ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第三章 前哨

6 何ぞ…企んでも無駄だと思うが?

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さて…。
裁判を翌日に控え、ファルメニウス公爵家では一部が慌ただしく動いていたが…。

通常の使用人は…いつも通りの行動を取っていた。

ドロテアは…と言えば、午前中は護衛騎士に混じって、修練と見回りを行い…。
午後はメイドとして、本宅の中で働いていた。
これは…ハートが護衛兼メイドのような状態を取っているため、ドロテアもその形にしたのだ。

そして…本宅勤務なのは、様子を見るためと、アンナマリーの方に行かせない為だ。
その辺は徹底して言い聞かせたし、それを破ったら協力はできないと言ってある。

この日は…本宅の床掃除をしていた。

ドロテアは騎士をしているだけあって、気配には敏感だ。だから…。
自分に近寄ってきていた影があったを、素早く察知した。

バッとその方向を振り向けば…。
2重の意味で驚いた。

「……アンナマリー嬢?どうしてここに…」

アンナマリーは…メイドの姿をしていたのだが、それは明らかに、ファルメニウス公爵家の
メイドの制服ではない。
どう見ても…自分の家のメイドのモノだ。

「私!!ファルメニウス公爵夫妻に恩返しするために、働き始めたんです!!
だからあなたは、もう、ガルドベンダ公爵家に帰ってください!!
ここはアナタのような方が、いる所ではありません!!」

胸を張って堂々と言っているのだが…。
ドロテアはため息一つつき、

「許可されていませんよね、アナタ…」

と。

「は、はい?」

アンナマリーは…そう言えば、ドロテアが食って掛かってくると思ったようだが…。

「そもそもその制服…ファルメニウス公爵家の物ではないでしょう?
働き始めた…というなら、しっかりとファルメニウス公爵家の物を支給されるはずです。
つまり…無許可で勝手にやっているだけじゃないですか。
わかってらっしゃるかと思いますが、貴族の家には…勝手に入ってはいけない所も多数あるのです。
それをわからずにやるなど…場合によっては、罪に問われますよ」

「せっかく…ファルメニウス公爵夫妻が、ご好意であなたとアナタの家族を保護してくれて
いるのです。
その恩義を…アダで返すような真似は、慎まれた方が良いですよ。
早々に…離宮に帰る事をお勧めします」

その言葉だけ吐き捨てると…また、いない者のように自分の仕事を始める。

「い、いじめを行った卑劣な人間に、言われたくありません!!」

アンナマリーは…負けじと言い返す。
ドロテアはまた、手を止めて…真っすぐにアンナマリーを見据える。

「な、なんですか!!本当のことですよ!!」

アンナマリーの方が、だいぶビクついてきょどるが、

「その通りです」

ドロテアは正々堂々、背筋を伸ばし…静かに肯定した。

「その事について…否定する気も、ごまかす気もありません。
私がしたことは…騎士としてあるまじき行為です。
ただ…だからといって、アナタがファルメニウス公爵家にご迷惑をかけているのを、
見過ごすわけにはいきません」

本当に…悟っていると言っていいような…そんな状態だったんだろう。

これは…主としてファルメニウス公爵家にいる時間が、長かったことが功を奏した。

波動…。

そんな言葉で代表されるようだが…。

人は…犯罪者の方が多い環境では、罪悪感が希薄になる。

モントリアはまがう事なき犯罪者だし…。
メイリンはよくも悪くも、自分の信じた物が正しい…正義は我にあり…を、崩さない人間だ。
だから…そんな2人と常に一緒にいたドロテアは、段々とそちらに引っ張られてしまった。

ましてメイリンは…アルフレッドにはドロテアが相応しい。
アンナマリーが間違っている。アルフレッドが間違っている…と、常々口に出していた。
言霊の作用もあり、より…アンナマリーに酷いことをすることを、正当化してしまったのだ。

だが…このファルメニウス公爵家は、悪人の好む空気からは、最も遠い場所にある。
そして…フィリーと接することが多くなったのも、デカい。

フィリーは…この世は自分の思い通りにならないモノ…というのが、根本原理と心から思い、
それをもとに言霊を発する。

アルフレッドの気持ちはアルフレッドのもの。
ドロテアの気持ちはドロテアのもの。

そして…好きな人を手に入れたいと思うのは、人間すべてが持つ、自然な感情。

フィリーは、ドロテアの気持ちを否定せず…全てを受け止めた。
ドロテアの行儀作法も騎士としての腕も…本当にしっかりしたものだと、報告を受けたから、
そのことも包み隠さず、ほめちぎった。
その上で…人の気持ちが自由にならないモノである。
それを念頭に置いて…自分の行動を決めるように…と、ハッキリとではなく、手を変え品を変え、
時には…ドロテアがそうとは気づかないような形で、言い続けている。

それにより…わだかまりが消えた訳でなくとも、心が…大分透き通って来たのだ。

「わかったらさっさと、帰ってください。仕事の邪魔です」

本当にもう…取るに足らないことだと言いたげに、また仕事に精を出す。
ドロテアは…もちろん意識はアンナマリーに向けていたが、視線は…磨いていた床に向けていた。

その時…。

何かが床にたたきつけられ、割れる音が…。
慌ててドロテアが、その方向を振り向けば…。

花瓶が粉々に割れ、床は水浸し…いけられていた花が散乱し、ついでに…アンナマリーが泣いていた。

ひとまず何が起きたかわからずとも、

「あの…どいてください。報告して、片付けないといけませんので…」

指示は出す。

だがそんな2人の元に…。

「どうした!!スゴイ音が響いてきたが…」

アルフレッドが駆けつけてきた。

「ア、アルフレッドざまぁ~」

アンナマリーが泣きながら、アルフレッドに抱きついた。

「ドロテア卿が…ファルメニウス公爵家から出て行けって、眼の前で花瓶を倒して…。
怖かったぁ~」

「なんだって!!」

アルフレッドはキッとドロテアを睨み、

「アンナマリーは攫われたばかりで…犯人もまだ、捕まっていない状況なんだぞ!!
そんな状況で…デラズヴェル男爵家に帰れなんて、どう言う事だ!!」

あらん限りに怒鳴るが…。

「違います!!この本宅から出て、離宮に戻るよう言っただけです!!
あと…花瓶は壊していません!!私が気付いたら…もう床に落ちていたんです!!」

もちろん…ドロテアはあったことを、正確に伝える。

「嘘をつくな!!」

「嘘じゃありません!!」

「このことは、ファルメニウス公爵夫妻にはしっかりと、報告させてもらう!!」

「私も報告します!!」

両者一歩も譲らず…だったのだが、

「ドロテア!!ここにいたのね」

そう言って…ちょっと小走りに走ってきたのは、バーフェだった。

「……バーフェ夫人?どうされました」

バーフェはこの状況を見はしたが、それよりもまず…と、

「アナタ…一階の一番隅の部屋…廊下を掃除した時、扉が開いていたかどうか、記憶にある?」

顔が…青い。

「あの部屋の扉なら…しっかりと閉まっていましたよ?」

ひとまず答える。

「そう…。なら…。アナタが一階を掃除した時は、閉まっていたのね」

頬に手を当て、他の心当たりを探しているようだが…。

「あ!!その部屋でしたら、私が掃除しました!!」

さっきの泣き声どこ行った…と、聞きたくなるくらい、はきはきした声で言った。

「あのお部屋!!ちょっと見たら、カーテンが全部閉まってて…でも中に、植物があったから…。
カーテンを開けて、窓を全開にして、風通しを良くしたんです!!
そして中を、しっかりお掃除しておきました!!」

ドヤ顔を作りつつ、胸を張って言った。

それを聞いたバーフェとドロテアが顔を見合わせた後、

「本当にアナタがやったの?中に入って、カーテンを開けて…窓を開けたのはアナタなの?
間違いないの?」

バーフェがアンナマリーに近づき、何度も確認する。

「はい!!私がしっかりとやりました!!」

えらいでしょ?…とでも言いたげだが、バーフェはリアルでめまいがしたようで…。

「バーフェ夫人!!」

ちょっとぐらついたのを、ドロテアが支えた。

「大丈夫よ、ドロテア…」

そう言いつつ、青い顔でポケットから、呼子笛を出し…。

「でも、代わりに吹いてちょうだい…」

「わ、わかりました…」

呼子笛の音を聞きつけた護衛騎士と…ギリアムとフォルトがその場に駆けつけた。

「あ!!ギリアム公爵閣下!!ちょうど良かった!!ドロテアの事でお話が…」

アルフレッドの言葉が終わらぬうちに、

「ギリアム様!!あの女です!!あの女が…下の部屋に侵入して、中をめちゃくちゃにしたんです!!」

バーフェがアンナマリーを指さす。

「え?え?」

アンナマリーは当然…何のことか全くわからず。

「……フォルト、私が今から言う、関係者をすぐに集めろ」

「御意」

こうして…指示されたフォルトが足早に去る。
ギリアムは…ひとまず、護衛騎士に指示し、その場にいる全員を移動させるのだった。
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