと試みる。そうしなければ、冷静さを保てなかった。
「フフッ、一人占めしないならばどうぞご自由に」
「やれやれ、今まで大人しくしておったかと思えば。そういえば主、ヤタガラスに落ちた過去があったと言っておったな?道理で落ちるわけじゃて。常日頃から運命じゃなんじゃと言うとるが、必然じゃぞそれは。生まれ以前ではないか」
「好きにすればいい。だが例の鍵は置いていけ。万が一にでもなくされては困るのでな」
「フフッ、じゃあ私も一枚預かっても宜しいかしら?」
「疑り深いな。では一つは私が引き続き預かるから、残りの2枚は君達で仲良く管理したまえ」
鍵と、その言葉にイワザキは懐からプレートを取り出した。合計して3枚。赤色と金色で構成された、規則的な模様をあしらった小さなプレート。イワザキは内2枚をヤゴウとオオゲツに手渡した。
刹那、ヒルメが確かにそのプレートに視線を向けた。いや、睨んだ。次の瞬間には視線は戻り、調整作業も再開していた。が、確かにほんの僅かの間ではあるが、ヤタノカガミの調整すら無視してまでプレートに意識を向けた。何が狙いか、何を狙うのか――
「では、そこの君。地上までのハイドリを作りなさい」
そんなヒルメを他所に、プレートをヤゴウとオオゲツに手渡したイワザキは、待ちきれないとばかりにオペレーターに命令を出す。
「し、承知しました。艦橋外の第15番転移装置を検疫所に繋ぎます。お戻りの際はもう一度私に連絡を下さい……クッソスキカッテイイヤガッテ」
逆らうなど出来ないオペーレーターは止むを得ないと地上への直通の道を開いたとの報を聞いたイワザキは上機嫌でその場を後にした。何の力も持たない者が戦場に立つ事がどれ程に危険か理解していないのか、過剰な好奇心は身を滅ぼす事さえ知らぬ愚か者か。後も先も全く考えていないその様子は、旗艦アマテラス内の大企業重役とは思えない程に子供っぽく見えた。
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