G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第9章 神の過去 想い そして託された願い

102話 もう 誰にも止められない

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 20XX/12/22 1015

 本来ならば拮抗するなど有り得なかった旗艦と清雅の戦いは泥沼状態へと陥った。中心はスクナと清雅源蔵。戦況を打開すべく仮面を外し、正体を現したスクナの実力を高く評価した清雅源蔵は次々と青い竜を戦場に呼び出し、戦場を乱れ舞う竜の数は遂に7体にまで増加した。

 対するスクナはその全てを器用に捌きながら反撃で竜を切り刻みつつ、隙あらば清雅源蔵へと肉薄する。が、全て一歩及ばず。攻撃は全て虚しく空を切るばかり。とは言え、あれ程の数を相手にしながら反撃を仕掛ける行為自体が出鱈目なのだが。

 清雅源蔵は徹底して距離を取り、遠距離攻撃主体でスクナの体力と精神力を削るに終始する。両者は拮抗している――と考えるのは何も知らぬ者だけ。清雅源蔵にはまだ切り札がある。恐らく、そう遠くない内に切らざるを得なくなる。だが、切り札の制御は彼に一任しており、止めなければ被害が青天井で拡大する。出来れば思い直して欲しくて――

「清雅……清雅源蔵、聞こえているか?返事をしてくれ」

 だから呼びかけた。返事は、返ってこない。彼と相対するのはスサノヲ最強。余計な隙は死を意味する。返事の余裕などないのは百も承知。ただ、それでも黙っているなど出来なかった。なのに、そんな私の感情を嘲笑あざわらうように戦闘は激しさを増す。

 どうしてここまで無力なのだ、と映像を見た。清雅市の一角に無数の光弾が降り注ぐ。彼の操る竜が繰り出す苛烈な攻撃に多くが巻き込まれた。クズリュウだけではなく、地球の軍隊までも。

 戦争の大義を得た事で完全に味方に回った地球側は清雅源蔵の攻撃に酷く混乱し、クズリュウ達も余りに突飛な光景に攻撃の手を止めた。

「どう言うつもりだ貴様、味方まで巻き込むとはッ!!」

 激昂するスクナ。

「戦争を仕掛けたのはそちらだ、こんな事が起きなければ誰も傷つかなかったし死にもしなかった。私に怒りを向けるのは筋違いだ」

 対する清雅源蔵彼は涼しい顔を崩さない。

「理由になっとらん、貴様はッ!!」

 分かり切っていた。対話は即座に終わり、互いが再び刃を向ける。空を乱れ舞う苛烈な攻撃。その隙を縫い、斬撃を見舞うスクナ。両者の戦いは未だ互角――ではなくなった。清雅源蔵が操る青い竜の攻撃は更に激しさを増し、スサノヲ最強と呼び名の高いスクナを徐々に劣勢へと追い込み始めた。

 地上の戦闘は混迷を極める。誰もが、何の為にどうして戦うのか分からないまま互いを殺し合う。混乱する状況に隣県から関首相も停戦を呼びかけるが、旗艦側に反応はない。艦橋は白川水希に占拠され、地球からの通信が一切受信できない事実を彼等は知らない。

 ※※※

 20XX/12/22 1022

 艦橋が静寂に包まれる。清雅市と旗艦の居住区域、何れの戦場も軽薄な思考の元に送り出した仲間達が劣勢に追い込まれ、傷つき、血に伏す姿が絶えず送られる。五分に戻していた地上も次第に劣勢へと陥り、駄目押しにタケミカヅチ壱号機が現れた。もう、誰も真っ当ではいられない。

「もう、終わりだ……」

「なんで、なんでこんな事……に」

「嘘でしょ?どうして……なんで私達が負けるの?」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ、何かの間違いだ……」

「そうだ、星、星だ。幸運の星に祈ろう。祈れば必ず、だってアレも神様だろ?」

 誰かが発した絶望が波紋の様に広がり、艦橋全体へと波及した。口々に絶望が口から零れ落ち、これ以上映像を見たくないと俯いた。ヒルメでさえ打つ手がなく、顔を苦痛に歪める。

「どうして、壱号機が……」

「フフッ、貴方の言う事を聞くと碌な事が有りませんね」

「チッ、他の奴らも納得の上の決断だ!!勿体ない、アレ一つに幾ら使ったと思ってるんだ!!貴様にどうこう言われる筋合いもない!!それに量産型の組み立ては貴様が行った事だろうが!!」

「フフッ。頼まれましたからね、仲間外れにされるのが怖かったので、だから仕方なくお手伝いしたんですよ?」

 責任の所在を明らかにしたところで意味などない。なのに、醜い責任の押し付け合いをするヤゴウとオオゲツ。愚かだと、アベルが吐き捨てた。

「本当に愚かですね?文明が発達した、なんて言っておいて現実はこの有様。未開の蛮族、田舎者。随分と見下した物言いをしていましたが、それは貴方達の方だったようですね……少し残念ですよ」

 艦橋を占拠する白川水希も同じ感想を口にした。どれだけ文明が発達しても、争い傷つけあう事を止められない。艦橋は再び沈黙に支配された。誰もが突き付けられた現実を受け入れたくないが、しかし誰も反論できない。

 軽薄だった。銀河辺境に位置する辺境の惑星との戦いなど散歩かピクニック、買い物程度の簡単な任務だと考えていた。だが、蓋を開けてみればマジンに手も足も出ず、度重なる不手際と不幸が重なり今や窮地に追い込まれた。オペレーターだけではない、アラハバキを支持した大多数の市民達も、専横を許したヤタガラスの誰一人としてここまでの惨状、劣勢を予見できなかった。

「その行動、ツクヨミの計画外ですよね?アラハバキの恫喝は連合法違反。それだけでも彼等を止めるには十分です。連合に応援を出せば総力を挙げてアラハバキを止めに入る程度はツクヨミも想定済みでは?清雅の最終目的は停戦。ですが旗艦は地球を見下していて、だから敢えて戦争を受けて立ち、優勢となった後に暴露映像を流す。これが最も現実的な停戦までの道筋と考えたのではないのですか?なのに、何故止まらないのです?」

 ヒルメの問いかけに、複数のディスプレイを巧みに操り旗艦の制御を行う白川水希の手が止まった。

「ツクヨミは甘いんです。その程度で止まるなら、初めから仕掛けななどしない。私達には分かる。ソコに居る奴らは目的、利益の為ならばどれだけ死のうが構わない、そんな連中です。だがら、戦うんです!!彼の為に!!それが今の私を動かす全てッ!!お前には……いや、ツクヨミにも理解できない私の覚悟ッ!!」

 甘い、か。彼女は清雅源蔵に認められたい一心で、彼の心の中を自分で満たしたいが為に私を拒絶したのか。その美しいまでに歪んだ覚悟に私は――以前、にも?彼女の行動理由に、我が身を焦がす情熱に、私の中に表現しようのない感情が湧き上がった。これは?この気持ちは――

「やはり、これ以上は無理……」

 画面の向こうでヒルメが力なく呻いた。白川水希の醜くも美しい覚悟を目の当たりにし、口をつぐんだ。何を期待したのか分からないが、ヒルメの希望は潰えたらしい。初めて明確な苦悶を表情に出した。先程見せた苦痛とは違う、今まで一度として見せなかった顔だ。式守でさえ、抑えがたい苦悩と悲痛と絶望に支配された。

「無理だ。もう、誰にも……止められない」

 ヒルメの絶望と私の絶望が重なった。出来る事はもう何もない。もう、黙って戦況を観測しするしか出来ない。人の意志を制御出来ると己惚れた。私にはその能力があると、与えられた演算能力を駆使すれば可能だと己惚れていた。しかし、現実は演算を遥かに超えていた。人の意志は旗艦の神アマテラスオオカミの予測をも覆す様に、地球の神ワタシの制御を振り切り、戦いを継続した。

 黄泉からの足音は激しさを増す。破滅と死は獰猛な獣の様に、獲物目掛けて静かに忍び寄る。既に捉えられた者、捉えられまいと必死で抵抗する者、まだその足音が聞こえない者。後、どれだけの犠牲を出せば足音は止まるだろうか。


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9章終了
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