G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

117話 今日へと続く 全ての悪夢の始まり

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 20XX/12/22 1052

 旗艦アマテラス 艦橋――

「弐号機、貴様ァ!!我々に作られた道具の分際で。だが、不遜な物言いは許してやる。早く戻ってこいッ」

 白川水希が清雅源蔵へ通信を行う隙を狙い、弐号機に指示を出すヤゴウ。

「断る。それから、以後その名で俺を呼ぶな。俺の名は……タケルだ!!」

 が、結果は無惨。元から人望皆無、他者をおもんばかる思考の欠如した人間を助ける者などいない。自らを操る糸を切った弐号機は、タケルとの名乗り口上を背に地球へと向かった。

「オイッ貴様、何を、クソがッ。どいつもこいつも!!」

 当てが外れたヤゴウは怒り心頭。が、何も出来ずほぞを噛むばかり。一方、アマテラスオオカミも独自で行動を開始する。艦橋から壱号機へアクセス、何か情報を抜き出そうと試み始めた――が、激しい爆発に中断された。アマテラスオオカミも同じく、臍を噛んだ。

「あの時とは違い今度はちゃあんとつけているんですよ。他の誰かに解析されては困りますからね。フフッ……あら、証拠隠滅じゃないですよ?使えない道具を処分しただけですから、誤解なきよう」

 気が付けばオオゲツが何かの制御端末を操作していた。太々しい台詞から、自爆機能を遠隔起動したのは明白。

「真っ先に切断したのに、どうして……」

「機能停止と同時に自爆する様に改良しておいただけよ。過去の貴方ならば看破したでしょうけど、遠隔操作を残しておいたのはわざとですよ、ワ・ザ・ト」

 勝ち誇るオオゲツ。僅かに間をおき、状況を理解したヤゴウはハハと小馬鹿にした。しかし無様な笑みは、冷徹に見下ろすオオゲツの顔とオペレーターからの通信に霧散する。

「居住区域より緊急回線を使用した通信が入っています。あの、相手ですが……その、子供、みたいで」

「きかいのこわいおじさんが……これをあまてらすおおかみにみせろって……」

「これでみんなたたかわなくなるって……わたしのもってるたんまつにいまいれます」

「それは、もしや」

「おい待てッ、止めろ!!」

 何かに気付いたヤゴウが動く。強引に通信を停止しようと居住区域からの通信を取るオペレーターに駆け寄り――アマテラスオオカミが展開した防壁に弾き飛ばされた。尻もちをついたヤゴウは情けない姿勢のまま一部始終を目撃する事となった。

 ※※※
 
 映像の最初に建物が映った。今はもう存在しないアメノトリフメ第110番艦に存在した特殊兵装開発研究所。映像下部に表示された時刻はあの忌々しい反乱が起きるその前日の夜。研究所内は暗く、僅かな光源が照らすのみ。その光の中に帰るべき場所に戻る研究者達が通り過ぎる姿が照らし出される。

 映像が、頑強な窓の外からタケミカヅチ壱号機が眠る調整室へと移り変わった。程なく、ガラス一枚隔てた向こう側に4つの人影が踊る。正確には調整槽のガラスに反射した4人の姿。室内のカメラと思われるが、映像の位置は妙に低い。暫くの思考の後、誰しもが一つの結論に至った。壱号機に内蔵されたカメラだ、と。

 機能停止状態であっても、内部に独立した記録装置が組み込まれており、壱号機の状態の如何に関わらず常に記録を取っていたようだ。

 証拠場所を把握していると、神は語った。元より端から信用していなかったのだから様々な策を講ずるのは当然。しかも、特兵研研究者にすら極秘とされたようだ。やがて、やや不鮮明な映像から4人の声が聞こえ始めた。

「ところで……本当に大丈夫なんスか?神ッスよ?幾らそのオオゲツって姐さんが凄いって言っても、所詮はタダの人間でしょ?とっくにバレてるとかないっスよね?」

「実際、動きはない。だからいい加減に黙れ、何時までもグチグチと」

「そうじゃ。それに感づかれたところで何も問題あるまい?忙しい中、製品の完成具合を確かめにきただけじゃからのぅ?」

「ハヅキ殿のおっしゃる通り。このまま上手く事が運ぶならばそれもまた運命。もし駄目だったなら……」

「あの女に責任を被ってもらおう。さて、本題だ。予定通り計画は実行に移され、少々時間は掛かったが俺達も計画に入り込む事が出来た。後は……」

「その前にヤゴウよ、オオゲツは呼ばなくて良かったのかね?橋渡し役とはいえ、仲間外れはちと子供っぽいと思うがのぉ?」

「ハヅキ殿はあんな小娘の肩を持つのか?それに、皆も腹が立っておろう?主星フタゴミカボシの田舎者と同列扱いは。なぁ、イワザキ?」

「確かに。とは言え、その程度を飲み下さんでどうするか……と、今はともかく。ならば、後で結果だけでも教えてやるとしよう」

「しかし……」

 選民的な思考に染まり切った会話に、オオゲツの扱いが透けて見えた。横道に逸れた話を一旦切り上げたヤゴウは、渦中の壱号機に近づき、ジロジロと眺め始め――

「殆ど人間と変わらんな、気味が悪い。オイ、何故ここまで精巧に真似たんだ?」

 やがて研究者を問い質した。ほぼ完璧に人間を模倣した姿を気味が悪いとねめつける視線に不快感と不安が隠し切れない。

「知らねーっスよ。遺産にそう書いてあったんでそのまま作っただけっス。後コレ残した奴、化け物っスよ。断片の情報一つ取って見ても何が何だかさっぱり、正直こっち解析した方が良いんじゃねーのって代物っス。俺達も頑張ったんスけど、結局なーんも分からなかったから取りあえず設計図通り、寸分違わずに作り上げた位なんスよ。アレ、ホントに500年前のデータなんスか?」

「疑り深い。そんな事よりも、暴走用と停止用の機能だか何だかを早く組み込め。その為に来たんだぞ」

 なるほど、と誰ともなく頷いた。計画の全貌が分れば、まるで目の前で一々憤慨するヤゴウと同じ位に単純な話だった。

「へいへい、今やってますよっと。はい終わり、確認しますか?」

「無論だ。コレは我々の切り札であり、新たな刃。万一の事があっては困るのだよ」

ヤツが連合会議に参加する今しか出来んからの」

「そっスね。イワザキ様、どうぞご覧ください。ところで、スサノヲのジーサン誤魔化しながら作業進めるの滅茶苦茶大変だったんスよ?ヤゴウ様、もう少し弾んでくれませんかね?」

「成功したらな」

「ヤレヤレ、そう言う話は後でせんか。で、ヤゴウ。計画、少しばかり遅れているんじゃったな。ヤツにも早期実戦投入を邪魔されておるんじゃろう?何処で暴走させるつもりなんかね?」

「本当に忌々しい事だ。だが、もう少しの辛抱だ。さて、では運命の日だが……7日後の模擬テストはどうかね?」

「そうだな。ではその日にスサノヲ相手に暴れてもらい、犠牲を出したところで緊急停止機能を持った部隊に破壊させようか。少々強引だが、これで民意はスサノヲよりも俺達の部隊に向かうだろう。その為に私設部隊まで回したのだ。我々の側にも多少犠牲が出るが、疑いを逸らすには致し方あるまい」

「とにもかくにも、これでヤツを失脚させ、我々が実権を握る土台は出来たという訳だ」

「そうじゃな、全てはワシ等と新たな神とやらが作る秩序の為に」

「その為に古き神アマテラスオオカミを排し、代わりを旗艦に据える。新しい人形は手に入ったも同然。その日が楽しみだよ」

 映像はヤゴウ達が特兵研を訪れた理由と腹の内を全て明らかにした。目的を達した4人は意気揚々と調整室を後にする。後に残ったのは利用される運命にある哀れな人形のみ。

 映像はそこで停止した。誰も居なくなった部屋を見つめるカメラ。が、カメラが徐々に拡大し、やがて一点を映す。もぬけの殻となった部屋ではなく、調整槽が安置された部屋のガラスに映った何かをカメラはジッと映し続ける。

 そこに映ったのは、起動テストを終了し、眠りにつく壱号機が目を見開く光景だった。意志の為す奇跡か。機能停止中にも関わらず目覚めた理由は不明だが、壱号機が意志に目覚めたのはこの瞬間。身勝手に己を利用するおぞましい計画への怒りがその原動力だった。

 同時に反乱の理由も判明した。己が利用される運命にある事を知った壱号機は自らの運命に抵抗する為だった。これが反乱の、今日へと続く全ての悪夢の始まり。
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