【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第7章 平穏は遥か遠く

276話 終幕への前奏 其の5

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「ソレが戦う理由……でも、清雅源蔵は」

「知ってるよ。社長が俺を見てない事なんて、とっくに知っていたよ。だけど、クソみてぇな家族にあの人の奴隷として生きろって強要されたけど、だけど俺はアンタほど薄情じゃない。生きる理由だったんだ。終わりましたって理由で簡単に忘れられるかよ」

 薄情と、吐き捨てた本音に含まれた鋭い棘に白川水希の心が大きく揺らぐ。苦悶に揺らめく顔は、暫しの後に漸く"忘れたつもりはありません"と、小さく吐き出すだけで精一杯だった。本音か、出まかせか。それは彼女にしか分からず。

「ハッ、冗談だろ」

 そんな彼女を山県大地はせせら笑った。出まかせだと、俺は本心を知っていると、そう言いたげな顔で。

「それで、今はナギの女になろうと必死な訳か。傑作だぜ。清雅源蔵に次ぐ力と影響力を持つって評された女が十数年来の幼馴染って理由だけで俺達の仇に尻尾振るんだからなぁ?笑えねぇんだよッ!!それともアレか、社長がくれなかった愛情をソイツならくれるとでも思ったのか!!」

「そんなつもりは」

 かつての仲間に、袂を分かった元仲間は容赦しない。認めたくない過去を、現在の心境を突きつけ、抉り、決意を削ぎ落す。戦う前から戦意喪失状態へと陥るその様子を見れば、彼女の言動が虚勢であったと察するのは容易い。

「社内じゃ専らの噂だったさ。社長とアンタの関係は一方的だってな。あん時ァどうしてか分からなかったが、だけど今なら理解出来る。そりゃあ相手がツクヨミじゃ勝てねぇよな。地球を支えた桁違いの頭脳、その辺の連中みたいに下らねぇ事でキーキー騒がない理知的な性格。最後まで地球を見捨てない献身、優しさ。駄目押しに並レベルをゴミ扱いできる容姿持ってりゃ地球上の女全員が束になっても勝てねぇよ。生身の身体じゃないなんてハンデにもなりゃしねぇ。負けて当然、無駄な努力ご苦労様ってやつだ」

「テメェはさっきから聞いてりゃ、元仲間にしちゃあ随分と冷酷だな!!」

「部外者は黙ってろよ、オッサン。アンタはココの連中とは毛色が違うようだが、首突っ込んだんなら覚悟は出来てんだろ?お前も殺すぞ」

「上等だ。バケモンなら兎も角、人間相手に後れを取ると思ったら大間違いだぞッ!!」

 山県大地の兆発を受け取ったアックスは腰に下げたホルスターに素早く手を寄せる。早撃ち。彼の得意とする分野での抵抗の合図だ。元々はリボルバータイプの銃を愛用していおり、ファイヤーウッドでは負けなしと自負するその腕前は確かに驚異的ではあるが、果たして通用するか。同時、山県大地との話を無言で聞いていたルミナも一触即発の雰囲気を感じ取ると銃のグリップを強く握り込む。

「ックククククッ。ハハハハハハハハハハッ、馬鹿だろテメェ!!」

 そんな態度を、山県大地は大声で嘲笑った。

「お前の身体の大半が生身では無い程度は知っている。だがソレで勝てると思っているのか?」

「いえ……アナタッ、まさかッ!!」

「オイ、何だよ?アイツ何か切り札みたいなモノ持ってるのか?」

「流石は水希さん。元同僚だけあって考える事がよく分かってるなぁオイ!!」

 山県大地は不敵なまでに笑いを止めない。確かに地球で戦った時のままだとするならば、伊佐凪竜一と同等の能力を持つルミナを敵に回すのは愚策以外の何物でもない。何せ地球に於いて彼は二度交戦しているが何れも敗北という形で終わっているのだから。

 勿論、あれから強くなった可能性もあるが、伊佐凪竜一もルミナもそれ以上に強くなっており、言い方は悪いが所詮人間の域を抜け出せない程度では時間稼ぎさえままならない。が、その態度は己が優勢を信じて疑わない。

「じゃあ見せてやるよ。良く見とけよお前等3人と……それと今見てるお前、お前もだッ!!」

 酷く冷静だった。敵が私の存在を知っているなどとうに理解している。少なくともセラフと戦闘行動を行った敵は私の存在に気付いていたのだから、同じ目的で動くこの男も知っていて不思議はない。

 もう、私も無関係では――

 自然と、抑え込んでいた本音が零れる。が、全てを吐き出す前に飲み込んだ。傍と気付いた。ではない、そうだったのだ。事は最初から私に関係あったのだ。私が監視し、見守った旗艦アマテラスは私が望む形に進んでしまった。コレは私の責任だと、山県大地が吐き捨てた"傍観は容認と同じ結果を生む"という意味の言葉は、あの鋭利な言の刃は私に向けられていたのだ、と。

「何を言っている?」

「見ている?一体、誰の事を」

「オイ、出鱈目抜かしてんじゃねぇぞ!!」

「さて、そりゃどうかな。まぁ、ご丁寧に教えるつもりも無いがな。さぁよく見ろ、コレがテメェ等と戦う為の切り札……」

 当然、3人共に混乱するが、山県大地はお構いなしに切札と高らかに宣言した。直後、激しい地鳴りが周囲をあまねく震わせた。まるでその言葉に呼応するかの様に周辺な地響きにルミナは殊更に驚く。

 この中で、彼女だけが地震を経験していないからだ。そもそも悪天候さえ存在しない旗艦の環境にわざわざ地震を起こす様な仕組みを追加する必要など無い。天候の変化は時折降る雨だけであり、それも清潔な環境を維持する事が主目的で有り、更にそれさえも事前に通告が成される。

「オイ、なんで地震が起きんだよ!?」

 人工の惑星に人に不都合な自然現象を再現する必要などないと、アックスは混乱する。

「コレは、何かがココを目指している!!」

 何かわからないにせよ、状況を敏感に察知できるルミナはカグツチの僅かな変化を元に何かが自らの元に向かってきている事を理解した。しかしそれが何か分からない。この状況で何が来るかを知っているのはソレを引き起こす山県大地本人と、そしてその男と同じ結論を導き出した白川水希のみ。

「マジン」

 白川水希の一言に山県大地は子供の様な無邪気で残酷な笑みで応えた。まるで新しく買って貰った玩具を誰かに見せている様な、そんな無垢で屈託のない表情。しかし、その性能は桁違いで、まかり間違っても玩具で済ませて良い代物ではない。何せ地球の神が作りだした対旗艦アマテラス用の切り札なのだから。

「やはりアレか!!」

「2人して納得してねぇで教えてくれや。何だよソリャあ?」

「当時、地球の神だったツクヨミが作りだした切り札。超大量の地球製ナノマシン群体です」

「ナノマシンって、確か治療とかに使ってるヤツじゃないか?何がどう問題なんだ?」

「性能が桁外れているんです。地球に存在する未知の粒子、今現在で言う"ハバキリ"として認識される粒子で動くナノマシンは、連合最強と評されるスサノヲとの直接対決を想定して作られました。必然として倫理観一切を度外視した危険な調整が施され、人の意志に反応し際限無く増殖、制御者がそう望まない限り地球人以外に触れると癌細胞の如く容赦なく侵食し、最終的に無機物有機物の区別なく全てをマジンに変えます」

 白川水希の語りにアックスの表情は瞬く間に蒼白となった。彼はようやく理解した。"地球という未開惑星がスサノヲを擁する旗艦アマテラスを敗北間際まで追い詰めた"というセンセーショナルな報道の影に隠れた真実を。

「オイッ、それ不味いだろ!!つーかそんな代物使って無事で済むのかよ?」

「勿論、使い過ぎれば使用者であっても容赦なく」

「マジかよッ!?」

 旗艦を敗北寸前にまで追い込んだ兵器の存在と、その危険性に彼は苦虫を嚙み潰した様に顔を歪めた。

「当時はその危険性に対して何も感じませんでした。戦わねば地球の通信網を維持するツクヨミを奪われ、全てが崩壊すると知ったから。明らかに地球を見下し、敵意を剥き出しにするアラハバキの態度に交渉は無理だと諦めた経緯も重なって、私達は戦いの道を選びました。他に道があったかも知れない。今ならそう思えるけどあの当時、そんな事を考える余裕なんて無かった。だから、私は悪辣な人体実験にまで手を染めて……全ては勝つ為……だと……」

 白川水希は懺悔するかの様に且つての状況を語る。その様子は彼女が過去を悔いている心境を物語るが、しかし今はそんな状況では無い。マジン自体の危険性もそうだが、より重要な問題が横たわる。何故マジンが存在するのか、と言う問題だ。

 そもそもマジンは白川水希の説明通り、ハバキリを動力源且つ意志伝達手段として使用している。が、そのハバキリは伊佐凪竜一とルミナに全て取り込まれている。エネルギー源の消失により物理法則を完全に無視した性能は発揮せず、意志伝達手段も無いので制御も不可能。半年前とは比較にならない程に弱体化している。と、仮定すると周囲を揺るがす出鱈目な振動の理由に説明がつかない。

 考えられる可能性は1つ、誰かが模倣した。半年前と限りなく近い性能で。でも誰が、どんな技術で?いや、まさか……私の中に渦を巻く疑問が、考えたくない最悪の回答を導く。
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