G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

118話 耳を塞ぎ 理解を拒否する

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 壱号機の記録映像により、反乱の真実とアラハバキの目的が同時に暴露された。真実に誰もが閉口する。アマテラスオオカミも、オペレーターも、敵である白川水希でさえも。

「クソ、何故だッ!?起動していなかっただろうが」

 自らの運命を悟り、項垂うなだれるヤゴウ。映像は艦全域に届けられ、よって市民達も壱号機の反乱の元凶がアラハバキだと知った。映像が真実ならばオオゲツはとばっちりでしかないが、既にアラハバキへの不満は頂点に達しており、今更何があろうがなかろうが評価は変動しない。

「あーあ……終わり、かぁ」

 生気を奪われ崩れ落ちるヤゴウ。対照的に忌々しそうに吐き捨てるオオゲツ。投げ槍にも見え、まだ諦めていない様にも見えるが、何れにせよアマテラスオオカミは容赦しない。

「貴方達の名前も存じております。ありがとうございます。おかげで旗艦コチラでの問題は解決しそうです。アラハバキ、旗艦秩序維持5章51条から記載された船団内の秩序維持義務への違反を確認しました。被害の大きさと悪質さをかんがみて、第3章26条を適応します。ヤゴウ、オオゲツの2名は同章内で保障される権利全てを現時刻で剥奪します。この処置への不服申し立ては同章27条に規定された通り姫に直訴する事を……いえ、姫への直訴も認めません」

 第3章26条。要約すれば旗艦アマテラスに甚大な被害を及ぼそうと企んだ者、実行に移した者は刑罰が確定するまでの間、一切の権利を奪われる。27条は、26条を発動された者の不服申し立て先は主星の女王のみといった内容。つまり、ヤゴウとオオゲツは現時刻を持って旗艦内において何も出来なくなった。

「オイ、どう言うつもりだ。貴様自身が制定した船団秩序維持法を破るつもりか!!」

「はい、貴方達の今後を誰かに委ねる事は危険と判断します」

「フフ、随分と大胆ね」

 神は僅かも躊躇ためらわない。即座に生体認証に紐づく犯歴が書き換えられた。認証により全てが管理される旗艦内における一切の権利停止とは、即ち移動すらままならなくなった事を意味する。

 問題は粗方片付き、残る大きな障害は白川水希だけとなった。その彼女を睨むアマテラスオオカミ。が、視線の先に立つ白川水希はヤゴウやオオゲツとは逆に未だ余裕の姿勢を崩さない。

「後は貴女だけです」

「私に手も足も出なかった事、もう忘れたのですか?」

「忘れてはいません。私で勝てないならば他に任せれば良いだけ。単独での艦橋制圧など迂闊うかつですよ。私の監視に気付きながら、何の危機感もなかったのですか?誰も何の対策も用意していないと油断した貴女も私達を非難出来ませんよ。では、お願いします」

 対策。その言葉に偽りなし。艦橋に木霊す神の指示。直後、オペレーターの一人が椅子を豪快に蹴り飛ばし、専用のスーツとバイザーを脱ぎ捨て、一足飛びで白川水希の前に躍り出た。やや間延びした口調の女性オペレーターの少女。彼女の口調が覚束なかったのは、緊張や恐怖では無く単純に経験不足だった。

 白川水希はほぞを噛む。これ程に広大な艦橋に多数のオペレーターがひしめいていれば、違う誰かが混じっていても早々気付かない。ツクヨミならば看破、撤退を促しただろう。だが、神の言葉は彼女に届かない。

 服を脱ぎ捨て、軽装になった少女と白川水希が互いを睨み合う。白川水希の表情が徐々に歪む。装備、スーツその他全てから少女がスサノヲと看破した。名はクシナダ。2年前のタケミカヅチ壱号機反乱に際し、最初に壱号機と交戦した新米のスサノヲ。まだ幼さが残る顔立ちをしているが、連合最強のスサノヲに在籍する経歴からも実力は折り紙付き。

 少女はいつの間にか握りしめた小型の銃と小太刀を手に白川水希を威嚇する。白川水希も同じく睨み返す。

「はじめまして。ずーいぶんと暴れてくれちゃって、覚悟しなよッ」

 睨み、叫ぶクシナダの光沢を放つ黒い髪が僅かに揺れ動く。白川水希も睨み付けるが、微動だにしない。が、引かない。清雅源蔵が戦い続ける限り、撤退も停戦もない。互いに引けないと悟った両者の行動は迅速。白川水希が携帯を手早く操作、龍をけしかけた。クシナダは視認不可能な速度で掻い潜り、強襲する。

「私も、その程度は想定していますよ」

 一呼吸置き、白川水希が胸元から白い錠剤取り出し、飲み下しながら端末を操作する。龍の性能が飛躍的に向上し、艦橋と言うには余りにも広いが戦闘するには少々狭い空間を縦横無尽じゅうおうむじんに飛び回り、うねりながら、出鱈目な速度でクシナダを追い始める。

「薬?何故、まさか不完全な状態で?」

 機能の大半を封じられているとはいえ、単体でも際立った演算能力を持つアマテラスオオカミは白川水希の行動に地球側の窮状きゅうじょうを察した。

「力と引き換えにね。使い過ぎれば、激痛と共に身体中を蝕む」

「そう、ですか。そこまで追い詰められて」

 この状況で偽る理由など存在しない。程なく、誰もが地球側の状況を察した。人間の限界を遥かに超えた超常の力を行使しているのだから、肉体が無事で済む訳がない。そして、そんな力を使わねばならない程に追い詰められた。

 清雅という組織を、白川水希を突き動かすのは覚悟。大なり小なりあれども、この戦いに臨む誰もが持っているもの。望んで戦いの道を選ぶ者はいない。ただ、他者を傷つけたくないとい動く一般的な思考や単純に死にたくないという死の恐怖がブレーキを掛ける。普通は――

「同情するならどうして止めなかった!!旗艦おまえたちが望んだ戦いだろう!!だから、こうするしかなかったッ。感情を、何もかもを塗り潰して戦わなきゃあ!!」

 だが、許さなかった。己を利益のみを追求する生き方を良しとする一部が、僅かでもブレーキを掛ける事を許さなかった。そうしなければ敗北し、ツクヨミが奪われる。その時点で地球の終焉が確定する。

「アンタ達バカなの!!なーんで止まらないの?勝っても死んだら意味ないのに!!」

 白川水希の歪んだ決意にクシナダが咆えた。少女も僅かなやり取りから地球が如何に追い詰められていたかを理解した。それでも尚、否定する。死んだら意味がない――恐らく、年若い少女も幾多の死を見送った経験があるのだろう。

「何度も言わせるなッ、お前達が攻めてこなければこうはならなかった!!」

「しかし、今現状はツクヨミの願いではない筈です」

 たまらずアマテラスオオカミも割って入る。が、互いにぶつけあう本音は虚しく空を切る。互いに退けない理由がある。故に、耳を塞ぎ、理解を拒否する。
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