37 / 43
貴方の主は誰?
しおりを挟むさて、足もようやく動くようになったし、そろそろ会いにいきましょうか。
数人の騎士を連れ、わたくしが向かったのは城の地下にある牢屋だった。
「身体の痛みはない?
……………………ミランダ。」
俯かせていた顔を上げ、ミランダはわたくしの瞳を捉えた。
「………どうして、、、殺してくださらなかったのですか、ソフィーナさま。」
「…………。まだ、答えを聞いていないからよ。
どうして、あんなことしたの?」
黙り混むミランダ。
「お父様から殺すように命令されていたそうね?」
ピクッとミランダの小指が動く。それは肯定だった。
「質問を変えるわ。なぜ、わたくしを殺さなかったの?幼かったわたくしを殺すことは容易かったでしょうに。
なぜ、身を守る剣を教えたの。なぜ、見つかる度にわたくしの記憶を消し、側に居続けてくれたの。なぜ……なぜ……愛していると言ってくれたの!」
動かない瞳、動かない表情。その上を一筋の滴が滑り落ちていった。
ミランダは隠すように、ゆっくりと瞼を閉じた。
「わたくしは、ソフィーナ様のお父様の専属侍女として幼き頃より育てられました。命令に逆らうな。主を守れ。そう、刷り込まれてきました。
公爵家に婿に入られると、わたくしはソフィーナ様の侍女とされました。警戒心が強く誰にも懐かない幼いソフィーナさまが、わたくしにはミラ、ミラと何度も名を呼び、いつも後ろを着いてきていらっしゃったからですわ。
幼いソフィーナ様を殺せば、公爵家は失くなり、他の貴族が公爵に成り代わることができる。何度も刺客が送られてきました。それを退けることがわたくしの使命でした。…公爵さまが狂うまでは。」
「……そう。わたくしは幼い頃からミランダが大好きだったのね。」
ミランダはそれには答えず、話を続けた。
「………。奥様が亡くなられてから、公爵様は段々と変わられました。ソフィーナ様に辛く当たり、時には暴力を振るうまでに。そして……ソフィーナ様を殺すようにと命令なさいました。
危機感を感じたわたくしは…当時仲のよろしかった陛下にご相談したのです。」
「…陛下?…仲が良かったってどういうこと?」
「陛下とソフィーナ様は幼き頃より許嫁として、いつも二人で遊んでいらっしゃいました。とても、仲がよろしかったのですよ。」
表情は変わらないのに、声が柔らかく、ミランダの微笑ましいという感情が伝わってくるようだった。
「わたくしが記憶を消したのです。」
「……それも、命令だから?」
「はい。公爵様は記憶を消し、従順な操り人形にしたかったのでしょう。微少の毒で記憶を消すように命令されました。それが失敗し殺すように命令されたとき逆らおうとしましたが、その時ようやく違和感に気づきました。命令に逆らえなかったのです。心が拒否しようと、身体は忠実に命令を執行しようとしました。
それでも、わたくしが離れれば、また新たな刺客が送られるでしょう。だから、側にいることを選んだ。幸い、身体を支配されるのは命令後の数時間だけ。
剣術は…身を守るためではありません。わたくしを殺して貰うために…わたくしが教えたのです。
…お聞きになりたいことは、以上でしょうか。」
淡々と告げるミランダから、その当時の感情を読み取ることはできなかった。
「いいえ…最後の問いがまだよ。過去の夢をみたわ。横たわるわたくしに愛していますと泣いている貴方を。……あの言葉は本当なの、ミランダ。」
ピクッと動くミランダの瞼。
「ただの夢でございましょう。」
目を閉じ、否定するミランダにわたくしは笑みが溢れた。
「……そう。騎士たち、ミランダを牢屋から出して。」
騎士たちは異論を唱えることもなく、すぐに部屋からだしてくれた。
どうして…そう聞きたそうなミランダに
「どれだけ一緒にいたと思っているの。
貴女が嘘をつく癖も、隠す癖も、わたくしは知ってるわ。
いままで、守ってくれてありがとう。貴方ほどわたくしに忠実に使えてくれる人はいないわ。」
「ソフィーナ様……」
涙をボロボロと溢しながら、ミランダは力が抜けたように床に座り込んだ。
「わたくしはレグオーク国の王妃よ。それに、簡単に殺させるほど柔じゃないわ。
これからは自分の大切な侍女くらい、何者からも守ってみせる。
貴方の主は誰?…ミランダ。」
「…っっ。…………わたくしの…っ…主は…ソフィーナさまっっ…ただ一人です。」
ボロボロと溢れる涙を隠そうともせず、わたくしを見上げ、ミランダはそう誓った。
わたくしはそっとミランダを抱き締めた。もう、誰にも傷つけさせない、そう心に誓いながら…。
6
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる