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薪とか農耕具を片付ける粗末な小屋の中で藁に包まりながらウトウトとし始めた頃、外から聞こえたゴンゴンという大きな音に俺は目を覚ました。なんでこんな場所で寝ているかと言えば、来客用のスペースなんて無い小さな家だから仕方が無いという訳で。だが贅沢は言えないと素直に受け入れ、どうにかこうにか休もうとした矢先の出来事は俺を酷く苛立たせたが……
「この辺で不審な人物を見なかったか?」
続けて聞こえて来た怒気交じりの声に俺の身体がビクッと震えた。不審、そう言われたら今の俺は不審どころではない。見慣れない服装に水が飲めないという特徴は俺達の世界でも問答無用で不審扱いされる自信がある。マズい。あのオッサンは俺を目の敵にしていたから確実に引き渡される。今の状況を完全に飲み込めた訳ではないけど、だが碌な目に合わないだろうという確信はある。世の中の全員がご夫人の様に優しいわけではないという事実は前の世界で身に染みる程に思い知っている。
「知らねぇよ、とっとと出て行けよ!!」
「あのねぇ!!こっちだって好きでこんな辺鄙な場所まで来てる訳じゃ……」
続けて聞こえた口論を聞いた俺は驚いた。最初の声はどう聴いてもオッサンだったが、どうやら俺を庇ってくれているようだった。面倒くさかったのか、それとも外で話している連中と反りが合わないからなのか、だが何れにせよ助かった。
コンコン
直後、小屋の壁を小さく叩く音を耳が捉えた。
(起きてますか?)
続けて囁くような女性の声。
(今、ちょっと面倒なことになってまして。で、ごめんなさい。アナタにはココから逃げて貰った方が良いみたい)
声の主は予想通りあの性格のキッツイおっさんのご夫人だった。説明も大体予想通り、仕方ないと納得した俺は小屋の扉をゆっくりと開け……
「オイ。誰だソイツ?」
目が合った。小さな小屋の前でたむろす鎧を着た兵士の内の1人と目が合ってしまった。ココは本当に異世界なんだと気に掛ける余裕なんてもう無かった。
「チィ!!オイ、アレはどういう事だよ!!」
「知ったことか。貴様等に幾ら説明したところで理解などせんだろうが!!」
「ふざけるなよ、元英雄だからって限度があるんだよォ!!」
「だから言っている!!上の連中は現場の事なんて、約束なんて理解せんとなァ!!」
声高に叫ぶ両者の主張の原因が何なのかは全く理解できない。ただ、何かがあって相当に深い溝が出来ているという、ソレだけしか分からない。だからこんな田舎みないな場所に隠れ住んでいたのかもしれない。が、今の俺にはどうでも良い。死にたくない。何も分からない場所で、何も分からない内に死ぬなんてまっぴらごめんだ。俺はこんな状況でも「元気でね」なんて他人を気に掛ける優しい女性を一瞥すらせずに逃げ出した。
正直、情けないと思う。せめて顔を見て直接感謝の言葉を……そんな気の迷いに足が少しだけ遅くなった直後、背後から金切り声が上がった。男の怒号、困惑する声が幾つも重なる。俺は、俺は振り返った。見てはいけないと、きっと予想通りの光景だと分かっていても振り向かざるを得ず、だから振り返って……後悔した。
あぁ、と自然に諦め交じりの溜息が零れた。見たくもなかった光景を前に自然と手が顔を覆う仕草を取る。仕事仕事の連続でそんな感性など擦り切れていたと思っていたけど、やはりまだ消えずに残っていたらしい。強面のオッサンの奥さんが倒れていた。質素よりも地味に近い茶色の服は赤く染まっている。誰の血かなんて愚問だ。だけど、それでもあの人は俺に力なく微笑みながら口を動かした。
(二・ゲ・テ)
俺は、だけど俺は動けなかった。
「貴様等ぁ!!」
「いや、コレは不可抗力で……」
殊更に酷い怒号が聞こえた直後、無数の金属音と悲鳴が重なり聞こえた。オッサンが力任せに暴れまわっているようだ。今なら逃げられる。逃げるべきだ。だけど、俺は……
「この辺で不審な人物を見なかったか?」
続けて聞こえて来た怒気交じりの声に俺の身体がビクッと震えた。不審、そう言われたら今の俺は不審どころではない。見慣れない服装に水が飲めないという特徴は俺達の世界でも問答無用で不審扱いされる自信がある。マズい。あのオッサンは俺を目の敵にしていたから確実に引き渡される。今の状況を完全に飲み込めた訳ではないけど、だが碌な目に合わないだろうという確信はある。世の中の全員がご夫人の様に優しいわけではないという事実は前の世界で身に染みる程に思い知っている。
「知らねぇよ、とっとと出て行けよ!!」
「あのねぇ!!こっちだって好きでこんな辺鄙な場所まで来てる訳じゃ……」
続けて聞こえた口論を聞いた俺は驚いた。最初の声はどう聴いてもオッサンだったが、どうやら俺を庇ってくれているようだった。面倒くさかったのか、それとも外で話している連中と反りが合わないからなのか、だが何れにせよ助かった。
コンコン
直後、小屋の壁を小さく叩く音を耳が捉えた。
(起きてますか?)
続けて囁くような女性の声。
(今、ちょっと面倒なことになってまして。で、ごめんなさい。アナタにはココから逃げて貰った方が良いみたい)
声の主は予想通りあの性格のキッツイおっさんのご夫人だった。説明も大体予想通り、仕方ないと納得した俺は小屋の扉をゆっくりと開け……
「オイ。誰だソイツ?」
目が合った。小さな小屋の前でたむろす鎧を着た兵士の内の1人と目が合ってしまった。ココは本当に異世界なんだと気に掛ける余裕なんてもう無かった。
「チィ!!オイ、アレはどういう事だよ!!」
「知ったことか。貴様等に幾ら説明したところで理解などせんだろうが!!」
「ふざけるなよ、元英雄だからって限度があるんだよォ!!」
「だから言っている!!上の連中は現場の事なんて、約束なんて理解せんとなァ!!」
声高に叫ぶ両者の主張の原因が何なのかは全く理解できない。ただ、何かがあって相当に深い溝が出来ているという、ソレだけしか分からない。だからこんな田舎みないな場所に隠れ住んでいたのかもしれない。が、今の俺にはどうでも良い。死にたくない。何も分からない場所で、何も分からない内に死ぬなんてまっぴらごめんだ。俺はこんな状況でも「元気でね」なんて他人を気に掛ける優しい女性を一瞥すらせずに逃げ出した。
正直、情けないと思う。せめて顔を見て直接感謝の言葉を……そんな気の迷いに足が少しだけ遅くなった直後、背後から金切り声が上がった。男の怒号、困惑する声が幾つも重なる。俺は、俺は振り返った。見てはいけないと、きっと予想通りの光景だと分かっていても振り向かざるを得ず、だから振り返って……後悔した。
あぁ、と自然に諦め交じりの溜息が零れた。見たくもなかった光景を前に自然と手が顔を覆う仕草を取る。仕事仕事の連続でそんな感性など擦り切れていたと思っていたけど、やはりまだ消えずに残っていたらしい。強面のオッサンの奥さんが倒れていた。質素よりも地味に近い茶色の服は赤く染まっている。誰の血かなんて愚問だ。だけど、それでもあの人は俺に力なく微笑みながら口を動かした。
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俺は、だけど俺は動けなかった。
「貴様等ぁ!!」
「いや、コレは不可抗力で……」
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