わたくしの息子がバカ王子だなんて…どうしましょう

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貴方の主は誰?

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さて、足もようやく動くようになったし、そろそろ会いにいきましょうか。

数人の騎士を連れ、わたくしが向かったのは城の地下にある牢屋だった。

「身体の痛みはない?
 
 ……………………ミランダ。」

俯かせていた顔を上げ、ミランダはわたくしの瞳を捉えた。

「………どうして、、、殺してくださらなかったのですか、ソフィーナさま。」

「…………。まだ、答えを聞いていないからよ。
どうして、あんなことしたの?」

黙り混むミランダ。

「お父様から殺すように命令されていたそうね?」

ピクッとミランダの小指が動く。それは肯定だった。

「質問を変えるわ。なぜ、わたくしを殺さなかったの?幼かったわたくしを殺すことは容易かったでしょうに。
なぜ、身を守る剣を教えたの。なぜ、見つかる度にわたくしの記憶を消し、側に居続けてくれたの。なぜ……なぜ……愛していると言ってくれたの!」

動かない瞳、動かない表情。その上を一筋の滴が滑り落ちていった。
ミランダは隠すように、ゆっくりと瞼を閉じた。

「わたくしは、ソフィーナ様のお父様の専属侍女として幼き頃より育てられました。命令に逆らうな。主を守れ。そう、刷り込まれてきました。

公爵家に婿に入られると、わたくしはソフィーナ様の侍女とされました。警戒心が強く誰にも懐かない幼いソフィーナさまが、わたくしにはミラ、ミラと何度も名を呼び、いつも後ろを着いてきていらっしゃったからですわ。

幼いソフィーナ様を殺せば、公爵家は失くなり、他の貴族が公爵に成り代わることができる。何度も刺客が送られてきました。それを退けることがわたくしの使命でした。…公爵さまが狂うまでは。」

「……そう。わたくしは幼い頃からミランダが大好きだったのね。」

ミランダはそれには答えず、話を続けた。

「………。奥様が亡くなられてから、公爵様は段々と変わられました。ソフィーナ様に辛く当たり、時には暴力を振るうまでに。そして……ソフィーナ様を殺すようにと命令なさいました。
危機感を感じたわたくしは…当時仲のよろしかった陛下にご相談したのです。」

「…陛下?…仲が良かったってどういうこと?」

「陛下とソフィーナ様は幼き頃より許嫁として、いつも二人で遊んでいらっしゃいました。とても、仲がよろしかったのですよ。」

表情は変わらないのに、声が柔らかく、ミランダの微笑ましいという感情が伝わってくるようだった。

「わたくしが記憶を消したのです。」

「……それも、命令だから?」

「はい。公爵様は記憶を消し、従順な操り人形にしたかったのでしょう。微少の毒で記憶を消すように命令されました。それが失敗し殺すように命令されたとき逆らおうとしましたが、その時ようやく違和感に気づきました。命令に逆らえなかったのです。心が拒否しようと、身体は忠実に命令を執行しようとしました。

それでも、わたくしが離れれば、また新たな刺客が送られるでしょう。だから、側にいることを選んだ。幸い、身体を支配されるのは命令後の数時間だけ。
剣術は…身を守るためではありません。わたくしを殺して貰うために…わたくしが教えたのです。
…お聞きになりたいことは、以上でしょうか。」

淡々と告げるミランダから、その当時の感情を読み取ることはできなかった。

「いいえ…最後の問いがまだよ。過去の夢をみたわ。横たわるわたくしに愛していますと泣いている貴方を。……あの言葉は本当なの、ミランダ。」

ピクッと動くミランダの瞼。

「ただの夢でございましょう。」

目を閉じ、否定するミランダにわたくしは笑みが溢れた。

「……そう。騎士たち、ミランダを牢屋から出して。」

騎士たちは異論を唱えることもなく、すぐに部屋からだしてくれた。

どうして…そう聞きたそうなミランダに

「どれだけ一緒にいたと思っているの。
貴女が嘘をつく癖も、隠す癖も、わたくしは知ってるわ。

いままで、守ってくれてありがとう。貴方ほどわたくしに忠実に使えてくれる人はいないわ。」

「ソフィーナ様……」

涙をボロボロと溢しながら、ミランダは力が抜けたように床に座り込んだ。

「わたくしはレグオーク国の王妃よ。それに、簡単に殺させるほど柔じゃないわ。
これからは自分の大切な侍女くらい、何者からも守ってみせる。
貴方の主は誰?…ミランダ。」

「…っっ。…………わたくしの…っ…主は…ソフィーナさまっっ…ただ一人です。」

ボロボロと溢れる涙を隠そうともせず、わたくしを見上げ、ミランダはそう誓った。

わたくしはそっとミランダを抱き締めた。もう、誰にも傷つけさせない、そう心に誓いながら…。

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