ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第二章 乱宴

1 いざ、デオリード宮殿へ ※

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ファルメニウス公爵家のパーティーは…わかりやすく、正午から午前0時までとした。
商談もあるため、長めに時間をとったのさ。
まあ…ティタノ陛下自身がやることは、殆どないのだけど。
大抵の話は、側近の専門家軍団がやる手はずだ。

それでも…ティタノ陛下自身に気に入られれば、即オッケーが出ることもあるから、
挨拶がてら、虎視眈々と狙うだろうけどね。

この日の為の装飾と料理は…見事なくらい、皆さまにウケた。
各国の装飾品を取り入れて、それを…魔改造!!
日本人の得意技!!

感嘆してくださってる皆さまはいいとして…、今日は鬼が出るか蛇が出るか…。
こういう状況を楽しんじまうんだから、私もしょーがねぇな。

王家のパーティーでは…爵位の低い順から入場して、それぞれ紹介されるが…。
ウチのパーティーで、そんな面倒くさいことは止めた。
そもそも…無礼講やし、爵位関係なく、実力を示せってのが、方針だから。

と、なると、関係性重視になる。
フィリアム商会のメンバーは、家族そろって早くから来ている。
王立騎士団員のメンバーもそう。

デオリード宮殿の為に、師団長を行かせることも考えたのだが、私とギリアム不在(という事に
してある)のため、むしろパーティーに出てくれと言った。

不測の事態に対応できる人間は、多い方がいい。
テロ的な事が…起こるかもしれないし。

近衛騎士団の主要メンバーも、今日はパーティー要員をお願いした。
デオリード宮殿には…レオニールとガイツ…その部下たちで、十分対応できるとも踏んだしね。


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私を乗せた馬車は…ごとごとと進む。
もうだいぶ郊外に来ているようで、民家はまばらになり、森や林が多くなってきた。

「みんな~、ちょっと休憩しましょ」

私の声と共に…ピクニックを始めるみんな。
日の出前の出発だったから、一息入れる事にした。

「奥様…急がなくていいのですか?」

スペードが、私などよりよっぽど焦っている。

「ファルメニウス公爵家のパーティーが、正午から…。
デオリード宮殿でのパーティーも正午から…。
どちらにしても、間に合わないわ…。だから…英気を養いましょう」

私は…こんな時こそ、どっしり構えねばと思った。

「でも…良かったんですか?アルフレッド卿とアンナマリー嬢は…別に婚約しているワケじゃ、
無いんでしょう?」

やっぱり…そこはね…。

「関係ないわ。誰と関係を持っていようとも…何の罪もない命を、犠牲にするわけにはね…。
そこをおざなりにし続けると…いつかジョノァドのようになってしまうわよ…」

「それは極端すぎますよ、奥様…」

スペードだけじゃなく、他の皆も同じことを言いたげな目だ。

「ま~ね。でも…そう思っていれば、身が引き締まるでしょう?」

私は…すっかり高くなった日を見て、

「準備は…万全かな…。まあ、ギリアムがいれば大丈夫だと思うけど…」

関係ない善良な人が…変な目に遭うのは避けたいんだよね。

「まあそれにね。今回は…本当に過去に類を見ないくらい、コテンパンにしてやらなきゃ
気が済まなくなったのよ。
その為には…できるだけ相手の策略が成功している…と、思わせる必要がある。
ここが勝負どころよ。
高くジャンプするためには、踏み込みは強く深く…。
でも、今回はその状態でいったん止まらなきゃならないからね。
根性が必要!!
まあ、ファルメニウス公爵家の皆と、私が信頼する皆なら、大丈夫だろうけど」

私は…どこまでも澄み渡った空を眺めつつ…新緑がもう少しで芽吹くこと…
楽しみにしている空気の森を、ちょっとばかり散歩するのだ。

これから待ち受ける戦場に…しっかりと地に足を付けて、降りたつために…。

そしてピクニックしたところから、ほど近い場所で…馬車は止まる。

爽やかな初春の空気の中…周りの自然とは不釣り合いな、巨大な城…。
私は馬車の中で、ギリアム…の、紛争をした、ギルディスに話しかける。

……ああ、皆さま。
もう、予想通りと思いますが、私と一緒に来たのは、ギリアムではなくギルディスです。

「ギルディス…私とギリアムが言った事、覚えてる?」

できるだけ優しい声で言えば、

「大丈夫だよぉ~、会場では、喋っちゃいけません。おねえちゃんが危なくなったら、直ぐ助ける事。
あと…力比べを挑まれたら、全力でやっちゃっていいよ…だったよね」

「そうよ。いい子いい子」

私が撫でてあげると、ギルディスは本当に嬉しそう。

「会場じゃあ仮面を被っているから大丈夫だと思うけど、何かあったら、自分を一番大切にする
のよ。わかった?」

私の言葉の真意を…わかっているのかどうか…ギルディスは頷くだけだった。

そうして外に出た私たちを迎えたのは、

「ようこそいらっしゃいました、ギリアム公爵閣下、オルフィリア公爵夫人…」

40前後のマダム。
私はこの人に…前世のセンサーが鋭く反応した。

「私…この仮面舞踏会の主催者である、マダム・エリュートと申します。
来ていただけて、大変うれしいですわ」

マダム・エリュート…ね。偽名だな、絶対。

「お招きいただき、ありがとうございます。
ああそうだ…、最初に言わねばならぬことがございました」

「何でしょう?」

「ギリアムは…本日喉を傷めておりまして、話をすることが出来ません。
あまり話しかけぬよう、お願いいたします。
何かの折には、わたくしが通訳いたしますので…」

「まあ…ギリアム公爵閣下にしては、珍しいですね。健康の神と言われているくらいなのに…」

まあね…。具合崩した所なんざ、見たことないよ…。

「しかし…」

マダムは私の周りを見て、

「今日は…いつもお連れになっている、私兵の方々が見えませんね…」

「あら…たまには休みをあげねばね…。それに…」

「招待状には、私とギリアムだけで来るように…と、かなり強めに書かれておりましたので。
それに…ギリアムが居れば、そもそも護衛は必要ございません」

これはおそらく…この国の貴族の誰もが頷くことだろう。

「まあそれはそうですねぇ…。しかし…」

相手も仮面をつけているから、表情が読みずらいが…。
明らかに何かを…確認したがっているのはわかる。

「どうしました?」

「そちらの方は…本当にギリアム公爵閣下でしょうか?」

まあ…黒幕としては、しっかりと確認を取りたいよな。
この場に…このイカガワシイ場に、本当にギリアムが…公務をすっぽかして参加しているか。

「……背格好でわかると思われますが?」

私が…ちょっと不満げな声を出すと、

「ご気分を害されたなら、申し訳ございません。
しかし…仮面舞踏会という性質上、顔を隠して別人が参加することは、よくあるのです。
失礼ですが、仮面を取っていただいても?」

その時…ギリアム…に扮した、ギルディスがスッと動いた。
私は…この辺はだいたい台本化していたので、

「あらぁ…。私よりギリアムが、怒ってしまったようですわぁ…」

ちょっとわざとらしく、言ってやる。

ギルディスは…マダムの斜め後ろに門番として立っていたであろう、ギリアムより背が高くて、体重が
ありそうな男二人を…。

片手に1人ずつ…2人を両手で軽々と持ち上げた。

私とマダムのやり取りは…遠目で見ていた人がいたのだが、そちらから驚嘆の歓声が上がる。

そのまま…砲丸の如く、文字通り2人を広ーい庭を横切る形で、ぶん投げた。
吹っ飛んだ2人は…彼方にある反対側の壁に近い位置まで転げまわり…止まった。

色々見慣れているであろうマダムも、さすがにこれは驚いたようで…。

「マダム…」

「は、はい!!」

私の声に、思わずびくついた。

「ギリアムは…まだ信用できないなら、引き続き護衛をぶん投げると申しておりますが、
いかがいたしますか?」

ちょっと…意地悪気に聞いてやる。

マダムは…体を改めてピシッとし、

「大変申し訳ございませんでした、ギリアム公爵閣下…。どうぞ、中にご案内いたします…」

ひとまずごまかせた…。
私は安堵しつつも、気を引き締めなければ…と、心の中でつぶやくのだった。


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さて…その頃フィリー軍団はと言うと…。

「ああ、あったあった」

フィリー軍団…だけでなく、一緒にいるのは、ウリュジェとフューロット…。
何故か?
それは…アンナマリー捜索の為だ。

ウリュジェとフューロットが見つけたのは、城の緊急脱出口であろう、抜け道の出口。

「しかし…本当にここにいるのかな…人質…」

「それを確かめるために、オレらが導入されたんだろうが!!」

餅は餅屋…。
ウリュジェとフューロットは、屋敷に隠してあるものほど、見つけるのが上手い。

「まあ…人質というのは、生かしておく場合は、管理が意外と大変なんじゃ。
眠らせておくにせよ、誰かに見つかったらお終いじゃし、食事をとらすなら、排泄の問題もある。
城なら…牢屋が無い方が珍しいから、そこに監禁しておくのが一番じゃ」

ジョーカーが年の功を発揮している。

「でもさ…。本当にみんなでこっちに来ちゃって、良かったの?
2人ぐらいは奥様の所に…」

ハートが口をとがらせているが、

「それはマズい。手紙には…奥様とご当主様の2人で…と、書かれていた。
護衛はどの道、止められる恐れがある。
それで把握されて、マークがついても厄介だ」

「それに…奥様やご当主様が言う事を聞いたところで、人質を無事に返すとは限らん。
全員で速やかにかかれとのご命令じゃから、助け出した後、奥様の所に行けばよい!!」

ジョーカーがまとめてくれて、みなが頷き、心がまとまったようだ。

「それじゃあいっちょう、行きますかね!!奥様の為に!!」

誰が誰ともなく行った言葉で、全員が行動を開始するのだった…。


(この後、2話ほど…エロのみ集に入ります)
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