ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第二章 乱宴

3 敵だってバカじゃない

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かくして…人質を助け出せた私は、安堵したのだが…敵もさるもの。
やっぱり問題が発生した。

「奥様!!馬車と馬が…跡形もなく、消えています!!すべて!!」

客のも全て…って、事か…やれやれ。

「近くに借りれそうな民家は?」

「周辺には見当たりません!!」

私と…出来ればギリアムの足止めが目的だろう…。
まあ、御者は薬で眠らせられて、納屋に閉じ込められていたのを発見したから…。
ひとまず安心したんだけどね。

「最寄りの王立騎士団まで…どんなに急いでも、半日かかる…。う~ん…」

私の予想が当たっていれば、私達の足止めに成功した場合…敵がさらに勢いを増す。
それ自体はある程度、想定の範囲内だし、ギリアムは王都にいるから、何かあれば、
対処してくれるだろう…。

でも…やっぱりできれば、帰りたい…。

まだ…日は高い…。
パーティーは序盤が終わったあたりだろう…。

直ぐに帰れれば…フィナーレくらい、ティタノ陛下とご一緒できるはずだ…。
快く送り出してくれたお礼も兼ねて、問題が発生していたのなら…最後くらい私の力で〆たい。

私が唸っていると、

「おねえちゃん、おにいちゃんの所に、帰りたいの?」

唐突にギルディスが聞いてきたから、

「あ…うん。できるだけ早く…ね…」

私は…世間話のつもりで、軽く答えたのだが、

「じゃあ、ボクがおねえちゃんを抱えて、走るよ」

「へ?」

ギルディスよ…。距離がどのくらいあるか…わかっているのかい?

「か、かなり遠いよ。ギリアムが居る所まで…」

「ん~、このくらいならヘーキ」

私は…またしばし考えた。
ギリアムが以前…ティタノ陛下の愛馬を担ぎ上げて、走ってきたことを…。
あの時も、結構距離があったと、後で知った。
それが出来るなら…私一人くらい…確かに行けそう。

「フィリー軍団!!」

「はい!!奥様!!」

「2人ほど…最寄りの王立騎士団へ向かって、事の詳細を報告してちょうだい!!
馬と馬車も借りて…アンナマリー嬢を護衛しつつ、ファルメニウス公爵家へ!!」

「私は…ギルディスと一足先に戻るから、全員でしっかりと、人質を守ってね!!」

「了解しました!!」

その返事をもって、私は…ギルディスに抱え上げられ、一路王都へ。

ギルディスはまあ…早い、早い…。
途中…私が指示して水分補給をする以外は…本当に走り抜けた。
ファルメニウス公爵家まで…。

その時刻は…ちょうど日の入りと同時くらいだった。
……ギルディス、マジスゲー。

「フィリー!!帰ったのか!!」

ギリアムが…飛び出してきた。
心配だったようで…知らせてもいないのに、すっ飛んで来た。
私の気配を察知したんか?

ああ…ありがた…いけど!!会場の見張りどうしたぁぁっ!!
そしてその格好はなんだぁぁ!!
ギリアム…シャツを半分脱いだ状態のまま、私の所に来た…?
???
けど、ひとまず!!

「ギルディスに、水と食べ物!!」

私は叫ぶ…。
ギルディスはさすがに疲れたようで、地面にへたっていた。

「ギルディス!!よくやった!!素晴らしいぞ!!」

ギリアムが…ギルディスを抱きしめてあげた。

「おにいちゃ~ん、お腹すいたぁ」

どこまでも通常営業で、私をほっこりさせてくれるギルディス。

「フォルト!!状況を説明して!!」

水と食べ物を取りに行った使用人から、報告を受けただろうフォルトが走ってきたから、叫んだ。

「お、奥様…少しお休みになられては…」

「そういう訳にいかないわ」

私の目は…とても鋭くなっていたと思う。

「まだパーティーは続いているのよ…。
人質を取ってまで、邪魔しようとした馬鹿どもに…一矢報いてやらなきゃ、気が済まない!!」

私は…親指の爪を、無意識に噛む。

「完膚なきまでに、叩きのめす!!」

心に誓った私は…フォルトの報告を聞く。


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さて…時を少し、戻させていただきます、皆さま…。

正午に無事始まった、ファルメニウス公爵家のパーティーは…。
日があるうちは、歓談会よりもむしろ、商談がメインとなった。

ティタノ陛下のそばに…というか、会場を見渡しても、私がいない事に…当然事情を知らない人たちは
ざわざわし始めた。

でも…雑談より、商談メインの人が大多数だから、あまり大きい波にはならなかった。

問題は…中盤以降だろう…。

商談は、日が沈むまで…としたのだ。
じゃないと…メリハリがつかないからね。

もちろん、その後だって、上手く話を持っていくやつはいるだろうが…。
それはギリアムの言葉通り、自分の価値を示せれば、こちらは文句を言うつもりは無い。

ただ…パーティーが進んでも、フィリーもギリアムも姿を現さないからこそ、ざわざわは収まる
どころかヒートアップ。
ファルメニウス公爵家を物珍しそうに、見ている人間も多いが、やっぱり社交界はおしゃべりだろう。

フィリーはどうした?ギリアムはどうした?

何か問題が発生したのか…。
パーティー自体が、中止になるのでは?

などなど、様々な憶測が飛び交った。

しかし…優秀なファルメニウス公爵家の使用人たちによって、滞りなくパーティーは進んでいく。

交流会の時と同じ…いや、さらに進化させたおもてなしが振舞われ、人々の心をつかんだ。

だがここで…流れを変える者が、現れた。

「ケルカロス国王陛下!!レファイラ王后陛下のご入場です!!」

さすがに…これはしっかりと、通達しないわけにはいかない。
レファイラの近くには、レベッカがしっかりと付き従っていた。

もちろん国王夫妻には、会場中の視線が集中し、みなが綺麗なお辞儀を一斉にする。

「みな、楽しんでいるようで何より!!
この会は無礼講ゆえ、堅苦しい挨拶は、この後無しとしようではないか!!」

すでに…会場にいるティタノ陛下の所に行き、

「ティタノ陛下…。どうでしょうか?ファルメニウス公爵家のパーティーは…」

ケルカロスの言葉に、

「もちろん、楽しんどるさ。もてなしの仕方が、非常に素晴らしい!!
今度この国に来た時も、また是非、ファルメニウス公爵家に泊まりたいわ。わはは」

ケルカロスはまだしも…レファイラは苦々しく思っているだろう。
しかし…表面上には、当然出さない。

「しかし…ギリアム公爵とオルフィリア公爵夫人はどこに、行ったのでしょうねぇ…」

かなりワザとらしく…扇子を開きながら言うレファイラ。
いかにも…フィリーとギリアムが、ティタノ陛下をほっぽらかしにしている…という、印象を
与えたいようだが、

「ん?なんぞ問題が発生したらしくて、そっちの対処に当たっとるようじゃ」

ティタノ陛下が普通に答えたので…ちょっと、ぎょっとしたようだ。
まあ…お客様には事情を説明しない場合も、多々あるからねぇ…。
とくに…揉め事なんかはね…。

「そうでしたか…。
しかし…仮にもティタノ陛下の接待を担当する者が、両方ともいないでは…いけませんわ。
どうでしょう…。このレベッカに…少々お相手をさせていただけませんでしょうか?」

レベッカが…優雅にスッと出てきて、

「お初にお目にかかります…、ティタノ・ウラフィス・バクシバルド国王陛下…。
レベッカ・スタリュイヴェ侯爵令嬢が、ご挨拶申し上げます」

本当に…誰が見ても見とれるような、お辞儀をした。
最も…ティタノ陛下にとってみれば、それが出来ない者を、御前に出すなどあり得ない
立場だろうが…。
事実、最初は非常につまらなそうに、取るに足らない者を見る目を向けていたが、
その名で…ほんの一瞬、眼の色を変えた。

「ほう…何ができるんじゃ?」

ちょっと挑発めいた声だった。

「我が兄…ジョバネスはクッチェンバラス王国で活躍し、多数の王侯貴族と知り合いました。
その国での開発技術と、特産品の話をよくしてくださるのです。
ですので…それについて、お話しようかと…」

余談だが、クッチェンバラスというのは、レファイラの出身国である。
そしてレベッカのこの話は…他愛もないおしゃべりに見せかけた、商談をしましょうと言う事だ。
他国の情勢を知るには、うってつけ…。
暗にそれをほのめかすのは、さすがと言えばさすがだが…。

ティタノ陛下は当然…そんなことはわかっているので、やっぱりつまらなそうに、

「そんな話はどうでもいいから、1つ答えろ」

ワインを煽りつつ、

「お前は…お前の父親のしたことを、どこまで知っている?」

この質問が…内心レベッカに、最大クラスの衝撃を与えたのは、言うまでも無いだろう。
もちろん…ポーカーフェイスを崩すほど、馬鹿じゃないが…。

「お父様は…最近、王太子殿下のお手伝いをされた…という事は、お聞きしております…」

まあ…ごまかすしかないだろうな。
キンラク商会とジョノァドの関りは…知っている人間も多くなったが、それを…レベッカが
口に出すことは出来なかった。

「くわしく!!」

レベッカは…背中に嫌な汗がつたう。
あの父親の…許可なく暗部を披露することなど、逆鱗に触れるだけだと、分かっているから…。

「お、お父様は…あまり私を事業に関わらせないのです…。
ですので…詳しい事は…」

するとティタノ陛下は持っていたグラスのワインを、一気に飲み干し、

「なら、下がれ!!わしの興味があるのは、その話だけじゃ!!
それを仕入れてきたら、少しくらい相手をしてやろう!!」

その素っ気なさと来たら…。
まあ、ジョノァドのしたことをフィリーとギリアムに聞いただけでなく、ティタノ陛下なりに
裏を取っているのだろう。
だから…あまり傍に寄らせたくないようだ。

ティタノ陛下に下がれ…と、言われたらそうする以外ない。
縋ることが悪手であるとわかっているため、レベッカは…大人しく下がるのだった。
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