9 / 13
新たなる聖女の誓い
しおりを挟む
朝靄の中、白銀に輝くフェルナンドの鎧が陽光を受けてきらめいた。彼の背中を追いかけながら、私は己の胸に広がる熱を確かめる。
……これは、ただの感謝ではない。
かつて国に尽くしても踏みにじられた私の心は、二度と誰かを信じないと誓ったはずだった。けれど、フェルナンドと過ごした日々がその誓いを柔らかく溶かし、温かな炎へと変えてしまった。
「イザベル、準備はいいか?」
振り返る彼の瞳は澄み切った蒼。その奥に映る自分を見つめるたび、心臓が跳ねる。
「ええ、大丈夫。もう……逃げたりしないわ」
祖国が崩壊していく様子を遠くから聞いた。真の聖女を失った国は、魔物の群れに蹂躙され、人々は絶望に沈んだという。
私にできるのは、ただ祈ることだけではない。――守ること。立ち上がること。
フェルナンドの騎士団と共に、私は大森林へと向かっていた。そこには魔物の大群が潜み、各地へ侵攻の兆しを見せている。
彼らの中心に、禍々しい黒き巨獣がいると噂されていた。
歩を進めるたび、胸の奥で古の力がざわめく。
記憶を奪われ、名誉を失った時から眠っていた聖女の力――今、ようやくその全貌が目覚めようとしている。
森の奥、腐敗した空気が漂う空間に到着すると、魔物たちが次々と姿を現した。鋭い牙、赤い目、憎悪に満ちた咆哮。
「下がっていろ、イザベル!」
フェルナンドが剣を抜き、先陣を切る。だが私は首を振った。
「いいえ、これは私の役目でもあるの」
両手を胸に当てると、光が溢れ出した。
温かく、柔らかで、それでいて力強い輝き。聖女としての真の力。
それは騎士たちの心を支え、恐怖を鎮め、剣に力を宿す。
「……これが、私……」
かつて偽りだと罵られたその力は、誰よりも確かな現実となって目の前に広がった。
戦いは熾烈だった。魔物の群れは果てしなく押し寄せ、私の光も削がれていく。膝が震え、意識が遠のきそうになる――。
「イザベル!」
フェルナンドが駆け寄り、私の手を強く握った。
「一人で背負うな。俺が隣にいる!」
彼の声に、涙が零れそうになる。
「……ありがとう。あなたがいてくれるなら、私は……」
その瞬間、光はさらに強く脈打ち、天へと伸びた。
空が裂け、暗雲が晴れ、聖なる雨が大地を潤す。魔物たちは悲鳴を上げ、黒き巨獣でさえ、その力に押し返されていった。
「これが、真の聖女……」
フェルナンドの呟きが耳に届く。
私は両手を広げ、すべてを包み込むように祈った。
「どうか、この地に再び光を……人々に、未来を……!」
光が弾け、魔物の群れが霧散する。重苦しい気配が消え、森に静寂が戻った。
私はその場に崩れ落ちそうになったが、フェルナンドがしっかりと抱きとめてくれた。
「イザベル……君は、俺の誇りだ」
彼の腕の中で、私は震える息を吐き出す。
温もりに包まれて、胸の奥に湧き上がる感情を、もう抑えられなかった。
「フェルナンド……私……あなたと共に、生きていきたい」
唇からこぼれたのは、偽りのない想い。
彼の瞳が揺れ、優しく細められる。
「やっと言ってくれたな。……俺もだ。君となら、どんな未来も恐れない」
その言葉は、傷ついた心を完全に癒す魔法のようだった。
誰かに奪われ、踏みにじられた私の人生は、ここでようやく始まるのだ。
――私はもう、過去には縛られない。
聖女イザベルとしてではなく、一人の女性として、そしてフェルナンドと共に歩む者として。
朝靄が晴れ、空は青く澄み渡っていた。
光に照らされながら、私は新たな誓いを胸に抱いた。
「必ず守るわ。今度こそ、この手で」
フェルナンドの腕の中で微笑んだその瞬間、世界は優しく輝いていた。
……これは、ただの感謝ではない。
かつて国に尽くしても踏みにじられた私の心は、二度と誰かを信じないと誓ったはずだった。けれど、フェルナンドと過ごした日々がその誓いを柔らかく溶かし、温かな炎へと変えてしまった。
「イザベル、準備はいいか?」
振り返る彼の瞳は澄み切った蒼。その奥に映る自分を見つめるたび、心臓が跳ねる。
「ええ、大丈夫。もう……逃げたりしないわ」
祖国が崩壊していく様子を遠くから聞いた。真の聖女を失った国は、魔物の群れに蹂躙され、人々は絶望に沈んだという。
私にできるのは、ただ祈ることだけではない。――守ること。立ち上がること。
フェルナンドの騎士団と共に、私は大森林へと向かっていた。そこには魔物の大群が潜み、各地へ侵攻の兆しを見せている。
彼らの中心に、禍々しい黒き巨獣がいると噂されていた。
歩を進めるたび、胸の奥で古の力がざわめく。
記憶を奪われ、名誉を失った時から眠っていた聖女の力――今、ようやくその全貌が目覚めようとしている。
森の奥、腐敗した空気が漂う空間に到着すると、魔物たちが次々と姿を現した。鋭い牙、赤い目、憎悪に満ちた咆哮。
「下がっていろ、イザベル!」
フェルナンドが剣を抜き、先陣を切る。だが私は首を振った。
「いいえ、これは私の役目でもあるの」
両手を胸に当てると、光が溢れ出した。
温かく、柔らかで、それでいて力強い輝き。聖女としての真の力。
それは騎士たちの心を支え、恐怖を鎮め、剣に力を宿す。
「……これが、私……」
かつて偽りだと罵られたその力は、誰よりも確かな現実となって目の前に広がった。
戦いは熾烈だった。魔物の群れは果てしなく押し寄せ、私の光も削がれていく。膝が震え、意識が遠のきそうになる――。
「イザベル!」
フェルナンドが駆け寄り、私の手を強く握った。
「一人で背負うな。俺が隣にいる!」
彼の声に、涙が零れそうになる。
「……ありがとう。あなたがいてくれるなら、私は……」
その瞬間、光はさらに強く脈打ち、天へと伸びた。
空が裂け、暗雲が晴れ、聖なる雨が大地を潤す。魔物たちは悲鳴を上げ、黒き巨獣でさえ、その力に押し返されていった。
「これが、真の聖女……」
フェルナンドの呟きが耳に届く。
私は両手を広げ、すべてを包み込むように祈った。
「どうか、この地に再び光を……人々に、未来を……!」
光が弾け、魔物の群れが霧散する。重苦しい気配が消え、森に静寂が戻った。
私はその場に崩れ落ちそうになったが、フェルナンドがしっかりと抱きとめてくれた。
「イザベル……君は、俺の誇りだ」
彼の腕の中で、私は震える息を吐き出す。
温もりに包まれて、胸の奥に湧き上がる感情を、もう抑えられなかった。
「フェルナンド……私……あなたと共に、生きていきたい」
唇からこぼれたのは、偽りのない想い。
彼の瞳が揺れ、優しく細められる。
「やっと言ってくれたな。……俺もだ。君となら、どんな未来も恐れない」
その言葉は、傷ついた心を完全に癒す魔法のようだった。
誰かに奪われ、踏みにじられた私の人生は、ここでようやく始まるのだ。
――私はもう、過去には縛られない。
聖女イザベルとしてではなく、一人の女性として、そしてフェルナンドと共に歩む者として。
朝靄が晴れ、空は青く澄み渡っていた。
光に照らされながら、私は新たな誓いを胸に抱いた。
「必ず守るわ。今度こそ、この手で」
フェルナンドの腕の中で微笑んだその瞬間、世界は優しく輝いていた。
21
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
白い結婚をご希望ですか? 良いですよ。私はジャガイモと筋肉を育てますので!
松本雀
恋愛
「……いいか、エルゼ。あらかじめ言っておくが、私は君を愛するつもりはない」
「願ったり叶ったりです! 実は私、国境警備隊に幼馴染の恋人がいまして。この結婚が決まった時、二人で『体は売っても心は売らない』って涙ながらに誓い合ったんです。閣下が愛してくださらないなら、私の貞操も守られます! ありがとうございます、公爵閣下!」
「……こいびと?」
◆
「君を愛するつもりはない」
冷徹な公爵ギルベルトが新婚初夜に放った非情な宣告。しかし、新妻エルゼの反応は意外なものだった。
「よかった! 実は私、国境警備隊に恋人がいるんです!」
利害が一致したとばかりに秒速で就寝するエルゼ。彼女の目的は、愛なき結婚生活を隠れ蓑に、恋人への想いを込めた「究極のジャガイモ」を育てることだった!
公爵家の庭園を勝手に耕し、プロテインを肥料にするエルゼに、最初は呆れていたギルベルト。だが、彼女のあまりにフリーダムな振る舞いと、恋人への一途(?)な情熱を目の当たりにするうち、冷徹だった彼の心(と筋肉)に異変が起き始めて……!?
追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜
あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。
追放された彼女の能力は――
魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。
辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、
三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。
一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。
国家結界すら崩壊寸前に――。
「戻ってきてほしい」
そう告げられても、もう遅い。
私を必要としてくれる場所は、
すでに別にあるのだから。
これは、役立たずと呼ばれた令嬢が
本当の居場所と理解者を見つける物語。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる