婚約者に捨てられた聖女ですが、素敵な騎士団長に見初められました。

ハリネズミ

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追放と絶望

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 わたしの名はイザベル。
 神より祝福を受け、この国の聖女として人々に尽くしてきた。大地を潤し、病を癒やし、国を護る――それがわたしの誇りであり、生きる意味だった。

 けれどその座を、妹に奪われる日が来るなんて……夢にも思わなかった。

「イザベル姉さまこそ、偽りの聖女だったのです!」
 玉座の間に響き渡るマリアの声は甘く澄んでいた。彼女の背後では光が揺らめき、まるで神の証のように見える。けれどそれは、彼女が周到に用意した幻術の仕業だった。

 わたしの両頬を走る傷跡に、人々の視線が集まる。――それも、マリアがつけたもの。
 彼女は泣きながら叫んだ。「この傷は、わたしを脅そうとした姉さまに斬りつけられたときのものです!」
 逆だ。わたしが抵抗できぬよう押さえつけられ、刃でなぞられたのは、わたしの顔だったのに。

「……イザベル。お前の欺瞞には失望した」
 王太子が冷ややかに告げた。わたしの婚約者であり、これまで支えてきたはずの人。
「婚約は破棄する。聖女の名を騙った罪人として、この国より追放する」

 わたしの膝から力が抜け、床に崩れ落ちた。玉座の間に集う人々の視線は冷たい。かつてわたしに祈りを捧げていた民でさえ、いまや疑いと嘲りを浮かべている。

「どうして……?」
 唇が震える。
 どうして信じてくれないの。どうして、あの笑顔を向けてくれた人まで、わたしを切り捨てるの。

 追放の日。わたしは城門へと連れ出され、見せしめのように鎖でつながれた。
「偽りの聖女に罰を!」という民の声が降り注ぐ。かつては祝福を求める手であったのに、今は石を投げつける手に変わっていた。

 それでもわたしは耐えようとした。――けれど。
「死んで償え」
 王太子の冷たい一言が、わたしの胸を貫いた。

 心が折れた。
 未来も、誇りも、愛も、すべて奪われてしまった。

「……わかりました」
 か細い声でそう答えたわたしは、拘束を解かれると、ゆっくりと川のほとりへ歩いた。

 澄んだ水面が揺らめいている。深い青の底は、きっと冷たくて、もう二度と浮かび上がることはないだろう。
 振り返れば、王太子とマリアが並んで立っていた。ふたりの眼差しに、かつての温もりはない。

 涙が頬を伝う。
 それでも最後に笑おうと、唇を歪めた。
「神よ……どうか、この国を護ってください」

 祈りとともに、わたしは身を投げた。

 冷たい水が全身を包み込み、意識が遠ざかっていく。
 これで終わるのだと、わたしは思った。

 けれど、運命はまだ幕を下ろしてはくれなかった――。
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