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揺れる心
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フェルナンドに支えられてからというもの、イザベルは少しずつ「普通の生活」に慣れてきていた。屋敷の侍女たちは皆優しく、彼女を一人の女性として扱ってくれる。その温かさが、ずっと孤独だった心を満たしていった。
「イザベル、花が好きだろう?」
そう言って、フェルナンドはある日、彼女を庭園へと誘った。
鮮やかに咲き乱れる花々。風に揺れる花弁は、まるで微笑むようにイザベルを迎える。
「……きれい……」思わず漏らした声は、震えていた。
聖女としての務めに追われ続けていた頃、花を眺める余裕などなかった。そんな些細なひとときが、こんなにも心を解きほぐすとは。
フェルナンドがイザベルの横顔を見つめる。
「君が微笑むと、花さえ色褪せるな」
「な、なにを言って……!」イザベルは頬を染めて視線を逸らす。
不意に胸が高鳴る。こんな感覚は初めてだった。
けれど心の奥には、拭い切れぬ影がある。
(私は……追放された女。愛される資格なんて……)
顔の傷に触れ、そっと目を伏せる。
「イザベル」フェルナンドが真剣な声で名を呼んだ。
「君の過去がどんなものであっても、俺にとって君は……特別だ」
「……っ」
心臓が大きく跳ね、イザベルは言葉を失った。彼の瞳は真摯で、偽りなどない。そのまっすぐな想いが、心に優しく突き刺さる。
けれど、返事をする勇気はまだなかった。
その夜。イザベルは眠りにつく前、窓辺で月を見上げた。
(フェルナンド様……。私は、本当に……愛されてもいいのでしょうか……?)
答えはまだ出せない。けれど、その問いを抱けること自体が、彼女にとっては新しい一歩だった。
◆side:王太子レオンハルト
王都。かつての聖女イザベルを失った国に、不吉な影が忍び寄っていた。
「また北部で魔物の出現か?」
「はっ。今度は従来の群れよりも規模が大きく、村ひとつが壊滅したとの報が……」
「なんだと……!」
王太子レオンハルトは報告を聞いて顔をしかめる。
ここ数か月、各地で魔物の被害が相次いでいた。だが、聖女マリアが鎮めたという噂は一向に聞こえてこない。
「……マリアは何をしているのだ。彼女こそが聖女だと、俺は……」
言葉を飲み込む。確かにマリアには聖女の力があった。だが、イザベルほどの安らぎや、強大な奇跡は感じられない。
ふと、胸に去来するのはイザベルの姿。
いつも静かに祈り、人々に寄り添っていた。あの柔らかな微笑み。
「……いや、馬鹿な」頭を振る。追放したのは自分だ。彼女を裏切り、絶望の果てに死へと追いやったのも、自分。
だが――。
「殿下! 魔物の群れが西方へ迫っております!」
「なに……!」
報せは止まらない。国は、確実に崩れの道を辿っていた。
「イザベル、花が好きだろう?」
そう言って、フェルナンドはある日、彼女を庭園へと誘った。
鮮やかに咲き乱れる花々。風に揺れる花弁は、まるで微笑むようにイザベルを迎える。
「……きれい……」思わず漏らした声は、震えていた。
聖女としての務めに追われ続けていた頃、花を眺める余裕などなかった。そんな些細なひとときが、こんなにも心を解きほぐすとは。
フェルナンドがイザベルの横顔を見つめる。
「君が微笑むと、花さえ色褪せるな」
「な、なにを言って……!」イザベルは頬を染めて視線を逸らす。
不意に胸が高鳴る。こんな感覚は初めてだった。
けれど心の奥には、拭い切れぬ影がある。
(私は……追放された女。愛される資格なんて……)
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「イザベル」フェルナンドが真剣な声で名を呼んだ。
「君の過去がどんなものであっても、俺にとって君は……特別だ」
「……っ」
心臓が大きく跳ね、イザベルは言葉を失った。彼の瞳は真摯で、偽りなどない。そのまっすぐな想いが、心に優しく突き刺さる。
けれど、返事をする勇気はまだなかった。
その夜。イザベルは眠りにつく前、窓辺で月を見上げた。
(フェルナンド様……。私は、本当に……愛されてもいいのでしょうか……?)
答えはまだ出せない。けれど、その問いを抱けること自体が、彼女にとっては新しい一歩だった。
◆side:王太子レオンハルト
王都。かつての聖女イザベルを失った国に、不吉な影が忍び寄っていた。
「また北部で魔物の出現か?」
「はっ。今度は従来の群れよりも規模が大きく、村ひとつが壊滅したとの報が……」
「なんだと……!」
王太子レオンハルトは報告を聞いて顔をしかめる。
ここ数か月、各地で魔物の被害が相次いでいた。だが、聖女マリアが鎮めたという噂は一向に聞こえてこない。
「……マリアは何をしているのだ。彼女こそが聖女だと、俺は……」
言葉を飲み込む。確かにマリアには聖女の力があった。だが、イザベルほどの安らぎや、強大な奇跡は感じられない。
ふと、胸に去来するのはイザベルの姿。
いつも静かに祈り、人々に寄り添っていた。あの柔らかな微笑み。
「……いや、馬鹿な」頭を振る。追放したのは自分だ。彼女を裏切り、絶望の果てに死へと追いやったのも、自分。
だが――。
「殿下! 魔物の群れが西方へ迫っております!」
「なに……!」
報せは止まらない。国は、確実に崩れの道を辿っていた。
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