ゆで卵の薄皮が上手く剥けなかったので、とりあえず人類を滅ぼすことにした。

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ゆで卵の薄皮が上手く剥けなかったので、とりあえず人類を滅ぼすことにした。

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 とにかくイライラしていた。
何故かって? 朝ごはんを彩る一品にと思って茹でた卵の薄皮が、全くと言って良いほどにサッパリ上手く剥けなかったからだ。
沸騰させたお湯にほんの少しの酢を入れて、お尻に針で小さな穴をあけた卵を、割れないようにお玉でそっと沈めて待つこと七分と少々。
茹で上がった卵を冷水に晒し、冷めるまでの間に洗い物を済ませて、あとは殻を剥くだけの筈だった。
それでいつものように程好い茹で具合のゆで卵が、ささやかな朝食を彩る一品としてテーブルに並ぶ筈だった。
にも拘わらず、これである。
伝家の宝刀スプーンで満遍なくヒビを入れ、いつものように冷水の中で若干尖った方から殻を剥き始めたのだが、殻だけは僅かながらに剥けるものの、一体何が彼ら(?)をそこまで意固地にさせたのか、卵の薄皮たちは白身に喰らいつかんばかりに貼りついて、まったくと言って良いほどに剥がれない。
これ以上の力を籠めてしまったら割れる崩れるといった限界を見極めながら根気よく殻を剥いていくも、薄皮だけは一向に白身から剥がれる気配がない。
それでも自分は頑張った。
殆どの殻は剥き終えて、卵の表面には僅かに細かな欠片が残るのみ。
だというのに、薄皮だけは健在という異常事態。
自分の中で何かが切れそうになるのを必死に堪えつつ、二つ目の卵へと手を伸ばす。
そう。 卵は二つ茹でたのである。
再びスプーンでヒビを入れて、丁寧に殻を剥いていく。
なんとなく予感はあったが、実際にそれが目の前で起こってしまった場合に耐えられるかどうか……
まあ、結果的に言えば、どうにか耐えることは耐えた。
問題は、殻だけを綺麗に剥ぎ取られ、薄皮だけに包まれた二つの丸い物体だけだった。
しっとりとしていながら艶を持たない卵型の何か。
ある意味、普段の生活の中ではなかなかお目にかかれないであろう異様かつ珍しい物体だったが、しかし、それは自分の求めているものではないのだ。
このまま口に入れてしまえば、普段全く食べ慣れていない薄皮という異物が、咀嚼する毎に口内で頼んでもいない存在感を発揮して、きっと愉快ではない気持ちになる。
薄皮を、剥かねばならない。
意を決して卵を手に取り、全体を見回して、ほんの少しだけ薄皮の弛んでいる部分を見つける。
爪の先で慎重に摘まんで引っ張ると、それは思いのほかあっさりと、卵の半ばぐらいまで一気にべろりと剥けた。
裏側に大量の白身を貼りつかせたままで……
まるで初めから決まっていたことのように、二つ目の卵も同じ道を辿った。



 イライラを募らせたままではよろしくない。 と、とある深い森の中を気分転換に散歩していたところ、突然、頭の横で爆発が起こった。 火花というには大きすぎるし、明らかに自分の頭よりも大きな火の玉のようなものが一瞬見えたのだから、きっと爆発だったのだろう。
のんびりと森林浴に興じている内に、いつの間にやら何者かに囲まれていたらしい。
一、二、三、四…… なにやらたくさん。 空を埋め尽くす勢いでどんどんとやって来て今も尚増え続ける飛行機械やら、大地を走る鉄箱やら。 なるほど…… これは人間たちか。
今はちょっと機嫌がよくないから、あまり関わり合いになりたくはないのだが、一体何の用だろうか?

 其処彼処で飛び交っている電波やら念波やらを聞き取ってみるに、端的に言うならば、この人間たちは自分の身体を目当にして集まっているらしい。
人間たちからすると自分のこの身体は、爪だろうが牙だろうが角だろうが血だろうが骨だろうが鱗だろうが肉だろうが、余すところなく役に立つ、とても貴重で有用な資源であるのだとかなんとか。
そんな貴重資源の塊が、今日突然、百年ぶりぐらいに発見されたものだから、「この機を逃してなるものか!」とばかりに、今この時にも続々と世界中から集まり続けているのだそうだ。
まあ、そういう話は昔からよく聞いていたので、いつもは出来る限り人間たちには見つかり難いところをふらふらしているのだが、今日は少々気分転換が過ぎてしまったようだ。 もう少し深いところを歩くべきだったか。
いや、それ以前に、出歩くならば人の姿で出歩くべきだった。
その辺をすっかり失念していたあたり、自分で思っていたよりも精神的に極まっていたのかもしれない。 なんにせよ、今度からはもう少し気を付けよう。



 それはさておき、そろそろ人間たちが鬱陶しい。
どかどかばらばらずびびびびー!!っと先ほどからミサイルだとか機銃だとか大砲だとかレーザーだとかの機械兵器に混じって、最近めっきり見なくなっていた魔術なんかもちょこちょこと撃ち込んできているのだが、これがまあ喧しい。
いい加減に諦めてくれないものかと、呆れ気味に周囲を見回してみれば、あれだけ鬱蒼としていた深い森が爆炎や衝撃波なんかですっかり根こそぎ吹き飛ばされてしまい、見渡す限りの荒野となり果ててしまっていた。 なんでこう、人間ってのは加減を知らないものなのだろうか……

 昔は良かった。
美味しい食べ物をくれたり一緒にお酒を飲んだり、面白い話を聞かせてくれたり。
人間たちでは手に負えない外敵から守ってあげたなら、感謝ぐらいはしてくれたものだった。 いや、感謝してくれるのは良いのだけれど、生贄とかは要らないです。 人間って正直美味しくないので。
つい四日ばかり前にも、三つ隣の世界からナントカ大帝のゲドゥナントカいう変なのが魔神だとか邪神だとかをごちゃ混ぜにした四十億ぐらいの軍隊を引き連れて人間狩りにやって来ていたから、「ああ、これは放っておいたら大変なことになるなあ」と思って半分ぐらい消し飛ばして追い返してあげたのに、礼の一つもないどころか、出会い頭にこれである。
あっ、ちょっと待った。 その反物質弾頭だの縮退爆弾だのは危ないんじゃないかな? 主にキミらの方が。



 爆発なのか、それとも別の何かなのかよくはわからなかったが、世界がとんでもなく眩しく光ったかと思ったら今度は急に暗くなって、ついでにものすごく揺れたような気がしたと思ったら、いつの間にやら地面のかなり深いところまで落っこちていた。
結構な熱も発せられていたようで、足元では土や岩や鉱物だったものが明るく光りながらシチューのようにぼこぼこぐつぐつと煮立っている。 あ…… クリームシチュー食べたいな。 コーンがたくさん入ってるやつ。

 下手な海なんかよりもずっと深い地の底から、よっこらしょっと地上に戻ってみると、案の定、自分を取り囲んでいた人間たちの軍隊みたいなものは、その殆どがいなくなってしまっていた。
爆発に巻き込まれて吹っ飛んだとか消し飛んだとか墜落したとか、きっとそんなところだろう。
なんと言うか…… しばらく放っておいたら勝手に滅んじゃうんじゃないかな? 人類。

 そんな中、いくらかの人間たちがお得意の乗り物にも乗らず、徒歩で自分に向かってくるのが見えた。 百よりは多いだろうけど、多分、千人はいない筈。
遠目に見たところ、剣を持っていたり杖を持っていたり、鎧を着ていたりローブのようなものを羽織っていたり…… これは、人間の中でもちょっと独特なこの気配には、なんとなく覚えがある。
勇者とか英雄とか呼ばれることがある、ちょっと強い人間たちだ。
ミサイルだの何だのを散々撃ち込んだ後に人力(?)というのは少しばかり首を傾げたくなるところかも知れないのだけれど、実のところ、自分に戦いを挑もうと思うのならば、それが一番効果的ではあるだろう。
特にこれといった特殊な障壁だのヒネくれた概念だのに守られているだとかではないのだが、ミサイルだとか銃弾だとか爆弾だとかビームだとか、そういった科学・機械兵器の類では、生まれてこの方、ダメージと言えるようなものを受けた記憶がないのだ。 単純な話、攻撃力が足りていないのだと思う。
しかし、不思議なことに、人間の戦士とかが扱う剣だとか槍だとか、そういったもので攻撃されると、当たり所によってはほんのり痛い。 純粋な攻撃力で言えばミサイルとか爆弾とかの方がずっと強いはずなのだが…… 魔力とか気力とか、そういう感じの何かが作用しているような気がする。
ただ、彼らは自らが相対しようとしているこの自分という存在のことを、キチンと理解した上で挑んで来ているのだろうか? そこのところが少しばかり気がかりだったりするのだけれど、まあ、今更どうでもいいか。

 そんなことを考えている間にも彼らとの距離はじわじわと詰まっていき、そろそろ百メートルを切ったくらいだろうか。 人間たちの先頭にいる騎士のような出で立ちをした男が剣を抜き放って雄たけびを上げた。
そして踏み込んで駆け出す。 おお、これはなかなか速い速い。 音の速さをあっさりと超えて、変な光と衝撃波みたいなものを纏いながら突っ込んでくる。
他の人間たちも一斉に行動を開始した。
同じように武器を手にして駆け出す者、魔術の詠唱を始める者、弓を番えて引き絞る者、何かを投げつけようとする者、気配を周囲に紛れさせてこっそりと背後から近寄ろうとする者……
彼らはとにかく様々な手段で自分に襲い掛かってきた。
不自然に黒い炎を噴き上げてる気持ち悪い気配の剣には出来れば触りたくないし、バチバチいってるあのでっかい戦鎚ハンマーで殴られたりしたらちょっとびりっとしそうで嫌だ。 うっかり矢が目に入ったりしたら痛そうな気がするし、変な薬品なんかをかけられたりしたらニオいそう。
なので、まずは第一圏の展開を宣言した。
無価値の世界ダストサークル



 知り合いからは頭が痛くなりそうな解説を延々と聞かせられたことがあるが、物心の付いた時から使えている自分でもなんだかよくわからない力なので、原理だの何だのという小難しいことは何一つわからない。
簡単に言うならば、第一圏『無価値の世界』はあらゆる物の価値を失くさせる。
自分を中心に範囲は最大で七万光里コウリぐらいの円形で、対象は大雑把にだけどそれなりに指定したりもできる。 精神力とか魔力とかで抵抗すれば防ぐことも出来るらしいが、この世界の人間相手に使ったことは殆どないので、どの程度抵抗レジストされるかはちょっとわからない。
これを防げなかった場合、この範囲にある対象の無生物は、その価値を失い、性能や特性等を喪失することになる。
剣であれば刃が全く切れなくなり、振り上げただけで折れるか砕ける。
鎧であれば紙切れよりも脆くなり、ちょっと動いただけでそこら中が壊れてしまって、動くこともままならなくなる。
毒物は何の害も成さないただの液体になり、弓であったなら引いても弦が切れるか、引けても矢は前に飛ばず、凡そ武器や防具といった物は、どんな物であれ、ただ『そういう形をしているだけ』の飾り物のようになってしまう訳だ。
そしておそらく、人間たちにとって何より厄介なのは、武具・道具類だけではなく、衣類だろうとこの効果からは逃れられないということなんじゃないかと思う。
衣類がこの『無価値の世界』の効果を受けてしまうと、ほんの少しの身震いをしただけでも破け散ってしまいかねないほどに脆くなってしまったり、縫い目が問答無用で全部ほどけてしまったりするので、ほんの二、三歩歩いただけで素っ裸になってしまいかねない。
大抵の人間は裸では生きられない生き物だ。 身体自体が衣服がなければちょっとしたことですぐに怪我をしてしまうほど脆くできている上に、羞恥心だとか何だとか、色々と面倒なものを持ってしまっている。 難儀なものだ。
現に、さらっと見回してみただけでも、走っていた勢いのままいきなり転がって丸くなったきり起き上がらなかったり、その場で蹲ってしまった人間が結構いた。
自分に向かってきている人間たちがすっぽりと収まるように半径一キロぐらいで展開してみたが、とりあえずこれくらいで十分だろう。 それでもさすがに全員抵抗失敗なんてことはないだろうけれど…… さて、どのくらい残ったかな?

 剣を持ってるのが二人に槍が一人。 こちらに向かってきていた大勢の人間たちの中から、三人だけがそのままの勢いで突っ込んできた。
飛んできた矢は五本。 魔術は小さな氷の塊みたいなのが一つひょろひょろと飛んできたきり。
もう少し残るかと思っていたのだけれど、思ったよりも削れてしまったようだ。
まあ、せっかくなので第二圏も展開してみよう。
全灰領域アッシュスクエア



 第二圏『全灰領域』は『無価値の世界』よりもちょっとだけ性質タチが悪い。
これは自分を中心に四角く展開されて、範囲は『無価値の世界』の内側であればいくらでも。
発動の前提条件として先に『無価値の世界』を展開しておく必要があるのだが、他には特に
そして、その効果は『抵抗に失敗すると灰になる』である。

 もう五メートルも離れていないところで、何やらカラフルなエネルギーを吹き出しながら剣を振り下ろそうとしていた鎧の男二人と、炎を纏った槍をぐるぐると振り回しながら突き込んできていた女一人。 そして今、正に自分の身体に触れるか触れないかというところにまで迫っていた矢と氷塊が、白い灰になって崩れて消えた。 抵抗レジストに失敗したようだ。 まあ、気持ち強めに展開したのだから妥当なところだろう。
今展開した『全灰領域』は一辺が三十メートルぐらいの小さなものだったので、他に影響を受けた者は居なかったわけだが、残り、まだ千人ぐらいいるんだよね…… どうしたものかなぁ。
風に流されて散っていく灰を眺めながら周囲の様子を窺ってみる。
いつの間にやら、水を打ったような静寂が辺りを満たしていた。

 現在、自分の周りを囲んでいる人間たちは、仮に、それが戦うことに関してだけだったとしても、人間の中ではそれなりに優秀な部類の者達であるようなので、果たしてそれが正確にかどうかは別として、目の前で起きたことを大体は理解出来たのだろう。
自分を中心に出来上がっていた人間たちの円が、ゆっくりと、ものすご~くゆっくりと広がっていくのが見えた。 こちらを警戒しているからというのもあるのだろうけれど、殆どの人間たちはほぼ全裸と言ってしまって良いようなに格好になってしまっているものだから、まともに動くことすらままならないみたいだ。
ついつい大きな溜息が出た。



 あれ以降、人間たちは何もしてこない。
とっくに効果は消えているのだが、最初に広げた『無価値の世界』の外側ぎりぎりを囲むように戦車やら砲台やらを配置するのみで、一切の攻撃が止んでいた。
時折、生き物の気配がしない飛行機械が何処からか飛んできて、空の高いところからこちらをちらりと窺っては逃げるように去っていくことを除けば、本当にただそこに居るだけで何一つしてくる事はなかった。 偶にイキナリ狂ったような笑い声が聞こえてくることが何度かあって少し気味が悪かったけれど。
逃げたところで態々追いかけたりはしないから、諦めてさっさと帰ってくれると助かるんだけどなぁ。
ああ、でもこれはひょっとして時間稼ぎか何かなのかな? 何かを待っているような気配があるような無いような……?



 しばらくぼけ~っと遠くを見ていると、不意に空の彼方に小さな黒い点が現れた。
おや?
やがて輪郭が確認できるほどに近づいてきたそれに目を凝らす。
大量の蠢く触手のようなものに覆われた玉のように丸い身体は、人間よりずっと大きな自分と比べてもまだ大きい。
悍ましく蠢動しながら、まるで山が空を飛んでいるかのような巨大さのそれは、しかし、なんとなく見覚えがあるような気がする。
人間たちから歓声が上がった。 どうやら、あの触手の塊が到着するのを待っていたようだ。
でも、あれはやっぱり何処かで見たような……
いや、待てよ? アレはほら! アレだ!! 二万年ぐらい前にいきなり襲い掛かってきたから触手全部毟ってから遠くの銀河の極大太陽で干物にしてやったアレだ!! 名前忘れたけど! あの時はもっと大きかった気がするんだけど、多分アレで間違いない。 干物にしたせいで縮んだのかな?
世界中の生き物を狂気で染め上げて、ぐっちゃぐちゃにしてからその世界ごとぱっくり食べるのが好きだとかいう、結構ロクでもない奴で、何百個もの世界をそんな感じで食べちゃったもんだから、すごい数の神族とかに追いかけ回されて、小腹が空いていたところに出くわしたのが自分だったとか、そんな感じのことを言ってたような気がする。
もう少しで食べごろかな?というところで、神族たちがやってきたから渋々そのまま引き渡したのだけれど、あの時は何故か神族だけじゃなくて、邪神とか悪魔とかからも感謝されたっけなぁ。
お礼に貰ったお酒がビックリするほど美味しくて、今でも酒を飲むとたまに思い出して比べてしまう。
そういえば、トドメは刺さないで引き渡したから、こうしてまだ生きていても不思議ではないけれど、よくあの神族たちが解放してくれたものだ。 いや、上手く逃げ出して来たってところかな?
なんとなく懐かしくなって「おいっす」と右手を挙げて挨拶をしてみると、どうしたことか、山より大きな触手の塊は即座に回れ右をして、来た時とは比べるべくもない凄い速さで遠ざかっていった。
「……」



 とまあ、懐かしくはあるけれど、アレはあんまり良くないものなので放っておく訳にもいかない。
はぁ…… しかし、そうか。 今の人間たちはあんなのと関わっちゃってるのか……
あの様子だと、アレの本性を知ってか知らずか、うっかり神様として祀っちゃってたりしていそうな気配。
ああほら、人間たちの中に跪いて祈ってるみたいなのがちらほら居るし。
そっかー……

 正直なところ、自分は自発的な攻撃というのを出来る限りやりたくない。 恥ずかしい話、人間たちなんかよりも、多分、更にずっと加減が苦手だからだ。
しかし、ここで遭っておいてアレを見逃したなんて誰かに知られたりしたら、後で何を言われるか分かったものではないので仕方ない。
あのくらいになると、きっと『無価値の世界』や『全灰領域』は抵抗レジストされてしまうだろうから、愈々イヨイヨ以てやらねばならない。
見る間に遠ざかっていく触手の塊を正面に見据えて口を開く。
周囲に漂っている素霊エーテル冠角クラウンからしゅごーっと取り込んで、自分の魔力と良い感じに混ぜ合わせてから心臓でぎゅっとやって、じゅわっと溢れ出てきたエネルギーを口からドカンと放出する、俗に『竜の息吹ドラゴンブレス』とか呼ばれている遠距離咆撃だ。
いつも思うのだけれど、コレ、なんで口から出るんだろうか? 凄く使い辛いんだよね…… 指先とかから出るようにらないものかなぁ。
視界を真っ白に染めながら放たれた息吹ブレスは狙い過たず触手玉の背後(多分)から直撃し、大陸の東側半分と一緒に消し飛ばした。 色々な種類の結界だの障壁だのを二十万層ぐらい重ねて張り巡らせていたみたいだけれど、息吹は特に逸れたり防がれたりすることもなく、触手玉は障壁ごとあっさり消滅した。
「まあ、ついでだし」
と、喉の奥のあたりで燻っていた息吹ブレスの残りで、今度は大陸の西側をしゅびーっと一掃して綺麗にする。
さて、これでこの大陸はもう大丈夫。 すっきり綺麗になった。 でも他のところはどうだろうか? 人間って結構色々なところに散らばって住んでたりするから、ちょっとそこいらを巡ってみるとしよう。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「おまっ! ちょっ!! なにしてくれてんのっ!!? いやホントに一体なにしてくれてんのお前っ!!?」
ノックの一つもなしに我が家の玄関をいきなり蹴破った挙句、顔を見るなりそう叫んだのは、思えば随分と長い付き合いになる少年━━に見えるけど多分自分とほぼ同い年くらいのなんだかよくわからない生き物━━だった。
「ちょっと精神的に疲れてるから、また今度にし」
「うるっさいわ!! なんで!? ねえ! なんでほんの二日ちょっと目ぇ離しただけで人類滅んでんの!? ねえ! なんでなん!?」
「あー…… んー…… ぬー…… まあ、そんなこともあるんじゃな」
「ねえよ!? フツーはねえよ!? ってか滅ぼした本人が何言ってくれてんの!? 絶対お前だろ!? ついでに大陸四つも消し飛ばすようなのってお前ぐらいしかいねえじゃん!! どうせまた加減間違えたんだろアレ!!」
「ぐむっ…… ぐぅぅ…… それに関しては、まあ…… 確かにちょ~~~っとばかり……」 
「ちょっとで大陸は吹っ飛ばねえし人類も滅びねえよ!! 一体今度は何やらかしてくれやがった訳!? ほらちゃんとオレの目え見ながら言ってみ!? な! ほら言ってみ!!」
「いや、卵の薄皮がちょっと……」
「ああ!? な・ん・だ・っ・て!?」
「べっ、別に態々聞かなくてももう分かってるんでしょうに。 あんなのと関わってるようじゃ遅かれ早かれ……」
「はじめっからそう言えば良いんだよ! そもそも、だからってそれ以前にちょっとぐらい相談とかしようと思ったりしないわけ? オレとかじゃなくても他にいくらでも…… は居ないかも知れないけど、居るだろ? なんでいつもそう、一人で勝手にやっちゃうかなぁ…… わかってんの? 今回みたいに根こそぎ滅ぼしちゃったりすると、もう他所から連れてくるしかなくなっちゃうんだよ。 すんごい嫌な顔されるんだからな!? ってか、ホントビックリするほど根こそぎ滅ぼしたよな! 本気で探したのに一人も残ってないとか、偏執的でちょっと引くわ!! んで一体何事なのかと思って来てみれば、お前はお前で饅頭齧りながらまったりお茶飲んでるとかホントに一体何なん!!? ったく、下げたくもない頭下げるのはいつもオレばっかだってのに……」

 放っておくと延々と愚痴を聞かされそうな気配を感じたので、ゆで卵の薄皮の話でお茶を濁すことにした。
自分としては少々複雑な部分があるものの思いのほか興味を引けたようで、ちょっと形容し難い変な顔をしながらも興味深そうに聞いてくれている。
なんとなく馬鹿にされているような気配を感じないでもないのだが…… ふふん。 見ているがいい。 明日こそは綺麗に剥いて満足のいく朝を迎えてくれる。
今夜は泊まりで自棄酒を飲んでいきそうな気配だから、明日の朝食はこいつの分も一緒に用意してあげるのも吝かではない。 よし、明日は卵を四つ茹でよう。
その前に玄関のドアは直してほしいところだが……






「お前、気づいてないみたいだから言っとくけど、もう何処行ったって卵なんて売ってないからな? 人類滅ぼすってそういうコトだからな!?」
「えっ」



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