【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第6章 運命の時は近い

173話 脱獄 其の1

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「よぉ、久しぶりィ。無事かい、元気かい?」

 どれだけ時間が経過しただろうか。憔悴、呆然自失する私の耳に何とも気楽で苛立ちを覚える様な軽い声が届いた。何処から、いや誰がと思い監視映像へと視線を戻せば……

「タガミ!?」

「予想以上に不味い事態なんでな、こうして面会に来た訳さ」

 大柄なスキンヘッドの男がいて……

「やぁ、久しぶり」

「クシナダも!?」

 その横には小柄で爛漫に挨拶をするクシナダ。更によく見れば2人の奥にはざっと20人ほどのスサノヲ達が控えている。不意の来訪に映像の向こうの伊佐凪竜一は目を丸くした。

「なーんか派手にやられてない?大丈夫?」

 クシナダはその場に座り込んだまま動けない彼の様子に何かを察すると彼の傍に寄り、目線を合わせ、顔を撫で、じんわりと滲む血の跡を確認するとハンカチで彼の顔を拭き始める。伊佐凪竜一は少々の照れ臭さと共にやんわりとした拒絶の心情を表情に滲ませるが、あからさまな好意を無下に出来ない彼の性格では酷く嬉しそうに振る舞うクシナダを止められる筈も無く、苦笑いと共に受け入れた。

「姫の婚約者にちょっとね。避けられなかったよ、あの力を見ればスクナと同じ位かそれよりも強いかも知れない。実力差が有り過ぎる」

「相手はあの若さで総代補佐なんて言われてる位だからなァ。幾らお前でも分が悪いかも知れんが、まぁ気にすんなよ」

「そうそう。さて、と。無事が確認出来たし、じゃあ本題いくね。積もる話もあるだろうけど今は時間が無いの。だからよく聞いて、判断して」

 酷く汚れていた顔を思う存分に拭い終えたクシナダは立ち上がり"本題"と、そう切り出した。確かに彼等がただ伊佐凪竜一の様子を確認する為だけに面会しに来る訳がない。そもそも、面会自体も相当にハードルが高かった筈だ。

「お前も知る通りだろうけどよ、今の旗艦ココの様子は明らかに異常だ。まるでお前とルミナを排除したがってるみたいで、それがどうにも気にかかってるんだよ。お前の命を狙うってヤツもなんだが、どうにもキナ臭い。特に地球の方、関宗太郎の家での一件。あの有様を見れば使っている武器なんて誰でも予測が付くんだがな、調査部門が下りて暫くしたら守護者共がやってきてよォ」

「アイツ等さぁ、それまでは準同盟惑星になったばかりの地球で起きたイザコザなんて知った事かってふんぞり返って何もしなかったのよ?正に一切興味なし。なのに急に態度を翻したんだ。で、調査部門が収集した記録や事件に関する資料を一切合切押収しちゃったのよ、コレがね」

「え、どうして?」

 伊佐凪竜一の反応は最もである、だがそこまでを説明し終えたクシナダは隣に立つタガミと一緒にクビをかしげた。

「その理由が分かんないのよね。武器の管理には責任が伴う、地球に武器を横流ししたんならソイツは罰せられて当然。だけどそいつを探す気配すら無し。それ以外にもおかしい部分がわんさか。アイツ等、旗艦ウチのあちこちに勝手に入り込んで何かしてんだよね。それに最近発生した回帰願望主義者達の暴動を止めようともしない。まぁ私達の領分の話だからそれは納得したんだけどサ。ただ、守護者が一枚噛んでるんじゃないかって思えるような噂話も出てきちゃってね」

「例えば、だ。アイツ等、専用兵装の"黒雷"以外の何かを持ち込んで来てやがるようなんだ。近くを通りがかった整備部門の連中がさ、連中の船が停まってるドックの奥に見た事も無い形式の機体が並んでたのを見たって言っててな。残念だが見たのは一度っきりで、主星の治外法権内だから偵察なんてリスク高すぎて出来ねぇんだがよ。後もう一つ、異様な兵士の存在もだな」

「異様?」

「あぁ、只コッチはホントに噂レベル……なんだけど、こんな状況じゃ疑ってかかる必要があるって訳さ。で、だ」

 話を一旦切り上げたタガミは背後に立つスサノヲ達へと視線を向けると……

「オイ、コッチだ」

 声を張り上げた。直後、大勢のスサノヲの内の1人がゆっくりとタガミの隣に移動した。スサノヲに支給される黒のジャケットスーツの上からでもわかる弛みのない引き締まった細身の身体をした何者かは、一方で顔を目深に被った帽子と鼻まで隠すフェイスガードで隠している。女性特有の美しい流線形の膨らみが無いところを見るに男だろうが、それ以外の素性は一切知れない。

「スサノヲ第12部隊、戦闘補佐及び情報収集担当のスミヨシです。お会いできて光栄です」

 男は丁寧な物腰で挨拶を行うと同時、帽子とフェイスガードを脱ぎ捨てた。

「え?」

 その顔を見た伊佐凪竜は殊更に驚いた。無理もない。何せタガミの横に立つ男の素顔は自分自身と全く同じだったのだから。鏡以外では見る事が無い、自分にうり二つの人物が突如現れ、一礼と共に自分と全く同じ声色と口調で話し始めれば驚くのは当たり前だ。しかも、紹介したタガミとクシナダがさも当然の如くその男を受け入れているのだから尚の事。

「え?え?え?ど、どう言う事。ってまさか!!」

「あーたりぃ。ナギ君にはこっから出て貰います。で、その間の代理が彼って寸法よ。すごいっしょ、顔はナノマシンを利用した整形で完璧に再現出来てるから誰も疑いやしないよ。但し、一時的な処置しか間に合わなかったんで長時間は無理だけどね」

 状況を理解できない彼にクシナダが説明した内容は単純明快、偽物と本物をすり替えての脱獄だった。

「いや……でもこれ以上誰かを頼る訳には……ゴメン。俺一人の方が良いと思う」

 が、伊佐凪竜一はその申し出を拒絶した。驚くクシナダ達だが、その反応は無理もない。クシナダもタガミも知らない情報がある、地球唯一の宇宙空港で何が起こったかをこの場の誰も知らないのだ。

 彼等が知るのは一般市民と同レベル程度、即ち「伊佐凪竜一が旗艦アマテラスに戻る為、その邪魔をした同胞を皆殺しにし、更に殺戮の痕跡を抹消する為に空港を爆破した」という荒唐無稽な内容だけ。だから彼女達は真実を知らない。スサノヲとなった伊佐凪竜一の存在を憎むスサノヲが彼に刃を向けた事実を知らない。

 もう1つある。オレステスが告げた事実が彼の心に深く突き刺さり、くさびのように動きを止める。彼の周囲で人が死に過ぎた事実が重く伸し掛かり、故に彼は立ち上がらない。大勢が死んだが、一方で自分はその死を直接見ていない。今まで彼が戦ってこれたのは、幸か不幸か死の直視という現実感が無かったからなのだろう。しかし、彼は今まで見送って来た光景の後に続く凄惨な事実を想像し、立てなくなった。

「どうした?」

 彼と仲が良かったタガミは数日前と重ならない不安定な様子を心配するが、返答はない。

「オイオイオイ、本当に何があったんだ?」

「そう……そうか。ナギ君、オネーサンが地球で起きた事、当ててあげようか?もしかして、スサノヲに殺されそうになったんじゃない?」

 驚いた。クシナダは伊佐凪竜一の身に起きた出来事を正しく言い当ててみせた。

「ハァ?」

 寝耳に水とばかり、隣に立っていたタガミは素っ頓狂な声を上げながら隣を見下ろし……

「ちょっと待ってくださいよクシナダさん。そんな事って……いやちょっともしかして!!」

 ちょっと間抜けなタガミの隣に立っていたスミヨシは僅かに驚いた後、何かを思い出すとやはりタガミと同じくクシナダへと視線を移した。彼には何か思い当たる節があったようだ。

「スミヨシ君、良い子だから"もしかして"の先をオニーサンに話してみなさい」

「いや……ってあのタガミさん……アナタ当然の如く俺を下に見てますけど立場上では僕の方が上ですよ?」

「まぁまぁ、いーからいーから。細かい事は気にしないよ、俺」

「「お前はしろよ、寧ろお前だけはしろよ!!」」

 1人蚊帳の外に置かれたタガミの雑な言動にクシナダとスミヨシは即座に突っ込みを入れるが、しかしこの男はそんな程度では折れないしへこたれもしない。クシナダはそんなタガミに少々呆れがちに見上げるが、しかし同時にムードメーカーとして一定の評価をしているようでそれ以上を口出しはせず、伊佐凪竜一へと視線を戻した。

「なんでそれを?」

 誰も知らないし言ってもいない出来事を言い当てられた伊佐凪竜一の反応もまた当然。一方のクシナダはというと、呆然と見つめる伊佐凪竜一の視線に推測が正しかったと確信を得ると、それまで明るかった表情を一気に曇らせた。

「その反応、正解のようですね」

「やーっぱりかぁ。大正解って喜べないよね、ハァ」

「ところで、なんで分かったの?」

 今は内輪揉めをしている場合ではない。にも関わらず仲間の一部が神魔戦役を終結に導いた恩人に刃を向けたと知った彼女の落胆度合いは察するに余りある。しかも、特に彼女は伊佐凪竜一に対し恩義以上の感情を持っているのだから尚更に酷い。その彼からの質問に気付かない辺り、相当に苛立ち、呆れている様子が窺える。

「あぁ、それはですね……」

 無言のクシナダと事情を知らないタガミの間を暫し漂った伊佐凪竜一の質問に、スミヨシが口を開いた。
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