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第二章 乱宴
12 3バカの逃げと押し付けと続く馬鹿な行動
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沈黙の圧力というものは、ともすれば怒鳴る以上の衝撃を、相手に与える。
ギリアムも…言葉など発せずとも、その空気だけで、数多の犯罪者の口を割らせてきた。
ティタノ陛下の圧力は…それと同レベルか、それ以上である。
この沈黙に…先に耐えかねたのは、当然ジェルフで、
「ツ、ツァルガ閣下!!そうですよね!!」
かなり華麗に、言えと言われました…的な空気を発した。
「な、何でわしなんじゃ!!」
いきなりご指名されて、かなり慌てている。
「だ、だってそうじゃないですか!!!女性には優しくすべしと、いつも仰っていたでしょう!!」
余談だが…。
アイリンとダリアの関係性上ガルドベンダ公爵家は、ラスタフォルス侯爵家の傍系とも、かなりの
頻度で顔を合わせている。
だから…この孫世代の人間達には、お調子者のツァルガは、かなり偉そうなことを、幼いころから
言ってきたのだ。
「そうですよ!!
女性を裸で戦わせるような事をした、ギリアム公爵の非道を、今こそ訴えましょう!!」
「そうです!!
救国の英雄だなんて、もっともらしく言われているけど、エセもいい所だ!!」
この3人は…もちろん勝算があって言っている。
ツァルガは…ステファンの事があって、ギリアムが救国の英雄と言われるようになってからも、
事あるごとに、色々文句を言っていたからだ。
しかし…。
「いい加減にせんか、お前たち…」
ツァルガの顔は…自分の今までの行いを…もう、あるがままに受け止めたような…。
ある意味悟りを開いたような、穏やかな顔だった。
「ギリアム公爵閣下が…今までして来た、功績のほんの僅かでも…お前たちは何かをして来たのか?
侵略されてもおかしくなかった我が国の危機を…間違いなく救ったのは、未成年だったギリアム
公爵閣下じゃぞ?
今この国が平和で…こうして下らんことで言い合っていられるのも、ある意味ギリアム公爵閣下の
おかげなんじゃ。
それを少しでも…頭に置いて、お前たちは言葉を言っているのか?」
ツァルガが…完全に予想とは反対の事を言ったから、思わず呆けたが、そこは…無駄にしぶとく、
「な、何を言ってらっしゃるのですか!!
そもそもアナタだって…アカデミーの式典で、散々恥をかかされたじゃないですか!!」
「罠を仕掛けたのはアッチなのに、いかにもな醜聞として公表するなんて!!」
ツァルガという人物は…お調子者の上、身分の高さもあって、侮辱に対しては、かなり過敏に
反応するタチだった。
だからそこを突けば、味方になってくれると思ったのかもしれないが…。
「そもそも…その罠は、ギリアム公爵閣下が仕掛けた訳ではなく、父親が仕掛けたもんじゃ。
それに…ひょいひょいと乗ったのは、このわしじゃ…。
おまけに…わしの庶子の面倒を…ギリアム公爵閣下が殆ど見てくださったんじゃよ」
これは…ガルドベンダ側でも、しっかりと調べた結果だ。
ツァリオは…ギリアムに庶子の情報を出して貰ってすぐ、動いた。
その辺の優先順位は間違わないから。
その結果分かったのは…。
ギリアム父は、ツァルガというより、ツァリオを攻撃したかった。
だから…ツァルガの庶子と母親たちは、だいぶヒドイ扱いを受けていた。
母親はまだしも、子供の戸籍は一切作れないように、役所に圧力をかけ、満足な教育すら受けられ
ないようにしていた。
そしてその全ては、ツァリオの指示だと言っていたのだ。
だがギリアム父が死に、ギリアムがそれを知ると…。
政敵がツァリオを攻撃するために、ワザと情報を流れないようにしていたこと、しかしその政敵が
死んだことで、情報が行き、すぐさま救済処置を取るよう指示した事を説明。
ギリアムは父親の事も出さなかったが、少なくとも…救済は全てツァリオの指示であるとした。
そして…自分の名前は、おくびにも出さなかった。
こうして…人知れずツァリオの名誉を回復していたのだ。
その事を…ツァルガは本当に、臆面もなく、その場で語って見せた。
「信じられるか?これを行ったのが…12歳から14歳の間だというのだから…。
そして、わしにもツァリオにも、一切恩着せがましい事は、言ったことがない…。
わしは…ギリアム公爵閣下がアカデミーにいた時…、だいぶステファンを擁護して、ギリアム
公爵閣下を攻撃したことも…あったのになぁ…」
心のどこかで…ギリアムを認めつつ、ステファンの事があって拒否していた…。
そのわだかまりが、全て…外れた瞬間だったのだろう。
「なんじゃい、随分と神妙になったもんじゃのぉ。生まれ変わりでもしたか?」
ティタノ陛下が…ちょっとからかうように、言ってきたが、
急にティタノ陛下に言われたことに…ちょっとだけ、びくりとしたが、直ぐに元の空気に戻り、
「今更でございますがね…。
孫世代の人間に…しかも、未成年の時に、そこまでしてもらっておいて…。
恩をあだで返すような事をしたら…」
握っていた杖を…少しだけ強く握り…。
「わしに散々恥をかかせて、ツァリオを苦しめ続けたあの男と…同じ人間のような、気がして
ならないものですからな…」
ツァルガの顔が…自然と引き締まる。
「それだけは…嫌だと思っただけですよ…」
どこか悲し気に…空を見つめるツァルガの目。
それは在りし日に…ギリアム父に何も抵抗できず、してやられた上、当主の座を若い息子に譲り
渡した。
そんな…しょーもない自分を…恥じているような、眼差しだった。
「まあ…及第点かの…」
ティタノ陛下がぼそりと言った言葉は…誰の耳にも届かなかったようだ。
さて…いよいよ行き場のなくなった、3バカは…。
「し、しかし!!この場にいないのが、やましい事がある、何よりの証拠ではありませんか!!」
「そうです!!ティタノ陛下の歓待パーティーと言えば、最後を締めくくる大事なセレモニー!!
それを夫婦そろって欠席するなど!!」
「何を置いても出席し、しっかりと場を仕切るべきです!!」
場を乱しているのが、自分達だと…わかっているのか、いないのか…。
散々、ローエンやローカスに言われておきながら…。
「いい加減にしないか!!
ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人は、特殊任務中だ!!」
これに声をあげたのは…ローエンでもローカスでもなく、アルフレッドだった。
やはり…責任を感じているんだろう。
「アルフレッド卿こそ、なんですか!!
恥をかかされたのは、ガルドベンダの家臣なのに、なぜファルメニウス公爵家の肩を持つのですか!!」
3人も負けていないが、
「あれは正当な試合だったと、言っているだろう!!
お前らがどう思おうと、ガルドベンダではそう認識している!!
だから、文句なんて言う気もない!!」
アルフレッド…明らかに焦燥感から、激高気味だ。
「そんなことを言って!!
ツァリオ閣下の時代は、真っ向からファルメニウス公爵家に対抗していたのに!!
アナタの代は、本当に腑抜けになりましたね!!」
3バカは…売り言葉に買い言葉になってきた。
身分は…アルフレッドの方が、確実に上なのに…。
「それこそ馬鹿を言うな!!
お父様の時代…先代ファルメニウス公爵は、悪辣な事ばかりしていたからだ!!
今は…良識ある事しかしないんだから、対抗する必要はない!!」
アルフレッドは…普段だったら、もう少し多角的に攻められるのだろうが、余裕がなくなっている
今は、完全に一方方向からしか攻められない。
「何が良識ですか!!
女性を裸で戦わせて、止めもしない!!その後…馬鹿にされても、庇いもしない!!
それこそ、悪辣以外の何物でもない!!」
小悪党らしく、口は…というより、悪口はそれなりに達者なようだ。
アルフレッドが言い合いに乗ってきているからこそ、態度が…どんどん小馬鹿にしたように
なり、手を広げて大きく振りながら、
「今いないのだって…どうせくだらない用事でしょう!!」
思いっきりバカにしたように、薄ら笑いながら、3人そろって言ったものだから、
「本当に、いい加減にしろ――――――――――――――――――っ!!」
とうとう、怒髪天を突いたようだ。
まあ…愛する人を助けに行く任務を、くだらないと言われたら、当然だろうが…。
ジェルフの胸ぐらをつかみ上げ、拳を高く振り上げた。
だが…。
その拳が、ジェルフに届くことは無かった。
なぜならまるで…巨人にでも掴まれたかの如く、振り下ろそうとしたアルフレッドの拳が
微動だに出来なかったから…。
「少し落ち着きたまえ。アルフレッド卿…」
その声に…アルフレッドは全身が震えた。
そして静かに…振り向く。
そこにいたのは…ギリアム・アウススト・ファルメニウスだった…。
「ギ、ギリアム公爵閣下…。なぜ…ここに…?」
ジェルフの事など、この時点で視界と思考からこぼれ落ち、アルフレッドはギリアムの肩を
抑えられていない方の手で、掴む。
そんなアルフレッドにしか聞こえない声で、ギリアムはポソリと、
「作戦は成功…。人質は無事、救出した」
この時点で…ギリアムはフィリーからの、伝書鳩を受け取っていた。
逆にそれが来ない時点では…何があっても出ない覚悟だったようだ。
「あ、ありが…とう…ござ…」
「まだだ!!」
思わず泣きそうになっているアルフレッドの鼓膜を…ギリアムの高い声が、つんざく。
「キミは…いま、戦っている最中なのだろう?
そして…キミはガルドベンダだろう?武でいなすは、ファルメニウスの役目…。
キミはガルドベンダとしての、戦いをしたまえ」
ギリアムの声は…力強く、アルフレッドの全身を穿った。
アルフレッドは今…人生の中で、最も澄み切った…脳細胞の刺激を感じていた。
「ティタノ陛下…」
アルフレッドが頭を下げたのは…まず一番に、気を使わねばならない人間だった。
「このようなお見苦しい所をお見せし、面目次第もございません。
しかし…何卒、挽回する機会をお与えください」
その物腰は…ティタノ陛下に敬意を払えど、決して怯えても失礼でもない…まさに王者の風格を
持つ者が、その腰を曲げる動作だった。
「……これ以上見苦しいものを見せるようなら、覚悟はできておろうな?」
「もちろんです」
地獄の底から響いてくるようなティタノ陛下の声に…一切物おじせず、答えて見せた。
「よかろう、やってみろ」
ティタノ陛下の言を持って…アルフレッドの口上が始まった…。
ギリアムも…言葉など発せずとも、その空気だけで、数多の犯罪者の口を割らせてきた。
ティタノ陛下の圧力は…それと同レベルか、それ以上である。
この沈黙に…先に耐えかねたのは、当然ジェルフで、
「ツ、ツァルガ閣下!!そうですよね!!」
かなり華麗に、言えと言われました…的な空気を発した。
「な、何でわしなんじゃ!!」
いきなりご指名されて、かなり慌てている。
「だ、だってそうじゃないですか!!!女性には優しくすべしと、いつも仰っていたでしょう!!」
余談だが…。
アイリンとダリアの関係性上ガルドベンダ公爵家は、ラスタフォルス侯爵家の傍系とも、かなりの
頻度で顔を合わせている。
だから…この孫世代の人間達には、お調子者のツァルガは、かなり偉そうなことを、幼いころから
言ってきたのだ。
「そうですよ!!
女性を裸で戦わせるような事をした、ギリアム公爵の非道を、今こそ訴えましょう!!」
「そうです!!
救国の英雄だなんて、もっともらしく言われているけど、エセもいい所だ!!」
この3人は…もちろん勝算があって言っている。
ツァルガは…ステファンの事があって、ギリアムが救国の英雄と言われるようになってからも、
事あるごとに、色々文句を言っていたからだ。
しかし…。
「いい加減にせんか、お前たち…」
ツァルガの顔は…自分の今までの行いを…もう、あるがままに受け止めたような…。
ある意味悟りを開いたような、穏やかな顔だった。
「ギリアム公爵閣下が…今までして来た、功績のほんの僅かでも…お前たちは何かをして来たのか?
侵略されてもおかしくなかった我が国の危機を…間違いなく救ったのは、未成年だったギリアム
公爵閣下じゃぞ?
今この国が平和で…こうして下らんことで言い合っていられるのも、ある意味ギリアム公爵閣下の
おかげなんじゃ。
それを少しでも…頭に置いて、お前たちは言葉を言っているのか?」
ツァルガが…完全に予想とは反対の事を言ったから、思わず呆けたが、そこは…無駄にしぶとく、
「な、何を言ってらっしゃるのですか!!
そもそもアナタだって…アカデミーの式典で、散々恥をかかされたじゃないですか!!」
「罠を仕掛けたのはアッチなのに、いかにもな醜聞として公表するなんて!!」
ツァルガという人物は…お調子者の上、身分の高さもあって、侮辱に対しては、かなり過敏に
反応するタチだった。
だからそこを突けば、味方になってくれると思ったのかもしれないが…。
「そもそも…その罠は、ギリアム公爵閣下が仕掛けた訳ではなく、父親が仕掛けたもんじゃ。
それに…ひょいひょいと乗ったのは、このわしじゃ…。
おまけに…わしの庶子の面倒を…ギリアム公爵閣下が殆ど見てくださったんじゃよ」
これは…ガルドベンダ側でも、しっかりと調べた結果だ。
ツァリオは…ギリアムに庶子の情報を出して貰ってすぐ、動いた。
その辺の優先順位は間違わないから。
その結果分かったのは…。
ギリアム父は、ツァルガというより、ツァリオを攻撃したかった。
だから…ツァルガの庶子と母親たちは、だいぶヒドイ扱いを受けていた。
母親はまだしも、子供の戸籍は一切作れないように、役所に圧力をかけ、満足な教育すら受けられ
ないようにしていた。
そしてその全ては、ツァリオの指示だと言っていたのだ。
だがギリアム父が死に、ギリアムがそれを知ると…。
政敵がツァリオを攻撃するために、ワザと情報を流れないようにしていたこと、しかしその政敵が
死んだことで、情報が行き、すぐさま救済処置を取るよう指示した事を説明。
ギリアムは父親の事も出さなかったが、少なくとも…救済は全てツァリオの指示であるとした。
そして…自分の名前は、おくびにも出さなかった。
こうして…人知れずツァリオの名誉を回復していたのだ。
その事を…ツァルガは本当に、臆面もなく、その場で語って見せた。
「信じられるか?これを行ったのが…12歳から14歳の間だというのだから…。
そして、わしにもツァリオにも、一切恩着せがましい事は、言ったことがない…。
わしは…ギリアム公爵閣下がアカデミーにいた時…、だいぶステファンを擁護して、ギリアム
公爵閣下を攻撃したことも…あったのになぁ…」
心のどこかで…ギリアムを認めつつ、ステファンの事があって拒否していた…。
そのわだかまりが、全て…外れた瞬間だったのだろう。
「なんじゃい、随分と神妙になったもんじゃのぉ。生まれ変わりでもしたか?」
ティタノ陛下が…ちょっとからかうように、言ってきたが、
急にティタノ陛下に言われたことに…ちょっとだけ、びくりとしたが、直ぐに元の空気に戻り、
「今更でございますがね…。
孫世代の人間に…しかも、未成年の時に、そこまでしてもらっておいて…。
恩をあだで返すような事をしたら…」
握っていた杖を…少しだけ強く握り…。
「わしに散々恥をかかせて、ツァリオを苦しめ続けたあの男と…同じ人間のような、気がして
ならないものですからな…」
ツァルガの顔が…自然と引き締まる。
「それだけは…嫌だと思っただけですよ…」
どこか悲し気に…空を見つめるツァルガの目。
それは在りし日に…ギリアム父に何も抵抗できず、してやられた上、当主の座を若い息子に譲り
渡した。
そんな…しょーもない自分を…恥じているような、眼差しだった。
「まあ…及第点かの…」
ティタノ陛下がぼそりと言った言葉は…誰の耳にも届かなかったようだ。
さて…いよいよ行き場のなくなった、3バカは…。
「し、しかし!!この場にいないのが、やましい事がある、何よりの証拠ではありませんか!!」
「そうです!!ティタノ陛下の歓待パーティーと言えば、最後を締めくくる大事なセレモニー!!
それを夫婦そろって欠席するなど!!」
「何を置いても出席し、しっかりと場を仕切るべきです!!」
場を乱しているのが、自分達だと…わかっているのか、いないのか…。
散々、ローエンやローカスに言われておきながら…。
「いい加減にしないか!!
ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人は、特殊任務中だ!!」
これに声をあげたのは…ローエンでもローカスでもなく、アルフレッドだった。
やはり…責任を感じているんだろう。
「アルフレッド卿こそ、なんですか!!
恥をかかされたのは、ガルドベンダの家臣なのに、なぜファルメニウス公爵家の肩を持つのですか!!」
3人も負けていないが、
「あれは正当な試合だったと、言っているだろう!!
お前らがどう思おうと、ガルドベンダではそう認識している!!
だから、文句なんて言う気もない!!」
アルフレッド…明らかに焦燥感から、激高気味だ。
「そんなことを言って!!
ツァリオ閣下の時代は、真っ向からファルメニウス公爵家に対抗していたのに!!
アナタの代は、本当に腑抜けになりましたね!!」
3バカは…売り言葉に買い言葉になってきた。
身分は…アルフレッドの方が、確実に上なのに…。
「それこそ馬鹿を言うな!!
お父様の時代…先代ファルメニウス公爵は、悪辣な事ばかりしていたからだ!!
今は…良識ある事しかしないんだから、対抗する必要はない!!」
アルフレッドは…普段だったら、もう少し多角的に攻められるのだろうが、余裕がなくなっている
今は、完全に一方方向からしか攻められない。
「何が良識ですか!!
女性を裸で戦わせて、止めもしない!!その後…馬鹿にされても、庇いもしない!!
それこそ、悪辣以外の何物でもない!!」
小悪党らしく、口は…というより、悪口はそれなりに達者なようだ。
アルフレッドが言い合いに乗ってきているからこそ、態度が…どんどん小馬鹿にしたように
なり、手を広げて大きく振りながら、
「今いないのだって…どうせくだらない用事でしょう!!」
思いっきりバカにしたように、薄ら笑いながら、3人そろって言ったものだから、
「本当に、いい加減にしろ――――――――――――――――――っ!!」
とうとう、怒髪天を突いたようだ。
まあ…愛する人を助けに行く任務を、くだらないと言われたら、当然だろうが…。
ジェルフの胸ぐらをつかみ上げ、拳を高く振り上げた。
だが…。
その拳が、ジェルフに届くことは無かった。
なぜならまるで…巨人にでも掴まれたかの如く、振り下ろそうとしたアルフレッドの拳が
微動だに出来なかったから…。
「少し落ち着きたまえ。アルフレッド卿…」
その声に…アルフレッドは全身が震えた。
そして静かに…振り向く。
そこにいたのは…ギリアム・アウススト・ファルメニウスだった…。
「ギ、ギリアム公爵閣下…。なぜ…ここに…?」
ジェルフの事など、この時点で視界と思考からこぼれ落ち、アルフレッドはギリアムの肩を
抑えられていない方の手で、掴む。
そんなアルフレッドにしか聞こえない声で、ギリアムはポソリと、
「作戦は成功…。人質は無事、救出した」
この時点で…ギリアムはフィリーからの、伝書鳩を受け取っていた。
逆にそれが来ない時点では…何があっても出ない覚悟だったようだ。
「あ、ありが…とう…ござ…」
「まだだ!!」
思わず泣きそうになっているアルフレッドの鼓膜を…ギリアムの高い声が、つんざく。
「キミは…いま、戦っている最中なのだろう?
そして…キミはガルドベンダだろう?武でいなすは、ファルメニウスの役目…。
キミはガルドベンダとしての、戦いをしたまえ」
ギリアムの声は…力強く、アルフレッドの全身を穿った。
アルフレッドは今…人生の中で、最も澄み切った…脳細胞の刺激を感じていた。
「ティタノ陛下…」
アルフレッドが頭を下げたのは…まず一番に、気を使わねばならない人間だった。
「このようなお見苦しい所をお見せし、面目次第もございません。
しかし…何卒、挽回する機会をお与えください」
その物腰は…ティタノ陛下に敬意を払えど、決して怯えても失礼でもない…まさに王者の風格を
持つ者が、その腰を曲げる動作だった。
「……これ以上見苦しいものを見せるようなら、覚悟はできておろうな?」
「もちろんです」
地獄の底から響いてくるようなティタノ陛下の声に…一切物おじせず、答えて見せた。
「よかろう、やってみろ」
ティタノ陛下の言を持って…アルフレッドの口上が始まった…。
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