運び屋ケイン5 ~怪物との戦い~

つなざきえいじ

文字の大きさ
1 / 1

運び屋ケイン5 ~怪物との戦い~

しおりを挟む
プルプルプルプル…。

小型飛行艇リトルホープ号の夢8型エンジンが、語りかけてきます。

「ねえ、ケイン。 聞いてる?」

「ああ、聞いてるよ。」

後部座席に座っている少女が、頬を膨らませます。

「じゃあ、さっき何て言ったか言ってよ!」

少女は、リトルホープ号へ乗ってから、家族への愚痴をずっと喋っていました。
ケインも最初のうち真面目に話を聞いていたのですが、さすがに耐えられなくなり、少女を無視。
“今日も良い音してるね!”と、心の中で、夢8型エンジンと会話していたのです。
少女の言葉など覚えている筈もありません。
ケインは、少し考えると…。

「確か…、『ねえ、ケイン。 聞いてる?』だと思うけど…。」

少女の怒りが頂点に達します。

「あ×Aぞ○Zが、△ご□げ…!!!」

言葉に出来ない罵声が続きます。

「はあぁぁぁーーーっ…。」

ケインは、長い長い溜め息をつきました…。


ケインは、運び屋。
頼まれた荷物を指定された日時に、指定された場所まで運ぶ仕事。

今回、荷物の届け先は、リゾッタ島。
南国の島です。
荷物の名前は、マリーン。
スコット家、12人兄妹の上から4番目の娘。
現在スコット一家は、豪華客船ブルームーンで、家族旅行の真っ最中。
船嫌いのマリーンは、乗船前に逃げ出したのです。


船が出港後、マリーンが居ない事に気付いたスコット夫妻は、ケインの両親を頼ります。
ケインの実家は、スコット家の近所。
ケイン自身もスコット家とは付き合いがあり、家族全員と面識があります。

両親は、休暇で帰省していたケインに、マリーンを捜すよう命じました。
実家のソファーで、ゴロゴロしていたケインは、大きな溜め息をつくとマリーン捜しに出かけます。

マリーンは、直ぐに見つかりました。
スコット家へ行くと、玄関前で膝を抱えていたのです。
鍵が無く、家に入れなかったマリーン。
その姿を見たケインは、笑いました。
ホッとした表情を見せたマリーンが、頬を膨らませます。
ケインは、ゴメンゴメンと謝りました。

ケインは、スコット夫妻から、リゾッタ島行きの船に乗せるよう、頼まれた事を話します。
マリーンは、船は酔うから嫌だと、頑として聞きません。

「はあぁーーっ…。」

ケインは溜め息をつくと、じゃ飛行艇で送って行くと言ったのでした…。


リゾッタ島が見えてきました。
さすがに疲れたのでしょう、マリーンの罵声が止んでいます。

「ねえケイン…、帰りも迎えに来てくれるよね…?」

罵声が止んだのは、お願いをする為、だったようです。
ケインは無言。
今日乗せたのは、両親にマリーンの事を頼まれたから…。
せっかくの休暇をこれ以上マリーンの為に使う気にはなりません。
ケインは家で、ゴロゴロしたいのです。
ケインは、マリーンの連続お願い攻撃を無視したまま、港を目指します…。

(んっ!?)

ケインは異変を感じます。
ブルームーンが、まだ到着していないのです。
予定通りなら、1時間前に到着している筈なのに…。
また港の人々が、何やら騒いでいます。

「マリーン! 着水する。
舌を噛まないようにな!!」

ケインの指示で、マリーンの連続お願い攻撃が止みました。
リトルホープ号は、高度を下げると着水し、ゆっくりと港に近付きます。


リトルホープ号に気付いた作業員が近付いてきました。
ケインは、作業員に尋ねます。

「ブルームーンに何か、あったのか?」

「行方不明なんだ!
今、動かせる船を全部出して捜索中だ!」

「えっ!?」

作業員の言葉に、マリーンが不安げな声を上げました。

「分かった! 俺も捜してみよう!!」

ケインは、アクセルペダルを踏み込むとスピードを上げ、離水しました。


「マリーン!
君は、左側を見ていてくれ。
俺は右側を見る。」

ケインの言葉にマリーンは、分かったと頷きました。


捜索を始めて1時間…。
マリーンが声を上げます。

「ケイン! 見つけた! 
あれ、絶対そうだよ!!」

豆粒のような大きさですが、ブルームーンに間違いないようです。
ケインは、ブルームーンへ向けスピードを上げます。


ブルームーンは、襲われていました。
巨大怪物クラーケン…。
このタコのような怪物は、触手をブルームーンに巻きつけ、海中へ引きずり込もうとしています。
ブルームーンの無線アンテナが、触手により破壊されていました。
これでは、何処にも連絡出来ません。

ケインは、ブルームーンの周りを旋回して様子を見ます。
後部座席では、マリーンが身を乗り出して、家族の名前を叫んでいました…。


しばらく観察した結果、ブルームーンが大きすぎて、海中へは、引きずり込めそうにない事が分かりました。
このままクラーケンが、諦めるのを待てば、問題は解決と、ケインは、ほっと一安心。
状況を報告する為、リゾッタ島へ引き返す旨を、マリーンに告げます。

「駄目ーーっ!!」

マリーンが、絶叫しました。
ケインは、後部座席を振り返ります。
マリーンは、泣いていました。

「怪物を退治して…、みんなを助けて…。
お願い…、何でも言うこと聞くから…。」

ケインが、武器が無いから攻撃出来ない。
あの様子なら大丈夫だと、説明してもマリーンは、首を横に振ります。

「もし、もう一匹…、あの怪物が出てきたら…。
みんな死んじゃう…。」

マリーンは、両手で顔を押さえると泣きじゃくります。
確かに可能性として無い事は、ありませんが…。
ケインは、溜め息をつくと覚悟を決めました。

「マリーン!
シートベルトをきつく締めとけ!!
攻撃は1回だけ、失敗したらリゾッタ島へ引き返す。
行くぞ!!」

ケインは、アクセルペダルを踏み込み、急上昇を始めます。
空高く舞い上がったリトルホープ号は、反転すると一気に急降下。
見る見る海面が近付いてきます。
クラーケンと目が合いました。
ケインは、操縦桿を引くと同時に、座席横のレバーを引きます。

ガコン!

翼の付け根に付いている左右のフロートが切り離されました。
フロートは、クラーケンの目を直撃します。
クラーケンが身じろぎしました。
ダメージは、ほとんど無いようです。

と、ブルームーンに絡み付いていた触手が離れていきます。
クラーケンは、海の底に潜って行きました…。


「ケイン、やったね!
ありがとう!!」

マリーンは大喜び。
ケインは、ダメージを与えた感が、無かった事を悩んでいました。

(フロートで、逃げたのか…?
諦めて、逃げたのか…?)

と、ブルームーンを見ると甲板に人が溢れ、リトルホープ号に手を振っています。
ケインは、マリーンに指示してメモを書かせます。
そしてメモを通信筒に入れ、ブルームーンの甲板へ投下しました。

通信筒は円筒の入れ物、後部に数本のリボンが付いていて、空気抵抗によりスピードが出ないようになっています。
通信筒が、乗員の手に渡りました。
ケインは、ブルームーンの周囲をゆっくり旋回します。
家族を見つけたマリーンは、手を振って無事を喜んでいました。


しばらくして、ブルームーンの汽笛が2回鳴りました。
ケインは、ブルームーンの状態を知る為、メモで汽笛の回数を指示していたのです。

1回=航行不能。
2回=引き返す。
3回=リゾッタ島へ向かう。

ケインは、了解の合図で翼を振るとリゾッタ島へ向かいます。
来たときの倍近いスピード。
ケインは、早急に報告する事を考え、スピードアップの為、フロートを無くしたのです。

リゾッタ島へ到着するまでの間に、ケインはマリーンにメモを書かせます。
ブルームーンが無事である事。
そして現在位置、引き返すことになった事など…。
メモを書き終えたマリーンが、疑問を覚えます。

「ねえ、ケイン。
着水して、直に話せば良いんじゃないの?」

ケインは、ポリポリと頭をかきました。

「フロートが無いと少しの波で、バランスを崩すんだよ。
だから、島の後は、俺の家へ向かう。
で、フロートを取り付けてから、君を家へ送って行く事になる…。」

「ちょっと待って…、今からだと日が暮れるんじゃない?
夜の飛行は、無理な筈だから…。
私…、お泊りするの…?」

一人暮らしの独身男性宅へ行くと知った、マリーンの頬が染まります。
マリーンの言葉を聞いたケインは、しまった!と、ばかりに、アクセルペダルを踏み込みました。
ケインは、そこまで考えていなかったのです。

ババババババババ…。

ケインは、最高速度でリトルホープ号を飛ばします。

(このスピードならギリギリ、日が暮れる前に…。)

後部座席では、マリーンが、あらぬ妄想に浸っていました。

「ケインったら…、私の『何でも言うこと聞くから…。』って、言葉を真に受けて…。
でも、約束だから…。
うん! ケインだった良いよ…。
だめだめ、そんな事…。
イヤーン!!」

ケインは、苦笑いを浮かべると、夢8型エンジンに語りかけます。

「夢ぱっさん、無理させるが、頑張ってくれ!
お互い、明日から、ゆっくりしよう!!」

果たして、ケインの運命は…、マリーンの運命は…。
2人を乗せたリトルホープ号は、オーバーヒートの危険をはらみながらも、猛烈なスピードで、飛び去って行きました……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

魔女は小鳥を慈しむ

石河 翠
児童書・童話
母親に「あなたのことが大好きだよ」と言ってもらいたい少女は、森の魔女を訪ねます。 本当の気持ちを知るために、魔法をかけて欲しいと願ったからです。 当たり前の普通の幸せが欲しかったのなら、魔法なんて使うべきではなかったのに。 こちらの作品は、小説家になろうとエブリスタにも投稿しております。

おばあちゃんのおかず。

kitahara
児童書・童話
懐かしい… 懐かしいけれど、作れない…。 懐かしいから食べたい…。 おばあちゃんの思い出は…どこか懐かしくあたたかいな…。 家族のひとくくり。 想いを。

ぼくの家族は…内緒だよ!!

まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。 それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。 そんなぼくの話、聞いてくれる? ☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

処理中です...