ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第三章 前哨

8 弁償の額が…

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「それじゃ…この紙に条件を書き給え」

ギリアムが白紙の証書を出す。

「へ?」

アルフレッドが呆けるが、

「これは私のやり方でね…。その人間が…どれだけ真剣に返そうとしているかを、判断する
ものだ。酷いのになると、一生かかって返す…と言うが、一生と言うと、本当に無期限に
近いし…一ヶ月にいくら…という、明確な基準を設定しないなら、こっちの勝手にやらさせて
貰う事にしているのさ」

実を言うとギリアムの取り立ては…並の借金取りが、裸足で逃げ出すと言われている…。

「わ、わかりました…では…」

証文
アルフレッド、アンナマリー両名は、ファルメニウス公爵家への損害賠償を確かに払う事を
ここに誓う。
まず…請求された金額に、正当性が確認されたら…その額を払えるだけ払う。
払いきれなければ…月々、支払っていく。
その際一ヶ月ごとに、元金に対して、1%の利息がつくモノとする。

実際は…大分法律用語満載で、小難しく書いてあったが、わかりやすく要約すると、こんな感じ。

「フム…ガルドベンダらしく、堅実に、妥当に来たな…。
まあ、だからと言って、減額はせんがな。
ツァリオ閣下…。よろしければ、証人をお願いします」

「心得た…」

ツァリオのサインも貰い、ひとまず完了…と、言う感じだろう。

「なら…これから、支払ってもらう金額を、明細付きで説明させてもらう」

ギリアムが…書類を手に取り、

「まず…調度品の修繕費用だが…。全部で2千ゴールド程になる。
内訳はこれに書いてあるから、確認してくれ」

アンナマリーはぎょっとしているが、アルフレッドとツァリオは平静そのもの。
やはり…同レベルの公爵家として、そのぐらいかかるだろう…と、わかっているようだ。

「確認しました…確かに…」

アルフレッドがお辞儀をして、その明細を返した。
慌てていない所を見ると、そのぐらいにはなるだろうし、その程度なら貯えがあるようだ。
ステファンと違い…遊んでいないようだから。

「あとは…植物の鉢の事に移るが…その前に」

ギリアムの目が…再度きつくなる。

「アンナマリー嬢がこの本宅まで来る間に、花壇を見事に踏み荒らしてくれてな。
せっかく植えた苗がめちゃくちゃになっていた。
アンナマリー嬢の靴の痕がしっかりと残っていたから、これも言い逃れさせん。いいな」

「え、えええ~」

全く意識していなかったようだ…。

ファルメニウス公爵家の花壇は…ギリアムがフィリーの為に、趣向を凝らせたものであるため、
一見すると花壇に見えない所にも、様々なものが植わっている。
だから…使用人は、家の中よりもむしろ、庭を歩く時の方が、緊張すると言っている…。

「部屋の中にあった鉢と、花壇の植物…。全部合わせて10万ゴールド。
だから合わせて10万2千ゴールドを、期日までに払うように、以上」

現代日本の金額に換算して…10億2千万円…。

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!!なんで植物の値段が、こんなに高いんですか!!」

落ち着いた態度とポーカーフェイス、一気に剥げ落ちる。

「…明細を見れば、わかるようにしておいたが、説明してやろう。
まず…アンナマリー嬢がダメにした鉢は…国家間協定において、多額の寄付をした家にのみ、
譲渡してもらえるものだ。
私が寄付した金が10万ゴールド…。それを9割ダメにしたから、9万ゴールドだ。
そして踏み荒らした植物も…暗室の鉢ほどではないが、他国から取り寄せた希少種。
全部で1万ゴールド程かかった。買った時の明細もついているから、嘘ではないぞ」

どこからか、お仏壇の鐘の音が…。

アルフレッドは油が切れたロボットのように、かくかくしながらツァリオの方を向くが、
ツァリオはとってもいい笑顔で、

「ステファンにも言ったがな…。
わしは己の自業自得で作った借金は、一切手助けせん!!自分で払え!!」

最後の方は…阿修羅の怒り面に変わっていたそうな。

そしてこの金額を聞いて…イボンヌに続き、エドガーが卒倒した…。
大部分をアルフレッドが払うと言ったとはいえ…連名である以上、アンナマリーにも法的な
縛りはできるから…。

「だいたいお前、大部分を払えるだろう?」

ツァリオが一応…助け舟なのか…わからない言葉を発した。

「……王都近くにある、ノッツェリジィ宮殿を売れば…ですか?」

「ほお…。よくわかりましたな。あれは…現時点では、わしの名義なのに…」

「ええ。商会を持っている強みですよ。
名義はツァリオ閣下ですが、実質的な管理は、アルフレッド卿がしているでしょう?
それに内外装の様子を聞いた限りで、あきらかにツァリオ閣下の好みじゃない。
改装後だとのことですから、名義だけ貸したのでは…と。
そして…あの宮殿の今の価値が、だいたい8万ゴールドですからね」

ギリアムの予想は大正解で…アルフレッドがまだ未成年の時…値が上がるだろうから
欲しいと言ったため、社会勉強も含め買わせたのだ。

「足元見られないように…9万くらいの値で売れば、買いたがる人間はいるだろう。
王都に近くて、交通の便もいい場所だからな」

和気あいあいとツァリオと喋るギリアムだが、アルフレッドの顔色は、どんどん悪くなり、

「お父様ぁ~。ギリアム公爵閣下ぁ~。お慈悲をぉ~。
あれはまだまだ…値が上がる物件なんですぅ~」

本気泣きで縋ってくるが、

「それは…安直に考えすぎだ」

ギリアムのキッツイ注略が入る。

「クリグラズィ山脈付近の避暑地がいい例だがな。
去年の災害で、景観が損なわれて、別荘が一気に値崩れした。
そう言った可能性もゼロではないぞ」

「だいたい…どうやって維持していく気なんだ?
月々1%の利息がかかる。元金が減らなければ…倍々形式で増えるぞ。
金利だけ払う形にしてもいいが…年間でいくら払う事になるか、一度計算してみろ。
私はどちらでもいいがな」

涼しい顔に、びた一文まけんと、書いてある。
結局…アルフレッドはツァリオに引きずられるように、帰っていった…。


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「あらあら、そんな事があったのねぇ…」

寝室でベッドに寝ながら、報告を受ける私。
傍にいるのは…ギリアムとハート…そしてドロテアだ。

「まったく…。本宅にいること自体が、ダメだと言うのに…。
おまけにあの鉢…。手に入れるのに、どれだけ苦労したか…」

ギリアムは怒りが収まらないよう。

「でも結局…花瓶を壊したのって、アンナマリー嬢なんですかねぇ?」

ハートは…やっぱりそこが、気になるようだ。

「……誰も見ていなかった分、どうにも判断できないわ。
ドロテア嬢が嘘をついているなんて、言う気はないけれどね。
アンナマリー嬢だって、壊す気はなくても…少し手をかけたら、落ちて…気が動転しただけかも
しれない。デラズヴェル男爵家の財政状況じゃあ、あの花瓶1つだって、弁償するの大変だろうし。
真実は闇の中よ。この場合は…ね」

私の言を聞いていたドロテアが、じっと私を見て、

「やっぱり…アナタは不思議な人ですね」

と。

「アナタの言葉を聞いていると…不思議と世の中って、いろんなことが起こって、いろんな
気持ちがあると気づかされる…。
そして、中立だと言う言葉通りに動くアナタに…。
真実はわからないと言われると、なんだか納得してしまいます…」

ちょっと…感心しているようにも見える。

「まあ…ね。色々経験したからさ~。でも…」

私は少し…目を鋭くし、

「もし…アンナマリー嬢が花瓶を落として、故意に言葉を吐いたなら…。
モントリアの毒が、だいぶ回っている証拠だわ」

「そう…なのですか?」

「ええ。アルフレッド卿にも…ね」

「そっちもですか?」

ドロテアは驚いてはいるが…。最初に来た当初のような、感情の起伏はない。

「ええ。だって…見た訳じゃないのに、アナタが悪いって、完全に決めてかかってたでしょう?
もしかしたら…絵を描いたのはモントリアで、最初から…台本があったのかもよ。
アンナマリー嬢って…そう言った、悪巧みを思いつくタイプじゃないと思うしね」

私が見た限り…今のところは純粋な人間だ。

「悪だくみを思いつかなくても、規則違反を犯して、損害を与えた以上、いい人間と分類したくは
ないがな」

ギリアムは…まだ、根に持ってる…。やれやれ…。

「あの…毒を抜く方法は、ないのですか?」

アルフレッドへの想いからなのか、騎士としての義務感なのか…。
表情からは残念ながら、読み取れない。

「……確実じゃないけど、まずは…テリトリーから出る事ね」

「テリトリー?」

「そ。現にアナタは…モントリアと接しなくなったら、割と…しっかりとした騎士の考え方が、
出来るように復活したでしょう?
人によりけりだけど…。テリトリーから出るだけで、効果がある人って、いるのよ」

「だから私は…アンナマリー嬢を暫くは、ファルメニウス公爵家に置いておきたいのよ。
そうすれば…アルフレッド卿も来るだろうから、総じて…モントリアと接触する機会が
少なくなる…。まあ、アナタは嫌だろうけどね…」

「……」

私のこの言葉に…ドロテアは何も答えなかった。

「まあ、そう言うわけだから…。アナタが嫌じゃ無ければ、暫くメイリン嬢の所に戻って
あげてちょうだい」

「え?」

この言葉には…あっけにとられる。

「メイリン嬢はね…。ダリア夫人のしょーもなさが発覚して、アナタが流星騎士団を離れて
から…。だいぶん大人しいのよ。
自分の信じていた世界が壊れたから、無理もないけど」

「信じていた世界?」

「そうよ。メイリン嬢の中で…ダリア夫人は正義の人だった。
でも…そうではないと今回の件で、わかってしまったからね…。
さっきの毒を抜く方法にね。このショック療法も入るのよ。
ただショックを受けた時に…またモントリアがくだらない事を吹き込むと、せっかく抜けた毒が
再度回っちゃう恐れがあるからね。
メイリン嬢が嫌いじゃ無ければ、アナタがガードしてあげるといいわ。
心配しなくても…こっちにも定期的に帰れるようにするから、またおかしければ…私が待ったを
かけるわよ」

するとドロテアは…ちょっと考え込みつつ、

「ありがとうございます。そうさせて…いただきます」

やがて静かに…お礼を言った…。
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