婚約者に捨てられた聖女ですが、素敵な騎士団長に見初められました。

ハリネズミ

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新たなる聖女の誓い

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 朝靄の中、白銀に輝くフェルナンドの鎧が陽光を受けてきらめいた。彼の背中を追いかけながら、私は己の胸に広がる熱を確かめる。
 ……これは、ただの感謝ではない。
 かつて国に尽くしても踏みにじられた私の心は、二度と誰かを信じないと誓ったはずだった。けれど、フェルナンドと過ごした日々がその誓いを柔らかく溶かし、温かな炎へと変えてしまった。

「イザベル、準備はいいか?」
 振り返る彼の瞳は澄み切った蒼。その奥に映る自分を見つめるたび、心臓が跳ねる。
「ええ、大丈夫。もう……逃げたりしないわ」

 祖国が崩壊していく様子を遠くから聞いた。真の聖女を失った国は、魔物の群れに蹂躙され、人々は絶望に沈んだという。
 私にできるのは、ただ祈ることだけではない。――守ること。立ち上がること。

 フェルナンドの騎士団と共に、私は大森林へと向かっていた。そこには魔物の大群が潜み、各地へ侵攻の兆しを見せている。
 彼らの中心に、禍々しい黒き巨獣がいると噂されていた。

 歩を進めるたび、胸の奥で古の力がざわめく。
 記憶を奪われ、名誉を失った時から眠っていた聖女の力――今、ようやくその全貌が目覚めようとしている。

 森の奥、腐敗した空気が漂う空間に到着すると、魔物たちが次々と姿を現した。鋭い牙、赤い目、憎悪に満ちた咆哮。
「下がっていろ、イザベル!」
 フェルナンドが剣を抜き、先陣を切る。だが私は首を振った。
「いいえ、これは私の役目でもあるの」

 両手を胸に当てると、光が溢れ出した。
 温かく、柔らかで、それでいて力強い輝き。聖女としての真の力。
 それは騎士たちの心を支え、恐怖を鎮め、剣に力を宿す。

「……これが、私……」
 かつて偽りだと罵られたその力は、誰よりも確かな現実となって目の前に広がった。

 戦いは熾烈だった。魔物の群れは果てしなく押し寄せ、私の光も削がれていく。膝が震え、意識が遠のきそうになる――。

「イザベル!」
 フェルナンドが駆け寄り、私の手を強く握った。
「一人で背負うな。俺が隣にいる!」
 彼の声に、涙が零れそうになる。
「……ありがとう。あなたがいてくれるなら、私は……」

 その瞬間、光はさらに強く脈打ち、天へと伸びた。
 空が裂け、暗雲が晴れ、聖なる雨が大地を潤す。魔物たちは悲鳴を上げ、黒き巨獣でさえ、その力に押し返されていった。

「これが、真の聖女……」
 フェルナンドの呟きが耳に届く。
 私は両手を広げ、すべてを包み込むように祈った。
「どうか、この地に再び光を……人々に、未来を……!」

 光が弾け、魔物の群れが霧散する。重苦しい気配が消え、森に静寂が戻った。
 私はその場に崩れ落ちそうになったが、フェルナンドがしっかりと抱きとめてくれた。

「イザベル……君は、俺の誇りだ」
 彼の腕の中で、私は震える息を吐き出す。
 温もりに包まれて、胸の奥に湧き上がる感情を、もう抑えられなかった。

「フェルナンド……私……あなたと共に、生きていきたい」
 唇からこぼれたのは、偽りのない想い。
 彼の瞳が揺れ、優しく細められる。
「やっと言ってくれたな。……俺もだ。君となら、どんな未来も恐れない」

 その言葉は、傷ついた心を完全に癒す魔法のようだった。
 誰かに奪われ、踏みにじられた私の人生は、ここでようやく始まるのだ。

 ――私はもう、過去には縛られない。
 聖女イザベルとしてではなく、一人の女性として、そしてフェルナンドと共に歩む者として。

 朝靄が晴れ、空は青く澄み渡っていた。
 光に照らされながら、私は新たな誓いを胸に抱いた。

「必ず守るわ。今度こそ、この手で」

 フェルナンドの腕の中で微笑んだその瞬間、世界は優しく輝いていた。
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