G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第8章 神の願い 望み ただ一つの答え

幕間19-3 降臨 其の3

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 20XX/12/22 0943

 混迷を極めるクズリュウが、無傷の清雅源蔵への攻撃を再開した。戦場に再び轟音が響き、衝撃が周囲の建物を震わせる。

 が、清雅源蔵はその場から一歩として動かない。クズリュウの心を完全に折る為、あえて攻撃を受け、無傷で防ぎきる。何も知らぬはクズリュウばかり。無我夢中に攻撃を行う彼等は理解していない。彼等は地球の混成軍を笑った。が、今度は自分達が嘲笑った者と同じ状況に追い込まれている事に気づかない。

「チィッ!!急激な低下って事はまさか、アラミサキ!?なんでそんなモンが地球に……って事は惑星固有の現象じゃなかったのかよ!!」

 辛うじて現状を把握するタガミが苦悶を吐き出す。が、既に大勢は決した。カグツチ濃度が大幅に低下した清雅市にいる限り勝利の芽はない。だが目的のツクヨミは清雅市。そして過ちを認めないヤゴウは撤退など絶対に指示しない。駄目押しにハイドリを地球側に抑えられているので援軍も絶望的。

 カグツチが不安定な戦場、それが人為的に造りだされた事、自らが罠に飛び込んでしまった事、打開策が見当たらない等々――幾つもの事実が真綿の様に精神を締め上げ、精神を耗弱させ、カグツチの輝きが曇り、武器の威力が更に落ちる。

 漸く理解した。クズリュウの多くは事ここに至り、ようやく自分達が詰み状態と理解した。しかし、逃げるなど出来ない。逃走ルートを塞がれているのだから。もう、勝つ以外に道はない。しかし、存在しない道を進むなど誰にも出来ない。敵地内で進む事も戻る事も出来ない彼等に待つ運命はただ一つ。

 地上の戦況は完全に我々の側に傾いた。旗艦製の武装が如何に強力無比とは言え、カグツチも精神も不安定な状態では清雅源蔵のマジンを撃ち抜くなど不可能。更にフェルドがマジンを補佐することで一層の堅牢さを発揮する今の状態ならば尚の事。

 クズリュウから、清雅源蔵を目掛けて凄まじい数の弾丸が発射され続ける。地球の軍隊を無視した一斉射撃は清雅源蔵に止まらず、周囲のビルにも被弾する。一部は本社にも直撃し、一際大きな爆発を上げ、抉れ、落ちる。被弾したビルの被害状況をみれば威力がガタ落ちであってもそれなりの火力を発揮しているようだ。

 だが悲しいかな、やはり彼の命には届かない。射撃が止まり、暫く後に風に吹かれ、爆風が消えた。全く無傷の清雅源蔵が姿を現す。彼の傍には更にもう一体の青白い竜が舞う。彼が背に乗る分と併せて合計3体の竜が戦場に姿を見せた。

「もう、いいかね?」

 圧倒的強者の言葉。戦場に響き渡ったその一言は、たったそれだけで先ほどまで死に物狂いで攻撃していたクズリュウ達を恐怖と混乱のどん底に叩き落とした。

 確実に勝てる、死ぬ心配は一切ない安全な戦い、未開惑星に少々刺激を伴う遊びに行く感覚、各々の中にはそんな軽薄な気持ちで満たされていたのだろうし、ともすればそう教えられていたかもしれない。

 だが、間違いだったと知った。殺されるというこれ以上ない恐怖の感情に呑み込まれたクズリュウの誰もが我を忘れ、状況を鑑みず後退を始めた。いや、これはもうただ逃げ惑っているだけだ。戦術や戦略とは違う、恐怖から逃げ出したいだけだ。

 かつて地球の混成軍が撤退した時と同じく、クズリュウは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。但し、地球側と明確に違う点が一つある。彼等が戻る手段は、逃げる先は存在しない。

 時を同じく、タガミを含めた退役兵達の精神にも変化が訪れていた。厳しい訓練と実戦を潜り抜けた彼等は精神崩壊などと言う軟弱を晒さない。もっと厄介な感情、諦観に支配されている。勝ち目がなければ撤退するしかないが、上官はそれを許さない。絶望的な事実が彼等の心の中を埋め、行動を遅らせている。

「オイ!!待て今退いても……」

「落ち着けッ!!冷静になれ!!」

 それでも、必死に逃げ出す新兵達を必死で抑え込もうと叫び声を上げるタガミ達。しかし、恐怖に駆られた心には届かず、新兵達は我先にとハイドリを目指した。私達に抑えられているとも知らずに。いや、知っていても同じか。

 本社前の勝負は決した。清雅源蔵は本社を守る現人偽神達にこれ以上の追撃は行わないよう指示を出した。ハイドリは既に占拠されており、このままでは挟み撃ちとなる。地球と旗艦、双方が注目する戦場で必要以上に残虐な真似をすれば、味方を失うばかりか敵を必要以上に奮起ささせる危険性があると彼はよく理解している。

「貴様だけは、絶対に逃がさん!!」

 その清雅源蔵が怒りに震える。怒りに満ちた目で一人の男を見据える。清雅源蔵の目に映るのは迂闊にも戦場に飛び込んだ哀れな為政者、アラハバキの中心人物の1人、イワザキ。

 男は必死で艦橋と連絡を取るが、何をどうしようが繋がらない。妨害されている可能性など全く考えない。睨み付ける男と、その視線に怯える男。対照的な2人の間に冷たい風が吹き付ける。

 イワザキの身体が震える。恐怖か、それとも年中を通して穏やかな気候の艦内では経験しない冷風に晒された為か。理由を知るのは当人のみ。だが、今の私には全く興味がない。

「私はまだ死……一旦引き上げ……おい誰か護衛を……」

 イワザキは、今度はクズリュウに援護を求めた。が誰一人として反応しない。新兵は恐怖に駆られ、各々が勝手に撤退を始めている。幾分か冷静に状況を見る退役兵達は散々煮え湯を飲まされたアラハバキなど目もくれない。戦場のど真ん中まで運んだハイドリは既に消失。戦闘能力皆無のイワザキは完全に孤立無援の状態で戦場に取り残された。彼が辿る運命は一つしかない。

「よくも好き勝手やってくれたものだ、だがこの時までだ……私だ、あの映像を流せ」

 清雅源蔵は醜く狼狽えるイワザキを睨みつけながら、同時に切り札の使用を指示した。

 清雅が用意した切り札の一つ。ただ漫然まんぜんと切るだけでは微塵も効果がなかった。だからこそ、お膳立てが必要だった。地球が圧倒的に弱いと信じ込んだままであの映像を見せたところで、恐らくは苦し紛れの偽物としか思わない。

 程なく、アラハバキとの会談を隠し撮りした映像が地球中に向け流される。地球だけではなく、ツクヨミの手によって旗艦全域にも同様の映像が送り付けられた。

 アマテラスオオカミが存在したならば地球からのハッキングなど容易く阻止しただろう。だが、肝心の神は不在。右往左往する艦橋のオペレーターと旗艦の運航を補佐する補助システム程度ではツクヨミを止められない。また一つ計画が進む。正しく、進む。その先には――
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