【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第5章 聞こえるほど近く、触れないほど遠い

165話 もう1人の師

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 空から人工の光が消え、闇が侵食してから数時間ほどが過ぎた。宇宙に浮かぶ鋼鉄の揺り籠は恒星が無くとも規則正しく、自然と同じく昼と夜を切り替える。恒星と共に生き、地に足を付ける多くの人類から見れば異端異質であっても、旗艦ココに住む者にとってはこれこそが自然であり見慣れた景色。

 その夜が告げられてから数時間が経過した。時刻は日が変わって約1時間が経過した頃。未だ夜が明けぬ深夜。しかし、この区域に夜がもたらす静寂は無い。真夜中に就業を告げる音が鳴り響けば、規則正しく働きに出掛ける者達が移動を始める。

 夜のとばりが下りると同時に煌々と輝くネオンに照らされる第5居住区域は夜間就業者達が集まる区域。例えば点検補修業務であったり艦全体を照らす人工太陽の調整であったり、果ては道路の補修から自動運転車の修理点検など多岐に渡る。日中に出来ない仕事をこなす為、彼らはココから今日も旗艦の各区域に散っていく。

 しかし人が作る波は1つだけではない。就労者達と入れ替わり、輝くネオンに惹かれるようにこの場に集う人波がある。飲み、喰らい、楽しむ。そうした娯楽にも事欠かないこの区域は夜と同時に活気を見せ、夜が明けると同時に霧散する。

 その営みは旗艦がどれだけ危機に陥ろうが変わる事はない。今宵もまた何時もと変わらぬ夜が訪れた。悍ましい悪意に絡めとられまいと逃げる者であっても、旗艦にうごめく陰謀を全く知ら無い者であっても夜の闇は平等に人の傍に寄りそう。

 そんな熱気と喧騒渦巻く夜の街の端にルミナ達はいた。直に見る機会が無かった喧騒と熱気、あるいは熱狂を目の当たりにした彼女は驚きと興味が勝ったのか、彼方此方に視線を移す。

 が、その視線は直ぐに正面へと戻る。普段見慣れない1組の男女は余程に目立つようだ。アチコチの店から姿を見せた柄の悪い連中達が瞬く間に2人を取り囲んだ。見た目も人種も様々な連中の正体はこの区域に軒を連ねる飲食店を経営する企業やオーナーに雇われた用心棒達。誰もが明らかに鍛えているであろう肉体を隠さず、更に露出した肌には同業者であるという周知と威圧を目的とした刺青が覗き、市販の武器で武装している。

 暴力をチラつかせ2人を排除しようと考えているのは明白だが、彼らの役割を考えれば仕方のない話。無粋な輩は何処にでもいる。ソレは例え外部から楽園と呼ばれる旗艦アマテラスでったとしても変わらず、血の気の多い輩を含む馬鹿な連中を実力で黙らせたり事前に排除する事で区域内の治安維持を行う事が用心棒の役目。相手が誰であろうと関係ない。

 時には命の危険もある。それもまた用心棒の定めであり、そんな命知らず共がルミナ達を取り囲めば、程なくその背後から野次馬達が次々と現れ始めた。服装から近隣の店で働く従業員らしい。血と暴力の匂いに惹かれて来たのだろう。

「なぁんだよ、怪しいヤツがいるって顔出してみたらタケルじゃねぇか!!」

「ヨォ。アンタ達の動向、ウチのオーナーも気を揉んでたぜ。大丈夫か?」

 アレ、と私は盛大に肩透かしを食らった。当ては見事に外れた。明らかにガラの悪そうな男、腕から肩まで全身刺青が入ったガタイの良い大男達、そんな彼らに寄り添うように立つ水商売風の女達や飲食店のウエイターやらコック等々。彼らはタケルの顔を見た途端に全員が揃って彼に労いの言葉を掛け始めた。無事に姿を見せたタケルに安堵した心境の現れか、周囲の喧騒と熱気は尚も上がり続ける。

「ありがとう、しかし今の俺達は非常に危険な立場だ」

 タケルが彼らに事情を説明しようとするが……

「水くせぇ事言うなよ、アンタは命張って俺達を助けてくれたんだ」

「そうそう、だから守護者とか言う胡散臭い連中よりもアンタを信じるよ、勿論後ろのアナタも同じよ」

 遮る様に2人を擁護する声が上がると、歓声が波の様に湧き上がった。

「彼らは?」

「神魔戦役で俺が守った人達だ。ココに居る全員では無イが活躍が彼方此方に広がったようでね。それともう一つ、タガミの知り合いがココに居る」

「なるほど」

 勢いと熱気に押され気味のルミナがタケルに尋ねた回答はルミナは安堵し、私は心底胸を撫で下ろした。命を懸けてた彼女の行動は無駄ではなかった。まだルミナを信じてくれる人がいる。

「急ぎなよ、外で駄弁ってると面倒な奴らが来るよ」

 用心棒の1人がそう急かすと熱気と人波は急速に引いた。どうやら守護者の手はこの周辺にまで及んでいるらしいと察したルミナ達は用心棒の1人に案内されるがままに入り組んだ夜の裏道を進み……

「ココです」

 程なく区域内の奥まった場所でその足を止めた。一行の目の前にあるのは古びたレンガ製の壁と重厚な木製の扉。一見すれば古びた建物の裏口の様に見え、少なくとも店の看板の類は全く見られなかったが、扉を開け一歩中へ踏み入れば一転してとても広い空間に豪奢な装飾が出迎えた。

 入り口付近のちょっとしたスペースを見れば落ち着いた雰囲気の服装に身を包んだ数名の男女が出迎え、店の奥に並ぶ棚を見ればいかにも高級そうな酒やワインが無数に並ぶ光景。どうやら隠れ家的なコンセプトのバーの様だ。

 が、案内を務める用心棒は上等な酒も上質なサービスを提供するスタッフも無視、中央を突っ切るように店の奥へと一直線に向かうと程なく見えた個室の扉の前に立つと直立不動の姿勢と共に……

「お連れしました、ボス」

 扉の向こうに声を掛け、踵を返すとルミナに部屋へと入るよう促した。

 個室の中は店内よりも更に高級だが、それでいて落ち着いた色合いの部屋だった。黒を基調とした部屋の端に並ぶ棚には高級そうな酒がこれでもかと並び、中央には大きなソファが2台に同じ配色の机がドンと置かれているが、それ以外に目立った物は見当たらない。

 接客用と言うよりは個人の部屋といった趣の部屋の中央、ソファに座るのがボスと呼ばれる男。容姿はおおよそ60歳程度の男だが、白髪交じりの髪とは対照的によく鍛えた筋肉で覆われた分厚い肉体は、見る者に年齢よりも随分と若い印象を与える。また、用心棒達と同じくその男も腕に刺青を彫っていた。

「久しぶりだ、ルミナ。いや、今は艦長か」

 ルミナの視線はその身体を経て顔へと移ると、驚きと共に暫し固まった。男は彼女のそんな様子に苦笑を浮かべると率先して言葉を掛ける。

「貴方は……確か……いやそれより私はもう……」

 男を見たルミナがどれだけ驚いたか計り知れないだろう。彼は且つてスクナの紹介で彼女に射撃術の指導を行った男だった。名をイスルギ。一時とは言え師弟として銃の手解きを受けた間柄であったが、しかし時間にして一月程度でその関係は解消、以後は独学で射撃術を習得する事となった。

 師弟。確かにそう呼べる間柄ではあるが、記憶の彼方に忘れ去られても仕方が無い程度の極めて希薄な関係であり、事実その男の顔を見ても即座に誰であるか思い出せなかった。そんな男、且つての師が今は夜の街のボスとしてルミナの前に現れたのだから運命とは不思議なものだと感じずにはいられない。

「知り合イだったのか?」

 両者の間柄を知らぬタケルはルミナの顔をみながらそう尋ねると、彼女は昔の記憶を頼りに言葉を紡ぐ。

「あぁ……私に射撃の基礎一通りを叩き込んでくれた。とは言っても随分と短かったからこうして会うまで顔も忘れていた位だ」

「まぁ懐かしい話は後にしよう。ともかくだ、ワシ等もコイツ等も用心棒なんて血生臭い仕事しちゃあいるが人の心は捨てちゃあいない。恩義は返す、それがワシ等が通さねばならん筋だ。と言う訳で我々は安全に隠れる場所を提供する用意がある。勿論、拒否しても構わない。善意は押し付ける物ではないからな。わっはっはッ!!」

「もう思い出せないのですが、昔と印象が違う気がしますが。あの時は……もっとこう……」

「そりゃ仕方が無いさ、スサノヲにいた頃と辞めて環境が変わった今では心構えも変わるさ、わっはっはッ!!」

 昔の思い出とはいささか食い違う男の態度にルミナは酷く戸惑う。確かに、私の記憶が確かならばスサノヲ在籍時は極めて優秀、且つ狙撃手としての腕も抜きんでて高い人物だと記されていた筈だ。しかし、今ルミナの目に映るその男は正しく豪放磊落ごうほうらいらくと言うか大雑把というか、豪快な性格をしており、ルミナの記憶と過去の記録に残る冷静沈着さは微塵も感じない。

「さて。昔話は後にして、本題と行こう」

 豪快そうに振る舞う男の雰囲気が一変した。机に置かれた上等な酒など目もくれず、男は話を始めた。グラスに注がれた酒を冷やす氷が解け、カランと静かに音を立てた。
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