【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第3章 邂逅

77話 過去 ~ 地球篇 其の7

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 ――連合標準時刻 火の節 81日目 夜

「先程の用件ですが、端的に言えば伊佐凪竜一の父親と言い張る男とその家族が来ていたのですよ」

「言い張る?」

「はい。実は伊佐凪竜一殿のご両親は既に鬼籍に入られております」

「キセキ?」

「亡くなられたという意味です。つまり外の連中は偽物。彼の出自の詳細は地球側には未だ伏せられており、"日本地区に住む地球人の男性で元清雅社員"以外の情報がありません。そんな状況ですので、時折血縁を騙る者が現れるのです」

「そういうこった。テレビ新聞に始まり動画サイトから胡散臭い雑誌までを含めればもう三桁は下らない」

 ツクヨミが自らが知り得る情報をフォルトゥナ姫に説明し始め、アレムとセオが補足をいれる最中、部屋の入口から低い男の声が聞こえた。全員が振り向くと其処には関宗太郎の姿。酒が抜けていないようで少々顔は紅潮しいるが、一方でその目つきや話し方は素面そのものだ。

「せ、先生」

「変に隠すような真似して申し訳ない。耳障りの良い話ではないのからと気を利かせた2人をどうか責めないでやって欲しい」

「い、いえ。あの、コチラこそ申し訳ございません。差し出がましいと思いましたがどうしても気になってしまいましたのでつい……」

 関宗太郎の申し訳なさそうな表情と謝罪にフォルトゥナ姫はオロオロと狼狽えだした。が、それでも話を聞くと言う意志を曲げる様子は見せない。どうやら余程に外の出来事に興味が出たらしいが、一体何がそこまで強硬な態度を取らせるのか、映像を見る私を含め誰一人として分からなかった。

 が、フォルトゥナ姫はともかく関宗太郎が望むならばアレムとセオに止める事は出来ない。"では続けましょう"。ツクヨミの言葉を切っ掛けに彼女が密かに記録した音声データが和風の客室内に木霊し始めた。

 ※※※

 ――約3時間前 関宗太郎邸玄関口

「遠路遥々やって来たのだ、息子に会わせてくれてもいいだろう?」

「しつけぇよアンタ」

「何だと。たとえ政治家だからと言って、市民を無下に扱って良い理由は無いだろうがッ」

「喧しいよッ、そんなに言うなら遺伝子検査受けぇや」

「何ッ、父親であるという言葉を信じないというのか、この恥じ知ら……」

「だから喧しいってんだろうが馬鹿野郎。お前さんみたいな連中がこの半年でどれだけ来たと思ってるんだ。それとも何か?アイツの父親は何十人も居るってぇのか?証拠出しな証拠、親子だなんだなんて目に見えねぇモンをタダで信じてやるほど俺ァお人よしじゃないんだよッ」

 偽物の両親と関宗太郎の話は当然ながら平行線を辿る。

「ココに写真があると言っているッ」

「そんなモン幾らでも捏造できるだろうが、ホレ血ィ出しな。地球よりはるかに立派で正確な旗艦アマテラスで遺伝子検査して貰うからよぉ」

「ク……政治家足る者が市井の言葉に耳を傾けんどころか疑ってかかるとはッ、この件マスコミにばら撒くぞ」

「論点をすり替えるんじゃねぇよ馬鹿野郎がッ、それに本当の父親ってんなら今の今まで何してやがったんでい!!」

 何れ誰かが盛大に怒りをぶちまけるだろうと予測はしていたが、しかし真っ先に怒りを露にしたのは意外にも関宗太郎だった。

「それは会って直接話すと言っている!!」

「喧しいっての!!いいか、大人ってのはな、色々な事を知ってソイツに縛られていくって事だ。時代だ何だ言ってもな今も昔も変わらねぇんだよ。縛られて不自由になって、自分ではどうにもならんしがらみを背負って、必死にもがいて、踏ん張るモンなんだよ。だがな、お前さん達はそっから逃げるだけじゃなくて子供におっ被せようとしやがる。だからお前達は親じゃねぇし大人でもねぇ、タダでかいだけのガキだ。生きる重石と不自由、それを気軽に捨てちまったお前の言葉は軽すぎる。だから会わせられねぇンだよ。そんな謝罪なんてされても心に響かねえんだよ馬鹿野郎、分かったからとっとと帰んな、オイお客さんがお帰りだ!!」

 どれだけ説得しても一向に引かない偽物に業を煮やした関宗太郎が背後に向けて叫ぶと、背後から2人分の足音が聞こえた。彼の意を汲んだ秘書達はジタバタと必死の抵抗を試みる男達を慣れた手つきで容易く拘束しているようで、時折くぐもった声や必死で抵抗を試みる声が何度か聞こえた後、ドサッと何かが地面に落ちる音が聞こえた。

「コレは暴力行為だ、訴えるぞ!!」

 即座に偽物の遠吠えが聞こえ……

「どうぞご自由に」

「先生も私共も徹底的に争いますがそれで宜しければ」

 間髪入れず秘書達が淡々と受け流す声、続いて聞くに堪えない罵倒と共に逃げ去る複数の足音が聞こえた。

「オイ、塩撒いとけ塩!!」

「は、はい先生。あ、でも塩は丁度切らしてまして……」

「なら砂糖でも小麦でもなんでもいいから撒いとけ撒いとけ、全く卑しいったらありゃしねぇ」

「は、はい。承知しました……けど意味あるのかなソレ?」

 最後、関宗太郎の奇妙な指示を受けたセオとアレムの困惑する声と、ソレはそれとして忠実に実行する為バタバタと何処かへと向かう音を最後に音声は途絶えた。

 ※※※

 ツクヨミが流した音声により玄関先でのやり取りが明らかとなった。遺伝子検査すら知らないツッコミどころ満載の連中ではあったが、しかし逆を言えばその程度の連中さえ群がる程に"伊佐凪竜一の肉親"という立ち位置が魅力的なのだろう。

 しかも頭の悪い屁理屈を捏ねる質の悪い連中の訪問は頻発しているようで、ツクヨミの音声を聞き終えた3人の何とも疲れた表情を見れば精神面に少なからぬ悪影響を与えている様子がありありと浮かんでいる。アレムが説明を躊躇う訳だ。

「誰も彼もが英雄の威を借りたいのさ。得てして何も持たない者や弱い者と言うのは、持つ者や価値のあるモノを盲目的に信奉するもンだ。例えばブランド品、金持ちや有名人、あるいは神や悪魔といった超越的な存在。弱い者はそれに縋る。ツクヨミが居なくなった地球には、その代わりとして英雄を拠り所にしたい連中が溢れてるんだよ。何とも情けねぇ話だがね」

 関宗太郎は外での話を総括すると、話を聞いいていたフォルは悲し気に俯き、アレムはそんな少女を心配そうに見つめる。

「情けない、ですか?」

 暫しの後、フォルトゥナ姫は儚げにそう呟いた。関宗太郎はそんな弱々しい声に"あぁ、心底情けない"、とだけ返すと立ち上がり部屋の襖に手を掛けた。

「あの、あの……」

「そうだ、お嬢さん。この件、ナギ君には黙っておいてくれないかな?」

「え?あ、はい。でもどうして?」

「ああいう連中は身体だけデカい我儘な子供だ。歳なんてのはほっといてもとっていく、大人になるってのは世界を知るって事だ。そして世界は幾つもの鎖で自分オトナを縛って来るって事を知る。常識、法律、人間関係その他諸々。その中で踏ん張らなきゃならねぇって事が出来なかったのがああいった連中だ。アイツ等は自らの鎖を簡単に捨てて他人に被せる、どれだけ苦しむかすら考えないでな。俺ぁな、ナギ君にそんな連中に引っ張られて欲しくねぇのよ。それが俺の大人として出来る数少ない恩返しなのさ」

「大人、ですか?」

「誰も彼もが自分の事ばっか考えてたら世界なんて簡単に崩れちまうよ。だから人は自らを律する為に色々な鎖、ルールや責任ってヤツを作りだした。それを知り、自らを鎖で巻いていくのが大人になるって事だ。世界とか誰かを傷つけないように、自分以外の大人達と手を取り合い、時にはいがみ合いながらな。だがそれを放棄するヤツがいる。で、そんな連中が生み出す歪みは何時か誰かの人生を歪めちまう。だから俺は俺のやり方であの坊主を守りたいのさ。お嬢さんもいずれ……」

「大丈夫、知っています」

 ソレは唐突な変化だった。言い終わるのを待たず、遮る様に言い切ったフォルトゥナ姫の言葉にそれまでのか細さは微塵も無かく、老獪な政治家が気圧される程の威圧と冷たさを兼ね備えていた。

「そ、そうか。ならいいんだ」

 彼はやや言い淀みながら部屋を後にすると……

「申し訳ございません、もうお休みになられた方が良いでしょう」

「そうですね、では俺達も引き上げます」

 セオとアレムもその後に続く形で部屋の外へと向かい……

「はい、ありがとうございます」

 フォルトゥナ姫は去り行く2人を丁寧なお辞儀と共に見送った。"おやすみなさい"、アレムはそう告げると頭を下げ続ける少女を見つめながら襖を閉めた。

 "ふぅ"。退室するセオとアレムの後をつけたツクヨミのカメラは、襖を閉めきったと同時に何とも表現しがたい表情を浮かべた2人から漏れ出た小さな溜息を捉えた。が、その顔は程なくカメラへと視線を移した。明確な意図、意志を感じる4つの目がツクヨミをジッと見下ろす。

「あの、ツク……」

「今いいかい?」

 意を決したセオが眉を吊り上げツクヨミの名を呼ぼうとした直後、無防備な2人の背中から誰かが声を掛けた。
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