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蘇る祈り
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――夜明け前の空気は、ひんやりとして澄んでいた。
イザベルは屋敷の庭園にひとり立ち、月の残り香を含んだ風を吸い込んだ。
眠れなかったのだ。胸の奥がざわめき、何かが自分の内側で目を覚まそうとしている気がして。
「イザベル」
声に振り返れば、フェルナンドが月明かりを背に立っていた。白いシャツに羽織った外套が風に揺れ、彼の姿はまるで夜を切り裂く光のようだった。
「……お休みにならなかったのですか?」
「いや。君がいないと思ったら、つい探してしまった」
そう言って微笑む彼に、イザベルの胸がまた熱くなる。
「……最近、不思議なんです」イザベルは胸に手を置いた。
「ときどき、誰かの声が聞こえるのです。私に祈れ、と。私に生きろ、と」
フェルナンドは真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「それは……君の力が戻ろうとしているのかもしれない」
力――。かつて「聖女」と呼ばれた自分の証。だが、同時にすべてを失うきっかけとなったもの。
「怖いのです」イザベルは小さく首を振った。
「もし、またあの頃のように……利用されるだけなら……」
その言葉を遮るように、フェルナンドがそっと彼女の手を握った。温かく、大きな掌。
「イザベル。君がどんな力を持っていようと、俺は君を離さない。俺の目には、君はただの……ひとりの、愛しい女性だ」
「……っ」
胸に広がる熱が、涙と共に零れそうになる。だが今は泣きたくなかった。代わりに、彼の手を強く握り返した。
その瞬間――。
庭園の花々が、一斉に揺れ、夜明け前の薄暗い空に淡い光を放った。花弁が星のように瞬き、空気が清らかに震える。
「これは……」
「わたくしが……?」
イザベルの手の中から、柔らかな光が生まれていた。それは恐れではなく、慰めのように彼女を包み込む。
「やはり……君は真の聖女だ」フェルナンドは驚嘆しながらも、瞳を輝かせて彼女を見た。
「君の祈りはまだ生きている。そして、それは誰のものでもない。君自身のためにある」
イザベルは、初めて自分の力を前向きに受け入れられる気がした。
「……フェルナンド様。もし私にまだ力があるのなら、それを……誰かのために使いたい。今度こそ、正しく」
「ならば、俺が隣で支えよう」
ふたりは見つめ合った。静かな夜明けの中、互いの存在が、確かに心を支えていた。
◆
そのころ、遠い王都はすでに崩壊していた。
瓦礫と炎、屍の山。かつての栄華は跡形もなく、ただ魔物の影が徘徊している。
だが、荒廃した都の片隅で、ひとりの男がまだ生き延びていた。
レオンハルト。敗北を背負い、国を失った王太子。
血に汚れた剣を握りしめながら、彼は虚ろな瞳で空を仰ぐ。
「……イザベル。お前さえいれば……」
その悔恨は、燃え尽きた大地にこだまするだけだった。
イザベルは屋敷の庭園にひとり立ち、月の残り香を含んだ風を吸い込んだ。
眠れなかったのだ。胸の奥がざわめき、何かが自分の内側で目を覚まそうとしている気がして。
「イザベル」
声に振り返れば、フェルナンドが月明かりを背に立っていた。白いシャツに羽織った外套が風に揺れ、彼の姿はまるで夜を切り裂く光のようだった。
「……お休みにならなかったのですか?」
「いや。君がいないと思ったら、つい探してしまった」
そう言って微笑む彼に、イザベルの胸がまた熱くなる。
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「それは……君の力が戻ろうとしているのかもしれない」
力――。かつて「聖女」と呼ばれた自分の証。だが、同時にすべてを失うきっかけとなったもの。
「怖いのです」イザベルは小さく首を振った。
「もし、またあの頃のように……利用されるだけなら……」
その言葉を遮るように、フェルナンドがそっと彼女の手を握った。温かく、大きな掌。
「イザベル。君がどんな力を持っていようと、俺は君を離さない。俺の目には、君はただの……ひとりの、愛しい女性だ」
「……っ」
胸に広がる熱が、涙と共に零れそうになる。だが今は泣きたくなかった。代わりに、彼の手を強く握り返した。
その瞬間――。
庭園の花々が、一斉に揺れ、夜明け前の薄暗い空に淡い光を放った。花弁が星のように瞬き、空気が清らかに震える。
「これは……」
「わたくしが……?」
イザベルの手の中から、柔らかな光が生まれていた。それは恐れではなく、慰めのように彼女を包み込む。
「やはり……君は真の聖女だ」フェルナンドは驚嘆しながらも、瞳を輝かせて彼女を見た。
「君の祈りはまだ生きている。そして、それは誰のものでもない。君自身のためにある」
イザベルは、初めて自分の力を前向きに受け入れられる気がした。
「……フェルナンド様。もし私にまだ力があるのなら、それを……誰かのために使いたい。今度こそ、正しく」
「ならば、俺が隣で支えよう」
ふたりは見つめ合った。静かな夜明けの中、互いの存在が、確かに心を支えていた。
◆
そのころ、遠い王都はすでに崩壊していた。
瓦礫と炎、屍の山。かつての栄華は跡形もなく、ただ魔物の影が徘徊している。
だが、荒廃した都の片隅で、ひとりの男がまだ生き延びていた。
レオンハルト。敗北を背負い、国を失った王太子。
血に汚れた剣を握りしめながら、彼は虚ろな瞳で空を仰ぐ。
「……イザベル。お前さえいれば……」
その悔恨は、燃え尽きた大地にこだまするだけだった。
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