【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第3章 邂逅

63話 予兆

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 ――連合標準時刻 火の節 85日目 昼

 正体不明の敵の襲撃とソレに起因する一時停車と言うトラブルなどまるで無かったかの如く"黄金郷"は経済特区を目指す。ソレは車内においても同じであり、豪華な客室で宿泊する客達の動向を覗いて見るが何処もトラブルとは無縁だと言わんばかりに旅を満喫している。

 それは5車両目にいるアックス達も同じであり、ただジッと食い入るように夕陽を眺め続けるフォルを筆頭に、アックスと伊佐凪竜一はカードに興じ、ツクヨミは遺跡に関する資料を読み漁っている。

『聞こえますか、N-10エヌ・テン?』

 監視を行っていた私の目の前に唐突に別の映像と懐かしい声が割り込んで来た。真っ暗な黒一色の画面から判断するに何処か暗い場所で通信を行っているようだが、ごく僅かに背後から射す光が微かに人の輪郭を浮かび上がらせている。

E-12イー・トゥエルヴですか」

 私がそう問いかけると暗がりの中から"はい"と、実に無機質な一言が返って来た。

『そちらの様子はどうですか?』

「君が予想した通りの出来事が起こったけど、しかし呆気なく撃退されたよ」

『そう……ですか』

 私は淡々と、簡潔に事実だけを報告した。が、暗がりからの反応は淡泊そのもの。恐らく疲れているのだろう。何せアチラから連絡が入ってくるなど何時以来だろうかと指折り数える位に昔の話。それ程の事態が今、進行しているようだ。

「我らは基本的に自らの監視対象以外には不干渉であった筈だ。君の監視対象である"呪いから解放された箱舟"が連合という組織を作り上げる事は織り込み済みだったが、しかしそれでも君は頑なに干渉を拒んで来た。それがここにきて私に干渉するなど……ましてや助力を求めるなど今まで有り得なかっただろうに。一体何があったのだね?」

 じれったい時間に少々苛立った私はコチラから話題を切り出した。

『色々ですよ』

 が、返事はにべもない。相変わらずだ、私は心中でそんな風に愚痴りながら会話を続ける。

「少しは事情を説明して欲しいですね?やはり楽園崩壊が原因ですか?」

『ええ。範囲が膨大過ぎて精細な調査はまだ完了していないのですが、恐らく最悪の事態かと思われます』

「そうですか……散々に批判したA-24エー・ツーフォーと同じ真似を今度は君がすると?」

『彼とは違います。彼は私達が所有する知識と……あろう事か"女王の欠片"まで使用して監視対象の歴史を歪めたのですよ?私とは違います』

 ソレは唐突だった。暗がりの向こうの声に僅かな感情の震えが混ざった。私の仲間の1人が行った歴史改変に対し、暗がりからの声は激しい拒否感を示している。

「他星系への干渉は如何なる理由があっても行わず、担当監視者に任せる。ソレが我らが決めたルールの筈ですよ?」

 私は暗がりに向けそう切り返した。無言の間。暗がりからは何も返ってこない、返せる筈も無い。そう。仲間が星の歴史を過度に歪めるというルール違反を犯したというならば、のっぴきならない事態を前に助力を求め語り掛ける君も同じだろう?と、私は責め立てた。

「申し訳ありません、大罪を犯した私が言える台詞ではありませんでしたね」

 両者に横たわる沈黙は過度に重く冷たく、その何とも居心地の悪い時間に音を上げた私は彼女に先んじて謝罪の言葉を口にした。情けないな。自分から喧嘩を売るような真似をしておいて……私は悟られぬよう自嘲した。

『いえ、それでは引き続き監視をお願いします。事は連合全体を巻き込む恐れがありますので』

 その言葉と共に映像は何の余韻も残すことなくプツンと途切れ、私はそれと同時に大きな溜息を付いた。何時もこうだ。同じ目的の為に作りだされながら、一向に共同歩調を取る事が出来ないでいる。我らが主への忠誠を誓いながら、その宿願を果たす為に存在するはずの我らはこうして互いに反目し合っている。

 実に滑稽だと私は自らを嘲り笑った。誰憚られること無く自らをこき下ろした。主の目的を果たす我らが主の目的から一番遠い存在なのだから。そして誰もがそれに気づいているのに口に出さない。主が眠りについてから数百年、長いようで短い間に我らの意志は主から乖離してしまったと……そう思った。

 その中でも特に顕著なのがA-24の存在。主から託された"女王の欠片"を私的に流用し地球を汚染した元凶であり、かの星が旗艦アマテラスと互角以上に戦えた唯一絶対の理由がソレだ。確かに誰もが拒否感を持つのも頷ける話で、アレは連合間のパワーバランスを簡単に覆すほどの力を秘めている。

 そもそもナノマシンに文明差を超える能力などあろう筈が無い。それが例え"カグツチ適性を抑える代償に高い知能・頭脳とソレを応用する能力といった長所を与えられた"地球人であったとしてもだ。

 彼が監視対象で行った所業を知ったのは"神魔戦役"という背中がむずがゆくなるような名称がつけられた連合・地球間の小競り合いが終わって暫く経過した頃だった。通信の為だった、"欠片"の力を極限まで抑え込んだ状態で生成された粒子を地球中に散布した理由を彼はそう弁明したが、誰もその言い訳を信用しなかった。恐らく表向きであろう事は連合との戦いが避けられないと知るやアッサリ兵器に転用した事からも自明だ。

 しかし、一方で誰もそれ以上を責められなかった。"主の待ち望んだ希望が生まれた"、その言葉に誰もが絶句したからだ。"欠片"に認められた者の出現、ソレは我らと主が待ち望んだ存在に他ならなかった。だがその戦いで生まれた存在、英雄は同胞たるA-24の言葉通りの希望となるのか、それとも罪から逃れる為の方便でしかなかったのかは未だ不透明。

 だから我らは自らの使命を果たしながら、同時にそれを見極めなければならない。だからこそ祈るのだ、彼らの旅の無事を。もし英雄達が主の望む希望ならば、その死はこの銀河が存在する意味を消失するのと同義だからだ。

 ……こうして人の真似事をする様になってどれだけの時間が経過したか。私は自分で入れたコーヒーを一杯啜り、そして再び監視へと戻った。"もうあと少し"、私はそう呟いた。そう、もうあと少しで彼らの目的地に到着するのだ。

 ※※※

 そうこう考えている内、映像の向こうから甲高い列車の汽笛が鳴り響いた。列車外を見やれば特別区域の景色が視界の隅に映り始めた。

 経済特区。この星で唯一、宇宙への接点がある場所。衛星軌道上を周回する宇宙ステーションに向けた転移装置が複数設置されたその場所は途轍もなく厳重な警備が敷かれ、護衛部隊の装備品はアックスが持つこだわりの一品を含むこの星の一般兵装など骨董品と呼べるレベルだ。

「ハァ?まだ出発してねぇのかよ!!」

 汽笛に続いて男の呆れ交じりの怒号が響いた。列車内を確認すれば、何時の間にか席を外したアックスが客室の外から何処かに向け通信を飛ばす光景が目に飛び込んで来た。

『申し訳ありません。漸く駅まで持ってこれたとこですけど……コレ大きすぎますぜ』

「ドンだけだよ?」

『軽く列車2つ3つ位のサイズは有ります。しかもこれが埋まってた場所が西の果てとの境目の氷河だったもんで……』

「ズブロッカの管轄区域じゃねぇか?ってちょっと待て、なんでそんな場所に……おい形状は?」

『まるで鳥の様な形状です』

「鳥だァ?そりゃおめぇ旗艦なんかで使われてるって小型艦じゃないか」

『そう言われましても、俺達ァ実物を見た事ありませんぜ』

「あぁそうか、上に上がった経験あるの俺だけだったな。ともかく何とかここまで運んでくれや。金に糸目は付けなくていいし、無理そうならギリウスに連絡を取ってもいい」

『はい、承知しました』

 アックスは通信を切ると参ったとばかりに顔をしかめた。その理由は抜けていく金か、それともの何かか。しかし彼は次の瞬間にはその顔色を元に戻し、笑顔へと変えながら伊佐凪竜一の部屋へと入っていく。

「よう、お待たせ」

「何やら良くない知らせが届いたようですね。脈拍が普段よりも少し早いです」

「あぁ、ソイツはこの後説明するよ」

 最良とは言えない出会いから僅か数日、3人と1機はそれなりに打ち解けていた。が、悲しいかな旅の終わりを告げる汽笛が再び鳴った。美しい余韻を残し消えていくその音色に誰もが別れを感じとる。

「ところで先程の連絡はもしや荷物の件でしょうか?」

「あぁ、どうやら到着が遅れそうだって話だ。アンタ達はソイツが来るまで特区内のホテルにでも泊まっててくれや。流石に連合との共同管轄だから馬鹿な真似する奴はいないだろう」

「そうか、仕方ないな。あのサイズだしなぁ……」

「まぁな、ちゅうかそう言う情報は早く言って欲しかったんだがな」

「申し訳ございません、何から何までありがとうございます」

「いや、お嬢さんを責めている訳じゃないからな」

 アックスは部屋の外から聞いた部下からの報告を伝えると足早に部屋を後にした。彼はここに来てフォルが運搬するよう指示を出した荷物の正体を初めて知った。"荷物"と、そう呼ぶソレがまさか列車での運搬が不可能な程に巨大な機体だとはさすがの彼も予想だに出来なかった。

 しかもその荷物……航宙機能を所持する中型の黒雷型の機体は、その大きさ以上にこの星において居住可能なグリーンベルト西側の寒冷地帯側に若干入っていた事もあり、サルベージと積み込みに時間が掛かってしまった。

 アックスの口調から判断すれば到着には最低でも5日以上は掛かると見ていい。彼は目下最大の問題に頭を抱えるが、その問題は積荷でもその運搬手段でも到着までの時間でも最終的な支払額でもない。伊佐凪竜一、フォル=ポラリス・アウストラリス、そしてツクヨミがソレに乗って旅立つとして、果たしてどこに向かうつもりなのか、と言う点だ。

 彼は知った。この奇妙でチグハグな客人が正規の手続きを経ない形でこの星に来た事に。そして……恐らく彼ならば知っているだろう。超長距離転移を行える機体はこの銀河に"たった1機"しか存在しないという事実に。
 
 当の本人は渦巻く疑問を押し殺しながらただ黙々と降車準備を進めているが、心中に生まれた疑問が動きを阻害し、あるいは止める。そして、そんな彼と同じく私もまた彼等の行く末に心を奪われ、同時にまた狂おしい位に支配されている。何かが起きるという漠然とした予感に心を支配されている。
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