ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第二章 乱宴

7 傍系との確執

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多数の皿が割れる中心にいたのは…ダリアと、尻もちついて床に倒れている、20代ぐらいの
男だった。

「もう一度言ってみなさい!!」

ダリアは…顔を紅潮させ、物凄い剣幕で、尻もちついた男を怒鳴っている。
しかし…男も負けじと、

「何度でも言いますよ!!
何一つ上手くできない嫁を貰った、眼が節穴な男でしょう!!グレンフォ大伯父様は!!」

「このっ!!」

ダリアが掴みかかろうとしたが…、それはグレンフォに止められる。

「誰かと思えば…ジェルフじゃないか…。久しぶりに見たと思ったら、一体何の騒ぎだ」

グレンフォが出てきても、ジェルフは一向に睨むのをやめない。

「ジェルフ!!何をやっているんだ!!」

そう言って駆けつけてきたのは…グレンフォと同世代の…顔と雰囲気がちょっと似た男性だった。
しかしその体躯は…どちらかと言えば細身で、あきらかに文官の体だった。

「グレダルか…。久しぶりだな」

グレンフォの言葉に、

「お久しぶりです、兄上…。一体どうしました?」

「どうもこうもありません!!ジェルフが旦那様を侮辱したんです!!
今すぐ私と決闘しなさい!!ジェルフ!!」

ダリアが…収まらないようで、怒鳴った。

「侮辱ではなく、事実を言ったまでです!!」

ジェルフはあくまで引かない。立ち上がって、皿と一緒に被せられた食べ物を払いつつ、
再度、ダリアを睨んでいる。
補足説明するが、ジェルフはグレダルの嫡子の息子だ。
つまりこのまま行けば…グレダルが婿入りした、伯爵家の後を継ぐ人間…。

「ジェルフ!!少し落ち着け!!申し訳ありません、兄上…。
酒が入っているようですので、後日落ち着かせてから、話を聞きます…」

あくまで…グレンフォに低姿勢なグレダルだったが、それが…余計にジェルフに対し、火に油を注いだ
ようで…。

「おじい様!!おじい様は悔しくないのですか!!
そもそもラスタフォルス侯爵家は…おじい様が継ぐはずだったでは、ありませんか!!」

外野が…ヒソヒソしだす。

「止めろ!!ジェルフ!!私は自ら身を引いたと、何度言わせる気だ!!」

穏やかを地で行くであろうグレダルが、さすがに声を荒げている。

「ええ、知っていますよ!!自分は剣術がからっきしだから、譲ったのでしょう!!
でもそれなら…」

ジェルフはグレリオをギラリと睨み、

「グレリオがラスタフォルス侯爵家を継ぐ資格も、ないハズだ!!
剣術はからっきしどころか、子供にさえ負けるような男ですよ!!
修練所だって…ついて行けなくて、落第しつつ、ようやっとお情けで卒業させてもらったような…ね!!」

グレリオは…周囲のざわざわの的に、一気になってしまい、歪んだ顔のまま、立ち尽くす。
そのざわざわに紛れて…どうもグレダルの他の子供や孫たちも来たようで…。

「なんだよ、ジェルフ…。またグレリオいじめてるのかぁ?やめろよ、弱い者いじめはよぉ」

「そ~そ~、仮にもれっきとした騎士なんだからさぁ」

口ではそう言っているが、グレリオを見て、あきらかににやにやと笑っている。

「そいつ、剣をマトモに10回振っただけで、ひーひー言うんだぜ」

「オレなんて、3歳の時だってそれ以上で来たってのに…」

「あ~、オレもそうさ」

6人も子供がいて結婚すれば、当然孫世代の人数は、かなり増える。
皆口々に…グレリオのしょうもなさを、これでもかってくらい、言っている。

「アンタたち!!それ以上言うと許さないわよ!!」

ダリナが出てきたが、

「うっせーよ!!男女の行き遅れ!!悔しかったら縁談の1つも、まとめてみろっての!!」

「私は騎士として生きているのよ!!結婚は二の次!!」

「モテないからそう言ってるだけだろ!!単なる負け惜しみだ!!
グレリオとダリナの負け惜しみ姉弟って、有名だぞ、社交界じゃ!!」

「あ~、知らないよ多分。ダリナは社交界に乗り出す力が無かったから、騎士になったんだし」

「そーいや、そうだった」

ゲラゲラと笑う声は…下品以外の何物でもない。

「止めないか!!お前たち!!仮にも公式的なパーティーだぞ!!」

グレダルが怒鳴ると…一応おとなしくなる。
グレダルは…それなりに人格者だが、その子供や孫が、そろってそうとは限らない。

「いいえ、黙りません!!」

ジェルフは…どうも一番血気盛なようだ。

「そもそも盟約を破ったのは…グレンフォ大伯父様でしょう!!」

盟約とは…。
貴族というものは、生まれてすぐ…いや、生まれる前から、結婚相手が決まっていることが、
わりとある。
ラスタフォルス侯爵家も、そうだった。
ヒルダが1人娘であったことで、勢力が弱まることを心配した父親は、2つの有力な家に、
支援をお願いした。
その見返りとして、1つの家には、ヒルダの婿として婚姻することを約束し、もう1つの家には、
ヒルダの子供とその家の子を、婚姻させる…と、したのだ。
時は流れ…ヒルダは4人の子を産んだ。男2人女2人。
子供同士を婚姻させよう…としていた家には、男女が1人と、これまたバランスが良かった。
子供たちは幼いころから頻繁に遊ぶ仲となり、関係は非常に良好だった。
だた…子供たちが年頃になった時、問題が発生した。
グレンフォが…出張先で見初めたダリアと、結婚したいと言い出した。
もちろん両家の約束については、知った上での申出だった。
だからこそヒルダはグレンフォに、ダリアと結婚するなら、ラスタフォルス侯爵家は弟に継がすと
言ったのだ。
ここで…負けん気の強いダリアは、そもそもの婚約者より、自分が優秀である事を証明すると言い、
何かのコンテストで…その婚約者より優秀な成績を収めた。
でもだからと言って、ヒルダが許すはずもなく…と言うか、盟約とはそう言った類のもので、
破棄していいはずがない。
グレンフォはラスタフォルス侯爵家を出るかどうするか…の、選択を迫られていた。

だが…ここで神のいたずらが起こった。
ちょうどおりしも、この時勃発した戦争によって、盟約家の跡取りが戦死してしまったのだ。

そうなると…残ったのは娘1人…一体どうする?…と言う話になった。
かなり…様々な話をしたらしいのだが、結局グレダルが、盟約家の婿養子となることで話しが落ち
ついた。
これは…グレダルが、ラスタフォルス侯爵家に対しての野心が無かったことと、仲のいい人間達が、
これ以上反目し合うのは見たくない…という思いがあったそうな。
グレダルの剣術がからっきしであったことと、そもそも好きではなかったことも、拍車をかけた。

そして何より…ダリアに有利に働いたところだが、盟約家の娘とグレンフォは、そう言った話が
出ている…と言うだけで、正式な婚約式などは挙げていない。
だからこそ…許された面もあったのだ。

「おじい様ではなく、大伯父様がラスタフォルス侯爵家に相応しいと、ダリア夫人が言った時…
散々言ったのでしょう?
ラスタフォルス侯爵家は騎士家系!!だからこそ、騎士としての才能のあるものが継ぐべきだと!!
自分の言をしっかりと守ってくださいよ!!」

これも…社交界じゃ有名な話だ。
ダリアは騎士家系であることを、しきりに訴えていたから。

「もちろんそれは、守るつもりです!!だから…ダイヤをラスタフォルス侯爵家の跡取りに
するのです!!」

これは…当然、傍系だけでなく、野次馬していた人間達にも…衝撃が走った。

「何を言っているのだ!!ダリア!!」

グレンフォが止めに入るが、

「ダイヤは…オルフィリア公爵夫人の護衛として、ギリアム公爵閣下にその武勇を正式に認められた
身です!!まさに跡取りとして、相応しい!!」

するとジェルフが、さもこの言を待っていたかのように、ニヤリとし、

「証拠は?」

と。

「そもそも顔が似ていると言うだけで、かくたる証拠はないのでしょう?」

その言葉に対し、今度はダリアが少しだけ唇の端を持ち上げ、

「いいえ!!つい先日…確たる証拠が見つかりました!!」

これも…周囲を非常にざわつかせた。
人々が口々に憶測を話し…これぞ社交界の醍醐味と言わんばかりに、騒ぎだす。

「本当なのですか?兄上…」

その中にあって、グレダルは冷静だ。
グレンフォは…先日のワッペンのいきさつを、イザベラとの悶着は隠し、話して聞かせる。

「わしも確認したら、間違いない。あれは…グレッドのワッペンじゃった」

ローエンの話も…騒ぎを加速させる以外の、何物でもなかった。
しかし…ジェルフは納得するどころか、

「それが…グレッド卿から渡されたものであるという、かくたる証拠はあるのでしょうね?」

まだ…自分に分があると言いたげだ。

「仮に…ダイヤの父親がグレッド卿から盗んで…もっともらしく渡しただけかもしれないじゃ
ないですか。
眼の色と髪色が同じであれば…騙してうまい汁にありつけると、思ったっておかしくない」

「いい加減にしなさい!!ジェルフ!!」

グレンフォを振り払う事は出来ないが、ダリアは鬼面の表情で、今にも飛び掛かりそうだ。

「一体何の騒ぎですか?」

ざわめきの靄をスパッと一刀両断にしたような…爽やかな声の主は…フォルトだった。

「家の内輪もめを、公式の場に持ってくること自体が、良くないというのに…。
随分と他者を巻き込んでいるようですのでね…。やめてください。
せっかくのパーティーが、台無しではありませんか…」

フォルトの言と共に、外野のざわめきが小さくなる。
だがジェルフは、フォルトが現れたのを、これ幸いに、

「フォルト卿…この際、ハッキリとファルメニウス公爵家として、声明を発表してください。
それが無いから…余計な憶測を呼ぶし、変に期待する者も出るのです」

ダリアをチラ見しながら言っている。

「……それはギリアム様と奥様が、お決めになる事ですよ。
ひとまず…身内の争いは、家に帰ってからお願いします」

フォルトはどこまでも通常営業。

「フォルト卿!!証拠を全て、提出してください!!そうすれば…この者たちも黙ります!!」

ダリアが…これでもかと声を張り上げているが、フォルトは涼しい顔で…無視。

「あの…フォルト卿…」

そんな中、話しかけてきたのはグレダルだった。

「私も…公開演武を見ましたが、遠目から見ても、ダイヤはグレッドに生き写しでした。
あの年で兄上と…互角に渡り合う、武術の腕も見事だった。
我が孫の非礼は、よくよくお詫びいたしますので…一度、会見の機会を設けていただけませんか?」

かなり腰を低くして…興味本位というより…本当にグレッドの子供であれば、何か…伝えたい事が
あるような素振りだった。
フォルトは使用人の総まとめ故、ギリアムとフィリーが不在のおりは、フォルトに決定権が渡る。
しかし…。

「……グレダル卿、それは奥様にお話しください。
ダイヤは…奥様の直属の私兵となっています。原則、権限は奥様が持たれているのです。
それに奥様の護衛ゆえ、今はファルメニウス公爵家におりません」

「なんだよ、逃げたのかよ!!」

ジェルフの言葉に…フォルトの雰囲気が変わった。
それがわかる人間が、この中にいただろうか…いや、いない。
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