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何度忘れても変わらない事実
しおりを挟む目が覚めると、そこはわたくしの部屋だった。
右手に感じるあたたかな温もりに視線を向けると、わたくしの手を握ったアレンが眠っていた。
その手をぎゅっと握り返しながら、アレン、と小さく呼び掛けると…閉じられていた目が開いた。
「母上…。」
にっこりと笑顔を見せてくれたアレンだが、つーっと一筋の涙がこぼれ落ちていった。
「よかったっっ。もう、目を覚まさないんじゃないかって…不安で不安で…。ほん…と…うに、よかっ…っっ。」
そう泣き崩れるアレンを抱き締めてあげたいけれど、わたくしの身体はピクリとも動かない。唯一動かせる指先でアレンの手を握りしめてあげることしか出来なかった。
ようやく落ち着くとアレンはベルを鳴らし部屋へと入ってきた侍女に陛下を連れてくるようにと告げた。
侍女も出ていくと部屋にはわたくしとアレンだけが残った。…いつも、側にいるのに…ミランダはどこ…?
「……ミランダ……は……?」
掠れる声でそう問いかけるわたしくしにアレンはビクッと肩を揺らした。
「……ミランダは……」
ガチャッ
「ソフィーナ!目が覚めたか!」
珍しく取り乱した陛下が勢いよく部屋へと駆け込んできた。その後ろには、シリウスとルイスもいるようだ。
「痛むところはないか…?」
(陛下ったら…まるで別人のようだわ…)
心配そうに自分を見つめられることが不思議で、むず痒く…胸が痛い。
(……これは、なんて感情なのかしら?)
その問いにいつも答えてくれるミランダはいない。
「ソフィーナ、そなたは毒を盛られた。」
唐突に陛下が告げたことに、わたくしは陛下から視線をそらした。聞きたくない。聞いてはいけない、そんな焦燥感が沸き起こる。
「ソフィーナが倒れた後、そなたの影たちが自分たちで動き、同じ毒物をミランダの実家から見つけたようだ。それを私たちの前で報告するとミランダと戦闘になった。
彼女は影、騎士合わせて23名を殺し、逃亡した。いま、行方を追っているところだ。」
わたくしは唇を噛み締めた。目が熱くなるのを、堪えるように瞼を閉じて…只の夢であったなら、そう何度も自分の心を守ってきたのに。何度も忘れてきたミランダが敵である事実は、何度繰り返しても変わっていなかった。
わたくしの気持ちを察してか、陛下はその後なにも告げることなく、シリウスとルイスを連れ部屋を後にした。
アレンに「頼む」そう言い残して。瞼を閉じていたわたくしには、どんな表情かわからなかったけれど…冷静なときの自分だったなら、その声だけで陛下を止めただろう。
陛下、シリウス、ルイスが戦地にいる。そう聞いたのは翌朝のことだった。
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