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第三章 前哨
4 本当に酷いのは…どっち?
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流星騎士団の本部で…ダリアとダリナが、何やら書類を整理している。
通常であれば…つまらない仕事だろうが、随分と楽しそうだ。
そのわけは…。
「もうすぐ…お兄様が帰ってこられるのですね」
ダリナがいえば、
「そうですよ…。そうなれば、今までの私の苦労も全て報われます。
長かった…。グレッドがいなくなってから…本当に、長かった…」
ダリアが昔を思い出しているのか、遠い目に憂いを含ませる。
「ダイヤが帰ってきたら…まずはラスタフォルス侯爵家に慣れる事が必要ですが…。
同時に流星騎士団の方で、しっかりと…騎士の形を教えましょう。
その上で…厳選に厳選を重ねた、しっかりとした家柄の女性で周りを固めれば…。
ダイヤもラスタフォルス侯爵家も安泰です」
手に持つ書類には…流星騎士団の若いメンバーの似顔絵が…。
「あんな…娼婦上がりの女など、二度と近寄らせるものですか!!
ダイヤは正式なラスタフォルス侯爵家の跡取り…。
伯爵家以上の、由緒正しい…騎士のたしなみを持つ女性が、相応しいのです!!」
書類をくしゃりとにぎり…顔を歪ませている。
「もちろんです!!おばあ様…。
お兄様も自分が…ラスタフォルス侯爵家の跡取りだと自覚すれば、きっと目を覚まします。
私も最大限、協力しますから!!」
力強く言ったダリナの手を取り、
「ありがとう、ダリナ…。グレリオと共に、ダイヤをしっかりと支えてあげてね。
アナタ達3人で…仲良くラスタフォルス侯爵家を盛り立ててくれれば、こんなに嬉しい事はない!!」
「はい!!おばあ様!!」
そんな…和気あいあいとした話の中、
「失礼いたします」
イライザが入って来た。
「どうしました?私は忙しいから、全てアナタが処理するように…と、言ったでしょう?」
ダリアは少し…不機嫌になりつつ、言った。
「そう言う訳には参りません。ドロテアが来ております」
「……だから、それも含めて処理は任せたでしょう?」
「メイリン嬢とヴィネラェ夫人が一緒なんです。ダリア団長にお会いしたいと…」
するとダリアは…もっともらしくため息をつき、
「それじゃあ…仕方ありませんね…。ここにお通ししなさい」
書類を…片付け始める。
しばしのち…ドロテアたちが、ダリアの執務室に通される。
傍には…ダリナとイライザがいる。
「知っての通り、私は明後日の裁判の準備で忙しいのです。手短にお願いします」
ダリアの第一声がコレだった…。
「……先の公開演武最終試合で噴き出た色々な問題や醜聞を、全く処理してらっしゃらないと
伺いました。どういうことかお聞きしたいのですが…」
ドロテアの声には…抑揚が無かった。
感情が全く籠っておらず、あくまで…単なる事務的な確認の様だった。
「それに関しては…流星騎士団で処理する問題ではないからです」
ダリアの声にもまた…抑揚がない。
「あの公開演武については、国…ひいてはファルメニウス公爵家の管轄です。
だから…あのような状態で出た醜聞については、王立騎士団で責任をもって処理すること。
こちらが何か…やるのは筋が違います」
……もっともらしい説明に聞こえるが、
「そもそも団長は…4年も前に、この件については…ギリアム公爵閣下より問題提起を
されていらっしゃいましたよね?
それなのに…団員である私たちに、正確に伝えない上に、そう言った問題が出たら、流星騎士団で
どう対処するか…。考えてもいなかったのですか?」
ドロテアも…ある程度、社交界慣れしているからこそ、言は達者だ。
「……それは、この問題とは関係ないでしょう?」
「いいえ、あります。
実際に…流星騎士団の仲間たちが、醜聞をまき散らす人間を、捕らえる権利を請求して欲しいと
言ったのを…突っぱねましたよね。
私だけじゃなく…流星騎士団に所属していると言うだけで、言われてしまった子もいたのに…です。
そういったモノに対処するのは、流星騎士団として、必要ではありませんか?」
「……それこそ、ファルメニウス公爵家の責任です!!王立騎士団を動かすべきもの!!」
ダリアは…少し苛ついてきているようだ。
(全く…こんな事している暇はないのに…。
ダイヤを迎え入れた後…騎士の事は私がやるとしても、貴族の諸々の事は…家庭教師を雇う
しかない。それだって厳選しなきゃいけない!!
ファルメニウス公爵家には…ダイヤを渡さなかった責任を取らせる形で、傍系や揶揄する人間を
抑えさせるつもりだけれど…。
それだって、しっかりやっているかどうか、見張る人員は必須…。
ダイヤに悪い虫がつかないように、逐一報告する人間も配備して…。
ああ、考える事がいっぱいだって言うのに!!)
かなり…自分本位な都合である。
「私は…明後日大事な裁判を控えている事、わかっていますよね。
その後…話しは聞くつもりです!!」
「……それでは遅いから、言っているのですよ。
実際…今、流星騎士団ごと悪く言われているのを、放っていらっしゃる。
だから…余計に言われてしまうのです。
民間には…そう言った対処をする機関が、大小さまざま存在します。
人とお金を使って…そう言った機関に頼むでも、よろしいじゃないですか。
それさえしない理由は、なんなのですか?」
苛ついてきているダリアに比して、ドロテアはたいへん静かだった。
それが余計に滑稽に映ったのか、はたまた…本当に、時間を取られるのが嫌だったのか、
「とにかく!!その件はもう、お終いです!!私は忙しいの!!帰りなさい!!」
かなり強く…机をたたいた。
メイリンとヴィネラェはビクッとしたようだが、ドロテアは動じない。
「だいたい!!厳格なる公式行事を!!
あんな公開ストリップのような、卑猥なショーにしたのは、ファルメニウス公爵家でしょう!!
ファルメニウス公爵家が全部悪いんですから、ファルメニウス公爵家に言いなさい!!」
鬼面の表情で、顔を真っ赤にして叫んでいる。
「……ダリア団長は何か、ファルメニウス公爵家を悪者にせねばならない理由がおありなのですか?」
どこまでも…冷静に聞くドロテア。
「何を言っているの!!」
叫ぶダリアだが…言葉が続かない。
(全く…何なのよ、もう…。
ファルメニウス公爵家に責任を取らせる形で…ダイヤに纏わりつくだろう敵を倒させる計画なのに…。
その為には、公開演武の醜聞は絶好なのよ…。
なんの対処もしない事で、聖人の皮を被った、ただの卑劣漢と皆が思えば…。
それだけ責めやすくなる。ダイヤは…紛れもなく我が家から奪われた、正当な血筋…。
それを取り戻そうとしているだけなのに、何でこうもみんな…邪魔をするのよ!!)
ドロテアは…終始落ち着いたまま、ため息一つ吐き、
「もうこの際、言いますがね…。
あの公開演武最終試合…私はああなると知っていて、出たのですよ…」
「なっ…」
これはやっぱり…ダリア陣営も驚いた。
「今…フィリアム商会が女性騎士を雇用しだしたこともあり…国中で、女性騎士の機運が高まって
いるそうです。
ただそれに伴って…4年前にギリアム公爵閣下が問題提起したことが…おざなりになることもまた
危惧されています」
「まあもっとも…かくいう私も、言われても実際、当事者になってみないとわからなかった」
ドロテアはここで…少し顔を歪ませる。
「服を剥がされて、周囲の好奇の目とヤジに晒される…。
これが…どんな鋭利な武具よりも…心を突き刺し、引き裂くものだと…味わってみなければ
わからなかった」
「そんな時…自分が所属する団体が、関係ないとか…他がやる事だから…で、冷たくあしらったら
どう思うか…一度、経験してみたらいかがです?心を病んでしまっても、おかしくないですよ」
その眼は…明らかにダリアを責めているのが、本人にもわかったようで、
「だったら、ファルメニウス公爵家は何をしてるって言うの!!
何もしてないでしょう!!」
苦し紛れに言を発するが、
「そう思うなら、しっかりと市勢を調査されたらどうですか?」
ドロテアはいたって冷静。
「まず…ティタノ陛下がお帰りになるまでは、どうしても人員はそちらに割かねばなりません。
だから…やっていないように見えただけで…。実際はもう、取り締まりを始めていますよ」
「それに…フィリアム商会では、女性騎士を雇用したからこそ、オルフィリア公爵夫人が
中心となって…動きやすくて、破れにくい…防具に近い下着を開発しています」
これは…フィリーの前世の仕事が功を奏した。
あらゆる下着を身に付けた上…沢山の下着フェチ共の相手をしただけでなく…。
自分で下着を作ってくるような、コアな客層までしっかりと対応する…。
その結果、並の下着職人より、下着に詳しくなった。
その知識に…ファルメニウス公爵家の豊富な資金をつぎ込んで、かなり従来の物より破れにくく、
防御力の高い下着を開発したのだ。
今は試験段階だが、いずれ…商品化する予定。
「ファルメニウス公爵夫妻は…問題提起をしたからこそ、それを…どうやってその問題を解決
できるかを、真剣に考えています。
私は…ファルメニウス公爵家にいて、それがよくわかりますよ」
ここで…ドロテアの目はきつくなる。
「ダリア団長…。対してアナタはこの4年間…一体何をしていたんですか?」
「4年という時間があれば…ある程度、醜聞に対しての対策など…知恵を誰かに借りる事も、
体制をできるだけ整える事も、できたのではないですか?」
「せっかく…ギリアム公爵閣下が、忙しい時間を割いて、問題提起してくださったのに…。
だから、今回こんな形で、噴き出した問題に…団員たちがざわついてしまったんじゃないですか。
完全ではなくても…防衛策を立てられたと思うのは、私だけですか?」
その言葉は…その通りだと思わせる力があるだけに、そこにいる誰も…反論できない。
ダリアは暫く震えていたが…。
「とにかく!!その問題は、ファルメニウス公爵家が解決すべきものです!!
それが私の方針です!!変える気はありません!!」
苦し紛れの怒鳴り声にしか、聞こえなかった。
「……それが、ダリア団長の答えですか」
ドロテアの澄み渡った目が…ダリアの鬼面の表情を、鏡のように映し出す。
「わかりました」
そのまますっくと立ちあがり、
「では…今日で、流星騎士団をお暇させていただきます。
今まで、お世話になりました」
綺麗なお辞儀1つして…颯爽と部屋を出る。
「ド、ドロテア!!待って!!」
メイリンが追いかけ、ヴィネラェもその後を追う。
「団長!!いいんですか!!ドロテアはウチのホープなんですよ!!」
イライザがいくらなんでも…と、怒鳴るが、
「私は今…それどころではないと、何度言わせる気!!
アナタはアナタの仕事をしなさい!!」
結局、ダリナ以外の人間を、部屋から追い出してしまった。
一方、ドロテアに追いついたメイリンは…。
「メイリン様…」
それに気づいたドロテアに、話しかけられていた。
「私は今まで…流星騎士団員として、さまざまな仕事をし…時には、欠員不足を自分の休みを
潰して、補ってきました」
「う、うん。知ってる…」
「それなのに…団長は私がどうなろうと、お構いなしのよう…」
「そ、それは…」
「ファルメニウス公爵家は…私に色々してくれましたよ。
醜聞の対策から、今日のお出かけだって…馬で行くと言ったんですが、今…顔を晒すと
いろいろ言ってくる奴がいるから…と、馬車を貸してくれました」
「……」
言葉を失くしたメイリンに…ドロテアは少し悲し気な微笑を向け、
「メイリン様…。酷いのはどっちだと思いますか?」
ドロテアはメイリンの答えを待たず…馬車に乗り込むのだった。
通常であれば…つまらない仕事だろうが、随分と楽しそうだ。
そのわけは…。
「もうすぐ…お兄様が帰ってこられるのですね」
ダリナがいえば、
「そうですよ…。そうなれば、今までの私の苦労も全て報われます。
長かった…。グレッドがいなくなってから…本当に、長かった…」
ダリアが昔を思い出しているのか、遠い目に憂いを含ませる。
「ダイヤが帰ってきたら…まずはラスタフォルス侯爵家に慣れる事が必要ですが…。
同時に流星騎士団の方で、しっかりと…騎士の形を教えましょう。
その上で…厳選に厳選を重ねた、しっかりとした家柄の女性で周りを固めれば…。
ダイヤもラスタフォルス侯爵家も安泰です」
手に持つ書類には…流星騎士団の若いメンバーの似顔絵が…。
「あんな…娼婦上がりの女など、二度と近寄らせるものですか!!
ダイヤは正式なラスタフォルス侯爵家の跡取り…。
伯爵家以上の、由緒正しい…騎士のたしなみを持つ女性が、相応しいのです!!」
書類をくしゃりとにぎり…顔を歪ませている。
「もちろんです!!おばあ様…。
お兄様も自分が…ラスタフォルス侯爵家の跡取りだと自覚すれば、きっと目を覚まします。
私も最大限、協力しますから!!」
力強く言ったダリナの手を取り、
「ありがとう、ダリナ…。グレリオと共に、ダイヤをしっかりと支えてあげてね。
アナタ達3人で…仲良くラスタフォルス侯爵家を盛り立ててくれれば、こんなに嬉しい事はない!!」
「はい!!おばあ様!!」
そんな…和気あいあいとした話の中、
「失礼いたします」
イライザが入って来た。
「どうしました?私は忙しいから、全てアナタが処理するように…と、言ったでしょう?」
ダリアは少し…不機嫌になりつつ、言った。
「そう言う訳には参りません。ドロテアが来ております」
「……だから、それも含めて処理は任せたでしょう?」
「メイリン嬢とヴィネラェ夫人が一緒なんです。ダリア団長にお会いしたいと…」
するとダリアは…もっともらしくため息をつき、
「それじゃあ…仕方ありませんね…。ここにお通ししなさい」
書類を…片付け始める。
しばしのち…ドロテアたちが、ダリアの執務室に通される。
傍には…ダリナとイライザがいる。
「知っての通り、私は明後日の裁判の準備で忙しいのです。手短にお願いします」
ダリアの第一声がコレだった…。
「……先の公開演武最終試合で噴き出た色々な問題や醜聞を、全く処理してらっしゃらないと
伺いました。どういうことかお聞きしたいのですが…」
ドロテアの声には…抑揚が無かった。
感情が全く籠っておらず、あくまで…単なる事務的な確認の様だった。
「それに関しては…流星騎士団で処理する問題ではないからです」
ダリアの声にもまた…抑揚がない。
「あの公開演武については、国…ひいてはファルメニウス公爵家の管轄です。
だから…あのような状態で出た醜聞については、王立騎士団で責任をもって処理すること。
こちらが何か…やるのは筋が違います」
……もっともらしい説明に聞こえるが、
「そもそも団長は…4年も前に、この件については…ギリアム公爵閣下より問題提起を
されていらっしゃいましたよね?
それなのに…団員である私たちに、正確に伝えない上に、そう言った問題が出たら、流星騎士団で
どう対処するか…。考えてもいなかったのですか?」
ドロテアも…ある程度、社交界慣れしているからこそ、言は達者だ。
「……それは、この問題とは関係ないでしょう?」
「いいえ、あります。
実際に…流星騎士団の仲間たちが、醜聞をまき散らす人間を、捕らえる権利を請求して欲しいと
言ったのを…突っぱねましたよね。
私だけじゃなく…流星騎士団に所属していると言うだけで、言われてしまった子もいたのに…です。
そういったモノに対処するのは、流星騎士団として、必要ではありませんか?」
「……それこそ、ファルメニウス公爵家の責任です!!王立騎士団を動かすべきもの!!」
ダリアは…少し苛ついてきているようだ。
(全く…こんな事している暇はないのに…。
ダイヤを迎え入れた後…騎士の事は私がやるとしても、貴族の諸々の事は…家庭教師を雇う
しかない。それだって厳選しなきゃいけない!!
ファルメニウス公爵家には…ダイヤを渡さなかった責任を取らせる形で、傍系や揶揄する人間を
抑えさせるつもりだけれど…。
それだって、しっかりやっているかどうか、見張る人員は必須…。
ダイヤに悪い虫がつかないように、逐一報告する人間も配備して…。
ああ、考える事がいっぱいだって言うのに!!)
かなり…自分本位な都合である。
「私は…明後日大事な裁判を控えている事、わかっていますよね。
その後…話しは聞くつもりです!!」
「……それでは遅いから、言っているのですよ。
実際…今、流星騎士団ごと悪く言われているのを、放っていらっしゃる。
だから…余計に言われてしまうのです。
民間には…そう言った対処をする機関が、大小さまざま存在します。
人とお金を使って…そう言った機関に頼むでも、よろしいじゃないですか。
それさえしない理由は、なんなのですか?」
苛ついてきているダリアに比して、ドロテアはたいへん静かだった。
それが余計に滑稽に映ったのか、はたまた…本当に、時間を取られるのが嫌だったのか、
「とにかく!!その件はもう、お終いです!!私は忙しいの!!帰りなさい!!」
かなり強く…机をたたいた。
メイリンとヴィネラェはビクッとしたようだが、ドロテアは動じない。
「だいたい!!厳格なる公式行事を!!
あんな公開ストリップのような、卑猥なショーにしたのは、ファルメニウス公爵家でしょう!!
ファルメニウス公爵家が全部悪いんですから、ファルメニウス公爵家に言いなさい!!」
鬼面の表情で、顔を真っ赤にして叫んでいる。
「……ダリア団長は何か、ファルメニウス公爵家を悪者にせねばならない理由がおありなのですか?」
どこまでも…冷静に聞くドロテア。
「何を言っているの!!」
叫ぶダリアだが…言葉が続かない。
(全く…何なのよ、もう…。
ファルメニウス公爵家に責任を取らせる形で…ダイヤに纏わりつくだろう敵を倒させる計画なのに…。
その為には、公開演武の醜聞は絶好なのよ…。
なんの対処もしない事で、聖人の皮を被った、ただの卑劣漢と皆が思えば…。
それだけ責めやすくなる。ダイヤは…紛れもなく我が家から奪われた、正当な血筋…。
それを取り戻そうとしているだけなのに、何でこうもみんな…邪魔をするのよ!!)
ドロテアは…終始落ち着いたまま、ため息一つ吐き、
「もうこの際、言いますがね…。
あの公開演武最終試合…私はああなると知っていて、出たのですよ…」
「なっ…」
これはやっぱり…ダリア陣営も驚いた。
「今…フィリアム商会が女性騎士を雇用しだしたこともあり…国中で、女性騎士の機運が高まって
いるそうです。
ただそれに伴って…4年前にギリアム公爵閣下が問題提起したことが…おざなりになることもまた
危惧されています」
「まあもっとも…かくいう私も、言われても実際、当事者になってみないとわからなかった」
ドロテアはここで…少し顔を歪ませる。
「服を剥がされて、周囲の好奇の目とヤジに晒される…。
これが…どんな鋭利な武具よりも…心を突き刺し、引き裂くものだと…味わってみなければ
わからなかった」
「そんな時…自分が所属する団体が、関係ないとか…他がやる事だから…で、冷たくあしらったら
どう思うか…一度、経験してみたらいかがです?心を病んでしまっても、おかしくないですよ」
その眼は…明らかにダリアを責めているのが、本人にもわかったようで、
「だったら、ファルメニウス公爵家は何をしてるって言うの!!
何もしてないでしょう!!」
苦し紛れに言を発するが、
「そう思うなら、しっかりと市勢を調査されたらどうですか?」
ドロテアはいたって冷静。
「まず…ティタノ陛下がお帰りになるまでは、どうしても人員はそちらに割かねばなりません。
だから…やっていないように見えただけで…。実際はもう、取り締まりを始めていますよ」
「それに…フィリアム商会では、女性騎士を雇用したからこそ、オルフィリア公爵夫人が
中心となって…動きやすくて、破れにくい…防具に近い下着を開発しています」
これは…フィリーの前世の仕事が功を奏した。
あらゆる下着を身に付けた上…沢山の下着フェチ共の相手をしただけでなく…。
自分で下着を作ってくるような、コアな客層までしっかりと対応する…。
その結果、並の下着職人より、下着に詳しくなった。
その知識に…ファルメニウス公爵家の豊富な資金をつぎ込んで、かなり従来の物より破れにくく、
防御力の高い下着を開発したのだ。
今は試験段階だが、いずれ…商品化する予定。
「ファルメニウス公爵夫妻は…問題提起をしたからこそ、それを…どうやってその問題を解決
できるかを、真剣に考えています。
私は…ファルメニウス公爵家にいて、それがよくわかりますよ」
ここで…ドロテアの目はきつくなる。
「ダリア団長…。対してアナタはこの4年間…一体何をしていたんですか?」
「4年という時間があれば…ある程度、醜聞に対しての対策など…知恵を誰かに借りる事も、
体制をできるだけ整える事も、できたのではないですか?」
「せっかく…ギリアム公爵閣下が、忙しい時間を割いて、問題提起してくださったのに…。
だから、今回こんな形で、噴き出した問題に…団員たちがざわついてしまったんじゃないですか。
完全ではなくても…防衛策を立てられたと思うのは、私だけですか?」
その言葉は…その通りだと思わせる力があるだけに、そこにいる誰も…反論できない。
ダリアは暫く震えていたが…。
「とにかく!!その問題は、ファルメニウス公爵家が解決すべきものです!!
それが私の方針です!!変える気はありません!!」
苦し紛れの怒鳴り声にしか、聞こえなかった。
「……それが、ダリア団長の答えですか」
ドロテアの澄み渡った目が…ダリアの鬼面の表情を、鏡のように映し出す。
「わかりました」
そのまますっくと立ちあがり、
「では…今日で、流星騎士団をお暇させていただきます。
今まで、お世話になりました」
綺麗なお辞儀1つして…颯爽と部屋を出る。
「ド、ドロテア!!待って!!」
メイリンが追いかけ、ヴィネラェもその後を追う。
「団長!!いいんですか!!ドロテアはウチのホープなんですよ!!」
イライザがいくらなんでも…と、怒鳴るが、
「私は今…それどころではないと、何度言わせる気!!
アナタはアナタの仕事をしなさい!!」
結局、ダリナ以外の人間を、部屋から追い出してしまった。
一方、ドロテアに追いついたメイリンは…。
「メイリン様…」
それに気づいたドロテアに、話しかけられていた。
「私は今まで…流星騎士団員として、さまざまな仕事をし…時には、欠員不足を自分の休みを
潰して、補ってきました」
「う、うん。知ってる…」
「それなのに…団長は私がどうなろうと、お構いなしのよう…」
「そ、それは…」
「ファルメニウス公爵家は…私に色々してくれましたよ。
醜聞の対策から、今日のお出かけだって…馬で行くと言ったんですが、今…顔を晒すと
いろいろ言ってくる奴がいるから…と、馬車を貸してくれました」
「……」
言葉を失くしたメイリンに…ドロテアは少し悲し気な微笑を向け、
「メイリン様…。酷いのはどっちだと思いますか?」
ドロテアはメイリンの答えを待たず…馬車に乗り込むのだった。
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