G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第9章 神の過去 想い そして託された願い

91話 はるか遠い 昔の話 その続き 其の1

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 ――500年前

 夜が明けてからどの程度経過しただろうか。船外の様子はアベルの調査通り申し分ない。大気も気圧も天候も何もかもが正常な値の範囲内を示している。

 行動を阻害そがいするような要素は今のところ一切ない。不幸中の幸いだ。後は修復さえ――

「複数の生体反応の接近を確認しました。この星の知的生命体と推測、接触までおよそ120カウント。私としては船内に避難し、接触を断つ事を提案します。この星の知的生命体の武装程度では艦を傷つける事は出来ません」

 想定通りだ。彼等の領域に無断で侵入したのだ、排除に動くのは当然。だが、この後はどうなるだろうな。膨大な過去の情報を元に今後を予測する為、記録を辿ろうと試みた瞬間、不意に酷いノイズが走り、言いようのない感覚に支配された。

 予想だに出来なかった事態に思考が中断する。アベルが何か呼びかけているようだが、身体の彼方此方が機能不全を起こしてそれどころではない。私は、一体――

「クッ……何故、どうして?」

 自分でもどうしてその言葉が口から出てきたのか分からなかった。何故?何が?しかし今は疑問よりも、と機能回復に努める。過去の記録の追跡を中断、僅か後に各部位が正常な機能を取り戻した。だが、既に遅かった。

「来ました」

 無機質なアベルの一言。時を同じくして、漸く回復した視覚機能がこの星の知的生命体と思しき一団を捉えた。少なくとも友好的な態度で接するようには見えない無数の視線が私を見下ろす。

 人数は20名ほど。誰も彼もが似たような恰好をしている。同じ服装、同じ装飾、同じ特徴的な髪型。ヒヒンと鳴く生物から降りた知的生命体達は、瞬く間に私を取り囲んだ。腰に差した棒状の装飾品は恐らく武器か。抜き両手で構えながら口々に何かを叫び出した。

 未知の言語で何を言っているか分からない。ただ、身振り手振りから「大人しくしろ」とか「動けば殺す」と言っていると思われる。何にせよ、とてもではないが交渉する雰囲気ではない。しかも、どうやらこの星の情報はデータベースに存在しないらしい。

 何とも幸先が悪いが、一方で問答無用で襲う気配は感じない。私の姿を見て同種だと認識しているらしいのが不幸中の幸いか。状況を整理すると「大きな衝撃が発生した場所に自分と同じ姿をした存在がいたので取りあえず威嚇してみた」と言ったところだろう。

「現在、当該地域の言語翻訳中です。暫く時間が掛かりますので、どうか無理をなさらず。最悪、艦を置いて逃げても構いません。どうせ彼等には傷一つ付けられませんから」

 逃げてもいいとアベルは提案した。とは言え、逃げたとて確実に追跡する気迫を感じる。こうも接近されては逃げる間に追いつかれる。ならば、最優先すべき一言でも多く単語を引き出す。翻訳を完了させ、何としても穏便に退いてもらう。妙案は浮かばないが、やるしかない。

「君達の領域に勝手に踏み込んでしまった点については申し訳なく思う。決して意図した訳ではないし、危害を加えるつもりもない。どうか許してほしい」

 可能な限り丁寧な謝罪と併せ、敵意を持っていない旨を伝えてみた。が、やはり駄目だ。一団は暫く呆然とし、次に互いの顔を見合わせると何事かを叫びながら、徐々に詰め寄って来た。

 やはり言語の壁は分厚く、悲しいかな余計な不信を煽るだけに終わった。私を囲む一団は尚もジリジリと距離を詰める。額からしたたる何粒もの汗が伝う顔は険しい。眉と口を吊り上げ、鋭い目つきで睨みつける。

 恐らく相当に暑いのだろうが、伝う汗を拭く素振りさえない。対して私の身体は暑さを感じない。その一点において私は有利に立つ。ならば、彼等に疲弊してもらおう。この暑さだ、数分も動けば音を上げると信じたい。

 その前提に立ち、先ずは武器を観察する。接近戦用の武器は斬撃と刺突を主目的にしているようだ。ただ、鉄の棒に近い武器は洗練とは程遠く、誰かを殺傷するには不向きに見えた。斬撃、刺突も可能だが、精々数回で使い物にならなくなり、後は重みで殴るしか出来なさそうだ。

 対して衣服に隠れた彼等の肉体は何れも隆々としており、胸板も分厚い。相応以上に鍛えられた肉体から繰り出される力任せの攻撃を受ければタダでは済まない。

 待てどもアベルからの返答はない。最初の交流程度では翻訳の手助けにはならず、翻訳には未だ時間を要する。尚もじりじりと距離を詰める一団は、遂に私を完全に取り囲むまで近づいた。数歩踏み込めば攻撃が届く距離まで近づいた事で、表情や息づかいがより詳細に観察可能となった。加えて感情も。誰もが興奮しており、冷静さを欠いている。

 当初の予定通り、疲弊させる以外に選択肢はなさそうだ。幸いにも私の演算能力ならば余裕で対応可能。一団の内、私に最も近づいた男が叫びながら向かって来た。洗練された動きは当初の予測を超える程に凄まじかった。相応以上の技量を持っている。が、冷静に動きを読み、予測を修正し、攻撃を軽く交わした。

 攻撃は盛大に空振り、ガキンという音と共に手に持つ武器を茶褐色の大地に叩きつける形となった。軽く呻き、私へと振り向き直す男の顔を見た。大いに動揺している。良好な反応だ。

「###!!」

 男が何事かを叫んだ。苛立ち交じりの顔を見るに、口汚く罵っているのだろう。男は体勢を整え、再び斬りかかる。が、今度は分が悪いと判断したのか、周囲が口々に何事かを叫びながら武器を構え、波状攻撃を仕掛けてきた。

 なるほど、罵ったのではなく周囲の仲間に号令を出したのか。男達は手に持つ武器と共に、獣の如く私に襲い掛かる。武器が恒星の光を受け、鈍い光を反射する。視界に、光が作る幾つもの美しい軌跡が見えた。

 汗が滴るほどの暑さの中、男達は無心に攻撃を続けた。避けられる度に振り向き、私へと向かう。何人も、終いには全員で斬りかかって来たが、この程度の人数ならば何の問題もない。

 一団の濁流だくりゅうの様な波状攻撃を容易く交わし続ける。視界の端に、私の服が揺れ動く。青と白を基調とした、彼等とはおもむきが全く異なる服が、模様が揺れ動く度に男達の視線は空を泳いだ。誰もが、何とも言い難い表情を浮かべる。

 彼等の文明では作れない美しく繊細な紋様が揺れる幻想的な光景が少なからず戦意を削ったようだ。あるいは一向に攻撃を当てられぬ焦りか、はたまた単純に暑さか。ともかく、数分もすれば男達の苛烈かれつな攻撃は鳴りを潜め、遂には攻撃の手が止まった。

 私以外の誰もが息を荒げる。額から流れ落ちる玉のような汗が顔を伝い、衣服を濡らす。どうやら諦めてくれたようだ。肝心な問題が解決していないが、何れ時間が解決するだろう。とにもかくにも、予定通りだ。

「#############!!」

 一際好戦的だった男が何かを叫ぶ。何かの合図か、一団は武器を収め、撤収を始めた。鞘に鉄の棒をしまうカチンと言う音が幾つも響き、乗り物にまたがる。

 一先ずはこれで良い。とは言え少々好戦的で、文明水準が高くない点は問題だ。仮に言葉が通じたとて、以後危害を加えない保証はない。それでも言語による交渉は必須で、ならば今は見送るしか出来ない。残念だ。そんな後悔が、心の底から湧き上がって来た。
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