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カルナ村にて
その3 ちょっと不思議な竜のお話
しおりを挟む「ところでその…… 竜岩洞の奥の祭壇ってのには、行かなくても問題ないんですかね? その子、そこで隠された力に目覚めるとか伝説の武器を貰うとか何かと契約するとかじゃないんですか?」
湧き水は冷たくて美味しかった。 目が覚めましたよスッキリと。
ちょうど畑の桃が良い感じに出来上がってるから、冷やしておいて帰り道に食べよう。
『あそこねー…… 祭壇があるにはあるんだけど、実は何の力もないのよねー…… 本当にただの度胸試しでしかないのよ』
「やる前から徒労感が留まる所を知らないんですが!?」
なんなんだよ、そのルルカンって村は! なんなんだよ、今度の勇者候補様は!!
『あの子、名前はレイシアって言うんだけど、先祖返りに近い突然変異型みたいでね?』
レイシアねえ…… 名前は無駄に可愛くていらっしゃる。
「あー…… なんでか普通に暮らしてても元々そこそこ強い上に性質が悪い感じのアレかぁ。 戦ったら戦った分だけどんどん強くなるんでしたっけか?」
って事は、今期の魔王は指揮型ってことか。 そういえば、さっき戦力蓄えてる最中とか言ってましたねぇ。
『それね。 生物的にどうしようもない限界はあるんだけど、竜に蹴られてもどうにか生き残れるぐらいまでは強くなれる筈よ。 それに、あと三年ちょっとぐらい後になるけど、とある旅の老剣士があの村に立ち寄る流れになっててね? それであとは……』
なるほどなるほど…… そこからはトントン拍子の勇者道が始まるっていう、よくある流れな訳ですか。
しかし、ちょいちょい話に出てきますが、竜って結局どんだけ強いんですかね? もう魔王とかも竜に任せておけば良いんじゃないのかなぁ……
『竜は、ねぇ…… 貴方にはその内教えておかないといけないと思ってたんだけれど…… そうね。 今度のお願いは正直最悪の事態も考えられるから、今教えておくことにするわ』
なにその言い回し。 聞いても大丈夫な話なんだろうな? 聞いたら命を狙われるようになるとか、そーゆーのじゃないだろうな!? ないよね!?
『この世界は今、私たち神が住んでいる天界と、貴方たち人が住んでいる人界。 それに邪神たちが住んでる魔界が層のように重なって出来ているのは知っているでしょう? この三つを合わせて三界って呼んでいるのだけれど、イメージ的にはサンドイッチとか菱餅みたいな感じよね』
ええ、はい。 そうですね。 ヒシモチは知らないけど。
『それで、層のように重なっていて、とても近くに見える世界なんだけれど…… その間にはしっかりとした境界が存在しているわけ。 貴方たち人や私たち神も邪神も含めて、私たちはかなり特別な手段を取らない限り、この三界の境界を通り抜けて行き来することが出来ないのも知ってるわよね?』
「ああうん、確かに。 声を届けたり眺めたりすることはそれなりに出来るけど、実際にこっちに来たりしようとすると、面倒臭い手続きだとかとんでもない力だとかエネルギーだとかが必要…… なんでしたっけ?」
『そう。 よく勉強してますねー。 えらいえらい』
全部女神様の受け売りなんですけども、ハナマルでもくれるんですかね?
『それで、私たちはこの三界の間をそうそう移動できない筈なんだけれど、何故か竜たちは移動出来てしまうのよ。 しかも簡単に。 殆ど負担なんて無しでニュルっと』
へぇ~ ほほ~ それは初耳。 ニュルっとですか。 ニュルっと……
『……でね? 昔その辺りの原因というか理由というか…… そういう事について研究をしていた神がいたの。 なんでそんな風にすいすい移動できてしまうのか? そして、なんで竜たちは簡単に神や邪神たちまでをも殺して食べてしまえるのか?』
あ、神様とかって食べら…… え?
『竜たちは自分の意に沿わないことがあったり、自分に危害が加えられるようなことがあれば簡単に三界の境界を越えてやってきて、息をするように神を殺すし、邪神だろうと平気で食べてしまうわ』
「……美味しいんですかね?」
あれ? この話、これ以上聞いたら不味いんじゃないか? 嫌な予感しかしないんだけど!?
『まあ、殺すとか食べるとか味とかは置いておいて…… とにかく、そんなちょっと不思議な竜について研究をしていた神がいたの。 それで、研究して研究して…… ある時気付いてしまったのよ』
ちょっとどころじゃないだろう、その不思議さは。
「……な、何に、でしょうか?」
体動かしてるってわけでもないのに心臓がものすごい早さで動いてる。
これ、本当の本当に聞いたらヤバイ話なんじゃないだろうか?
『知ったところで特になんの問題も無いから大丈夫よ』
うぅむ…… 問題は無いかもしれないけど、人生観とかがゴリっと変わっちゃう話なんじゃないのかなぁ。
額に浮いた油っぽい嫌な汗をシャツの裾で拭っていると、『ところで』と女神様が続けた。
『貴方は人族や獣人族の神の名前を知っている?』
おや? なんで今更そんな常識を?
「人族の神はアルマデウス様で、獣人族の神はステラデウス様ですよね?」
『四大氏族の残り二氏族の神も知ってるわよね?』
そりゃまあ、一般常識ですし…… 精霊族と魔族の神で良いんでしょう?
『正解。 じゃあ、竜たち…… 竜族の神の名前を知っていて?』
んん?
「竜に神は居ないんじゃないですか? 聞いたことないですし」
『何故居ないと思うの?』
何故? 何故って言われてもなぁ…… 本当に聞いたことないし……
いや、それでも居る? 居るのか? 竜の神様……? 想像がつかないんだが。
『ええまあ、居ないのよ。 竜たちに、竜という生き物の上に神は存在しないわ』
「ですよねー」
『でもね? その神は研究を続ける内に解ってしまったの。 竜は、竜たちは貴方たち人や私たち神よりも、そして勿論、邪神たちよりも、この世のどんな生き物が生まれるよりも前からこの世界に居たんだって。 それでも彼らに神は居ないの。 私たちよりもずうっと昔から生きてきたのに、自分たちの上にそれを創造した神を持たない。 でも、この世界の原理から考えると、自分たちを創造した神を持たない生き物なんて存在しない筈なの』
またまたご冗談を……
『貴方たち人族だろうと他の四大氏族だろうと、動物や草や木や花や…… この世のありとあらゆる生あるものには、それを創造した神が存在しているわ。 いえ、存在していないといけないの。 なのに、彼らにはそれが無い』
「はあ。 どんな生き物でも、その上にはそれを創った神様がいる。 偶に坊さん連中なんかが言ってることですね」
邪神の人らの方で創った…… なんてことは…… まあ、無さそうですね。
『邪神の人って…… 面白い言葉を使うわね。 でも、そうね…… 邪神共が竜を創っていたのなら、当の昔に竜に命令するなり何なりして天界を滅ぼさせているはずよ。 生き物は自らを創造した神には逆らえないわけだからね。 あいつらがそれをしないという事は、そんなことが出来ない。 する権利がないからで間違いないわ。 つまりこれがどういうことかと言うと……』
うっわ、聞きたくねえ。 超聞きたくねえ!
『竜には神が居ないのではなく、竜自体が既に神や邪神と同じようなもの…… 否。 少なくとも同格か、その上にあるような存在なのよ。 そしてこの世界。 私や貴方の生きているこの三界は、元々は竜たちだけが住んでいた世界である可能性が高いわ。 私はこの世界で生まれた比較的若い神だから本当の最初のことはわからないけれど、ここは恐らく、竜を頂点に形成されている世界と言って良いんじゃないかしら』
うーわー……
『貴方たち人界の四大氏族は勿論、私たち神や邪神も、基本的には竜たちよりも後にやって来た、謂わば余所者か間借り人で、それ故に、そのどれもが彼ら竜の下にある世界』
嘘だと言ってよ賢者様!
『そうして、研究を終えた神は最後に言ったわ。 ここは竜による竜のための世界。 竜薗なんだって』
…………
「あっあああああんた! そんなんでよく俺にこんな役目振ろうと思うよな!!」
死ぬじゃん! 死んじゃうじゃん!! うっかり竜となんか出くわしたらどうしようもねえじゃん!?
大昔に一回だけ出くわして見事に死に掛けたけど、今こうして生きてるのとか奇跡じゃん!!
『うん、まあ、最悪…… ね? だからこうして教えてあげたんじゃない。 ってゆーか、よく生きてたわね。 ちょっと驚いたわ』
「ふらふら旅暮らししてた頃に何処だかの峠で…… あれは多分、でっかい地竜だったのかな? そんなのとばったり出くわして、イキナリだったからお互いどうしたもんかと暫くお見合いしてたんだけど、いっそ軽い笑いでも取れないもんかと、オッス!って挨拶してみたら……」
前足で横からぺしってやられて、ありえないぐらい吹っ飛ばされて、気付いたら馬鹿みたいに深く土の中に埋まってて、動けるようになるまで半月もかかったぐらいの大怪我貰ったんだよなぁ…… ホントによく生きてたな俺。 飛ばされた先が土じゃなくて岩とかだったら本気でヤバかった。 危うく真っ赤な染みになるところだったんじゃないか?
『貴方…… たまにどうしようもなく阿呆よね』
「思い返してみるとそう思うことがままあることについては否定できない」
しかしホントにどうしたものか。 竜は流石にキツイなぁ。
『竜はねぇ…… 担当の神が居ないってことは、つまり神のほうからは一切支配も命令も出来ないってことだから、特別な伝手でもない限りは、上手くいったとしても『お願い』ってかたちでしか話が出来ないのよね。 まあ、その辺は貴方も大して変わらないわけだけれど』
扱き使っておいてよく言うもんですねえ。
『否と言えない貴方が好きよ』
全く以って嬉しくないのは何故なのか……
『でもまあ、今回は多分大丈夫よ。 竜っていうのは棲み処に無断で侵入したりしない限りは襲ってきたりしないもの。 基本的には他の生き物にあんまり興味が無いの』
フムフム……
『だから突然あの竜岩洞から出てきて村を襲ったりすることはないだろうし、もし中に入ってしまったりしたとしても、棲み処にしてる三層より下に降りてしまわない限りは大丈夫な筈』
「筈…… ですか」
『筈…… よ』
「っはぁ~~~~~~~~~」
まあ、やるしかないか。 これ放置してレイシスって子が死んじゃったりした日には後味悪いなんてもんじゃないし、戦争始まるにしても、勇者不在で長引かれたり魔族に負けたりしたら本当に洒落にならないしなぁ。
「はいはい、やりますよ。 どうにか上手いこと頑張らせていただきますよー」
『そう言ってくれると思ったわ。 いつもありがとう。 どうかあの子を助けてあげて』
「来月かぁ…… この距離だと二日…… いや、三日は考えとかないと駄目かなぁ」
来月の半ばに三日も時間を作るとなると、今やってる開墾組が終わってからの仕事も考えたらかなりギリギリなスケジュールを組む羽目になりそうだ。
よく冷えた桃をしゃぶしゃぶと齧りながら隠れ家からの帰り道に地図を眺めていると、そう遠くない場所から狼の遠吠えが聞こえた。
甘く柔らかな果肉が口の中で蕩けて、なんとも幸せな気分にしてくれる。
ここ十年ほどはイマイチぱっとしないものが多かったが、今回の配合はなかなか良い正解を引けたようだ。
近い系統の株を使ってもう少し試してみたら、面白いものが出来上がるかもしれない。 期待が高まってきましたよ?
『貴方は本当に果物好きよねー』
もしも酒か肉か果物の中のどれか一つでもこの世から消えたなら、その日の内に首を括る自信がありますよ?
『そっ、そう……』
狼たちは気配からするとこちらを狙っている訳ではなさそうだが、少しばかり気になることがある。
遠目にちらっと見えた尻から二本の尾が生えていたところからすると、どうもあれはマルタ狼という奴なんじゃないだろうか? 丸太じゃなくてマルタ。
月明かりの中、今こうして俺が歩いている森は、世間ではマルタ大森林と呼ばれているちょっとした秘境のようなものであるらしい。
その森の名を冠されたマルタ狼という名の狼は、森の中に棲む獣たちの中でも一番上の辺りに君臨している恐ろしく強い狼なんだとか。
今まで実際に見たことなんて無かったから本当にそうなのかはわからないが、魔獣の半歩手前とかいう噂の物騒な狼で、群れで行動すれば勿論強いが、単体でも熊を楽々狩ってしまうんだそうな。
それは果たして本当に狼なんだろうか?と疑問に思えてならないところだが、荒事の専門家とも言える様な冒険者連中ですら恐れて避けて通ると言うのだから、極力関わり合いにはなりたくないものだ。
まあ、明日も早いんだからとっとと帰って寝てしまおう。
『狼って見た目は結構可愛いのにねぇ』
その感性にはイマイチ賛同できかねます。
『……猫派なの?』
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