【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第2章 日常の終わり 大乱の始まり

30話 発覚 其の1

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 山県令子が立てた計画は失敗に終わった。万全を期した計画はほぼ完璧に実行されたが、少女は最後の最後でミスをした。ルミナの能力を見誤った。高層ビルの屋上から自分諸共に突き落とすという計画の最終段階は、彼女がかき集めたカグツチが引き起こす実現象の前に容易く膝を折った。

「化け物」

 少女は泣きそうな目でそう呟くと……

「これでも、真っ当な人のつもりだよ」

 その言葉をルミナは穏やかに否定した。が、その目に先程までの強さを感じ取る事が出来なかった。此処までの疲労か、それとも"化け物"という言葉に傷ついているのか。だが何れにせよ身心に深い傷を負ったその様子を見れば、戦い傷つける行為が如何に不毛か理解できる。

「……えしてよ。返してよ……私の大切な人、返してよ。なんでアンタ達は生きていて私の大切な人は死んでしまったの……何が違うのよ。もう嫌だ、こんな世界……」

 少女は起き上がる事も出来ず、俯き、喚き続けた、"返して"と。ルミナはその言葉に何も返す事が出来ず、ただ地面を涙で濡らす山県令子の背中をジッと見つめ続けた。その眼差しには安堵よりも悲哀の色が濃く、まるで自分の事の様に感じているように思えた。山県令子の心を救う事は適わなかったと、そう考えているのかもしれない。

 が、それでも漸く全てが終わった。青天井に被害が拡大するかに思えた山県令子の反乱は切り札の喪失により終幕した。その気配を察したのか、ビルの周囲に灰色の光が次々と灯り、その向こうから事後処理と暴動の拡大に備え後方で待機していたスサノヲとヤタガラスが続々と姿を見せ始めた。

 何をするでもなくただ泣き続ける精神状況に加え、要の切り札を失った少女には何も出来ない。そう判断した彼等の行動は迅速で、報道規制から被害規模の確認と医療機関への報告、逃走経路の封鎖等を手早く実行に移し始めた。

『申し訳ありません、緊急事態です』

 全てが順調に進むかに思えた。が、やはりそうそう上手くはいかず。唐突な連絡に再び空気が緊迫する。ルミナが視線を少女から移した先にはディスプレイが浮かぶ。背後の景色から空調設備の調査部隊の誰かだろうが、強張った表情はトラブルの発生を予感させる。

『お疲れのところ申し訳ありません。問題が発生しました。居住区域を汚染していた武器の破片が何時の間にか消えていたと部下から報告が入りました。恐らくその少女が何者かを操っていたと思われます。恐れ入りますが、居所を聞いてもらえないでしょうか?』

 服と三本足の黒鳥を模った腕章を付けたヤタガラスの報告は、山県令子がこの周囲一帯を汚染するのに使用した刀を紛失したという驚くべき内容だった。ルミナは少女の傍に片膝を付くと、未だに立ち上がる事が出来ない少女に優しく尋ねるが、少女は一言"知らない"とルミナを睨み付けながら捨て鉢に答えた。

 それもまた驚くべき内容だった。少女は空調設備の刀を奪い返していないという。やはり少女の背後にはが存在している。

「ならば誰が?いや、ともかく引き続き……」

 ルミナもその事実に気づいた。が、立ち上がった彼女がヤタガラスに指示を出そうとした直前、何処からともなく夥しい量の弾丸が彼女目掛け撃ちこまれた。

 しかしこの程度ならばルミナの反射神経ならば余裕で回避できる。事実、ただの一発として掠りさえしなかった。ルミナは銃を取り出し、射線から狙撃手の位置を予測し銃口を向けた。が、少女を覆うように広がる灰色の光に判断ミスを悟った。
 
 ルミナが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる中、少女と自らを分断した攻撃の隙を縫うように灰色の光の中から女が姿を見せ、山県令子に手を差し伸べた。

 仲間だと、誰もがそう考えた。この計画を勝手を知らない少女が単独で計画し、実行にまで移すのはどう考えても不可能。且つて地球を逃げ回ったルミナの傍に伊佐凪竜一がいたように、少女の傍にも何者かがいる。そして、その人物は伊佐凪竜一とは違い残虐残忍な性格をしている。

 ならば灰色の光と共に戦場に出現した女こそが少女の逃走と計画を手引きした首謀者だと誰もがそう考え、拘束するべきだと実行に移そうとしたのだが、意に反し誰も即座に行動する事が出来なかった。

 少女に優しく手を差し伸べ引き起こしたその女の顔を見た。誰も彼も想定外の正体にほんの僅かだけ思考が停止した。

「「「「お前はッ!!」」」」

 その顔を見た全員が一瞬だけ呆気にとられたのちに、すぐさま怒りを露にし……

「馬鹿なッ!!何処から侵入したんだ!?」

 極めて冷静なルミナをも驚かせ……

『逃げた振りをしていたのか?しかし、完全ではないとは言え私達が再構築した監視をいとも容易くすり抜けるなど有り得ない……どうなっている?』

 この状況に対し唯一冷静なヒルメでさえも口惜しそうにそう呟く。誰もが驚かざるを得なかったその顔は……灰色の光から山県令子に手を差し伸べるその女は、且つてアラハバキの一員として神魔戦役を引き起こしながらただ1人だけ旗艦アマテラスから逃げおおせたオオゲツの顔をしていた。

 誰もが知っている。製薬会社アスクレピオスの代表取締役は既に死んでおり、現在の同社は主星の管理下に置かれている事を。もう1つ、その女が旗艦アマテラスと地球の戦いを誘導した主犯である事実もまた既に連合に周知されている。
 
 故にその顔で現れる事に何の意味も無いどころか悪戯に捕縛される危険性を上げるだけなのに、だがその女は大胆不敵にも現れた。

 同時、あの戦いを経験した全員が肌で感じ取った。今、目の前にいる女は確実に"自分達が良く知る女"であるという事を、且つて旗艦を混乱の底に落とした底知れない化け物である事を誰もが感じ取った。そう、映像越しに見ている私でさえ……

「皆さんお久しぶりね、フフッ。顔を変えてしまえば誰だか分からないでしょう?特別サービスですよ?」

 女は笑っていた。且つてオオゲツと名乗ったその女は不敵な笑みを浮かべながら、一方で臆する事無く堂々と立ちはだかる。

「随分と舐めた真似をしてくれるな」
 
「今度こそ捕まえる」
 
「覚悟は良イか」
 
「お断りよ、それに今日は野暮用で来ただけですから直ぐ帰りますね。さぁお嬢さん」

 その女は相も変わらずマイペースというか我が道を往くというか、ともかく周囲をヤタガラスとスサノヲに包囲されながら微塵も動揺する素振りを見せず、そっと山県令子に何か耳打ちをした。

 辛うじて"約束"という言葉だけが聞き取れただけで耳打ちされた内容の大半は不明だったが、少女はオオゲツの言葉に驚きながらもその傍に寄り添った。

「待てッ、君はその女が何者か知っているのか?」
 
「危険だ、君の仲間も待っている。コチラに戻るべきだ!!」
 
「私達は危害を加えるつもりは無いら、だからお願い戻って!!」

 何もかもが唐突で、だからその行動に誰もが唖然としたし焦りもした。何せ相手は正体が一切不明、ただ野放しにするには極めて危険というだけがはっきりと分かっている人物。そこに少女が見せた力が加われば何が引き起こされるかなど考えたくもない最悪の事態が起きるのは必定。

 スサノヲ達は必死に説得、或いは懇願する。それ程にオオゲツという女は危険だと認識しているからだ。その女は地球との戦いを扇動した女、全ての黒幕と思われる女。自らが関わった痕跡を徹底的に破壊した挙句、全ての罪を生き残ったヤゴウに擦り付けた女。あるいは悪夢か、さもなくば悪魔と形容される女。

「五月蠅い、私はこの人と一緒に行くッ!!」

 全員の認識がそう一致しているからこそ、誰もが山県令子の身を案じ、必死で言葉を投げかけた。だというのに、悲しいかなその言葉は少女の心には届かなかった。

「フフッ、そう言う事ですので。それに期せずして貴女の顔も見られたし、今日は大満足ですね」

 オオゲツはルミナを見つめた。その目は熱の籠っている様な、何処までも冷え切っている様な、あるいは何の感情も籠っていない様な、何と言うか見ていてゾッとする位に感情が読めなかった。
 
「私がどうかしたか?」
 
「フフッ。せっかく私がお膳立てを整えた戦いをご破算にしてくれた英雄の一人ですもの。当然でしょう?警備が厳重過ぎてその日が来るのはもう少し先だと思っていたのだけど、こうして会えて光栄ですわ。初めまして、私"オオゲツ"改め"タナトス=エル・ピスティス"と申します。そう遠くない内に"いずれまた"お会いするでしょうが、取りあえず今日はこの辺で。では御機嫌よう」

 ルミナの素っ気ない反応に女は嬉々としながら、改めて自己紹介をした。製薬会社アスクレピオスの代表取締役ではない、タナトスと名乗った女は、更に逃げるとまで宣言した。当然誰もがその反応に驚き、当然制止を試みるが……当の本人は全く意に介さない。
 
 その太々しい態度と今この状況から判断すれば、山県令子の武器を奪ったのは恐らくこの女で間違いない。

 暴動が再び起こる可能性が頭を過り、誰もが慎重にならざるを得なくなった。場の空気が張り詰める。

 その最中、タナトスの元に何者かからの通信が届いた。もはやこの後に何が起こるか誰にも予測が出来ない。この状況を作り出したタナトスは無表情でディスプレイを開くと、端正な男の顔が映し出された。タナトスに連絡を寄越したのは複合企業S-INシンの若き当主、ヤハタだった。
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