ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第二章 乱宴

11 3バカの暗躍になっていない暗躍と馬鹿な突撃

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「断る!!!!」

これでもかと言うくらい、キッパリと言い切ったのは…アルフレッドだった。

相対しているのは、ジェルフと他二人…そう、勘違い三馬鹿コンビだ。

「ドロテアの試合は、戦争形式にのっとった、正当な試合だ!!
ファルメニウス公爵夫妻には、何の落ち度もない!!
むしろ…それを了承しておいて、文句を言うドロテアがどうかしている!!」

相変わらず余裕のないアルフレッドは、三馬鹿コンビが一緒に訴えようと言ってきたのを、
これ以上ないくらい、拒絶した。

「ひ、ヒドイじゃないですか!!ドロテア…嬢は傷ついているのに!!
男として、放っておく気ですか!!」

いかにもな言を並べるが、

「それこそ、オレの知ったことじゃない!!」

アルフレッドの答えは…かなり辛辣だった。

「ド、ドロテア嬢はガルドベンダに仕えて、長いのでは…」

「じゃ、お父様に言え!!」

アルフレッド…言葉が短いのは、やっぱり余裕がないのだろう。
3人はこんなはずじゃなかった…と、ヒソヒソしていたが、やがて…離れて行った。

そしてこの3バカが次に行ったのは…。

「ローエン閣下!!ローカス卿!!
ファルメニウス公爵夫妻の悪事を、一緒に訴えてください!!」

ケイシロンの方面だった。
グレンフォと関係性が深いから、当然…顔は知っている。
ローエンはため息つきつつ、

「……あの公開演武を推奨するとは、言わん。
しかし…護衛騎士である以上、服を剥がされたくらいで戦闘不能になる人間を使えない…という、
主張はもっともじゃよ」

「その通りだ。
風紀の乱れは気になったものの、言っている事はまさに正論だから、悪事というのは間違っている」

ローカスの意見も…同じだった。

「何ですか!!それは!!
じゃあ、あなた方は、自分の妻が服を剥がされ、晒し者にされて、いいとでもいう気ですか!!」

ジェルフのこの言葉に…ローエンとローカスの眉毛と口が、思いっきりへの字になる。

「あのな…話を聞いていたか?おばあ様もマギーも、護衛騎士じゃない。
ドロテア嬢は護衛騎士になることを、自分で選んだんだろ?」

ローカスの口調は、本当に呆れていた。

「だ、だったら、この場になぜいないのですか!!
ティタノ陛下の歓待をする、大切なパーティーなのに…。
追及されたら反論できないから、逃げただけでしょう!!それについて…」

「あのな!!」

ジェルフの言葉を、強引に切るローカス。

「オレたち近衛騎士団も、王立騎士団も…家族にすら秘匿しなきゃならない、極秘任務が
発生することは!!あるんだ!!」

事情を知っているだけに、かなり口調が強くなる。

「事情を知らずに、下手にバカにすると…恥をかくのはお前らだぞ!!」

「その通りじゃ。まずは…事情が分かってから、考えて発言するべきじゃよ」

この部分は…本当に本当の事だから、ローエンも全面肯定した。

「もういいです!!結局ファルメニウス公爵家が怖いだけじゃないですか!!」

という捨て台詞と共に、そそくさと去っていった。
後に残ったローエンとローカスは…。

「……あれ…本当にグレンフォ卿の親戚ですか?」

信じれんね~…と言いたげに、しかめっ面をしているローカス。

「まあ…あ奴の所は、親戚の数が、非常に多いからの…。
中には質が悪いのが出てきても、おかしくはなかろうよ…」

ローエンも…似たり寄ったりの顔をしている。

一方、ローエンとローカスの元を去った、3バカはといえば…

「おい!!なんで誰も賛同しないんだよ!!」

「……やっぱり、ファルメニウス公爵家だからだろうよ…」

「諦めるなよ!!みんなファルメニウス公爵家が怖いだけで、あの公開演武が酷いモノだったって
思っているって言ってたじゃないか!!正義は我にありだ!!」

ジェルフは…勢いなのか、後に引けないのか、鼻息を荒くしている。
そんな3人の目に…ドロテアとメイリンの姿が…。

「ド、ドロテア嬢!!メイリン嬢!!」

思わず話しかける。

「あれ…。アナタたちって確か…ラスタフォルスの…」

ドロテアは…こいつ等が纏わりついてきているの知っていたから、会釈程度で済ませたかったのだが、
メイリンは知らなかった。
だから…普通に話しかけてしまったのだ。

「はい!!グレダルおじい様の孫です!!」

全員…ドロテアの姿を見た瞬間、今までの暗さどこ行った?…と、聞きたくなるくらい、とても
ウキウキとしている。

「そ、それにしても大丈夫なのですか?
あのようにひどい目に遭ったのですから、少し休息を取られた方が良いのでは?」

「みな言っていますよ!!あんなひどい事、まかり通しちゃいけないって!!」

この言葉に反応したのも…やっぱりドロテアじゃなく、メイリンだった。

「そうよね!!本物の騎士道精神を持った人なら、憤って当然よね!!」

「はい!!もちろんです!!」

力のない奴ほど、カッコつけたがるもの…という構図は、世界が変っても一緒のようだ。

「ありがとう!!アナタ達のような、本当の騎士がいてくれて、とても心強いわ!!」

「そんな…当然の事ですよ!!」

3バカは…褒められると木に登るようだ…。
メイリンは…3バカと盛り上がっているが、ドロテアは…どちらかと言えば、早くこの場を離れ
たがっているように見える。
その証拠に…。

「メイリン様…そろそろ行きましょう…」

小声でメイリンに話しかける。

「あ、そうね…。会場が見渡せるところに行かないとね!!
じゃあ、アナタ達は引き続き頑張ってね!!」

「はい!!」

とってもいい返事をした3バカを残して、2人は去る。
去り際にドロテアが、

「あの…メイリン様。あの3人とは、あまり親しくしない方がいいですよ…」

「なんで?」

メイリンは本当にわかっていないようだ…。

「たまに会うんですけど…本当に口だけだなって、感じる事が多くて…」

それ以外にも、ありそうな雰囲気をドロテアは出すが、

「そうなの?でも…今回は、敵が強大なんだから、味方は多い方がいいわよ」

メイリンは…やはりかしづかれることが当たり前の立場ゆえ、あまり深く考えないようだ。

「あの…私はちょっと行くところがありますので、モントリアの所に戻ってください」

「……わかったわ」

ちょっと不思議そうにしつつも、深く考えずドロテアと別れるメイリン。

そして3バカは…。

「やったぁ!!ドロテアちゃんが来てくれるなんて…」

「きっと、オレらの働きを、その眼に焼き付けるためだよ!!
オレ…試合が終わってからすぐに、慰めと励ましの手紙、何通も送ったからさ!!」

「お前もか!!オレもだよ、オレも!!」

「きっと…オレたちみたいなのが、沢山いたんだよ!!
だから…この会場には、自分の味方が大勢いると信じてくれたんだ!!」

「そうだよ!!公開演武とパーティーまでの日数の空きが少なかったから…返事が出せなかった
だけで、感動してくれているんだ!!」

余談だが…。
この3バカの手紙に、ドロテアが返事をしたことは、今まで一度もない。

「よ~し、やるぞ、お前ら!!」

ジェルフが意を決したように、他2人に対して、握りこぶしを見せる。

「え?ファルメニウス公爵夫妻が帰るまで、待つんじゃないのか?」

「馬鹿野郎!!逃げたかもしれないんだぞ!!
パーティーが終わるまで、来ない可能性があるじゃないか!!」

「そ、そうだな!!ティタノ陛下に進言しようにも、あいつ等がいたら…邪魔される可能性が
あるからな!!」

「そうだよ!!オルフィリア公爵夫人はティタノ陛下の愛人だって、もっぱらの噂だし!!」

新聞記事というものは…真実もあるが、虚偽もある。
その事が…全く頭に無いようだ。

そして、猪突猛進となったバカは…止まることなど、頭の辞書から転げ落ちる。
3人は…衣装だけはしっかりと整え、よせばいいのに…。

「ティタノ陛下!!僭越ながら、申し上げます!!」

ジェルフのこの言葉は…爆弾が投下されたと同じだったようで、みなが震源を確認するかの如く、
その方向を振り向いた。

「先の公開演武…最終試合における醜態について、ファルメニウス公爵家にはどういった責任を
取らせるおつもりなのでしょうか?」

正義は自分にあり…と、信じて疑わない人間の声は、とてもよく通る。

その時ティタノ陛下は…ちょっとつまらなそうに、家臣たちの、まとまった商談の話を聞いていた
ところだった。
だが…その言葉を投げかけられ、ゆっくりと振り向き、

「なんじゃ?貴様らは…」

この…地獄の底から響くような声で…ジェルフの足が震える。

ティタノ・ウラフィス・バクシバルド…その圧力たるや、常人がその空気の範囲内に入ると、
何とも言えぬ、威圧をもたらす。
例えティタノ陛下が相手を害する気が無くても、往々にして怖がらせてしまう。
それを怖がらなかったフィリーに対して、ティタノ陛下がすぐに好意的になったのは…当然だったろう。
ちなみにギリアムも怖がったことは無いが、そこは…怖がる人間でないと、認識されていたから。
もちろん、ギリアムの人格も気に入っている。

そしてこの3バカは…当然、こすっからい常人である。

明らかに…己の想像を、遥かに超える怪物に相対してしまった…。
それが分かったのは、声を発した後だった。
脂汗が…ジェルフと他2人の全身を…伝う。

だが…後には引けないと思ったのか、

「仮にも女性を裸同然で戦わせ、見世物にしたことで、ございます」

歯を食いしばるように、声を…出しているが、震えているのは丸わかりだった。

「……」

ティタノ陛下は…言葉を発しない…。
いや、発する価値もないと、思っているのだろう。
事実…3人を見る目が、その辺に落ちている、ごみを見るような目だったから…。
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