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第二章 乱宴
4 ケイシロンの考え
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ファルメニウス公爵家のパーティーの日…ケイシロン公爵家では、みんなで準備をしていた。
「でもおじい様…行っても大丈夫ですかね?
ギリアムもオルフィリア公爵夫人もいないんじゃ、変な奴来ているんじゃ…」
ローカスは…少し心配そうに首をひねる。
「まあ…微妙な所じゃが、ファルメニウス公爵家は全体的に質が良いからな…。
他の場所より、水掛け論になりにくい。
王家主催のものに、出ないわけにはいかない以上、ある程度慣らしておく必要はある。
セミナーやお茶会に出席して、少しは慣れたのだから、質の良いパーティーには出ておいた方が
良いし、わしもお前も今日はいるんだから、大事無かろう」
「まあ…そうですね」
ローカスは…ここで少し考えこんで、
「でも…ギリアムは、本当にあっさりと、デオリード宮殿の仮面舞踏会を選んだな…。
ファルメニウス公爵家のパーティーで何かあれば…、評判を下げる事は請け合いなのに…」
本当に感心して、言った。
「まあのぉ…。坊主はちっとも父親に似んかった。
顔は瓜二つじゃが、血が繋がっとるのか、本当に疑いたくなるわ」
かなり失礼な言葉を、随分と楽しそうに言う。
そんな話をしている2人の元に、お支度を終えたマギーとルリーラがやってくる。
「おお、マギー!!今日は一段と綺麗じゃん!!」
マギーは…ローカスに褒められて、頬を染めている。
ドレスには…所々刺繍がちりばめられ、とても優雅で美しい。
「今日のドレスの刺繍は…マギーの考案なんですよ。
デザインが綺麗だから、入れてもらったの」
ルリーラが…代わりに説明してくれた。
「そっか…。そう言えば、刺繍の教室、通い始めたんだったな」
「はい…。皆さんと一緒に、刺繍したり案を出し合ったり…楽しいです」
マギーの笑い顔を見て、自身も顔が緩むローカス。
こうして一行は…ファルメニウス公爵家のパーティーにやって来た。
もちろん…挨拶をしてくる人間は、その地位故ひっきりなしだ。
近衛騎士団もだいぶ参加しているから、その家族含め、結構な人数に囲まれる。
その中には…エリザ伯爵夫人の、講座で知り合った人たちもいて、全体的にいい雰囲気だった。
次の講座の話や、お互いがやってみたいこと…。
暖かい話題で溢れていたので、つかの間…幸せを感じただろう。
しばし時が流れた時、マギーはトイレへと行く。
トイレは…お客様用にしてあるため、個室が5つほどあり、洗面台はもちろん、化粧直し専門の
部屋…だけでなく、更衣室もあるから、随分と広い。
マギーが個室から出た時…他に3人ほど入ってきたので、マギーは軽く会釈したのだが…。
「!!?」
その瞬間、マギーの全身に…水が浴びせかけられた。
何が起こったかわからないマギーに対し、3人の中心にいた人物が、
「アナタさぁ…なんでまだ、ケイシロン公爵家にいるワケ?」
唐突に話しかけてきた。
「収穫祭であれだけ醜態晒して、ローカス様に恥かかせて…それでケイシロン公爵家に居座れるって
恥知らずにも程があるわよ」
「社交界の教育もマトモに受けていないのでしょう?早めに身を引くのが、ローカス様の為だと
思うけど?」
「公爵夫人ていうのは、誰もがなれるものじゃない!!役不足はさっさといなくなりなさい!!」
ずいぶんと、上から目線で話すものだ。
明らかに…地位は下なのに。
マギーは…ファルメニウス公爵家のパーティーで、こういう事が起こりうると、予想してはいなかった
ようだ。
下を向いて、震えて…胸の前で組んだ手を、ぎゅっと握る。
「何とか言いなさい!!さっさと、実家に…」
「あー、ちょっと、それは無理でしょ?この人…もう、実家無いんだから」
「あ、そう言えばそうだった…」
ここぞとばかりに嘲笑う3人…。
「だったら…ゼッツェリゼ施設に行くのが一番よね。その方がお似合いよ」
「よね~」
その笑い声は…随分と滑稽で…そして、人の心をえぐるものだった。
マギーは…震えてはいたが、何かを決意したように、唇を噛みしめ、
「いなくなりません…」
ハッキリとした口調だけは、何とか保っていた。
「はあ…?何言っているの?」
「ローカス様は…」
ここで…震えながらも、キッと3人を見つめて、
「私がいいって言ったんです!!失敗は誰にでもある!!一緒に成長しようって言ったんです!!
だから…ローカス様が嫌だとおっしゃるまで、私はケイシロン公爵家にいます!!」
涙を振りまきながら、あらん限りの声で言うのだが…。
その声は…言葉は、3人のどす黒い物を、さらに刺激してしまった。
「体でわからせなきゃ…わかんないみたいね…」
トイレの中の空気が…冷えた氷のつぶてで満たされるように…肌をピリピリと刺激する…。
「一体あなた方、何をしてらっしゃるのですか?」
3人の背中に…ある人物の声。
振り向くと…そこにはジュリアの姿があった。
ジュリアには、ベンズを通して、フィリーが警備員要員をお願いしていたのだ。
「ジュ、ジュリア夫人…。私たちが来たら、マーガレット夫人がびしょ濡れで…。
何があったのやら…」
3人は…ひとまずごまかそうとしたようだが、
「マーガレット夫人…」
「は、はい…」
ジュリアは3人を気にせず、マギーに話しかける。
「アナタは…どうして水浸しになったんですか?」
あくまで普通に…抑揚のない声で聞いた。
マギーは…暫く下を向いていたが、涙をためた目でジュリアを見て、
「そこにいる3人に…水をかけられたんです…」
小さいが、ハッキリした声だった。
ジュリアは…少し唇の端を持ち上げ、
「わかりました…。ああ、お三方…。
今回の件は、しっかりとケイシロン公爵家に報告しますので、あしからず」
ちょっとにこやかに言った。
「お、お待ちください!!マーガレット夫人の言う事を、一方的に信じる気ですか!!」
当然、反論してきたが、
「アナタがた!!ファルメニウス公爵家を舐めているようですね」
ジュリアは…笑顔を顔から消し、眉を少し持ち上げて、険しめの顔を作る。
「女子トイレというのは…いわば密室。一番粉がかけやすい…。
だから…最初から見張りを配置しているんです。
少しでも…怪しい言動をしている人間は、即!!私に報告が来るんですよ!!」
「もちろん…あなた方とマーガレット夫人の一連のやり取り…、目撃者もいますので、
観念してくださいな」
にーっこりと言う。
これで…脇の二人は観念したっぽくて、真っ青になったのだが、中央の1人は…。
「なぜですか…」
「はい?」
「なぜ今更!!マーガレット夫人を庇うんですか!!
こうなったのは、マーガレット夫人の自業自得です!!」
「……どういう意味でしょう?」
「この人に公爵夫人が務まらないのは、ジュリア夫人の方がよくわかってらっしゃるでしょう!!
収穫祭の醜態を見れば、火を見るより明らか!!
ローカス様に迷惑をかけるだけかけて、オルフィリア公爵夫人にも…迷惑をかけたじゃないですか!!
ただのお荷物にしかならない人間を、擁護する必要が、どこにあるんですか!!」
「そうです!!それに社交活動の場で、最低限度、自分の身は自分で守るものです。
それが出来ないなら、自業自得です!!」
それを聞いて…ジュリアは何を思うのか…。
ただ一つ…確かな事がある…と、話し始めたのは…、
「…公爵夫人の役割も、公爵家によって様々ですし、もっと言えば…代々の当主によって
求める能力も様々…一概に務まる務まらないは、決められない。
まして…ケイシロン公爵家と関りのない、あなた方が決める事でもない」
そもそもの貴族の家の…性質だった。
「で、ですが結局!!ウェリナ嬢を苦労して助けたのは、オルフィリア公爵夫人ではないですか!!
鞭で打たれる覚悟までして…。
そもそもマーガレット夫人が最初からしっかりやれていれば、しなくていい苦労だったのに!!」
それも…一理ある…だが。
「そうかもしれませんが…最初からしっかりやれる人間の方が、少ないです。
経験を積んでもそれでは、言われても致し方ないと思いますが、マーガレット夫人は公爵夫人に
なって、日が浅い。
だから…ヘリジェラス伯爵とて、精進してください…と言って、今回は終わりにしたでしょう」
すると…かなり顔が歪んだ。
ヘリジェラス伯爵は娘を相当可愛がっているから…、もっと責め立てると思ったんだろう。
でも…あれで終わってしまい、むしろ彼女らの方が、未消化になっちまったようだ。
それ見たことか…って、みんなで攻めれば、ローエンやローカスだって、無視できないから。
「あなた方が単純に、マーガレット夫人を追い出したいだけなのか、それとも取って変わりたいのか
わかりませんがね。
少なくとも、マーガレット夫人を選んだローカス卿に言うべきです」
女って…たいてい選んだ男より、選ばれた女の方を責める生き物だから、しょーがないのだが。
「……努力しても、無駄と言う事ですか?」
一番…中心になっていた女性が、体を振るわせつつ、吐き出した。
「私は…幼いころから、できるだけ地位の高い殿方の所に!!嫁いでも大丈夫なように…。
見初められたら、十分な働きができるように!!…と、日々精進して、努力してきたんです!!
なのに…」
その頬には…涙が一筋…。
「……努力が無駄とは申しません。
大成した人たちは、皆たいてい、見える見えないにかかわらず、努力しているものです。
ですが…努力が必ず実る保証も、この世の中、残念ながらないのです」
ジュリアは…扇子で口元を隠しつつ、
「ついでに言えば、マーガレット夫人は少なくとも、ウェリナ嬢をはめようとしたわけではない。
どうしても納得がいかないなら…そもそもローカス卿やローエン閣下がいるところで、お話すべきと
思いますね」
最もな事を言う。
「し、失礼します!!」
顔を真っ赤にした、女性は…そのままジュリアの横をすり抜けて、出て行ってしまった。
青くなっていた2人が…その後に続く。
残されたマギーに、ジュリアがそっと、
「ローカス卿は呼んだから、一緒に着替える部屋に行ってください。
着替えは…持ってきていなければ、ファルメニウス公爵家で貸すそうです」
「あ、ありがとうございます…。あの…」
「ん?」
マギーは…少しオドオドしながら、
「私…ご迷惑ばかりおかけして…」
言いつつ、下を向きつつ、泣いているみたいだった。
ジュリアは…少しため息つきつつ、
「あのですね…。オルフィリア公爵夫人レベルに出来る人なんて、誰もいませんよ。
それに…みんな誰かしらに、迷惑はかけていますよ。
オルフィリア公爵夫人は…マーガレット夫人と少し距離を置いたようですが、頑張りは見ると
言ってくださったのでしょう?
今はいませんが…、もし戻られたら、ご挨拶をしてみればよろしいのでは?
アナタの変化が見えれば…また違った関係になると思いますよ」
ジュリアの暖かな微笑で…その場は締めくくられるのだった。
「でもおじい様…行っても大丈夫ですかね?
ギリアムもオルフィリア公爵夫人もいないんじゃ、変な奴来ているんじゃ…」
ローカスは…少し心配そうに首をひねる。
「まあ…微妙な所じゃが、ファルメニウス公爵家は全体的に質が良いからな…。
他の場所より、水掛け論になりにくい。
王家主催のものに、出ないわけにはいかない以上、ある程度慣らしておく必要はある。
セミナーやお茶会に出席して、少しは慣れたのだから、質の良いパーティーには出ておいた方が
良いし、わしもお前も今日はいるんだから、大事無かろう」
「まあ…そうですね」
ローカスは…ここで少し考えこんで、
「でも…ギリアムは、本当にあっさりと、デオリード宮殿の仮面舞踏会を選んだな…。
ファルメニウス公爵家のパーティーで何かあれば…、評判を下げる事は請け合いなのに…」
本当に感心して、言った。
「まあのぉ…。坊主はちっとも父親に似んかった。
顔は瓜二つじゃが、血が繋がっとるのか、本当に疑いたくなるわ」
かなり失礼な言葉を、随分と楽しそうに言う。
そんな話をしている2人の元に、お支度を終えたマギーとルリーラがやってくる。
「おお、マギー!!今日は一段と綺麗じゃん!!」
マギーは…ローカスに褒められて、頬を染めている。
ドレスには…所々刺繍がちりばめられ、とても優雅で美しい。
「今日のドレスの刺繍は…マギーの考案なんですよ。
デザインが綺麗だから、入れてもらったの」
ルリーラが…代わりに説明してくれた。
「そっか…。そう言えば、刺繍の教室、通い始めたんだったな」
「はい…。皆さんと一緒に、刺繍したり案を出し合ったり…楽しいです」
マギーの笑い顔を見て、自身も顔が緩むローカス。
こうして一行は…ファルメニウス公爵家のパーティーにやって来た。
もちろん…挨拶をしてくる人間は、その地位故ひっきりなしだ。
近衛騎士団もだいぶ参加しているから、その家族含め、結構な人数に囲まれる。
その中には…エリザ伯爵夫人の、講座で知り合った人たちもいて、全体的にいい雰囲気だった。
次の講座の話や、お互いがやってみたいこと…。
暖かい話題で溢れていたので、つかの間…幸せを感じただろう。
しばし時が流れた時、マギーはトイレへと行く。
トイレは…お客様用にしてあるため、個室が5つほどあり、洗面台はもちろん、化粧直し専門の
部屋…だけでなく、更衣室もあるから、随分と広い。
マギーが個室から出た時…他に3人ほど入ってきたので、マギーは軽く会釈したのだが…。
「!!?」
その瞬間、マギーの全身に…水が浴びせかけられた。
何が起こったかわからないマギーに対し、3人の中心にいた人物が、
「アナタさぁ…なんでまだ、ケイシロン公爵家にいるワケ?」
唐突に話しかけてきた。
「収穫祭であれだけ醜態晒して、ローカス様に恥かかせて…それでケイシロン公爵家に居座れるって
恥知らずにも程があるわよ」
「社交界の教育もマトモに受けていないのでしょう?早めに身を引くのが、ローカス様の為だと
思うけど?」
「公爵夫人ていうのは、誰もがなれるものじゃない!!役不足はさっさといなくなりなさい!!」
ずいぶんと、上から目線で話すものだ。
明らかに…地位は下なのに。
マギーは…ファルメニウス公爵家のパーティーで、こういう事が起こりうると、予想してはいなかった
ようだ。
下を向いて、震えて…胸の前で組んだ手を、ぎゅっと握る。
「何とか言いなさい!!さっさと、実家に…」
「あー、ちょっと、それは無理でしょ?この人…もう、実家無いんだから」
「あ、そう言えばそうだった…」
ここぞとばかりに嘲笑う3人…。
「だったら…ゼッツェリゼ施設に行くのが一番よね。その方がお似合いよ」
「よね~」
その笑い声は…随分と滑稽で…そして、人の心をえぐるものだった。
マギーは…震えてはいたが、何かを決意したように、唇を噛みしめ、
「いなくなりません…」
ハッキリとした口調だけは、何とか保っていた。
「はあ…?何言っているの?」
「ローカス様は…」
ここで…震えながらも、キッと3人を見つめて、
「私がいいって言ったんです!!失敗は誰にでもある!!一緒に成長しようって言ったんです!!
だから…ローカス様が嫌だとおっしゃるまで、私はケイシロン公爵家にいます!!」
涙を振りまきながら、あらん限りの声で言うのだが…。
その声は…言葉は、3人のどす黒い物を、さらに刺激してしまった。
「体でわからせなきゃ…わかんないみたいね…」
トイレの中の空気が…冷えた氷のつぶてで満たされるように…肌をピリピリと刺激する…。
「一体あなた方、何をしてらっしゃるのですか?」
3人の背中に…ある人物の声。
振り向くと…そこにはジュリアの姿があった。
ジュリアには、ベンズを通して、フィリーが警備員要員をお願いしていたのだ。
「ジュ、ジュリア夫人…。私たちが来たら、マーガレット夫人がびしょ濡れで…。
何があったのやら…」
3人は…ひとまずごまかそうとしたようだが、
「マーガレット夫人…」
「は、はい…」
ジュリアは3人を気にせず、マギーに話しかける。
「アナタは…どうして水浸しになったんですか?」
あくまで普通に…抑揚のない声で聞いた。
マギーは…暫く下を向いていたが、涙をためた目でジュリアを見て、
「そこにいる3人に…水をかけられたんです…」
小さいが、ハッキリした声だった。
ジュリアは…少し唇の端を持ち上げ、
「わかりました…。ああ、お三方…。
今回の件は、しっかりとケイシロン公爵家に報告しますので、あしからず」
ちょっとにこやかに言った。
「お、お待ちください!!マーガレット夫人の言う事を、一方的に信じる気ですか!!」
当然、反論してきたが、
「アナタがた!!ファルメニウス公爵家を舐めているようですね」
ジュリアは…笑顔を顔から消し、眉を少し持ち上げて、険しめの顔を作る。
「女子トイレというのは…いわば密室。一番粉がかけやすい…。
だから…最初から見張りを配置しているんです。
少しでも…怪しい言動をしている人間は、即!!私に報告が来るんですよ!!」
「もちろん…あなた方とマーガレット夫人の一連のやり取り…、目撃者もいますので、
観念してくださいな」
にーっこりと言う。
これで…脇の二人は観念したっぽくて、真っ青になったのだが、中央の1人は…。
「なぜですか…」
「はい?」
「なぜ今更!!マーガレット夫人を庇うんですか!!
こうなったのは、マーガレット夫人の自業自得です!!」
「……どういう意味でしょう?」
「この人に公爵夫人が務まらないのは、ジュリア夫人の方がよくわかってらっしゃるでしょう!!
収穫祭の醜態を見れば、火を見るより明らか!!
ローカス様に迷惑をかけるだけかけて、オルフィリア公爵夫人にも…迷惑をかけたじゃないですか!!
ただのお荷物にしかならない人間を、擁護する必要が、どこにあるんですか!!」
「そうです!!それに社交活動の場で、最低限度、自分の身は自分で守るものです。
それが出来ないなら、自業自得です!!」
それを聞いて…ジュリアは何を思うのか…。
ただ一つ…確かな事がある…と、話し始めたのは…、
「…公爵夫人の役割も、公爵家によって様々ですし、もっと言えば…代々の当主によって
求める能力も様々…一概に務まる務まらないは、決められない。
まして…ケイシロン公爵家と関りのない、あなた方が決める事でもない」
そもそもの貴族の家の…性質だった。
「で、ですが結局!!ウェリナ嬢を苦労して助けたのは、オルフィリア公爵夫人ではないですか!!
鞭で打たれる覚悟までして…。
そもそもマーガレット夫人が最初からしっかりやれていれば、しなくていい苦労だったのに!!」
それも…一理ある…だが。
「そうかもしれませんが…最初からしっかりやれる人間の方が、少ないです。
経験を積んでもそれでは、言われても致し方ないと思いますが、マーガレット夫人は公爵夫人に
なって、日が浅い。
だから…ヘリジェラス伯爵とて、精進してください…と言って、今回は終わりにしたでしょう」
すると…かなり顔が歪んだ。
ヘリジェラス伯爵は娘を相当可愛がっているから…、もっと責め立てると思ったんだろう。
でも…あれで終わってしまい、むしろ彼女らの方が、未消化になっちまったようだ。
それ見たことか…って、みんなで攻めれば、ローエンやローカスだって、無視できないから。
「あなた方が単純に、マーガレット夫人を追い出したいだけなのか、それとも取って変わりたいのか
わかりませんがね。
少なくとも、マーガレット夫人を選んだローカス卿に言うべきです」
女って…たいてい選んだ男より、選ばれた女の方を責める生き物だから、しょーがないのだが。
「……努力しても、無駄と言う事ですか?」
一番…中心になっていた女性が、体を振るわせつつ、吐き出した。
「私は…幼いころから、できるだけ地位の高い殿方の所に!!嫁いでも大丈夫なように…。
見初められたら、十分な働きができるように!!…と、日々精進して、努力してきたんです!!
なのに…」
その頬には…涙が一筋…。
「……努力が無駄とは申しません。
大成した人たちは、皆たいてい、見える見えないにかかわらず、努力しているものです。
ですが…努力が必ず実る保証も、この世の中、残念ながらないのです」
ジュリアは…扇子で口元を隠しつつ、
「ついでに言えば、マーガレット夫人は少なくとも、ウェリナ嬢をはめようとしたわけではない。
どうしても納得がいかないなら…そもそもローカス卿やローエン閣下がいるところで、お話すべきと
思いますね」
最もな事を言う。
「し、失礼します!!」
顔を真っ赤にした、女性は…そのままジュリアの横をすり抜けて、出て行ってしまった。
青くなっていた2人が…その後に続く。
残されたマギーに、ジュリアがそっと、
「ローカス卿は呼んだから、一緒に着替える部屋に行ってください。
着替えは…持ってきていなければ、ファルメニウス公爵家で貸すそうです」
「あ、ありがとうございます…。あの…」
「ん?」
マギーは…少しオドオドしながら、
「私…ご迷惑ばかりおかけして…」
言いつつ、下を向きつつ、泣いているみたいだった。
ジュリアは…少しため息つきつつ、
「あのですね…。オルフィリア公爵夫人レベルに出来る人なんて、誰もいませんよ。
それに…みんな誰かしらに、迷惑はかけていますよ。
オルフィリア公爵夫人は…マーガレット夫人と少し距離を置いたようですが、頑張りは見ると
言ってくださったのでしょう?
今はいませんが…、もし戻られたら、ご挨拶をしてみればよろしいのでは?
アナタの変化が見えれば…また違った関係になると思いますよ」
ジュリアの暖かな微笑で…その場は締めくくられるのだった。
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