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第三章 前哨
3 その頃ガルドベンダの面々は…
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「ドロテア!!会いたかったわ!!」
そう言って…抱きついたのはヴィネラェだった。
その場所は…街の一角…。
ヴィネラェが個人的に所有している建物だった。
研究施設だったその建物を買い取り、仕事や研究だけでなく、密談の場としても活躍している。
「あんなことになって…。さぞ、心を痛めていると思ってね!!
アナタの好きなものばかり、用意したのよ!!」
テーブルの上には、所狭しと…ケーキが並び、お茶の準備が整っていた。
その席には…メイリンとモントリアがいる。
試合の後…ドロテアは一時的にガルドベンダに返ってきたが、ファルメニウス公爵家があんな
事になって、雇われの身として…そのまま残ったのだ。
まあ、裏事情を言わせてもらえば、レファイラから指示されたことを実行したと思われている
だろうから、秘密裏に消される…と言う事を、心配したせいもある。
「さあさ、座って…。みんなで…楽しい話でもしましょう」
ヴィネラェに即されて、席につくドロテア。
そうして…優しい笑い声が、暫くはこだましたのだが…。
「それにしても!!本当にオルフィリア公爵夫人は酷いわ!!女性を裸で戦わせるなんて…」
メイリンが…やっぱりふくれっ面で喋り始めるから、
「メイリン!!この場ではよしなさいと、言ったでしょう!!」
ヴィネラェの待ったがかかるが、
「いえ…いいのです、ヴィネラェ様…。私もちょうど…その話をしようと思っていたので」
ドロテアの言葉で、引っ込んだ。
「メイリン様…1つお聞きしたいのですが…」
「なに?」
「なぜ…オルフィリア公爵夫人の事しか…責めないのですか?」
ドロテアの表情は…とても落ち着いていた。
「そ、そう言えばそうよね!!
ギリアム公爵閣下だって…ティタノ陛下だって酷いわ!!」
メイリンの言葉に…ドロテアは静かに、ティーカップを置き、
「私が言っているのは…ダリア団長の事ですよ…」
やっぱり…透き通った声で、言った。
「え…」
ドロテアのこの言葉は予想外だったようで、本気で呆けてしまった。
「ダリア団長は…4年も前に、こんな事がいつか…起こるかもしれないと、ギリアム公爵閣下から
問題提起されていた…。
にも拘らず…私達団員には間違った情報を伝えて…問題提起された内容については、一切話を
しなかったんです。
私は今回当事者になったからこそ、本当に本気で…みんなで考える問題だったと、骨身にしみました。
それを怠ったことは…全く責めてらっしゃらないから、少し…不思議に思いました」
「そ、それは…」
全く予想外だったようで、黙り込んでしまったメイリン。
その代わりに、
「ドロテア…。アナタどうしたの?ダリア団長の問題も確かにあるけれど…。
アナタが公衆の面前で服を剥がされて…男どもの汚いヤジを受けたのは事実じゃない。
それについて…メイリン様は抗議していらっしゃるのよ。
私だって…あの様に心を痛めているんだから」
モントリアが出てきたが、
(よく言うわよ…。アンタは最初から、私をそうするつもりだったんじゃない。
それも…きわどい状態じゃなく、殆ど…丸裸になるように、細工してあったじゃない!!
本当に…盗人猛々しいって、この事よね…)
ドロテアは…ポーカーフェイスの下で、苦虫をかみつぶしつつ、平静を装う。
「……もうこの際だから、言いますけどね。
あの公開演武最終試合は…最初からああすると、前もって言われていたんです。
もし嫌だったら…選抜メンバーから外れるように…とね」
「ええっ!!」
ここにいる全員が、驚いたのは言うまでもない。
「先のガルドベンダ公爵家での食事会で…ダリア団長が、問題提起された内容を、真剣に
考えてらっしゃらないと判断されたそうです。
だから…今回いい機会だと捉えて、あのような形になったのです。
ちなみに…ティタノ陛下もご了承済みです。あの方の国でも…女性と男性での落差はどうしても
問題になっておりますからね…。あの方が止めなかったのは、それも理由の1つですよ」
戦争形式…となった場合、服が剥がされたくらいで、戦闘不能になるな…というのも、もちろん
あるが。
「それと…ファルメニウス公爵夫妻が、何もしてないと思われるなら、それは違います。
あの方々は…しっかりと水面下で王立騎士団を動かして、民間の火消しを開始していますよ。
オルフィリア公爵夫人は…今は療養中ですが、回復し次第、積極的に社交界に出て、
火消しをして回ると、お約束してくださっております…」
ここまで喋ると、お茶を…また一口飲みつつ、
「対して…ダリア団長は何もしていませんよ」
「え?」
「あの試合のすぐ後…私の所に、流星騎士団の仲間が来てくれましてね。
ダリア団長にお触れを出すなり、私の事を貶める人間がいたら、捕らえる権限を貰うよう、
王立騎士団に進言してくれと言ったらしいのですが…。
全て突っぱねられたそうです。そんな事をしている暇は、今はない…と、言ってね」
「……」
「民間には…火消しを行う会社があるのだから、そこに頼むくらいはできるはずなのに…。
それも一切していないそうですよ」
その場に…何とも言えぬ、虚無な空気が流れる。
メイリンは…最初の威勢はどこへやら…。
一転して、どうしていいか、本気でわからない顔になった。
「メイリン様はおそらく…ツァリオ様やウチの父が動かない事にも、不満を漏らしてらっしゃると
思いますがね。2人は…ダリア団長が動いたら、動く気でいますよ。
逆に…この問題を一番考えなければいけない人物が動かないから…安易に動けないだけです」
「そ、そんな…」
ここまで言うと、ドロテアは立ち上がり、
「私はこれから…ダリア団長に直接、どうして動かないのか、聞きに行くつもりです」
「え…」
「今日は…私を励ますために、楽しい会を開いていただき、ありがとうございました」
頭一つ下げ…ドロテアは出て行こうとする。
「ま、待って!!ドロテア!!私も一緒に行く!!」
メイリンが続くように、席を立つ。
それに追従するように…ヴィネラェとモントリアも、席を立つのだった…。
---------------------------------------------------------------------------------------------
「アンナマリー!!無事で本当に良かった!!」
「はい…。アルフレッド様。ご心配をおかけしました…」
ティタノ陛下歓待パーティーの翌々日…ファルメニウス公爵家に、家族ごと保護されたアンナマリーが
やって来たアルフレッドと会っていた。
「元気そうじゃないか!!てっきり…入院しなきゃ、ダメかと思った!!」
アンナマリーを抱きしめ、涙目の笑顔で語る。
「閉じ込められていた時は怖かったですが…、何かされたわけでは無いので…。
軽い貧血だけだから、入院は必要ないだろう…と」
アンナマリー・デラズヴェル男爵令嬢…。
丸顔で…幼い顔つきは、フィリーと同系統だ。美人より可愛いと評されるタイプ。
色白ではあるが、その分…そばかすの痕のようなシミが、鼻の周りに目立っているため、まがう事なく
芋女…と、呼ばれてしまう部類だろう。
髪の毛を2つに分け、おさげにしており…控えめなリボンから、本人の主張の弱さがうかがえる。
あまり…着飾る事に、頓着が無いようで…服も…部屋着とはいえ、かなりやぼったい。
ただアルフレッドは元々…そんな女性が好きなのか、全く気にする素振りはない。
そんな2人を…遠巻きに見つめる視線が2つ…。
それに気づいたアルフレッドが、
「ああ、ご挨拶が遅れました…。
アルフレッド・シャーロイ・ガルドベンダと申します!!
アンナマリー嬢と、1年以上前からお付き合いさせていただいています。
他国でしたので、直接のご挨拶が遅れ、申し訳ございません」
通常なら…公爵家の嫡子であるアルフレッドが、男爵家の人間に頭を下げること自体がおかしいの
だが…。あまりその辺の感覚が、もともとないのか…。それともアンナマリーの家族だからなのか…。
「そ、そんなに…かしこまらないでください…。アルフレッド様…。
我が家は…アナタ様が頭を下げるような家では、ございません…」
アンナマリーの父、エドガー卿は…。かなり気弱なようで、へっぴり腰に震える声だ。
もっとも…男爵家と公爵家の身分差を考えれば、誰でもそうなってしまうのかも…だが。
「何を仰っているんですか!!アンナマリーの家族なら、私にとっても家族!!
これから懇意にするのですから、もっとおおらかに構えてください!!」
アルフレッドは…1人嬉しそうだが、やっぱり…2人はぎこちない。
「あの…アルフレッド様。私も主人も…とても驚いてしまって…。
状況がまだ…飲み込めていないので、もう少し…家族の時間を持たせていただけませんか?
アンナマリーは攫われたばかりですし…」
アンナマリーの母、イボンヌ夫人もかなり…控えめに言葉を紡ぐ。
「これは…申し訳ございません。ご家族の御心労を、もう少し察するべきでした。
アンナマリーの無事な姿を見たら、嬉しくてつい…」
やっぱり…1人わかっていないように、明るいアルフレッド。
種明かしすると…アンナマリーはアルフレッドの事を、実家の両親には一切伝えてないのだ。
これは…アルフレッドの指示でもあった。
もし万が一、実家の家族…でなくても、親類縁者がガルドベンダに失礼な事をしてしまうと、
ツァリオの性格上、アンナマリーとの交際を許してくれなくなると思ったから。
「お母様!!私は大丈夫です…。攫われた時はもちろん不安でしたが…。
まさか、オルフィリア公爵夫人が助けに来て下さるなんて…。まさに運命です!!」
眼を輝かせつつ、鼻息荒く、言葉を吐く。
「これを機に…同じ男爵令嬢として、懇意にしたいと思います!!」
「何を言っているの!!元の身分がどうであれ…オルフィリア様は今、ファルメニウス公爵夫人
なのよ!!アナタが気安く話しかけてよいお方じゃありません!!」
イボンヌ夫人は激しく叱責するが、
「元であっても、同じ男爵令嬢じゃないですか!!それに…助けに来て下さったのですから、
嫌われているわけではありません!!仲良くなることは、できると思います!!」
アンナマリーは全く…わかっていないようで、イボンヌ夫人はめまいがしているようだ。
「あ~、アンナマリー…。同じ…男爵令嬢とは、言わない方がいいぞ」
ここで…アルフレッドが以前の事を話すと…。
「なるほど…。そうだったのですね…。ですが…それでしたら大丈夫です!!」
アンナマリーは目をキラキラさせて、
「確かに以前の私では…わからなかったと思います!!
でも…私は今回攫われて…、それでもめげませんでした!!負けませんでした!!
そのガッツと、強さをわかってもらえれば…弟子にしてくださると思います!!」
今後の展望に胸を膨らませているようだ。
アルフレッドは確かに…と、思ったようで、
「そうだな…。その路線で話をするのは…ありだな…うん」
こうして…勝手に盛り上がる若い2人と…それを少し離れた所から、心配そうに見守る者たち。
ここからどこに行くのかは…まだ誰にもわからない。
そう言って…抱きついたのはヴィネラェだった。
その場所は…街の一角…。
ヴィネラェが個人的に所有している建物だった。
研究施設だったその建物を買い取り、仕事や研究だけでなく、密談の場としても活躍している。
「あんなことになって…。さぞ、心を痛めていると思ってね!!
アナタの好きなものばかり、用意したのよ!!」
テーブルの上には、所狭しと…ケーキが並び、お茶の準備が整っていた。
その席には…メイリンとモントリアがいる。
試合の後…ドロテアは一時的にガルドベンダに返ってきたが、ファルメニウス公爵家があんな
事になって、雇われの身として…そのまま残ったのだ。
まあ、裏事情を言わせてもらえば、レファイラから指示されたことを実行したと思われている
だろうから、秘密裏に消される…と言う事を、心配したせいもある。
「さあさ、座って…。みんなで…楽しい話でもしましょう」
ヴィネラェに即されて、席につくドロテア。
そうして…優しい笑い声が、暫くはこだましたのだが…。
「それにしても!!本当にオルフィリア公爵夫人は酷いわ!!女性を裸で戦わせるなんて…」
メイリンが…やっぱりふくれっ面で喋り始めるから、
「メイリン!!この場ではよしなさいと、言ったでしょう!!」
ヴィネラェの待ったがかかるが、
「いえ…いいのです、ヴィネラェ様…。私もちょうど…その話をしようと思っていたので」
ドロテアの言葉で、引っ込んだ。
「メイリン様…1つお聞きしたいのですが…」
「なに?」
「なぜ…オルフィリア公爵夫人の事しか…責めないのですか?」
ドロテアの表情は…とても落ち着いていた。
「そ、そう言えばそうよね!!
ギリアム公爵閣下だって…ティタノ陛下だって酷いわ!!」
メイリンの言葉に…ドロテアは静かに、ティーカップを置き、
「私が言っているのは…ダリア団長の事ですよ…」
やっぱり…透き通った声で、言った。
「え…」
ドロテアのこの言葉は予想外だったようで、本気で呆けてしまった。
「ダリア団長は…4年も前に、こんな事がいつか…起こるかもしれないと、ギリアム公爵閣下から
問題提起されていた…。
にも拘らず…私達団員には間違った情報を伝えて…問題提起された内容については、一切話を
しなかったんです。
私は今回当事者になったからこそ、本当に本気で…みんなで考える問題だったと、骨身にしみました。
それを怠ったことは…全く責めてらっしゃらないから、少し…不思議に思いました」
「そ、それは…」
全く予想外だったようで、黙り込んでしまったメイリン。
その代わりに、
「ドロテア…。アナタどうしたの?ダリア団長の問題も確かにあるけれど…。
アナタが公衆の面前で服を剥がされて…男どもの汚いヤジを受けたのは事実じゃない。
それについて…メイリン様は抗議していらっしゃるのよ。
私だって…あの様に心を痛めているんだから」
モントリアが出てきたが、
(よく言うわよ…。アンタは最初から、私をそうするつもりだったんじゃない。
それも…きわどい状態じゃなく、殆ど…丸裸になるように、細工してあったじゃない!!
本当に…盗人猛々しいって、この事よね…)
ドロテアは…ポーカーフェイスの下で、苦虫をかみつぶしつつ、平静を装う。
「……もうこの際だから、言いますけどね。
あの公開演武最終試合は…最初からああすると、前もって言われていたんです。
もし嫌だったら…選抜メンバーから外れるように…とね」
「ええっ!!」
ここにいる全員が、驚いたのは言うまでもない。
「先のガルドベンダ公爵家での食事会で…ダリア団長が、問題提起された内容を、真剣に
考えてらっしゃらないと判断されたそうです。
だから…今回いい機会だと捉えて、あのような形になったのです。
ちなみに…ティタノ陛下もご了承済みです。あの方の国でも…女性と男性での落差はどうしても
問題になっておりますからね…。あの方が止めなかったのは、それも理由の1つですよ」
戦争形式…となった場合、服が剥がされたくらいで、戦闘不能になるな…というのも、もちろん
あるが。
「それと…ファルメニウス公爵夫妻が、何もしてないと思われるなら、それは違います。
あの方々は…しっかりと水面下で王立騎士団を動かして、民間の火消しを開始していますよ。
オルフィリア公爵夫人は…今は療養中ですが、回復し次第、積極的に社交界に出て、
火消しをして回ると、お約束してくださっております…」
ここまで喋ると、お茶を…また一口飲みつつ、
「対して…ダリア団長は何もしていませんよ」
「え?」
「あの試合のすぐ後…私の所に、流星騎士団の仲間が来てくれましてね。
ダリア団長にお触れを出すなり、私の事を貶める人間がいたら、捕らえる権限を貰うよう、
王立騎士団に進言してくれと言ったらしいのですが…。
全て突っぱねられたそうです。そんな事をしている暇は、今はない…と、言ってね」
「……」
「民間には…火消しを行う会社があるのだから、そこに頼むくらいはできるはずなのに…。
それも一切していないそうですよ」
その場に…何とも言えぬ、虚無な空気が流れる。
メイリンは…最初の威勢はどこへやら…。
一転して、どうしていいか、本気でわからない顔になった。
「メイリン様はおそらく…ツァリオ様やウチの父が動かない事にも、不満を漏らしてらっしゃると
思いますがね。2人は…ダリア団長が動いたら、動く気でいますよ。
逆に…この問題を一番考えなければいけない人物が動かないから…安易に動けないだけです」
「そ、そんな…」
ここまで言うと、ドロテアは立ち上がり、
「私はこれから…ダリア団長に直接、どうして動かないのか、聞きに行くつもりです」
「え…」
「今日は…私を励ますために、楽しい会を開いていただき、ありがとうございました」
頭一つ下げ…ドロテアは出て行こうとする。
「ま、待って!!ドロテア!!私も一緒に行く!!」
メイリンが続くように、席を立つ。
それに追従するように…ヴィネラェとモントリアも、席を立つのだった…。
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「アンナマリー!!無事で本当に良かった!!」
「はい…。アルフレッド様。ご心配をおかけしました…」
ティタノ陛下歓待パーティーの翌々日…ファルメニウス公爵家に、家族ごと保護されたアンナマリーが
やって来たアルフレッドと会っていた。
「元気そうじゃないか!!てっきり…入院しなきゃ、ダメかと思った!!」
アンナマリーを抱きしめ、涙目の笑顔で語る。
「閉じ込められていた時は怖かったですが…、何かされたわけでは無いので…。
軽い貧血だけだから、入院は必要ないだろう…と」
アンナマリー・デラズヴェル男爵令嬢…。
丸顔で…幼い顔つきは、フィリーと同系統だ。美人より可愛いと評されるタイプ。
色白ではあるが、その分…そばかすの痕のようなシミが、鼻の周りに目立っているため、まがう事なく
芋女…と、呼ばれてしまう部類だろう。
髪の毛を2つに分け、おさげにしており…控えめなリボンから、本人の主張の弱さがうかがえる。
あまり…着飾る事に、頓着が無いようで…服も…部屋着とはいえ、かなりやぼったい。
ただアルフレッドは元々…そんな女性が好きなのか、全く気にする素振りはない。
そんな2人を…遠巻きに見つめる視線が2つ…。
それに気づいたアルフレッドが、
「ああ、ご挨拶が遅れました…。
アルフレッド・シャーロイ・ガルドベンダと申します!!
アンナマリー嬢と、1年以上前からお付き合いさせていただいています。
他国でしたので、直接のご挨拶が遅れ、申し訳ございません」
通常なら…公爵家の嫡子であるアルフレッドが、男爵家の人間に頭を下げること自体がおかしいの
だが…。あまりその辺の感覚が、もともとないのか…。それともアンナマリーの家族だからなのか…。
「そ、そんなに…かしこまらないでください…。アルフレッド様…。
我が家は…アナタ様が頭を下げるような家では、ございません…」
アンナマリーの父、エドガー卿は…。かなり気弱なようで、へっぴり腰に震える声だ。
もっとも…男爵家と公爵家の身分差を考えれば、誰でもそうなってしまうのかも…だが。
「何を仰っているんですか!!アンナマリーの家族なら、私にとっても家族!!
これから懇意にするのですから、もっとおおらかに構えてください!!」
アルフレッドは…1人嬉しそうだが、やっぱり…2人はぎこちない。
「あの…アルフレッド様。私も主人も…とても驚いてしまって…。
状況がまだ…飲み込めていないので、もう少し…家族の時間を持たせていただけませんか?
アンナマリーは攫われたばかりですし…」
アンナマリーの母、イボンヌ夫人もかなり…控えめに言葉を紡ぐ。
「これは…申し訳ございません。ご家族の御心労を、もう少し察するべきでした。
アンナマリーの無事な姿を見たら、嬉しくてつい…」
やっぱり…1人わかっていないように、明るいアルフレッド。
種明かしすると…アンナマリーはアルフレッドの事を、実家の両親には一切伝えてないのだ。
これは…アルフレッドの指示でもあった。
もし万が一、実家の家族…でなくても、親類縁者がガルドベンダに失礼な事をしてしまうと、
ツァリオの性格上、アンナマリーとの交際を許してくれなくなると思ったから。
「お母様!!私は大丈夫です…。攫われた時はもちろん不安でしたが…。
まさか、オルフィリア公爵夫人が助けに来て下さるなんて…。まさに運命です!!」
眼を輝かせつつ、鼻息荒く、言葉を吐く。
「これを機に…同じ男爵令嬢として、懇意にしたいと思います!!」
「何を言っているの!!元の身分がどうであれ…オルフィリア様は今、ファルメニウス公爵夫人
なのよ!!アナタが気安く話しかけてよいお方じゃありません!!」
イボンヌ夫人は激しく叱責するが、
「元であっても、同じ男爵令嬢じゃないですか!!それに…助けに来て下さったのですから、
嫌われているわけではありません!!仲良くなることは、できると思います!!」
アンナマリーは全く…わかっていないようで、イボンヌ夫人はめまいがしているようだ。
「あ~、アンナマリー…。同じ…男爵令嬢とは、言わない方がいいぞ」
ここで…アルフレッドが以前の事を話すと…。
「なるほど…。そうだったのですね…。ですが…それでしたら大丈夫です!!」
アンナマリーは目をキラキラさせて、
「確かに以前の私では…わからなかったと思います!!
でも…私は今回攫われて…、それでもめげませんでした!!負けませんでした!!
そのガッツと、強さをわかってもらえれば…弟子にしてくださると思います!!」
今後の展望に胸を膨らませているようだ。
アルフレッドは確かに…と、思ったようで、
「そうだな…。その路線で話をするのは…ありだな…うん」
こうして…勝手に盛り上がる若い2人と…それを少し離れた所から、心配そうに見守る者たち。
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