お前んトコの親父さん、異世界で男の娘になったってよ。 ~もし妻と子供達に知られたら、俺はその場で舌を噛んで死ぬ~

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転生:幼年期編

その2 出産祝いにはもう少し気を使って欲しかった。 本当に。

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 あれから三年あまりの月日が流れた。
その間に解った事、驚いた事が山ほどあるのだが、その中でも特筆すべきは、此処が何処か?という事だろう。
転生して一年ほどが経過するまで、てっきり俺は、ここは欧州あたりの旧い街並みの残る片田舎か何かだとばかり思っていたのだが、現実は斜め上なのか下なのかわからないが、兎に角、自分の想像していたものの範疇には収まらないものだった。
どうやら此処は、前世で俺が生きていた地球とは別の惑星、もしくは別の世界であるらしい。
この辺りの正確な事は、もっと詳しく調べてみないと解らないのだろうが、とりあえず、此処が地球であったのならば、夜、見上げた空に月が欠片も見当たらなくて、その代わりとばかりに馬鹿でかい城が浮かんでいるなんてことは無い筈だ。
有名どころで言うと、ノイシュヴァンなんたらだとかアルカサル城だとかに似た雰囲気の巨大な西洋風の城が、月光にも似た控えめな輝きを放ちながら夜空に浮かんでいる様には、今でこそ「ああ、今日も綺麗だなー」と暢気に眺めていられる程度に慣れもしたが、初めて目にしたときには、眼を擦りながら三度見直したぐらいに違和感しかなかった。
あれが恐らく、この世界においての月のようなポジションにあるだとは思うのだが、前世の地球での感覚と照らし合わせてみると、あの城は、ひょっとしたら月と同じぐらいの大きさなんじゃないだろうか?
つまり、途轍もない大きさのお城が一日の半分ぐらいの時間、自分の頭の上に浮かんでいることになるのだが、誰もそれを疑問にも不安にも思っていない様子なのが不思議でならない。
母から「あそこには神様たちが住んでいるのよ~」なんて教えられはしたものの、それはそれでまた別の不安があるような気がすると言うか何と言うか……
当然の事ながら、そもそも月という概念自体が存在しなかった。 「月は何処にあるのか?」と訊ねてみれば、誰もが「何言ってんだ?コイツ」みたいな顔をして首を傾げるばかりなので、もう月の事は口に出すまい。 と、独り涙した夜も今では良い思い出である。



 そして、もう一つ大きな事を挙げるとするならば、人々の生活の根幹を支えている技術の一つとして、魔法が存在するという事だろうか。

魔法…… この世界に存在する生きとし生けるもの全ての中にあると言われている、魔力マギニスと呼ばれる何かエネルギーを操って、様々な現象を引き起こすことが出来ると言う、つまりは超不思議技術である。
つい先日ようやく三歳になったばかりの自分には、まだ早すぎると言われて触れる事が許されていないものではあるが、やがては学べる時が来るだろう。 今からその日が楽しみでならない。
前世は五十手前の中年親父だったとは言っても、カメハメ波やドドン波、舞空術ブクウジュツ霊丸レイガン爆裂ダムドまでは試してみたことのある口である。 現実の世界でそれに近しいような事が出来ると言われたならば、色々と期待してしまっても仕方ないだろう。

まあ、それらはそれらでとても大きな事柄であることは確かなのだが、今、現在進行形で圧し掛かってきているとある現実について、これから如何にしてこれを乗り越えていくかが問題だ。



「はいっ! そしたらニアちゃん、くるっと回ってみて~?」
「あいっ」
手を出したくて仕方が無いのであろう女性使用人メイドさんらがそわそわと壁際で控える中、手ずから俺を着替えさせていた母の満面の笑みを浮かべながらのリクエストに元気良く返事をし、言われたとおりにその場でくるりとターンを決めて万歳をしてみせる。
家族の間でも挨拶と返事はとても大切なことだ。 決して疎かにしてはならない。

「はうっ! はあああぁぁぁ~ん!! 可愛いっ! 可愛いすぎるわニアちゃん!! もう、どうしてこんなに可愛いのかしらっ!」
喜色満面で自分を抱きしめる母の温もりと匂いに強烈で問答無用の安堵を覚え、危うくそのまま流されてしまいそうになったものの、ぎりぎりで踏みとどまってどうにか口を開く。

「かあしゃ…… おかあしゃま、ゆく…… ゆっ、ゆくしゅにあ、は、おとこのこのふくが、きたいのでしゅ…… です。  ゆく、すにあはおとこのこなのに、なじぇ…… なじぇ、いつも、おんなのこのふくばかり、なのでしゅ…… しょう、か?」
未だ上手く回らない舌がもどかしくてならないが、どうにか言い切った。 言い切ることが出来た。
今の今までどうしても言い出すことが出来なかったのだが、ついに言うことが出来た!
これで漸くアンティークの西洋人形みたいなふりっふりのスカートや、明らかに女児用としか思えない下着類から解放され━━

「あら? ヤだわニアちゃんったら…… そんなのダメに決まってるじゃない。 前にも言ったと思うけれど、ニアちゃんは大人になるまで女の子の格好をしていなくちゃダメなのよ? 神託でそう決まっているの。 だ~か~ら~。 ニアちゃんはこれからもず~っと可愛い女の子の服を着てなきゃいけないのよ?」
「……ファ?」

 間抜けな声を出して口を半開きにしたまま固まった俺がぎこちなくも再び動き始めるようになるまでには、優に十分以上の時間がかかっていたと思う。



 俺が固まっている間に母が聞かせてくれた話を要約すると、この世界には、とても沢山の神様がいて、各々に何か一つの事象を司っているんだとか。
そして、人間の子供が産まれると、子供一人につき必ず一つ、その神々の内の何れかから神託とやらを授かるのだそうな。
沢山の神様と言うのは前世の日本で言うところの八百万の神々みたいなものだろうか?
子供一人一人に態々神託をくれる程身近に存在していると言うのであれば、もしかしたら実際に出会ったりすることも出来るかもしれないので、一度くらいはお目にかかってみたいような気がしないでもないが、それは置いておいて……

 神託というのは、それこそ産まれてきた子供の人生に大きな影響を与えるようなものから、何かに使えるんだか使えないんだかも解らないちょっとした豆知識のようなものまで千差万別で、言ってしまえば神様達からの出産祝いみたいなものであるらしい。
中には、無視したり忘れてしまったりしても特に問題が無いものも多くあるそうで、だったら俺の神託も無視してしまえば良いじゃないかと思ったのだが、母が言うには、俺が授かった神託は絶対厳守を厳命されたものだったらしい。
一体何の恨みがあってその神様が俺にそんな嫌がらせめいた神託を下してくれたのか解らないが、「もし、この神託を守らなかった場合、それはそれは恐ろしい事になってしまうのよ」と、母がこの三年で一度も見たことの無いような真面目な顔で青褪めながら語るものだから、釈然としない部分はあるものの、黙って従っておいた方が良いような気がした。
神様だの神託だのと、前世ではまるで縁の無かった事である上に、今生でも今のところ情報が少なすぎて自分だけでは判断のし様が無い。
この世界での成人というのがいくつになるのか解らないが、あと二、三年ぐらいであれば現状のままでもそこまでの不自由はないだろうし、一先ず様子を見るとしよう。



「それじゃあニアちゃん。 お父様も誘ってお散歩に行きましょうねー」
「あいっ」
我が子を上手く納得させることが出来たと思ったからか、満足そうな笑みを浮かべながら手を引く母に元気の良い返事を返し、引かれるままに部屋を出る。
一定の距離を空けながら後ろからついて来る女性使用人メイドさん達の気配を背中に感じながら廊下を歩き、曲がり角にある姿見に映った自分の顔を横目に通り過ぎて父の居る執務室へ。

 少し前、転生してから初めて鏡を見たときから気になってはいたが、鏡に映っていたそれは、少々懐かしくも疎ましい、遠い記憶の中にある顔だった。
髪の色がプラチナブロンドとか言う白に近い金色で、瞳の色が銀青眼とか言うらしい少々形容し辛い色━━銀の塗料に青を足して中途半端に攪拌したような色で、綺麗と言えば綺麗な色なのかも知れないが、人によっては気持ち悪いとか怖いとか思うかも知れない色━━をしている以外は、正直なところ甚だ不本意でしかないのだが、この顔貌カオカタチには非常に見覚えがある。



 三歳と言う、性徴の一つも迎えていない年齢にあることを鑑みたとしても尚、男性性を微塵も感じることの出来ない、十人中十人が女児としか見ないであろう無闇矢鱈と愛らしい丸い顔。
今生でも母をはじめとした家族一同に使用人までも含めた皆から可愛い可愛いと日々絶賛され続けるは、前世で俺が同じくらいの歳の子供だった頃の顔と、まるで瓜二つと言って良いほどに酷似しているのだった。



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