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第二章 乱宴
6 現役女性騎士の考え
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「私もそうですが、他の2人も…騎士になることを、強要されたわけじゃない!!
ドロテア嬢とて、そうでしょう?
私は昔から剣が好きで、同世代の男に負けることはありませんでした。
でも…そんな私が、何で女だという理由で、騎士になる事を反対されるのか…。
幼いころから疑問でしたが、私はフィリアム商会で、ギリアム公爵閣下のお考えを聞いて、
妙に納得しました。
現状として女性の方が、男性より圧倒的に全体に迷惑をかけてしまうなら、推奨されずとも
致し方ありません」
ユミリアは…芯がしっかりしている上、弁もたつようだ。
「女性だから優遇しろ…というのなら、騎士のように危険な仕事に就くべきではありません。
就いたからには、自分自身で身を守り、なおかつ女性であることで、仲間のお荷物にならぬ
よう、日々考えて、精進するべきです。
私は…少なくともそうしています」
シュレイナも…顔は可愛いんだけど、かなりキッツイ子だから、しっかり喋っている。
「別にハートさんほどでなくても、フィリアム商会の女性騎士達は、体を晒すことになること、
覚悟して入ってきたんです。
先の大火災…実際そうなりましたけど、逆に私たちが、女性であることで、しり込みしなかった
からこそ、騎士以外の皆さんも一丸となって、揶揄する人間達と戦ってくれました。
あなた方は、意見を言う相手を、完全に間違えていますよ。
ドロテア嬢の味方…と言うなら、まずは…汚いヤジを飛ばした人間に、抗議するべきでは?
そもそも、ドロテア嬢はどう思っているか、誰か聞いた人がいるのですか?
女性であることで、服を剥がされて、不当だと言っているのですか?
だったら…募集要項をしっかり見てくださいで、あしらわれる内容ですよ」
ベティーナもね…みんな騎士になるくらいだから…基本肝が据わっていて、しっかり者のようで
ある。
フィリーは、いい原石を拾った。
ここまで来るのに結構大変だったけど…、そのかいはあったようだ。
さて…文句を言ってきた人たちは、さすがに同じ女性騎士に言われてしまうと、返しが出来なかった
のか、複数になったから、分が悪いと見たのか、そそくさと去って行った。
……せめて、募集要項くらい見てから来た方が、良いと思う。
「あらまあ、3人とも本当にしっかりしているわね。
社交界でも十分やれそうよ、それなら」
ケイティが、だいぶ語尾上がりになりながら、褒めている。
「ありがとうございます!!」
3人は…とても嬉しそうだ。
「女性騎士も採用するようになったら、幅がだいぶ広がったって、主人も言っていましたわ」
顔をほころばせ、機嫌のいいサーシャ夫人。
実際…男の方が有利な仕事ではあるんだけど、女性しか入れない場所とか、入ってもらって
色々やってもらってるから。
「でも…貴族の方もいらしたんですね?」
エティリィ夫人は…情報通ではあるが、いまいちつかめなかったようだ。
ラドフォール男爵家って、商会もってないから。
「ええ。平民が大多数ですが、この3人は生粋の貴族ですよ。
ちょうどいいから、名乗ってください」
ユミリア・ノクテリウス子爵令嬢(19)
シュレイナ・ゼフィリオル男爵令嬢(17)
ベティーナ・カンドニゥラ男爵令嬢(18)
「あらあら、本当にしっかりしていて、いいお嬢さんたちだ事…」
……なんか、エティリィ夫人の目が、獲物を狙う狩人になっている…。
ケイティが補足説明に、入る。
「まあ…さっきの話じゃないですけど、3人とも結婚はあまり、考えていなかったんです。
ただ…ユミリア嬢はひょんなご縁から、男性とお付き合いすることになりました」
「人生って本当にわかんないって言いますけど、その通りだなって思います」
ユミリアは…ちょっと照れ臭そうに、笑った。
「でも…今回の公開演武みたいなことがあって、その人が何か言ってきたら、どうするのです?」
ジュリアの質問は、一見すると意地悪めいているが、本心から…心配も含んでいる。
社交界の一部…女性は清楚であるべき…と、自分の事は棚に上げて、言う男を見てきたからだろう。
「捨てる!!」
キッパリと答えたよ…。
本当に、男よりさばさばしてる。
「そもそもアタシは、騎士をずっと続けるって言ってあるし、女性騎士を採用するうえで、
言われたことも全部言ってある!!
それで態度を変えるなら、いらない!!そんな男!!」
鼻息荒く、まくし立てた。
「まあ、そうだよね…。何だかんだ、好きでやっているけど、真剣にやってるしね」
「そうそう。せっかく…機会に恵まれたんだから、自分を高めたいわ」
シュレイナとベティーナもそれに続く。
「本当にしっかりしていて、いいわねぇ…」
いや…エティリィ…下心は隠した方が…。
「私、色々なパーティーやお茶会を主催するんだけど、良かったら来てみない?」
「わあ、いいんですか?」
「もちろんよ~。歓迎するわよ」
「実は私達、そういうの…今まで敬遠してたんですよ。
教育は受けたけど…水が合わなくて…」
「でもユミリアが御縁に恵まれた時、オルフィリア公爵夫人が…、できるだけ色々、経験できる
うちに、しておいた方がいいって進めてくださって…」
「だから…今日のパーティーにも、来てみたんです。
ファルメニウス公爵家が主催するなら、変な人来ずらいと思って」
しっかりと、考えて来たようだ…。
最初からガチのやつに出ると、マギーの二の舞になる可能性も、あるから。
幸いなのかわからないが、3人とも結婚の予定は無い。
まだ楽しく談笑していたかっただろうが、5人には警備員の役目がある。
会場全体を見て回らねばならない。
ファルメニウス公爵家のパーティーが…いくら無礼講とはいえ、商会を持たない、身分の高い
人間達は、暗黙の了解的に少し遅めに来るから、まだ来ていない。
来てからが…本番だと思ったほうがいい。
特に…今回物議をかもすであろう、ガルドベンダ公爵家などがいい例だ。
そして…ラスタフォルス侯爵家だろうな…。
ちなみにケイシロン公爵家は…マギーとルリーラの慣らしの意味で、早々と来た。
まあアンナマリーの誘拐の件を知っているから、何か動きがあれば、自分たちが出た方がいいと
思った事もあるのだが。
みなは…会場に目配せしつつ、ちょっと気になった部分にさささーっと行ってみる。
皆力があるだけあって、ちょっとおかしな雰囲気で、ふき溜まっている奴らを、見抜くのが
大変うまい。
行ってみると大抵、しょーもない事で突っかかっているから、適宜に仲裁に入ったり、
場合によっては、お灸を据え据え…とな。
フィリーが…これぞと思い、頼んだ人選だったため、それなりに功を奏していた。
だが…上の身分の人たちが、ランダムで来始めた。
フィリーが…元男爵令嬢なのは、絶対に覆らぬ事実…。
やはり…それを暗にほのめかし、ひそひそする輩は見受けられる。
ファルメニウス公爵家は…フィリーを娶ってから、隆盛をさらに強くしたことも、裏を返せば
嫉妬を呼び込む材料となっている。
------------------------------------------------------------------------------------------
ラスタフォルス侯爵家では…グレンフォ、ダリア、ダリナ、グレリオが支度を終え、馬車に乗り込む。
メイド数人とルイス、ヒューバートも一緒に…だ。
ファルメニウス公爵家に着くと…ひとまずグレンフォは、先に来ていたローエンに挨拶をして…、
直ぐに異変に気付いた。
「ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人の姿が…見えませんな…」
護衛任務などしていれば、直ぐに…状況把握ができるのだろう。
「……どうしても、処理せねばならない問題が発生したのだ。
そちらに2人でかからねばならなくてな。いつ戻ってくるのか…わからんのじゃよ。
まあ、ファルメニウス公爵家の使用人は優秀じゃし、今の所問題なく、パーティーは行われて
いるがな」
ちょっと複雑な顔をしているローエン。
「そうでしたか…。何か手伝えることは?」
「今の所、わしらにはない。
せいぜい…この会場で、問題が起こらぬように、見張るくらいじゃ」
するとグレンフォは…ちょっと下を向いてから、
「ダリア…わしは少し、ローエン閣下と話がある」
「わかりました。それでは…私は皆と会場を見て回ります」
ダリアとその他が…会釈して、その場を去る。
「ローエン閣下…。遅くなりましたが、この間母の所での悶着…仲裁役になっていただき、どうも
ありがとうございました」
深々と…お辞儀をした。
「かまわん…。さすがのお前も、冷静ではおれんかったろう…。
わしも話を聞いた限り…ダイヤがグレッドとイザベラの息子で…間違いなかろうと思う」
「イザベラが嘘を言っているかも…とは、わしも思っていたのです。
ですが…確認するすべなどなくて…。時だけが過ぎてしまいました…。
今回ダイヤが出てきてくれたのは、奇跡と言っていい。
だからこそ…仲良くなる方法を、模索したいのですがね…」
戻せぬ時を悔やむような…どこか安堵したような、表情だった。
「それは…ひとまずダイヤの望みを、最優先してやるほかあるまい」
「わしもそう思うのですが…ダリアが収まりませんで…。
イザベラに対しても、何らかの処罰をしたいようです。
まあ、わしもそれは必要かと思いますが、母上がどう出るか…心配ではあります。
何が正解なのか…本当にわからなくなってきてしまいました」
「ヒルダ夫人は…かなりの人格者ゆえ、問題なかろうよ。
逆に…イザベラと言うのは、そんなに性悪女なのか?だったらヒルダ夫人が、庇うとは思えん。
今一つ…本人像がハッキリしないのだが…」
ローエンの疑問も、もっともだった。
イザベラは…片目が潰れてからは、完全に社交界に出なくなった。
それは…成人して間もなくであったため、知っている人間が、ほとんどいない。
「わしも…実を言うと、あまり接したことは無いのですよ。
イライザの妹なので、ラスタフォルス侯爵家にも、度々出入りしては、いたのですが…。
わしは近衛騎士団の仕事が忙しくて、日中は殆ど家にいませんでしたし…。
家の事は…ダリアに任せきりでした。
ダリアはよくしてやったようなのですが、あまり…それを感謝する様子が無かったようで…。
あと…ダリアがイライザに送った、先祖代々のアクセサリーをかなり欲しがったり…。
ダリアは何でも欲しがる、強欲な女だと言っていますが…ね。
それでも妹を心配してやった姉の、最愛の婚約者を奪った女と…」
ローエンは…今一つしっくりこない…と、言いたげに首をしきりにひねっている。
そして…一つ浮かんだことがあった。
「のう…グレンフォよ」
「何でしょう?」
「最初の子を養子に出した…と言う話、イザベラから直接聞いたのか?
ヒルダ夫人が、イザベラは…子供を連れて帰ってきた時、心身がボロボロだったと言っておったが…」
「いえ…。直接ではありません。
その当時は…イザベラとイライザの両親が、生きていましてね…。
子供を連れ帰ってきたイザベラから、事情を聞いて…我が家に話が来たのです」
するとローエンは…いよいよ顔の皺という皺を深くして、
「グレンフォよ…ひょっとして…」
ローエンが何かを言いかけたその時…会場の食器が…かなりの数割れる音がし、思わずそちらを
振り向いたのだった。
ドロテア嬢とて、そうでしょう?
私は昔から剣が好きで、同世代の男に負けることはありませんでした。
でも…そんな私が、何で女だという理由で、騎士になる事を反対されるのか…。
幼いころから疑問でしたが、私はフィリアム商会で、ギリアム公爵閣下のお考えを聞いて、
妙に納得しました。
現状として女性の方が、男性より圧倒的に全体に迷惑をかけてしまうなら、推奨されずとも
致し方ありません」
ユミリアは…芯がしっかりしている上、弁もたつようだ。
「女性だから優遇しろ…というのなら、騎士のように危険な仕事に就くべきではありません。
就いたからには、自分自身で身を守り、なおかつ女性であることで、仲間のお荷物にならぬ
よう、日々考えて、精進するべきです。
私は…少なくともそうしています」
シュレイナも…顔は可愛いんだけど、かなりキッツイ子だから、しっかり喋っている。
「別にハートさんほどでなくても、フィリアム商会の女性騎士達は、体を晒すことになること、
覚悟して入ってきたんです。
先の大火災…実際そうなりましたけど、逆に私たちが、女性であることで、しり込みしなかった
からこそ、騎士以外の皆さんも一丸となって、揶揄する人間達と戦ってくれました。
あなた方は、意見を言う相手を、完全に間違えていますよ。
ドロテア嬢の味方…と言うなら、まずは…汚いヤジを飛ばした人間に、抗議するべきでは?
そもそも、ドロテア嬢はどう思っているか、誰か聞いた人がいるのですか?
女性であることで、服を剥がされて、不当だと言っているのですか?
だったら…募集要項をしっかり見てくださいで、あしらわれる内容ですよ」
ベティーナもね…みんな騎士になるくらいだから…基本肝が据わっていて、しっかり者のようで
ある。
フィリーは、いい原石を拾った。
ここまで来るのに結構大変だったけど…、そのかいはあったようだ。
さて…文句を言ってきた人たちは、さすがに同じ女性騎士に言われてしまうと、返しが出来なかった
のか、複数になったから、分が悪いと見たのか、そそくさと去って行った。
……せめて、募集要項くらい見てから来た方が、良いと思う。
「あらまあ、3人とも本当にしっかりしているわね。
社交界でも十分やれそうよ、それなら」
ケイティが、だいぶ語尾上がりになりながら、褒めている。
「ありがとうございます!!」
3人は…とても嬉しそうだ。
「女性騎士も採用するようになったら、幅がだいぶ広がったって、主人も言っていましたわ」
顔をほころばせ、機嫌のいいサーシャ夫人。
実際…男の方が有利な仕事ではあるんだけど、女性しか入れない場所とか、入ってもらって
色々やってもらってるから。
「でも…貴族の方もいらしたんですね?」
エティリィ夫人は…情報通ではあるが、いまいちつかめなかったようだ。
ラドフォール男爵家って、商会もってないから。
「ええ。平民が大多数ですが、この3人は生粋の貴族ですよ。
ちょうどいいから、名乗ってください」
ユミリア・ノクテリウス子爵令嬢(19)
シュレイナ・ゼフィリオル男爵令嬢(17)
ベティーナ・カンドニゥラ男爵令嬢(18)
「あらあら、本当にしっかりしていて、いいお嬢さんたちだ事…」
……なんか、エティリィ夫人の目が、獲物を狙う狩人になっている…。
ケイティが補足説明に、入る。
「まあ…さっきの話じゃないですけど、3人とも結婚はあまり、考えていなかったんです。
ただ…ユミリア嬢はひょんなご縁から、男性とお付き合いすることになりました」
「人生って本当にわかんないって言いますけど、その通りだなって思います」
ユミリアは…ちょっと照れ臭そうに、笑った。
「でも…今回の公開演武みたいなことがあって、その人が何か言ってきたら、どうするのです?」
ジュリアの質問は、一見すると意地悪めいているが、本心から…心配も含んでいる。
社交界の一部…女性は清楚であるべき…と、自分の事は棚に上げて、言う男を見てきたからだろう。
「捨てる!!」
キッパリと答えたよ…。
本当に、男よりさばさばしてる。
「そもそもアタシは、騎士をずっと続けるって言ってあるし、女性騎士を採用するうえで、
言われたことも全部言ってある!!
それで態度を変えるなら、いらない!!そんな男!!」
鼻息荒く、まくし立てた。
「まあ、そうだよね…。何だかんだ、好きでやっているけど、真剣にやってるしね」
「そうそう。せっかく…機会に恵まれたんだから、自分を高めたいわ」
シュレイナとベティーナもそれに続く。
「本当にしっかりしていて、いいわねぇ…」
いや…エティリィ…下心は隠した方が…。
「私、色々なパーティーやお茶会を主催するんだけど、良かったら来てみない?」
「わあ、いいんですか?」
「もちろんよ~。歓迎するわよ」
「実は私達、そういうの…今まで敬遠してたんですよ。
教育は受けたけど…水が合わなくて…」
「でもユミリアが御縁に恵まれた時、オルフィリア公爵夫人が…、できるだけ色々、経験できる
うちに、しておいた方がいいって進めてくださって…」
「だから…今日のパーティーにも、来てみたんです。
ファルメニウス公爵家が主催するなら、変な人来ずらいと思って」
しっかりと、考えて来たようだ…。
最初からガチのやつに出ると、マギーの二の舞になる可能性も、あるから。
幸いなのかわからないが、3人とも結婚の予定は無い。
まだ楽しく談笑していたかっただろうが、5人には警備員の役目がある。
会場全体を見て回らねばならない。
ファルメニウス公爵家のパーティーが…いくら無礼講とはいえ、商会を持たない、身分の高い
人間達は、暗黙の了解的に少し遅めに来るから、まだ来ていない。
来てからが…本番だと思ったほうがいい。
特に…今回物議をかもすであろう、ガルドベンダ公爵家などがいい例だ。
そして…ラスタフォルス侯爵家だろうな…。
ちなみにケイシロン公爵家は…マギーとルリーラの慣らしの意味で、早々と来た。
まあアンナマリーの誘拐の件を知っているから、何か動きがあれば、自分たちが出た方がいいと
思った事もあるのだが。
みなは…会場に目配せしつつ、ちょっと気になった部分にさささーっと行ってみる。
皆力があるだけあって、ちょっとおかしな雰囲気で、ふき溜まっている奴らを、見抜くのが
大変うまい。
行ってみると大抵、しょーもない事で突っかかっているから、適宜に仲裁に入ったり、
場合によっては、お灸を据え据え…とな。
フィリーが…これぞと思い、頼んだ人選だったため、それなりに功を奏していた。
だが…上の身分の人たちが、ランダムで来始めた。
フィリーが…元男爵令嬢なのは、絶対に覆らぬ事実…。
やはり…それを暗にほのめかし、ひそひそする輩は見受けられる。
ファルメニウス公爵家は…フィリーを娶ってから、隆盛をさらに強くしたことも、裏を返せば
嫉妬を呼び込む材料となっている。
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ラスタフォルス侯爵家では…グレンフォ、ダリア、ダリナ、グレリオが支度を終え、馬車に乗り込む。
メイド数人とルイス、ヒューバートも一緒に…だ。
ファルメニウス公爵家に着くと…ひとまずグレンフォは、先に来ていたローエンに挨拶をして…、
直ぐに異変に気付いた。
「ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人の姿が…見えませんな…」
護衛任務などしていれば、直ぐに…状況把握ができるのだろう。
「……どうしても、処理せねばならない問題が発生したのだ。
そちらに2人でかからねばならなくてな。いつ戻ってくるのか…わからんのじゃよ。
まあ、ファルメニウス公爵家の使用人は優秀じゃし、今の所問題なく、パーティーは行われて
いるがな」
ちょっと複雑な顔をしているローエン。
「そうでしたか…。何か手伝えることは?」
「今の所、わしらにはない。
せいぜい…この会場で、問題が起こらぬように、見張るくらいじゃ」
するとグレンフォは…ちょっと下を向いてから、
「ダリア…わしは少し、ローエン閣下と話がある」
「わかりました。それでは…私は皆と会場を見て回ります」
ダリアとその他が…会釈して、その場を去る。
「ローエン閣下…。遅くなりましたが、この間母の所での悶着…仲裁役になっていただき、どうも
ありがとうございました」
深々と…お辞儀をした。
「かまわん…。さすがのお前も、冷静ではおれんかったろう…。
わしも話を聞いた限り…ダイヤがグレッドとイザベラの息子で…間違いなかろうと思う」
「イザベラが嘘を言っているかも…とは、わしも思っていたのです。
ですが…確認するすべなどなくて…。時だけが過ぎてしまいました…。
今回ダイヤが出てきてくれたのは、奇跡と言っていい。
だからこそ…仲良くなる方法を、模索したいのですがね…」
戻せぬ時を悔やむような…どこか安堵したような、表情だった。
「それは…ひとまずダイヤの望みを、最優先してやるほかあるまい」
「わしもそう思うのですが…ダリアが収まりませんで…。
イザベラに対しても、何らかの処罰をしたいようです。
まあ、わしもそれは必要かと思いますが、母上がどう出るか…心配ではあります。
何が正解なのか…本当にわからなくなってきてしまいました」
「ヒルダ夫人は…かなりの人格者ゆえ、問題なかろうよ。
逆に…イザベラと言うのは、そんなに性悪女なのか?だったらヒルダ夫人が、庇うとは思えん。
今一つ…本人像がハッキリしないのだが…」
ローエンの疑問も、もっともだった。
イザベラは…片目が潰れてからは、完全に社交界に出なくなった。
それは…成人して間もなくであったため、知っている人間が、ほとんどいない。
「わしも…実を言うと、あまり接したことは無いのですよ。
イライザの妹なので、ラスタフォルス侯爵家にも、度々出入りしては、いたのですが…。
わしは近衛騎士団の仕事が忙しくて、日中は殆ど家にいませんでしたし…。
家の事は…ダリアに任せきりでした。
ダリアはよくしてやったようなのですが、あまり…それを感謝する様子が無かったようで…。
あと…ダリアがイライザに送った、先祖代々のアクセサリーをかなり欲しがったり…。
ダリアは何でも欲しがる、強欲な女だと言っていますが…ね。
それでも妹を心配してやった姉の、最愛の婚約者を奪った女と…」
ローエンは…今一つしっくりこない…と、言いたげに首をしきりにひねっている。
そして…一つ浮かんだことがあった。
「のう…グレンフォよ」
「何でしょう?」
「最初の子を養子に出した…と言う話、イザベラから直接聞いたのか?
ヒルダ夫人が、イザベラは…子供を連れて帰ってきた時、心身がボロボロだったと言っておったが…」
「いえ…。直接ではありません。
その当時は…イザベラとイライザの両親が、生きていましてね…。
子供を連れ帰ってきたイザベラから、事情を聞いて…我が家に話が来たのです」
するとローエンは…いよいよ顔の皺という皺を深くして、
「グレンフォよ…ひょっとして…」
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