ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第一章 演武

4 そもそもの起点は…

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「そもそもこのことは…随分と前に、我が夫ギリアムが、問題提起したことです。
そのような状態になったら…どうするのか?と。
そしてそれはだいぶ前の事です。
ご存じでしょう?
それなのに対策もせず、手をこまねいていたならば…要人警護というものを、舐めているか
いい加減に考えているとしか、思えません」

「フィリアム商会では…男女差別をなるべくせずに、職業選択の自由を与える事をモットーに
しております。
ゆえに女性騎士を採用し…醜聞についての対応も、しっかりとしております。
そこまでやってこそ、男女同権を歌えると思っておりますゆえ。
昨今、そんなギリアムや私に…随分と無礼な突っかかり方をしてらっしゃる方がいらして…、
いい機会なので、これでどうなるか…見るのも一興と思い、あえて止めずにおります」

じい様…ぐうの音も出ないようだ。

ティタノ陛下は…平常心そのもの。
この計画を話し、昨今の流星騎士団の態度を話したら…そっちの方が、めっちゃ怒ってたもん。
ヤジの大合唱に私の事が混じっているが…構わん構わん。
イシュロとラディルスが…報告するいいネタを作ってやっているだけさぁ~。

ん?何やらこちらに走ってくる影が…。

「さっさと止めなさいよっ!!アンタたちぃ――――――――――――っ!!」

…メイリンよ…気でも狂ったか?

「女性を裸で戦わせて楽しむなんて、最低よ――――――っ!!」

ティタノ陛下の御前じゃぞ。

「……ローエン、あの失礼極まりないバカはなんじゃ?」

「すぐに捕らえますので、ご容赦を!!」

だよねぇ…。
許可されてないのに、ティタノ陛下の御前に出た挙句、あの言葉使い…。
言っていることが正しくても、言葉使いがアウトだ。
…メイリンって、社交界教育受けたんだよね?
計算してやるならまだしも…あれ、自分に正当性があるから、こっちが従って当然って
態度だぞ?悪手もいい所だ。

あ、メイリンに槍が向けられた。

なんかほざいているが…、あ、ツァリオ閣下が飛んできてぶん殴った…。
あら、しかもぐーだわ。
そして…やっぱり飛んで来た、アルフレッドと一緒にドナドナしてった…。
アルフレッドも殴られて、怒鳴られてる…。
ちゃんと見とけって事だろうなぁ…。ホントになぁ…。

めでたくご退場~。

さてさて…勝負は…まだつかな~い。

ドロテア…かなり参ってるなぁ…。
スタミナがどうとかより、精神的に…そんな顔だ。

「おっちち、おちち、女性騎士のおちちは、最高だ~。
おっちちぽろぽろ、おっ尻ぷりぷり、揺らして戦う、乙女~最高!!」

変な替え歌…即興で作るの上手い奴、どこにでもいるなぁ…。
しかも周りもつられて歌い出したから…結構な大合唱になって来たなぁ…。

ハートは…と言えば、攻撃をしつつ、体をくねらせ、ヤジを飛ばす男どもに、最大限の
サービスをする。

スッゴイね。
私にゃできない、サービスの仕方…最高じゃん!!
……ただ、ドロテアの方は持たないだろうから、そろそろ終いにせにゃーな。
イシュロとラディルスも…全体的な調査は、終えたろうし。

私が思ったのと、その声が響いたのは、ほぼ同時だった。

「国王陛下の御命令である――――――――――――――――っ!!
試合終了ぅ―――――――――――――――――――――――――っ!!」

……ケルカロス陛下は籠城中のハズだから…レファイラだな。
国王陛下不在の場合は…王后が、国王の代理で命令できるからな…。
ティタノ陛下が審判だから…動かないと思っていたが、動きやがったか…ちっ!!

「ふん…。クッチェンバラスのバカ娘か…。どうする、オルフィリア公爵夫人…」

「……ちょうど、そろそろ調査が終わったと思われます」

「そうか…なら、異議は唱えずにおくかの…」

…試合終了か。
何だか…最後はあっけなかったな。
私はこの時点で貴族席をぐるっと見渡すと…一応退席はなし…か。
まあ、ティタノ陛下がいちゃあ、そうなるよね…。
これなら…仕込みがより、生きてきそうだなぁ…。
私は心の中で…ニンマリした。

そんなこんなで、下卑たヤジと共に、公開演武は幕を下ろした…。

テラスで見ていたフィリー軍団は…。

「予定通りとはいえ、アイツ本当に上手いよなぁ~」

感心しながら中に戻ると、ちょーど戻ってきたハートが、

「見た見た?みんな~。アタシの戦いぶり、凄かったっしょ!!」

「あー、凄かった」

「何よ!!その棒読み!!もっと褒めないさい!!」

「すごいスゴイ」

やっぱり棒読みだ。
ハートのこれは…トランペストにとって、日常茶飯事なのだろう。

「あのさ…ご歓談中悪いんだけど…」

話しかけてきたのは、ローカスだった。

「さっさと服着てくれや」

目のやり場に本当に…困る格好だと言いたいのだろう。

「え~、サービス精神旺盛なんだから、素直に楽しめば…いたっ!!」

ジョーカーに小突かれ、服を着に行くハートだった。

「な、なんて言うか…その…スゴイですね…えっと…いろいろ…」

戦い慣れしている中でも、特に様々な経験を積んだ歴戦の猛者たちでも…信じられない
光景を目撃すると、きょどるようだ。

「あ~、アイツはただ一人、女性として奥様の護衛に課されたテストを、クリアーしてますから」

かなりシレっと答えたのは、スペードだ。

「ど、どんなテストだよ?」

ローカスが…ちょっとこわごわと聞いてきた。

「ん?男の前であったとしても、全裸で普通に戦闘!!」

これは…近衛騎士団所属の皆様の、顎が外れた。

「い、いい、いや、そりゃマズいだろ…」

誰ともなく、声が上がったのだが、

「要人警護が任務の人たちが、なに甘ったるい事、言っているわけ?」

着替えてきたハートが、戦線復帰。

「奥様は…特にお忍びで動くことが、多い方なのよ!!
普通に大層な護衛を付けられないし、特に…お風呂なんかは、アタシも一緒に入る事あるの。
そんな時に敵が襲ってきたら、服着ている暇なんて、ないでしょ!!
馬鹿じゃない」

ぷんすか怒っている。

「まあ、こいつの試験の場がまさに、奥様と一緒に入ってる風呂場だったからなぁ」

「でも…あの時のお前には、さすがのご当主様も引いてたぞ、多分…」

「え~、褒めてくださったわよぉ」

普通の茶飲み話のノリで話しているが、

「えっと…どんな感じだったの?」

やっぱり怖いが、聞きたいらしい。

「まず…襲撃犯として、風呂に3人ばかり侵入させたんだよ。
奥様は予めわかってらしたから、下着付けてたんだけどね。
その3人を…まず風呂場の仕切り棒で叩き出して…そしたらそいつら、往来の真ん中に逃げ
込んだんですよ。
まあ、これもご当主様の指示だったんですけど。
そこに…コイツは素っ裸のまま追いかけて行って、往来の真ん中でお縄にして…」

スペードは配慮したのか、そこで止まったんだが…。

「その後、縛り上げて、玉と竿を切り落とそうとしたところで…ご当主様のストップが入った
のよね」

あっさり答えるハート。

「お前さ…さすがに、縛り上げた時点で、服着ろよ」

クローバ…呆れてる。

「え~、だって!!アタシならまだしも、奥様の風呂を覗こうなんて、不届きもの!!
切り落としちゃった方がいいじゃん。後々のためにさ~」

「後々ってなんだよ」

「あ、男はあそこを切っちゃえば…精力減退して、大抵の事にやる気失くすから」

てへぺろ…の、ノリで話すハートに対し…。
恐怖の眼差しを向ける近衛騎士団の猛者たち…。
心なしか…後ずさってるし。

そしてファルメニウス公爵家に帰ってくると…。

「ご協力感謝いたします、ティタノ陛下…」

私は改めて頭を下げる。

「構わん!!わしを侮辱した連中を、追い詰める事にも繋がっとるし…。
第一、ギリアム公爵が忙しい中、心を砕いたのに、それを仇で返すとは何事じゃ!!
わしだったら、全員の首をとっくに切っとるわ!!」

「まあ…難しい所ですよ。
あまり推奨しすぎると、風紀の乱れに繋がりますし」

ギリアムの…重い声。

「そうですね…。
今の所は、現在の方法を維持しつつ、私の護衛に限ってのみ、今の条件でよろしいかと…」

どんなに法を強化しても、必ず網をかいくぐるやつはいる。
だからって…手をこまねいているのも、また良くないしね。

今回の問題提起の波紋が…どんな結果を生むか…注目するしかない。

私の投げかけた、超どでかい爆弾が…果たしてどうなるか…。
明日のファルメニウス公爵家主催のパーティー…出来れば最初から最後まで、いたかったんだけどね。
でも仕方ない。
アンナマリーを助けに行かねば…。

秘密裏に動いてくれる人員は確保できたから、ひとまず…成り行きを見守るしかない。
そして私は…できるだけ早く、帰ってくるしかない。

そうそう、大事な事を忘れるところだった。
私は…ファルメニウス公爵家に帰って来たドロテアの元に…。

「ご苦労様…。よく頑張ったわよ」

「はい…。でも…」

すごく…悲しそうな顔をしつつ、

「ギリアム公爵閣下が提起した問題は…。本当に真剣に…考えねばいけなかったのですね…」

下を向いた。
言葉で言い聞かせられて、覚悟するのと…実際に当事者になるのは、訳が違う。
だから…ギリアムは言ったんだ。なのに…なんで真剣に考えなかったんだ、ダリアよぉ…。

私は…ダイヤの事とは別に、ちょっと…女性として、団長として…どうなのよと思い、
拳に…思わず力が入った…。

その時…。

「オルフィリア様、ギリアム様がお呼びです」

ビロッディが呼びに来たので、私は席を外す。

「ドロテア卿…修練場に行かないか?」

「え…?」

慰めるでも、励ますでもなく、ビロッディのかけた言葉はそれだった。

「ドルグスト卿がよく言っていただろう?
試合が終わった時…できるだけ早く、反省会をやるべきだ…って。
それが強くなる近道だから…って。
もちろん、体が辛くなければ…だがな」

微笑みつつ、手を差し伸べる。
ドロテアは少し…下を向いて考えたが、

「……付き合ってもらえますか?」

「もちろん」

ビロッディの手を取り…立ちあがるのだった。
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