ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第二章 乱宴

5 騎士といふもの

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マギーがちょっかいをかけられたのは、パーティーが中盤に入って間もなくだった。
商談がひと段落して…人々が社交界の常である、噂話をはじめ始めたこともあったのだろう。

「…そんなことがあったのですか?」

クァーリアは…ホールからちょっと外れた場所で、ジュリアからの報告を受けていた。
すっかりフィリーの茶飲み友達と化した、例の4人は…もちろん頼まれて、歓待パーティーの
警護役をしているのだ。

それに一息入れて…お茶している所に、ジュリアがやってきて…今しがたの事を、話して
くれた。

「まあ…質のよいパーティーでも、やる人はやりますからね…。
でも、やる場所は限られているから、そこにしっかりと…見張りの人員を配置しているのは
さすがオルフィリア公爵夫人です」

ジュリアも…お茶のご相伴に預かっている。

「そうよね…。私たちも、後半戦…身を引き締めないとね」

サーシャが気合を入れなおしているようだ。

「でも…いくらあらゆる手を使って、参加したいからって…。
犯罪に手を染めたことがバレたら、何にもならないでしょうに…」

エティリィも…本当に呆れている。

「ラドフォール男爵家は商会を持っていないから、分かりずらいと思うけど…。
利権目的でいくらでもいるのよ…。犯罪行為をする人間が…ね」

トールレィは結婚した時から、すでに商会をやっていたし、ケイティの実家も商会をやって
いるから、その辺の事情には詳しい。

そんな話をしていた夫人たちの元に…、

「あの…、失礼いたします」

複数人…結構な人数が、彼女らの所に来た。
その面持ちは…全員が同じだったんだけど、困惑と怒り…それが混在しているような表情だった。

「オルフィリア公爵夫人は、どこに行かれたのでしょうか?
主催者である以上…この場にいるべきだと思われますが…」

「……確かにそれも一理ありますが、逆に何か…問題が発生すれば、その為に奔走するお立場
でもありますよ」

クァーリアが…代表のように答えた。
すると抗議に来た皆が、顔を見合わせた後、

「あなた方は…オルフィリア公爵夫人と、大変親しいと聞いております。
ぜひ…抗議に参加していただけませんか?」

「抗議とは?」

穏やかでない言葉が出たため、涼しい顔をしつつも、5人それぞれが、訝しむ。

「一体なぜ、ティタノ陛下をお止めにならなかったのか…その抗議をするのです!!」

まあ…あの公式演武が、貴婦人にとっては見ていられないものだったのは、確かだろう。

「……ティタノ陛下はオルフィリア公爵夫人の言う事を、何でもお聞きになるわけではないですよ」

少し…当たり前だろう?…と、相手を小馬鹿にするような、表現をしたのは…ケイティだった。

「それはわかっておりますが…、止めてくださいと、言っている素振りも見られなかったので…」

そんなケイティの態度が、分かったのかわからないのか…。
抗議に来た人間が、さらに詰め寄るが、

「……だったらあなた方が、あの場でティタノ陛下にその旨願い出たいと、言うべきだったの
では?誰もそんなことを、しなかったと伺っています」

これは、ホントにホント。
そんな気概を見せられる奴がいたら、あっぱれと表彰しようと思い、ちゃんと人員に話は通して
あったのだ。
誰も…スペースから動こうとは、しなかった。

「そ、それは…仮にもティタノ陛下ですから…。
前もってかなり…しっかりした許可を、取る必要があると思い…」

途端に言葉が濁る。
ティタノ陛下の不興など買えば、簡単に家ごと吹き飛ばされる…。
とはいえ、直ぐに出なかった時点で…ダメダメだがね。

「だったら…あなた方で、オルフィリア公爵夫人が帰ってきてから、抗議したらよろしいのでは?
礼節さえ守れば、一応話は聞く方ですから」

我関せず…的な態度で、お茶をすするクァーリア。
ただこの態度が…特に若い女性には、引っかかったようで、

「な、なぜですか!!仮にも二人は女性なのですよ!!あんな服がはだけた状態で戦わせるなど…」

まあ、この一つに尽きるのだろうが、

「服がはだけたからと言って、何なのですか?2人は立派な護衛騎士ですよ」

今回、警護役を担当してもらう人には、アンナマリーの誘拐の件だけでなく、ドロテアとハートの
試合が…問題提起の場であることも、説明してある。

「それこそ何を仰っているのですか!!
2人は晒し者になって、恥をかいてしまったではありませんか!!」

「あのですね…」

クァーリアは…先ほどと声色を変え、静かで重い声にする。

「戦争で…服がはだけたからと言って、待ってくれる敵兵が、果たして何人いるのでしょうか?
護衛対象を殺すために迫りくる刺客が…服がはだけたからと言って、止まってくれるのですか?
そんな保証がどこにあるか…お聞かせください!!」
-
この問題は…ギリアムがず~っと、女性騎士部門について言われた時、流星騎士団じゃなくたって、
言い続けてきたことだ。

「そ、そう言った場と、今回の公開演武は…」

「一緒です!!」

今度は…エティリィに代わる。

「この公開演武の募集要項…ご存じないのでしょうか?」

女性騎士は…王立騎士団にも近衛騎士団にも、女性騎士部門がないため、大々的に募集したのだ。
だから…平民でもこの募集要項を知っている。

「公開演武と名がついても、本番の護衛の場!!
どこから敵が攻めて来るかわからぬ戦場…刺客が虎視眈々と狙う場と思え!!…と。
読まれていないなら、一度読まれてみることをお勧めします」

抑揚のない言葉と、涼し~い顔で言って差し上げた。

「それでしたらせめて…会場の…その、下品な言葉を吐いていた方々を…追い出すべきでは
ありませんか?」

すると…それにはちょっと、目線をキツクしたジュリアが、

「襲われた場所が、戦場や往来ならば、全て追い出すのは不可能です。
何より…その人員を確保するくらいなら、敵をさっさと全滅する方に持っていくのが、
私は!!正解と思いますがね。主人もそう、申しておりましたし」

そもそも戦場や襲われた場で、一騎打ちになる方が珍しい。
一対多数や、不意打ち、挟み撃ち、凄いのになると、人垣を利用する。

「そもそも命のやり取りをしつつ、守らねばならない場で、正攻法などありません。
その時の状況を見極め、的確な判断をする…。
いわばこの公開演武は、その力を見る場ですからね…。
不正でない限り、止める必要はない…と、判断されたのではないですかね?
武の総本山の家として…ね」

自身も…代々の武の家門に嫁ぎ、また実家も武の家門よりであったため、この辺の厳しさは、
それなりに教育を受けていた。

まあ…特にお上品な貴族女性にしたら、今回の公開演武の場は、見るに耐えなかったろう。
でもそれなら、退席すればいいんだ。
別にそれで、ティタノ陛下がどう思うかは、わからんが…少なくとも残ることを選んだなら、
今更うだうだ言うべきではない。

やって来た大多数が、だいぶざわついている。

「で、ですが!!ドロテア卿のご結婚に差し障ったら、どう責任をとる気なんですか!!」

結局そこか…と、言いたげなクァーリアが、目を細める。

「……あの、でしたらなぜ、騎士をやることなど、選んだのでしょうか?」

「え…?」

「この国の法では、男性だろうが女性だろうが、騎士にならなければ罰するような法律は
一切ございません。
選択の自由として、騎士を選んでおいて、このような状況になったら、文句を言うでは、
幼稚過ぎてお話になりませんね」

まして…ドルグストは、娘が騎士になる事…いい顔しなかった。
クァーリアはアイリンとの関係上、ガルドベンダによく行ったため、直接聞いているのだ。

「そして…ドロテア卿の結婚に、なぜ責任を取らねばならぬかも、分かりませんね。
試合を止めることが出来たのは、ティタノ陛下とケルカロス陛下です。
そのお2人にまず、言うのが筋ではございませんか?」

その言葉は…反論の難しい所だったのだろう。
殆どが下を向いて、黙ってしまった。

「お、同じ女性として、それはあまりではございませんか!!」

最も…物申すのが難しい人間の名前を出され、別の所に逃げるのはわかる。
その部分は…物議をかもすのは、フィリーとて予想していた。
5人が黙ったのは…それに対して、フィリーがいない状態で、どこまで言うか…を考えていた
のだろうが、

「いい加減にしたらどうですか?」

相対している横から、はきはきした声が。
横を振り向けば…。

「…あら、ようこそ。ユミリア嬢、シュレイナ嬢、ベティール嬢…」

サーシャとケイティが…親し気な目を向けて、迎えている。

「ご無沙汰しております、サーシャ夫人、ケイティ夫人…」

この3人…フィリアム商会の女性騎士である。
貴族だったから、参加したようだ。
公開演武は絶対見たい…と言って、フィリアム商会所属の平民騎士の皆と、平民席に座って
いたから…貴族席にはいなかった。

女性騎士団って、流星騎士団だけじゃなく、いくつかあるんだけど…フィリーとフィリアム商会に感銘を
受けたとかで、フィリアム商会に直談判に来たのだ。
女性騎士問題は、総括部もギリアムに聞いていたから、最初はそれを理由に断ろうとしてた。
ただ…フィリーとしては、できるだけ適材適所と、やりたい人が性別かかわらず、やりたことできる
ようにしたかったから、色々考えて…今の形にした(前作に詳しく書いてます)。

「そもそもですね!!そんな些細な事で、結婚を渋るような男に嫁いだって、いい事ないですよ!!」

ユミリアが…かなりキッパリ言い切った。
この3人…フィリーに考え方を、かなり仕込まれている。
お手並み拝見である。
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