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エリナ姫の願い
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山奥の小さな国の小さな城に、1人の可愛らしい姫が住んで居ました。
姫の名前は、エリナ。
優しい王様と王妃様、そして沢山の召使達に囲まれて、幸せに暮らしていましたが、ただ1つ大きな問題がありました。
エリナは、生まれた時から重い病気で、両足を動かす事が出来なかったのです…。
王様は、高名な医師を招いては、診察を受けさせていましたが、現在の医学では治せないと診断されました。
それでもエリナは、いつかきっと病気が治ると信じて、明るい笑顔で毎日を過ごしていました。
そんなエリナが、明日12歳の誕生日を迎えます。
エリナは、楽しみでしかたがありません。
いつもは夜の9時に眠っているのですが、もう11時…。
(…早く寝ないと明日になっちゃう…)
そんな事を思っていると…。
ビュウ~ビュウ~…。
ガタガタガタ…。
突然、風が鳴り響き、窓が震えだします。
ガタン!!
窓が開き、真っ黒な影が部屋に飛び込んで来ました。
「きゃっ!」
驚いたエリナは、布団の中に隠れます。
すると…。
「こんばんは、エリナさん。
脅かしてしまって申し訳ない。
少し話をしたいのですが…。」
と、何者かが優しい声で語りかけてきました。
エリナは、恐る恐る布団から顔を出します。
そこには、真っ黒なスーツを着た背の高い痩せた青年が立っていました。
「…どなたですか?」
エリナが尋ねると…。
「…怖がらないで下さいね。
私は死神です。
あなたをお迎えに参りました。」
「えっ!?」
驚いたエリナを見た死神は、慌てて言葉を続けます。
「あっ! 安心してください。
あなたが、お亡くなりになるのは、明日の日没です。
今日来たのは、あなたの願いを聞くためです。」
「どう言うことですか?」
「あなたは、足が不自由な身にもかかわらず恨み言を言うでもなく、いつも明るい笑顔で過ごして来られました。
このことが天界で高く評価され、ご褒美として1つだけ、願いを聞いてあげることになったのです。」
「じゃあ、私の願いはもっと生きていたいです!」
エリナは必死に訴えます。
「ごめんなさい。
死する運命を変える事は出来ません…。
また、『願い事を2つに増やして』という願いなども聞くことが出来ませんので、ご了承下さい。」
「…」
エリナは、考え込んでしまいました。
そんなエリナを見て、死神が提案します。
「どうでしょう。
足が自由に動くようになると言う願いでは。
あしたの日の出から日没まで自分の足で、色んな所へ行く事が出来ますよ。」
エリナは、思います。
(…夢が叶う…。
自分の足で駆け回ることが出来る…。
お父様もお母様も喜んでくれるだろう…。
でも、私が死んでしまうと喜び以上に悲しんでしまう…。
私の夢…、願い…、望み…。)
エリナは、しばらく悩んでいましたが…。
(はっ!)
と、良い考えが思いついたようで、嬉しそうな顔を見せます。
「私、空を飛びたいの!
鳥のように空を飛んでみたいの!!」
「人間は、空を飛べない…。
だからその望を叶える事は出来ないよ…。」
死神は、残念そうに答えます。
エリナは悲しい顔を見せます…。
「…だったら、死神さんが私を抱えて飛んで下さらない?
死神さんは、空を飛べるのでしょう?」
「私は、魂を天に導くのが仕事で、君のように重さのあるものを長い時間運ぶ事は出来ないんだよ…。」
「えっ!? 少しの時間なら大丈夫なの!!」
エリナの顔がパッと輝きます。
「…うーん…、そうだな…。
30分位なら飛んでいられると思うが…。」
「じゃあ、お願い!
私、夕焼け空の中を飛んでみたいの!!」
「…うーん…。
わかった、夕焼けだな。
じゃあ、日没の30分前に迎えに来よう。
そして、日が沈む5分前に城へ戻って…。」
「ううん…。 お城には戻らなくて良いわ。
…そのまま、飛べるだけ飛んで…。」
エリナは、寂しげに答えます。
「…そんな事したら、君の遺体は誰も居ない山の中に置いて来る事になるぞ。」
「うん…。 それで良いの…。」
「変わった奴だな…。
君のお葬式も、お墓も無くなるんだぞ。」
「うん…。 それで良いの…。」
死神は、エリナをじっと見つめます。
「…わかった。
その望み、叶えよう。
それでは、明日……。」
「あっ! 待って!!」
「んっ!? まだ何か有るのか?」
「…死神さんの真っ黒な服…、凄く怖かったの…。
明日は、真っ白な服で来て欲しいの…。」
死神は、「うーん…」と悩んでいましたが、安らかな気持ちであの世に連れて行くことが使命なので、しぶしぶ了承します。
「…分かった。
白い服で明日の夕方、迎えに来よう。」
「ありがとう!!」
エリナは満面の笑顔で、お礼を言います。
「フッ…。
死の宣告に来てお礼を言われたのは初めてだ…。
変わった娘だな…。」
死神は苦笑を浮かべると、エリナに手をかざします。
「それでは、おやすみ…。
良い夢を…。」
死神の言葉で、エリナは眠りにつきました。
…
翌朝…。
日の出と共に目覚めたエリナは、なぜだか昨夜のことが夢ではなく、本当にあった事だと分かりました。
(…いつもと同じように…。
泣かないように…。
今日一日、泣かないように頑張ろう……。)
エリナは、心に決めます。
…
朝食の席に車椅子に乗ったエリナがやってきました。
「おはよう、エリナ。
誕生日おめでとう!」
「おめでとう、エリナ。」
王様と王妃様が、誕生日を迎えたエリナにお祝いの言葉をかけます。
「ありがとうございます…。
お父様、お母様。
おはようございます。」
エリナは、2人を見た瞬間、涙が溢れそうになりましたが、必死に我慢します。
エリナがテーブルに着くと…。
♪~♪♪~♪♪~~
♪ハッピバースデー、エリナ姫~ ♪ハッピバースデー、エリナ姫~…
楽団が演奏を始め、王様、王妃様、食堂に居たメイドや執事、衛兵達が声をそろえて歌い始めました。
そして、エリナの前に大きなケーキが運ばれてきます。
エリナは、涙を我慢することが出来ませんでした。
「…エリナ、泣くほど喜んでくれるなんて嬉しいよ…。」
エリナの気も知らず、王様と王妃様は笑顔を見せます。
「エリナ、午後から盛大にパーティーを開く。
その時にはもっと大きなケーキとプレゼントを用意しているから楽しみにしていておくれ。」
「…お父様、お母様…、ありがとうございます。
エリナは、幸せです…。」
エリナは、王様の言葉で、さらに涙が溢れるのでした。
…
午後、誕生パーティーが始まりました。
エリナの元には、沢山のお友達がやって来ます。
「エリナ様、お久しぶりです。
お誕生日おめでとうございます。」
「エリナ様、今日はお招き頂き、ありがとうございます。」
「エリナ様、つまらない物ですが、お誕生日プレゼントです。」
…久しぶりに会う懐かしい友人達、エリナは溢れそうになる涙を必死にこらえていました。
城下の人々もエリナ姫をひと目見ようと城の中庭に集まっています。
「エリナ様~!!」
「エリナ様~、お誕生日おめでとうございま~す!」
「エリナ様~、おめでとうございま~す!」
エリナは、2階のベランダから手を振って応えます。
城内では、舞踏会が催され人々は楽しそうに踊り続けているのでした。
…
楽しい時間は、あっという間に過ぎて行き、段々と日が傾いてきました。
突然、エリナが大きな声を上げます。
「皆様! 聞いて下さい!
たった今、神様からお告げがありました!!」
何事かとエリナの周りに人々が集まります。
「エリナ! 突然どうしたんだ!!」
「エリナ、何があったの?」
王様と王妃様は、初めて見るエリナの姿に驚き心配そうに駆け寄ります。
「お父様、お母様…。
たった今、神様が私を天界に招きたいとおっしゃってくださいました…。」
「えっ!? 何だって?」
「どうしたのエリナ?」
王様も王妃様もエリナの言動が理解出来ませんでした。
「神様からのお言葉だって…。」
「嘘だろ…。」
「いえ、エリナ姫は嘘をつくような子じゃないわ!」
客達は、ザワザワと騒ぎたてています。
「皆様、私は神様の申し出を受けようと思います。
天界へおもむき、空の上から皆様の幸せを見守っていきます。」
突然のエリナの言葉に王様も王妃様も戸惑ったまま、うろたえています。
「…もう直ぐ、天界から迎えの方が参られます。
お父様、お母様…、最後に私を抱き締めて下さいますか…。」
王様と王妃様は、言われるままエリナを強く抱き締めます。
「エリナ…。
本当に天界へ行ってしまうのかい?」
「行かないでおくれ…、エリナ…。」
嘘をつかない、ふざけたりしない娘と知っている、王様と王妃様はエリナの言葉を信じます。
「お父様、お母様、私は招かれて天界へ行くのです…。
こんなに名誉な事があるでしょうか?
どうか悲しまないで下さい。」
王様と王妃様とエリナ…、3人は泣きながら抱き合っているのでした。
すると…、
「おい! あれは何だ!?」
3人を囲む人々から驚きの声が上がりました。
空から白い影が舞い降りてきたのです。
「お父様、お母様…、天使様が迎えにいらして下さいました。
これで、お別れです。
どうか、笑顔で送り出して下さい…。」
王様と王妃様がエリナから離れると白い影はエリナを抱きかかえ空へ舞い上がります。
「お父様、お母様…、皆様…。
今までありがとうございました…。
エリナは幸せでした…。
これより先は、天界から皆様を見守ってまいります。
どうかお元気で……。」
「エリナ、天界へ行っても元気でな。」
「天使様、エリナの事、どうかよろしくお願いいたします。」
「エリナ様~、お元気で~。」
「エリナ様~…。」
王様と王妃様は涙を流しながら笑顔で…、来客の人々、城下の人々は、笑顔で手を振ってエリナを見送ってくれました。
エリナも手を振って見送りに応えます。
「みなさまー! さよならー! お元気でー!」
エリナの姿は、段々と遠ざかり、やがて夕日の中に消えていきました…。
…
「…うぇーん…、うぇーん…。
お父さまー…、お母さまー…。」
山を越え、城が見えなくなると、エリナは、大きな声で泣きはじめました。
死神は、何も言わず夕日に向って飛び続けます。
しばらくして、泣きやんだエリナ…。
「死神さん…。
今日は、ありがとう…。
怒ってる…?」
恐る恐る尋ねます。
「いや…、感心したよ…。
誰も悲しまない、笑顔で見送ってくれる…。
良いお葬式だったと思うよ…。」
死神は、優しい笑顔で答えます。
「良かった。
私、死神さんに叱られるって思ってたから…。」
「まあ、私を天使様って、呼んだ事については、少し怒っているがね。」
「ごめんなさい…。
でも、死神さんは黒より白の方が似合ってるよ。
本当に天使様に見えるよ。」
「ははっ…、そんなふうに褒められてもな…。」
2人は、笑いながら夕焼け空の中を飛び続けます。
すると目の前に花畑が見えてきました。
2人は、目配せすると花畑に舞い降ります。
死神は、エリナを大きな石にもたれかかるように座らせると、その隣に腰掛けました。
…
「死神さん…。
私、嘘ついちゃったから、天国へ行けないよね…。」
エリナが悲しそうに呟きます。
「君は嘘をついたかもしれないが、悪い事はしていない。
だから天国へ行けるよ…。」
「本当!?」
「本当さ、私が君を天国へ連れていくんだから、心配しなくても大丈夫だよ。」
…
「魂になったら死神さんとお話出来ないの?」
「…残念だけど話は出来ない…。
でも、気持ちは伝わるよ…。」
…
「私の身体…、どうなっちゃうの?」
死神の表情が曇ります。
「…ここに置いていく事になるよ…。
どうする?
君が良ければ、ここに埋めても良いけど…。」
「…ううん…。
いいよ、このままで…。」
「…そうかい…。」
…
日が沈みます。
エリナの命も終わりを迎えます…。
「…お別れだね…。
死神さん、今日は本当にありがとうございました。」
エリナは、おじぎをして感謝の気持ちを表します。
「いや、こちらこそありがとう。
…楽しかったよ。」
死神は笑顔を見せます。
…
エリナが、おじぎをしたまま顔を上げません…。
ポタリ…、ポタリ……。
涙が、こぼれます…。
「うぇーん…、嫌だー…、死ぬの嫌だよー…。
うぇーん…、お父さまー…、お母さまー…。
うぇーん……。」
大きな声で泣き始め、死神の胸に顔をうずめます。
…エリナには夢がありました。
いつか足が治ったら、お世話になった人達に恩返しをしよう…。
そう思って生きてきたのです。
だから死を宣告された時、考えたのは『お世話になった人達に何か出来ないか?』でした…。
…考えても、考えても、良い考えは浮んできません…。
(…だったら、私が死んでも、みんなが悲しまないことは…。)
思いついたのが『天界に招かれた』と言う嘘でした。
天界で暮らしていると思わせることで、みんなが悲しまないんじゃないか?と考えたのです。
エリナの思惑通り、みんな笑顔で見送ってくれました…。
もう思い残す事はない…、そう思っていたのですが…。
エリナは、まだ12歳…。
いざ、死を目の前にした時、とても耐えられるものではありません。
それでも、お世話になった死神さんに悲しい魂を運ばせたくない。
そう思って泣かずに頑張っていたのです…。
死神は、エリナをそっと抱き締めます。
すると突然、空から一条の光が降り注ぎ2人を包み込みました。
暖かな光…。
驚いたエリナは、涙を止め顔を上げると不思議そうに辺りを見回します。
「…死神さん…。
これって、いったい…。
これが、魂になるってことなの?」
「はははっ…。」
死神は、楽しそうに笑います。
「神様は、君を嘘つきにしたくないらしい…。
君は天界に招かれたんだよ。
天界からみんなの幸せを見守る役目を与えられたんだよ。」
「えっ!?」
エリナは、驚きましたが、すぐに喜びの表情に変わります。
「では、姫様。
天界まで御案内させて頂きます。
天使様でなくて、申し訳ありませんが…。」
死神が、冗談めかせて言うと…。
「ううん! 死神さんが良い!
天界まで、よろしくお願いします!!」
光に包まれた2人の身体は、ふわりと宙に浮き上がると光の中をグングン昇って行き、やがて見えなくなりました。
…
夕日が沈み、夜になります。
「エリナ様は、本当に天界へ行かれたのか?」
「夕日に向って飛んでいったよな…。」
「天界って、どんなところなんだ?」
山奥の小さな国の小さな城は、エリナ姫の話題で持ちきりです。
その時、西の空に一条の光が輝きました。
その光を見た人々は、なぜだかエリナ姫が本当に天界へ行った事が分かりました……。
姫の名前は、エリナ。
優しい王様と王妃様、そして沢山の召使達に囲まれて、幸せに暮らしていましたが、ただ1つ大きな問題がありました。
エリナは、生まれた時から重い病気で、両足を動かす事が出来なかったのです…。
王様は、高名な医師を招いては、診察を受けさせていましたが、現在の医学では治せないと診断されました。
それでもエリナは、いつかきっと病気が治ると信じて、明るい笑顔で毎日を過ごしていました。
そんなエリナが、明日12歳の誕生日を迎えます。
エリナは、楽しみでしかたがありません。
いつもは夜の9時に眠っているのですが、もう11時…。
(…早く寝ないと明日になっちゃう…)
そんな事を思っていると…。
ビュウ~ビュウ~…。
ガタガタガタ…。
突然、風が鳴り響き、窓が震えだします。
ガタン!!
窓が開き、真っ黒な影が部屋に飛び込んで来ました。
「きゃっ!」
驚いたエリナは、布団の中に隠れます。
すると…。
「こんばんは、エリナさん。
脅かしてしまって申し訳ない。
少し話をしたいのですが…。」
と、何者かが優しい声で語りかけてきました。
エリナは、恐る恐る布団から顔を出します。
そこには、真っ黒なスーツを着た背の高い痩せた青年が立っていました。
「…どなたですか?」
エリナが尋ねると…。
「…怖がらないで下さいね。
私は死神です。
あなたをお迎えに参りました。」
「えっ!?」
驚いたエリナを見た死神は、慌てて言葉を続けます。
「あっ! 安心してください。
あなたが、お亡くなりになるのは、明日の日没です。
今日来たのは、あなたの願いを聞くためです。」
「どう言うことですか?」
「あなたは、足が不自由な身にもかかわらず恨み言を言うでもなく、いつも明るい笑顔で過ごして来られました。
このことが天界で高く評価され、ご褒美として1つだけ、願いを聞いてあげることになったのです。」
「じゃあ、私の願いはもっと生きていたいです!」
エリナは必死に訴えます。
「ごめんなさい。
死する運命を変える事は出来ません…。
また、『願い事を2つに増やして』という願いなども聞くことが出来ませんので、ご了承下さい。」
「…」
エリナは、考え込んでしまいました。
そんなエリナを見て、死神が提案します。
「どうでしょう。
足が自由に動くようになると言う願いでは。
あしたの日の出から日没まで自分の足で、色んな所へ行く事が出来ますよ。」
エリナは、思います。
(…夢が叶う…。
自分の足で駆け回ることが出来る…。
お父様もお母様も喜んでくれるだろう…。
でも、私が死んでしまうと喜び以上に悲しんでしまう…。
私の夢…、願い…、望み…。)
エリナは、しばらく悩んでいましたが…。
(はっ!)
と、良い考えが思いついたようで、嬉しそうな顔を見せます。
「私、空を飛びたいの!
鳥のように空を飛んでみたいの!!」
「人間は、空を飛べない…。
だからその望を叶える事は出来ないよ…。」
死神は、残念そうに答えます。
エリナは悲しい顔を見せます…。
「…だったら、死神さんが私を抱えて飛んで下さらない?
死神さんは、空を飛べるのでしょう?」
「私は、魂を天に導くのが仕事で、君のように重さのあるものを長い時間運ぶ事は出来ないんだよ…。」
「えっ!? 少しの時間なら大丈夫なの!!」
エリナの顔がパッと輝きます。
「…うーん…、そうだな…。
30分位なら飛んでいられると思うが…。」
「じゃあ、お願い!
私、夕焼け空の中を飛んでみたいの!!」
「…うーん…。
わかった、夕焼けだな。
じゃあ、日没の30分前に迎えに来よう。
そして、日が沈む5分前に城へ戻って…。」
「ううん…。 お城には戻らなくて良いわ。
…そのまま、飛べるだけ飛んで…。」
エリナは、寂しげに答えます。
「…そんな事したら、君の遺体は誰も居ない山の中に置いて来る事になるぞ。」
「うん…。 それで良いの…。」
「変わった奴だな…。
君のお葬式も、お墓も無くなるんだぞ。」
「うん…。 それで良いの…。」
死神は、エリナをじっと見つめます。
「…わかった。
その望み、叶えよう。
それでは、明日……。」
「あっ! 待って!!」
「んっ!? まだ何か有るのか?」
「…死神さんの真っ黒な服…、凄く怖かったの…。
明日は、真っ白な服で来て欲しいの…。」
死神は、「うーん…」と悩んでいましたが、安らかな気持ちであの世に連れて行くことが使命なので、しぶしぶ了承します。
「…分かった。
白い服で明日の夕方、迎えに来よう。」
「ありがとう!!」
エリナは満面の笑顔で、お礼を言います。
「フッ…。
死の宣告に来てお礼を言われたのは初めてだ…。
変わった娘だな…。」
死神は苦笑を浮かべると、エリナに手をかざします。
「それでは、おやすみ…。
良い夢を…。」
死神の言葉で、エリナは眠りにつきました。
…
翌朝…。
日の出と共に目覚めたエリナは、なぜだか昨夜のことが夢ではなく、本当にあった事だと分かりました。
(…いつもと同じように…。
泣かないように…。
今日一日、泣かないように頑張ろう……。)
エリナは、心に決めます。
…
朝食の席に車椅子に乗ったエリナがやってきました。
「おはよう、エリナ。
誕生日おめでとう!」
「おめでとう、エリナ。」
王様と王妃様が、誕生日を迎えたエリナにお祝いの言葉をかけます。
「ありがとうございます…。
お父様、お母様。
おはようございます。」
エリナは、2人を見た瞬間、涙が溢れそうになりましたが、必死に我慢します。
エリナがテーブルに着くと…。
♪~♪♪~♪♪~~
♪ハッピバースデー、エリナ姫~ ♪ハッピバースデー、エリナ姫~…
楽団が演奏を始め、王様、王妃様、食堂に居たメイドや執事、衛兵達が声をそろえて歌い始めました。
そして、エリナの前に大きなケーキが運ばれてきます。
エリナは、涙を我慢することが出来ませんでした。
「…エリナ、泣くほど喜んでくれるなんて嬉しいよ…。」
エリナの気も知らず、王様と王妃様は笑顔を見せます。
「エリナ、午後から盛大にパーティーを開く。
その時にはもっと大きなケーキとプレゼントを用意しているから楽しみにしていておくれ。」
「…お父様、お母様…、ありがとうございます。
エリナは、幸せです…。」
エリナは、王様の言葉で、さらに涙が溢れるのでした。
…
午後、誕生パーティーが始まりました。
エリナの元には、沢山のお友達がやって来ます。
「エリナ様、お久しぶりです。
お誕生日おめでとうございます。」
「エリナ様、今日はお招き頂き、ありがとうございます。」
「エリナ様、つまらない物ですが、お誕生日プレゼントです。」
…久しぶりに会う懐かしい友人達、エリナは溢れそうになる涙を必死にこらえていました。
城下の人々もエリナ姫をひと目見ようと城の中庭に集まっています。
「エリナ様~!!」
「エリナ様~、お誕生日おめでとうございま~す!」
「エリナ様~、おめでとうございま~す!」
エリナは、2階のベランダから手を振って応えます。
城内では、舞踏会が催され人々は楽しそうに踊り続けているのでした。
…
楽しい時間は、あっという間に過ぎて行き、段々と日が傾いてきました。
突然、エリナが大きな声を上げます。
「皆様! 聞いて下さい!
たった今、神様からお告げがありました!!」
何事かとエリナの周りに人々が集まります。
「エリナ! 突然どうしたんだ!!」
「エリナ、何があったの?」
王様と王妃様は、初めて見るエリナの姿に驚き心配そうに駆け寄ります。
「お父様、お母様…。
たった今、神様が私を天界に招きたいとおっしゃってくださいました…。」
「えっ!? 何だって?」
「どうしたのエリナ?」
王様も王妃様もエリナの言動が理解出来ませんでした。
「神様からのお言葉だって…。」
「嘘だろ…。」
「いえ、エリナ姫は嘘をつくような子じゃないわ!」
客達は、ザワザワと騒ぎたてています。
「皆様、私は神様の申し出を受けようと思います。
天界へおもむき、空の上から皆様の幸せを見守っていきます。」
突然のエリナの言葉に王様も王妃様も戸惑ったまま、うろたえています。
「…もう直ぐ、天界から迎えの方が参られます。
お父様、お母様…、最後に私を抱き締めて下さいますか…。」
王様と王妃様は、言われるままエリナを強く抱き締めます。
「エリナ…。
本当に天界へ行ってしまうのかい?」
「行かないでおくれ…、エリナ…。」
嘘をつかない、ふざけたりしない娘と知っている、王様と王妃様はエリナの言葉を信じます。
「お父様、お母様、私は招かれて天界へ行くのです…。
こんなに名誉な事があるでしょうか?
どうか悲しまないで下さい。」
王様と王妃様とエリナ…、3人は泣きながら抱き合っているのでした。
すると…、
「おい! あれは何だ!?」
3人を囲む人々から驚きの声が上がりました。
空から白い影が舞い降りてきたのです。
「お父様、お母様…、天使様が迎えにいらして下さいました。
これで、お別れです。
どうか、笑顔で送り出して下さい…。」
王様と王妃様がエリナから離れると白い影はエリナを抱きかかえ空へ舞い上がります。
「お父様、お母様…、皆様…。
今までありがとうございました…。
エリナは幸せでした…。
これより先は、天界から皆様を見守ってまいります。
どうかお元気で……。」
「エリナ、天界へ行っても元気でな。」
「天使様、エリナの事、どうかよろしくお願いいたします。」
「エリナ様~、お元気で~。」
「エリナ様~…。」
王様と王妃様は涙を流しながら笑顔で…、来客の人々、城下の人々は、笑顔で手を振ってエリナを見送ってくれました。
エリナも手を振って見送りに応えます。
「みなさまー! さよならー! お元気でー!」
エリナの姿は、段々と遠ざかり、やがて夕日の中に消えていきました…。
…
「…うぇーん…、うぇーん…。
お父さまー…、お母さまー…。」
山を越え、城が見えなくなると、エリナは、大きな声で泣きはじめました。
死神は、何も言わず夕日に向って飛び続けます。
しばらくして、泣きやんだエリナ…。
「死神さん…。
今日は、ありがとう…。
怒ってる…?」
恐る恐る尋ねます。
「いや…、感心したよ…。
誰も悲しまない、笑顔で見送ってくれる…。
良いお葬式だったと思うよ…。」
死神は、優しい笑顔で答えます。
「良かった。
私、死神さんに叱られるって思ってたから…。」
「まあ、私を天使様って、呼んだ事については、少し怒っているがね。」
「ごめんなさい…。
でも、死神さんは黒より白の方が似合ってるよ。
本当に天使様に見えるよ。」
「ははっ…、そんなふうに褒められてもな…。」
2人は、笑いながら夕焼け空の中を飛び続けます。
すると目の前に花畑が見えてきました。
2人は、目配せすると花畑に舞い降ります。
死神は、エリナを大きな石にもたれかかるように座らせると、その隣に腰掛けました。
…
「死神さん…。
私、嘘ついちゃったから、天国へ行けないよね…。」
エリナが悲しそうに呟きます。
「君は嘘をついたかもしれないが、悪い事はしていない。
だから天国へ行けるよ…。」
「本当!?」
「本当さ、私が君を天国へ連れていくんだから、心配しなくても大丈夫だよ。」
…
「魂になったら死神さんとお話出来ないの?」
「…残念だけど話は出来ない…。
でも、気持ちは伝わるよ…。」
…
「私の身体…、どうなっちゃうの?」
死神の表情が曇ります。
「…ここに置いていく事になるよ…。
どうする?
君が良ければ、ここに埋めても良いけど…。」
「…ううん…。
いいよ、このままで…。」
「…そうかい…。」
…
日が沈みます。
エリナの命も終わりを迎えます…。
「…お別れだね…。
死神さん、今日は本当にありがとうございました。」
エリナは、おじぎをして感謝の気持ちを表します。
「いや、こちらこそありがとう。
…楽しかったよ。」
死神は笑顔を見せます。
…
エリナが、おじぎをしたまま顔を上げません…。
ポタリ…、ポタリ……。
涙が、こぼれます…。
「うぇーん…、嫌だー…、死ぬの嫌だよー…。
うぇーん…、お父さまー…、お母さまー…。
うぇーん……。」
大きな声で泣き始め、死神の胸に顔をうずめます。
…エリナには夢がありました。
いつか足が治ったら、お世話になった人達に恩返しをしよう…。
そう思って生きてきたのです。
だから死を宣告された時、考えたのは『お世話になった人達に何か出来ないか?』でした…。
…考えても、考えても、良い考えは浮んできません…。
(…だったら、私が死んでも、みんなが悲しまないことは…。)
思いついたのが『天界に招かれた』と言う嘘でした。
天界で暮らしていると思わせることで、みんなが悲しまないんじゃないか?と考えたのです。
エリナの思惑通り、みんな笑顔で見送ってくれました…。
もう思い残す事はない…、そう思っていたのですが…。
エリナは、まだ12歳…。
いざ、死を目の前にした時、とても耐えられるものではありません。
それでも、お世話になった死神さんに悲しい魂を運ばせたくない。
そう思って泣かずに頑張っていたのです…。
死神は、エリナをそっと抱き締めます。
すると突然、空から一条の光が降り注ぎ2人を包み込みました。
暖かな光…。
驚いたエリナは、涙を止め顔を上げると不思議そうに辺りを見回します。
「…死神さん…。
これって、いったい…。
これが、魂になるってことなの?」
「はははっ…。」
死神は、楽しそうに笑います。
「神様は、君を嘘つきにしたくないらしい…。
君は天界に招かれたんだよ。
天界からみんなの幸せを見守る役目を与えられたんだよ。」
「えっ!?」
エリナは、驚きましたが、すぐに喜びの表情に変わります。
「では、姫様。
天界まで御案内させて頂きます。
天使様でなくて、申し訳ありませんが…。」
死神が、冗談めかせて言うと…。
「ううん! 死神さんが良い!
天界まで、よろしくお願いします!!」
光に包まれた2人の身体は、ふわりと宙に浮き上がると光の中をグングン昇って行き、やがて見えなくなりました。
…
夕日が沈み、夜になります。
「エリナ様は、本当に天界へ行かれたのか?」
「夕日に向って飛んでいったよな…。」
「天界って、どんなところなんだ?」
山奥の小さな国の小さな城は、エリナ姫の話題で持ちきりです。
その時、西の空に一条の光が輝きました。
その光を見た人々は、なぜだかエリナ姫が本当に天界へ行った事が分かりました……。
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シロ
つなざきえいじ
児童書・童話
犬のシロは、優しいお婆さんに拾われ幸せな日々を送っていました。
冬になり、体調を崩したお婆さんが、病院へ行くことに。
シロは、留守番をお願いされるのですが…。
※2015年9年25日[小説家になろう]へ投稿した作品です。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
青色のマグカップ
紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。
彼はある思い出のマグカップを探していると話すが……
薄れていく“思い出”という宝物のお話。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ももなのともだち
翼 翔太
児童書・童話
両親より一足先におばあちゃんの家に来ていたももな。しかし大切なともだちである、ぬいぐるみのラビがいなくてももなの心は沈んだままだった。
おばあちゃんと過ごしている中ひとりの薬の魔女、ほのかと出会う。そこでももなは『こころの傷ぐすり、あります』という張り紙を見つける。
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