わたくしの息子がバカ王子だなんて…どうしましょう

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幸せなりすぎた罰

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(たまにでいい。そう伝えたはずなのだけれど…)

自分が願い出たことなのに、わたくしがそんなことを思ってしまうほど…陛下は約束を守ってくれている。

朝、昼、晩と毎日一緒に食事をとるようになった。パーティーや会議で来れない場合はあの秘書のリュークが花やらお菓子やらと共に断りを告げに来てくれる始末だ。

初めは皮肉を言うリュークだったが、毎度毎度使わされるうちに呆れが出てきたようで可哀想なものを見る目でわたくしを見つめるようになった。

「ごめんなさいね、リューク。こんなことに使わせてしまって。」

花束を受け取りながら…一度申し訳なく思ってそう口にしたとき、

「えぇ。本当に。なんですか?バカップルかなんかですか?あぁ…カップルじゃありませんね、バカ夫婦ですか。
毎日毎日あきもせずによくやりますね。」

そう口にされた。

皮肉のはずなのに気恥ずかしいのはなぜかしら…。からかう口調とは裏腹にリュークが蔑む目ではなく、あたたかい優しい目を向けてくれるようになったからかしら…。

食事中は相変わらず無言の多い陛下だけれど…わたくしの話にはきちんと返事を返してくれるし、時々顔を上げて視線を合わせてくれるようになった。

それに、休みには時々シリウスもルイスもアレンも帰ってきて、一緒に食事をとってくれるようになった。あぁ…アレンは毎週休日に帰って来ていたけれど…

夢が叶った。みんなで囲む食卓を見つめながら、わたくしはそう幸せを噛み締めていた。

その幸せが長く続かないとはしらずに。


ーーーーーーーーーーーーーーーー。

幸せになりすぎた罰だろうか。よりにもよって、全員が揃っていた夕刻、スープを口にした途端頭がぐらっとまわり、わたしは倒れるようにテーブルに顔を落とした。

シリウスも、ルイスも、アレンも…陛下も。
必死な形相で駆け寄ってくるのが見えた。

(あぁ…覚えがある。これは…毒だ。)

それを最後にわたくしは意識がとぎれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー。


目が覚めるとそこは食堂だった。わたくしは一人で食事をとっているところだった。

これは夢かしら…それとも、あの幸せな時間こそがわたくしの妄想だったのかしら…。

なにが夢で現実か分からなくなった。

トントン

扉からミランダが入ってきた。

「ミランダ。」

予想以上に低く、警戒したような自分の声にわたくしは驚いた。……いいえ、違う。自由に言葉を発せず、体を動かせないことに驚いた。

確かにわたくしの身体なのに。まるで…誰かの身体に意識が入りこんだような…そんな感覚。

にっこりとわたくしを見るミランダはいつものミランダだった。

「スープは美味しかったですか?王妃さまのご実家の領地の野菜だけを使ってくださったのですよ。」

「………まさか……。」

にやっとミランダが笑った。
そこでわたくしの意識は途絶えた。

次に目覚めたのは裏の庭園だった。紅茶を飲んでいるといつものように刺客たちが現れた。

慣れた手つきで刺客たちを殺していくわたくし。

「お見事です。王妃様。」

そう、手を叩きながら、にっこりと誉めてくれるミランダ。

「ねぇ、ミランダ。一週間前、この男たちと一緒にいたわよね。影たちが見ていたわ。」

「……なんのことでしょう?わたくしは初めて見ましたわ。」

そう首をかしげながら微笑むミランダには一切驚いた様子も慌てた様子もなかった。

「………そう。」

わたくしはそう返されるのが分かりきっていたかのように、それ以上、追及することはなかった。

また、場面がかわった。

ここは…どこかしら。見慣れない…けれど、どこか懐かしいその部屋でわたしはミランダと向かいあっているようだ。

「どうして…どうしてなの、ミランダ!
わたくしは貴方を…貴方だけを信じていたのにっっ」

悲痛な声で、泣きながら叫んでいるわたくし。

「思い出してしまったのですね。ソフィーナ様…。」

苦笑したようにそう返すミランダ。

「貴方は幸せになってはいけないのですよ。」

そんなことをいつもの優しい笑顔でにっこりと告げるミランダ。

「思い出してしまったのなら…もう一度、忘れて頂かなくてはなりませんね。」

笑みを崩さず、近寄ってくるミランダに警戒したように後退るわたくし。

急に、背中に痛みが走った。その瞬間、崩れ落ちるように倒れる身体を支えてくれたのはミランダだった。

「………おやすみなさい。ソフィーナさま。よい夢を。」

優しい笑顔で…優しい手つきで…ミランダはゆっくりわたくしの瞼をおろした。

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