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第7章 世界崩壊の日
80話 出会いたくなかった男
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20XX/12/22 1000
最上階の社長室を駆け下りる。向かった先は5階下、このフロアを丸々占拠する清雅重要部門の一つ、防犯課。
ここなら彼女の居場所を携帯から特定出来る。主に警察や国と連携して犯罪捜査を担当するこの部門は、携帯を割り出す為にあらゆる施設と情報を共有し、同時にあらゆる監視システムを駆使して対象の居場所を追跡、特定する唯一の場所。
セキュリティも、追跡用ツールも、全部特製IDで強引に突破する。管理者用のPCさえ無事ならばそれ以外はどうでもいい。適当な部屋に入ろうとカードキーをかざし――
「うわッ!?」
目と鼻の先の部屋の扉が不意に開いた。誰かが驚き、声を上げた。確かに上昇志向が強い社員ならいるかもしれないと考えはしたが、いざ鉢合わせると流石に驚きが勝った。いや、よくこの状況で出社するなぁと、心の隅で感心する。ただ、流石に戦闘が本格化して恐怖に駆られたようだ。俺を見る男の顔色は焦りと怯えで歪んでいる。
「誰だよ、お前!?」
「ちょっと止まらないでよ!!……あ……あれ、その顔。もしかして?」
予想通りの反応。俺の顔を見た数人の内の1人が俺の顔に気付き、腰を抜かした。知らない訳がないか。あれだけ大々的に報道されていれば、それに恐らくこの場所で俺達の居場所を捜索していただろうから、尚の事か。警備は流石にもういないだろうけど、羽島の様な連中を呼ばれるとどうにもならない。覚悟は既に決めた。
「お、おいおいおいちょっと待って!?」
何をすべきかも理解している。銃を手に取り、逃げ出そうとする連中をけん制し、部屋へと強引に戻す。
「部屋に戻れッ!!それから誰でもいい、今から言う携帯番号を追跡して居場所を特定しろ!!早くッ!!」
逃げ出そうとした矢先に出鼻を挫かれた社員の顔が恐怖で更に混乱した。済まない。ただ、俺もこれ以上手間取れば死んでしまう。咄嗟の判断で部屋に戻したのは判断ミスじゃないと、そう無理矢理納得させ、引き金を引いた。
軽い痛みが身体を伝った。続けて炸裂音と衝撃。飛び出した弾丸は僅かに進行方向を補正しながら備え付けられた固定電話を粉々に破壊した。
攻撃する意志を見せた事で社員の顔から血の気が一気に引く。一番後ろに居た気の弱そうな女性社員に至っては腰を抜かしたのか、その場でへたり込んでしまった。誰もが一様に両手をあげ、降参の意志を示す。
「お、おいまさかやっぱりお前テロ……」
「俺だって撃ちたくないんだよ、早くッ!!」
固まり、動かない社員達を威嚇し、行動を促す。ズブの素人の適当な脅しにどの程度の効果があるのか甚だ疑問だったが、暫く後に俺とぶつかった社員が席に戻った。運悪く俺と鉢合わせた短気そうな長髪の男は、席に座ると諦めたような顔をしながら髪を手でかき上げ、無言でこちらに目配せをする。用意が出来たと言いたげな様子に携帯の番号を教えた。男は、僅か数秒で居場所を特定した。
「い、居場所は……え、えーと……ここから道路一つ挟んだ向こうにある清雅電子機器が使ってる。ほ、本社の次に高い第三ビルだ。か、階層までは流石に分からん。う、噓じゃないぞホントだぞ!!」
良かった、意外と近い。確か旗艦に戻ると言っていたような、言っていなかったような。だが、何にせよ良かった。追い付ける。急いでその場所へ向かわなければ。
「あ、あの……もう……」
「ありがとう。それから脅してゴメン。表からじゃ逃げられないけど、地下の駅からなら安全に逃げられるから、急げよ」
「急げって、引き止めたのお前……」
「アンタいっつも余計な事ばっか言って!!ありがとう、じゃあ私達コレで……」
出来れば生き残って欲しい、そんな願いを言葉に込めて部屋を後にする。ルミナに気絶させられる直前に聞こえた言葉が頭に浮かぶ。本当に微か過ぎて、何を言っているか自信がなかった。それが今、確信に変わった。
すまない
じゃねーよアイツ。クソッ、やっぱり本当に馬鹿野郎だ。多分、自分だけで全部背負いこむ気だ。だが、場所が分かった。後は向かって、その後はその時に考えれば良い。急げ、急げ、急げ、急げ――
「ななな、何だよオマエ……うわッ!?」
「うるせーよ三下ァ、黙ってろ。よーお、久しぶりぃ。ここはクビになった奴が来るところじゃねーだろ?」
嫌な、予感がした。誰かが誰かに声を掛け掛けた直後、何か鈍い音がした。恐らく社員の誰かが吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる音がはるか遠くから立て続けに背中側を突き抜けた。
だが、予感の原因は音や衝撃じゃない。不意に意識の外から聞こえた、明らかに俺目掛けて掛けられた言葉の方だ。反応し、身体が硬直し、足が止まる。いや言葉は問題じゃなかった、声だ。聞き覚えのある声の方へ振り向き――
「今度こそ、今度こそ……」
そうであって欲しくなかった。よりにもよって、一番会いたくなかった相手がいた。ルミナが生きているかどうか分からないと言っていた山県大地がいた。だけど、その姿はまるで――
「テメェを殺して宇宙へ行くッ!!」
そこに人はいなかった。青く発光して、人の姿をして、殺意を剥き出しにする何かがいた。大地が一足飛びにこちらに向かってくる。その様子に、反射的に走り出した。全速力。だが途轍もない速度で迫りくるアイツを振り切るのは到底無理。直感した。何を喰らっても死ぬ、死ぬ、絶対に死ぬ。
逃げて、逃げて、直感的にフロアのT字路の右側目掛けて咄嗟にダイブした。次の瞬間、まるで目の前で車が通りすぎたかのような風圧が襲いT字路の中央の壁が弾け飛んだ。攻撃とすら呼べない原始的な体当たりはコンクリート製の壁をまるで発泡スチロールの様に容易く砕き、穴を開けた。大地は壁をぶち抜いて、そのまま奥へと消え去った。
間一髪で助かった。いや、安心する暇はない。壁の向こうから机を薙ぎ倒す音が聞こえてくる。荒い呼吸を抑え、急いでその場を後にする。後ろは振り向かない、振り向けない。追い付かれたら、その時点で終わりだ。
最上階の社長室を駆け下りる。向かった先は5階下、このフロアを丸々占拠する清雅重要部門の一つ、防犯課。
ここなら彼女の居場所を携帯から特定出来る。主に警察や国と連携して犯罪捜査を担当するこの部門は、携帯を割り出す為にあらゆる施設と情報を共有し、同時にあらゆる監視システムを駆使して対象の居場所を追跡、特定する唯一の場所。
セキュリティも、追跡用ツールも、全部特製IDで強引に突破する。管理者用のPCさえ無事ならばそれ以外はどうでもいい。適当な部屋に入ろうとカードキーをかざし――
「うわッ!?」
目と鼻の先の部屋の扉が不意に開いた。誰かが驚き、声を上げた。確かに上昇志向が強い社員ならいるかもしれないと考えはしたが、いざ鉢合わせると流石に驚きが勝った。いや、よくこの状況で出社するなぁと、心の隅で感心する。ただ、流石に戦闘が本格化して恐怖に駆られたようだ。俺を見る男の顔色は焦りと怯えで歪んでいる。
「誰だよ、お前!?」
「ちょっと止まらないでよ!!……あ……あれ、その顔。もしかして?」
予想通りの反応。俺の顔を見た数人の内の1人が俺の顔に気付き、腰を抜かした。知らない訳がないか。あれだけ大々的に報道されていれば、それに恐らくこの場所で俺達の居場所を捜索していただろうから、尚の事か。警備は流石にもういないだろうけど、羽島の様な連中を呼ばれるとどうにもならない。覚悟は既に決めた。
「お、おいおいおいちょっと待って!?」
何をすべきかも理解している。銃を手に取り、逃げ出そうとする連中をけん制し、部屋へと強引に戻す。
「部屋に戻れッ!!それから誰でもいい、今から言う携帯番号を追跡して居場所を特定しろ!!早くッ!!」
逃げ出そうとした矢先に出鼻を挫かれた社員の顔が恐怖で更に混乱した。済まない。ただ、俺もこれ以上手間取れば死んでしまう。咄嗟の判断で部屋に戻したのは判断ミスじゃないと、そう無理矢理納得させ、引き金を引いた。
軽い痛みが身体を伝った。続けて炸裂音と衝撃。飛び出した弾丸は僅かに進行方向を補正しながら備え付けられた固定電話を粉々に破壊した。
攻撃する意志を見せた事で社員の顔から血の気が一気に引く。一番後ろに居た気の弱そうな女性社員に至っては腰を抜かしたのか、その場でへたり込んでしまった。誰もが一様に両手をあげ、降参の意志を示す。
「お、おいまさかやっぱりお前テロ……」
「俺だって撃ちたくないんだよ、早くッ!!」
固まり、動かない社員達を威嚇し、行動を促す。ズブの素人の適当な脅しにどの程度の効果があるのか甚だ疑問だったが、暫く後に俺とぶつかった社員が席に戻った。運悪く俺と鉢合わせた短気そうな長髪の男は、席に座ると諦めたような顔をしながら髪を手でかき上げ、無言でこちらに目配せをする。用意が出来たと言いたげな様子に携帯の番号を教えた。男は、僅か数秒で居場所を特定した。
「い、居場所は……え、えーと……ここから道路一つ挟んだ向こうにある清雅電子機器が使ってる。ほ、本社の次に高い第三ビルだ。か、階層までは流石に分からん。う、噓じゃないぞホントだぞ!!」
良かった、意外と近い。確か旗艦に戻ると言っていたような、言っていなかったような。だが、何にせよ良かった。追い付ける。急いでその場所へ向かわなければ。
「あ、あの……もう……」
「ありがとう。それから脅してゴメン。表からじゃ逃げられないけど、地下の駅からなら安全に逃げられるから、急げよ」
「急げって、引き止めたのお前……」
「アンタいっつも余計な事ばっか言って!!ありがとう、じゃあ私達コレで……」
出来れば生き残って欲しい、そんな願いを言葉に込めて部屋を後にする。ルミナに気絶させられる直前に聞こえた言葉が頭に浮かぶ。本当に微か過ぎて、何を言っているか自信がなかった。それが今、確信に変わった。
すまない
じゃねーよアイツ。クソッ、やっぱり本当に馬鹿野郎だ。多分、自分だけで全部背負いこむ気だ。だが、場所が分かった。後は向かって、その後はその時に考えれば良い。急げ、急げ、急げ、急げ――
「ななな、何だよオマエ……うわッ!?」
「うるせーよ三下ァ、黙ってろ。よーお、久しぶりぃ。ここはクビになった奴が来るところじゃねーだろ?」
嫌な、予感がした。誰かが誰かに声を掛け掛けた直後、何か鈍い音がした。恐らく社員の誰かが吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる音がはるか遠くから立て続けに背中側を突き抜けた。
だが、予感の原因は音や衝撃じゃない。不意に意識の外から聞こえた、明らかに俺目掛けて掛けられた言葉の方だ。反応し、身体が硬直し、足が止まる。いや言葉は問題じゃなかった、声だ。聞き覚えのある声の方へ振り向き――
「今度こそ、今度こそ……」
そうであって欲しくなかった。よりにもよって、一番会いたくなかった相手がいた。ルミナが生きているかどうか分からないと言っていた山県大地がいた。だけど、その姿はまるで――
「テメェを殺して宇宙へ行くッ!!」
そこに人はいなかった。青く発光して、人の姿をして、殺意を剥き出しにする何かがいた。大地が一足飛びにこちらに向かってくる。その様子に、反射的に走り出した。全速力。だが途轍もない速度で迫りくるアイツを振り切るのは到底無理。直感した。何を喰らっても死ぬ、死ぬ、絶対に死ぬ。
逃げて、逃げて、直感的にフロアのT字路の右側目掛けて咄嗟にダイブした。次の瞬間、まるで目の前で車が通りすぎたかのような風圧が襲いT字路の中央の壁が弾け飛んだ。攻撃とすら呼べない原始的な体当たりはコンクリート製の壁をまるで発泡スチロールの様に容易く砕き、穴を開けた。大地は壁をぶち抜いて、そのまま奥へと消え去った。
間一髪で助かった。いや、安心する暇はない。壁の向こうから机を薙ぎ倒す音が聞こえてくる。荒い呼吸を抑え、急いでその場を後にする。後ろは振り向かない、振り向けない。追い付かれたら、その時点で終わりだ。
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