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第三章 前哨
10 年の功は馬鹿にデキん
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ヴィネラェは優雅に…お茶を一口飲むと、
「私は…メイリンにもドロテアにも、アンナマリー嬢を虐めたり、させません。
もちろん私もしませんよ」
アルフレッドの方は見ずに、言葉だけ紡ぐ。
「……どういう、風の吹き回しです?おばあ様…。
アナタはドロテアとオレをくっつけたがったし、いじめなんかに屈する人間は、ガルドベンダに
相応しくないと、散々言ったでしょう?」
訝しむアルフレッド。
「……そんなことをする必要が無いからですよ。
もっと言えば…アンナマリー嬢には、いじめる価値すらないからです」
この言葉には…アルフレッドはもちろんだが、メイリンとドロテアも驚きの表情だ。
「何が言いたいんですか、おばあ様…」
アルフレッドは…非常に鋭い目で…ヴィネラェを睨むが、
「先の…ファルメニウス公爵家での一件…。
あの話を聞けば、アンナマリー嬢と付き合いたいと、思う人間などいませんよ。
ついでに言えば、協力したいと思う人間も…ね」
「あ、あれは!!アンナマリーは知らなかったんです!!」
「だとしても!!」
ヴィネラェの声は…ここで初めて強くなった。
「上位・下位に関わらず!!
夫人の役割は、夫をいかに支えて、家を盛り立てることができるか!!
そして…女の戦場たる社交界で、存在を示せるか!!これにつきます!!」
「ですが、彼女のしたことは何ですか!!
自分の身勝手な行動で、お世話になっている家に迷惑をかけただけでなく!!
あまつさえその損害を…アナタに被せた!!」
強くキビキビとした声は…テラスの向こうまで響いていそうだ。
「そ、それは、オレが言い出したことで…。
それに、アンナマリーの実家に、あんな金額を払う余裕は…」
「そんな事は、関係ありません!!
彼女は…自らのしたことの、責任もとれないだけでなく、負担せずともいいアナタに、その負担を
ひっ被せた!!社交界で重視されるのは、その事実だけ!!」
「社交界で名だたる夫人たちは…みんな、夫と家を盛り立て、その力を認められたんです。
たとえどんなに性格が良くとも…家を衰退させる女は、総じて悪女!!
その一言で片づけられるだけです!!」
「今の彼女が、アナタの婚約者として、社交界デビューしたところで!!
うわべだけの付き合いを、されるだけになるでしょうね!!」
しょーもない夫を支えつつ、社交界でそれなりの存在感を示したヴィネラェだからこその言葉で
あった。
「だから…。私はいじめもしませんが、一定水準に達していないなら、助けもしません。
ガルドベンダ公爵家は、問題なく広いんですから…。
顔を合わせないようにすることなど、いくらでも出来ます。
こちらが会わないと言っているのに、会いに来るような不躾を働くようなら…攻撃されても
文句はないと言う事でしょうからね…」
冷静な声と顔は…終始変わらない。
「アナタも…なぜそんなに、急いで入れようとするのか、わかりませんがね。
水準に満たない者を、高度なレベルが要求されるところに、入れた所でいい事はありません。
もしそれでも入れたい…と、言うなら、好きになさいな。
ただ…どうなっても、私は知りませんからね」
「会わないなどと…それ自体がいじめでしょう!!」
アルフレッドの反撃も、
「アナタ本当に…留学先で馬鹿になる勉強でも、してきたの?」
痛烈な一撃で、返される。
「私は…アイリンに第一線を譲ったとはいえ、ガルドベンダ公爵夫人なのよ?」
その顔は…無表情だが、眼だけが…責め立てるような光を帯びる。
「たかが男爵令嬢に会わなかった程度で…私を責める人間が、いると思っているの?
もっと言えば、アンナマリー嬢を私が無視した所で、責める人間もいません。
アナタの心情はどうあれ、立場で言えばそういう事よ」
これは…まったく本当の事ゆえ、アルフレッドとしても、何も言えない。
唇をかみしめるだけだった。
「だいたいね。力を示しさえすれば、人はその人間に会おうとするモノよ」
少し乱暴に…ティーカップを置く。
「オルフィリア公爵夫人がまだ、最下位男爵令嬢だった時…。
交渉して、アイリンのサロンに、突発参加したでしょう?
あれは…ギリアム公爵閣下が力で押したワケじゃ無い。
オルフィリア公爵夫人が…まだしがない男爵令嬢の時に、自分が所有していた物を使って、
交渉したの。
紛れもなく、オルフィリア公爵夫人自身の力なの」
「つまり!!アンナマリー嬢とて、会ってもらえないなら、どうやったら会ってもらえるか、
自分で考えるべきなのよ」
ここでヴィネラェは、ちょっとドロテアに目線をやり、
「私はね…。ドロテアからファルメニウス公爵家での話を聞いて、オルフィリア公爵夫人に
もう一度…先入観なしで、会ってみようと思いましたよ。
ダリア夫人の裁判が、終わった後に…ね」
静かに言う。
「最初はね…。
同じ男爵令嬢の立場から、アンナマリー嬢の味方をするかも…と、思ったんですがね。
ドロテアに聞いた限り…本当に中立の立場を崩さない姿勢のようですからね。
そして多彩で、多角的視野の持ち主だとわかりました。
そういった人間は…会って話をすると、とても為になります」
傍にいた侍従長は…静かに空になったティーカップに、お茶を注ぐ。
「アナタがいくら庇った所で…力を示せなければそれまで。
性格がどうあれ、責め立てられるし、仲良くもしてもらえない、そう言う世界なの」
再度、注がれたお茶に口をつけ、
「アナタも…それを踏まえた上で、もう一度よく考えなさい。
本当に…アンナマリー嬢の事を思うなら、何が一番いいのか…をね」
結局それ以降…アルフレッドは言葉を発することはなく、プイと後ろを向き、足早に行って
しまった。
そんなアルフレッドにため息つきつつ、
「メイリン。アナタも、私と一緒にオルフィリア公爵夫人に会いなさいな。
ただ…本当に無礼を働いてはダメよ。
ダリア夫人は…アナタにとってはいい人だったかもしれないけれど、他の人にそうだったかは、
わからないの。
世の中って…そんな風に、複雑にできているものだからね。
アナタもそろそろ、それを勉強した方がいい」
ヴィネラェの言葉に、
「……わかりました」
素直に頷くメイリンだった。
-----------------------------------------------------------------------------------------
「オルフィリア公爵夫人…。本日は、お時間を頂き、ありがとうございます」
そう言って…ファルメニウス公爵家の応接間でお辞儀をするのは、エリザ伯爵夫人だ。
もともと定例報告…と言う事で、今日は前から予定に入っていたのだ。
「しかし…よろしかったのでしょうか?
大事な裁判を、明日に控えているというのに…」
「そう言う時だからこそ、聞きたい面もあったのよ。
それに…準備はもうほぼ、整っているし、むしろ裁判の後の方が、慌ただしくなっちゃう
可能性があるからね…」
「わかりました。では…」
私は…マギーやルイーズ、フェイラ…の事も勿論だが、全体的な講座の状態も説明してもらった。
かなり…人気を博しているよう。
私が前世の世界から持ち込んだ、心理療法やセラピーなどの講座が、特に人気だそう。
まあ…この世界って、そう言うのがほぼ確立してないみたいだったからね。
私は心理学者じゃないが、客商売やってると、心理学は切っても切り離せないからさ。
後はあんまり…思い出したくないが、舞子さんの死によって、そっちの方も一時、本気で本を
読み漁ったことがあったんだ。
だから…ギリアムほどじゃないけど、覚えている内容も結構あってさ。
それを、ガフェルおっちゃんや、ダイロおっちゃん、ギリアムにも協力してもらって…形にした。
「ああ、そうそう。
ルイーズは…近々、婚約することになりそうです」
「え~、ホント!!良かった」
私は素直に喜ぶ。
「それは私も聞いたな…。
伯爵家の次男坊で…辺境の領地を持っていて、そちらに行くかも…と」
「じゃあ、王都を離れるんですね…。でも、その方がいいかも」
「私もそう思います。ルイーズはしっかりしていますが、内気な子で…。
王都の社交界は、元々水が合わなかったんです。
相手の男性も…王都の喧騒の中より、田舎でのんびり研究と領地経営をやりたい質のようで。
講座で話しているうちに、意気投合して…。自然とそう言う話が持ち上がりました」
ギリアムの事とか、バカ王女の事とか…折り合いが付けられたなら、良かった。
「フェイラに関しては…。やはり、王女殿下に怯えていますから、まだまだ見ていく必要は
ありますがね。
でも…色んな講座に出て、同じような境遇の人たちと話をして…少しずつ色々考えるように
なっているようです」
フェイラの方も…亀の歩みでも、進んでいるならよろし。
「マーガレット夫人も…刺繍の教室で、だいぶ皆さんと意気投合しまして…。
今度、ケイシロン公爵家で、そう言ったサロンを開く計画をしているようですよ。
この前…ファルメニウス公爵家のパーティーで、オルフィリア公爵夫人に元気づけられたと
仰っていましたから、いい方向に行っているようですね」
エリザ伯爵夫人が…にこやかに説明してくれた。
私も…かなり嬉しいよ。
「次に社交界の情報ですが…」
ここで…エリザ伯爵夫人の顔が曇る。
「やはり…男爵令嬢で、一定数…オルフィリア公爵夫人と親しかったと言っている者がいますね」
「まあ、そうでしょうね。私が親しかった人なんて、皆無なんだけど」
私は…ドレスなんて用意できる経済状況じゃなかったし、そもそも付き合いが無いから、
パーティーのお誘い自体が、ほぼなかったっての!!
お義理で出たモノだって…今更子供の集まりに紛れる気はなかったから、お断りしたし。
だいたい…変なのしか、寄ってこなかったしな。
「それについては…オルフィリア公爵夫人に確認を取りますで、やり過ごしてます」
「それでいいわ。優遇しろって、あまり五月蠅ければ、私が出るわ」
にこやかーに言う。
「あとは、その…アンナマリー・デラズヴェル男爵令嬢をご存じでしょうか?」
「ご存じも何も、今…我が家で保護している」
ギリアムの顔がむっすーとし出す。鉢の件が、まだ尾を引いているようだ…。
「そのアンナマリー嬢なのですが、現時点でオルフィリア公爵夫人に師事しているため、
ファルメニウス公爵家に滞在中で、近々…上位の方の婚約者としてお披露目される予定だと…。
その際は、オルフィリア公爵夫人がシャペロンを務めると、まことしやかに噂されておりまして…」
ありゃまぁ、そんな話が出てましたか…。
「事実無根だ!!」
ギリアムが眉間の皺を濃くして、
「攫われた際、その犯人が…全容がつかめていないから、保護していることもある。
そんな話は全くのデタラメだ!!」
かなり…まくし立てる。私はそれを落ち着かせ、
「ギリアムの言った事は、本当ですから…。
そちらでは、事実無根と言う事で、対処をお願いします…」
震源地はだいたい予想がつくが…。
今は黙っておこう。
ひとまずこの話を最後に、エリザ伯爵夫人との話は、お開きとなった。
明日の裁判に…集中しないといけないからね。
「私は…メイリンにもドロテアにも、アンナマリー嬢を虐めたり、させません。
もちろん私もしませんよ」
アルフレッドの方は見ずに、言葉だけ紡ぐ。
「……どういう、風の吹き回しです?おばあ様…。
アナタはドロテアとオレをくっつけたがったし、いじめなんかに屈する人間は、ガルドベンダに
相応しくないと、散々言ったでしょう?」
訝しむアルフレッド。
「……そんなことをする必要が無いからですよ。
もっと言えば…アンナマリー嬢には、いじめる価値すらないからです」
この言葉には…アルフレッドはもちろんだが、メイリンとドロテアも驚きの表情だ。
「何が言いたいんですか、おばあ様…」
アルフレッドは…非常に鋭い目で…ヴィネラェを睨むが、
「先の…ファルメニウス公爵家での一件…。
あの話を聞けば、アンナマリー嬢と付き合いたいと、思う人間などいませんよ。
ついでに言えば、協力したいと思う人間も…ね」
「あ、あれは!!アンナマリーは知らなかったんです!!」
「だとしても!!」
ヴィネラェの声は…ここで初めて強くなった。
「上位・下位に関わらず!!
夫人の役割は、夫をいかに支えて、家を盛り立てることができるか!!
そして…女の戦場たる社交界で、存在を示せるか!!これにつきます!!」
「ですが、彼女のしたことは何ですか!!
自分の身勝手な行動で、お世話になっている家に迷惑をかけただけでなく!!
あまつさえその損害を…アナタに被せた!!」
強くキビキビとした声は…テラスの向こうまで響いていそうだ。
「そ、それは、オレが言い出したことで…。
それに、アンナマリーの実家に、あんな金額を払う余裕は…」
「そんな事は、関係ありません!!
彼女は…自らのしたことの、責任もとれないだけでなく、負担せずともいいアナタに、その負担を
ひっ被せた!!社交界で重視されるのは、その事実だけ!!」
「社交界で名だたる夫人たちは…みんな、夫と家を盛り立て、その力を認められたんです。
たとえどんなに性格が良くとも…家を衰退させる女は、総じて悪女!!
その一言で片づけられるだけです!!」
「今の彼女が、アナタの婚約者として、社交界デビューしたところで!!
うわべだけの付き合いを、されるだけになるでしょうね!!」
しょーもない夫を支えつつ、社交界でそれなりの存在感を示したヴィネラェだからこその言葉で
あった。
「だから…。私はいじめもしませんが、一定水準に達していないなら、助けもしません。
ガルドベンダ公爵家は、問題なく広いんですから…。
顔を合わせないようにすることなど、いくらでも出来ます。
こちらが会わないと言っているのに、会いに来るような不躾を働くようなら…攻撃されても
文句はないと言う事でしょうからね…」
冷静な声と顔は…終始変わらない。
「アナタも…なぜそんなに、急いで入れようとするのか、わかりませんがね。
水準に満たない者を、高度なレベルが要求されるところに、入れた所でいい事はありません。
もしそれでも入れたい…と、言うなら、好きになさいな。
ただ…どうなっても、私は知りませんからね」
「会わないなどと…それ自体がいじめでしょう!!」
アルフレッドの反撃も、
「アナタ本当に…留学先で馬鹿になる勉強でも、してきたの?」
痛烈な一撃で、返される。
「私は…アイリンに第一線を譲ったとはいえ、ガルドベンダ公爵夫人なのよ?」
その顔は…無表情だが、眼だけが…責め立てるような光を帯びる。
「たかが男爵令嬢に会わなかった程度で…私を責める人間が、いると思っているの?
もっと言えば、アンナマリー嬢を私が無視した所で、責める人間もいません。
アナタの心情はどうあれ、立場で言えばそういう事よ」
これは…まったく本当の事ゆえ、アルフレッドとしても、何も言えない。
唇をかみしめるだけだった。
「だいたいね。力を示しさえすれば、人はその人間に会おうとするモノよ」
少し乱暴に…ティーカップを置く。
「オルフィリア公爵夫人がまだ、最下位男爵令嬢だった時…。
交渉して、アイリンのサロンに、突発参加したでしょう?
あれは…ギリアム公爵閣下が力で押したワケじゃ無い。
オルフィリア公爵夫人が…まだしがない男爵令嬢の時に、自分が所有していた物を使って、
交渉したの。
紛れもなく、オルフィリア公爵夫人自身の力なの」
「つまり!!アンナマリー嬢とて、会ってもらえないなら、どうやったら会ってもらえるか、
自分で考えるべきなのよ」
ここでヴィネラェは、ちょっとドロテアに目線をやり、
「私はね…。ドロテアからファルメニウス公爵家での話を聞いて、オルフィリア公爵夫人に
もう一度…先入観なしで、会ってみようと思いましたよ。
ダリア夫人の裁判が、終わった後に…ね」
静かに言う。
「最初はね…。
同じ男爵令嬢の立場から、アンナマリー嬢の味方をするかも…と、思ったんですがね。
ドロテアに聞いた限り…本当に中立の立場を崩さない姿勢のようですからね。
そして多彩で、多角的視野の持ち主だとわかりました。
そういった人間は…会って話をすると、とても為になります」
傍にいた侍従長は…静かに空になったティーカップに、お茶を注ぐ。
「アナタがいくら庇った所で…力を示せなければそれまで。
性格がどうあれ、責め立てられるし、仲良くもしてもらえない、そう言う世界なの」
再度、注がれたお茶に口をつけ、
「アナタも…それを踏まえた上で、もう一度よく考えなさい。
本当に…アンナマリー嬢の事を思うなら、何が一番いいのか…をね」
結局それ以降…アルフレッドは言葉を発することはなく、プイと後ろを向き、足早に行って
しまった。
そんなアルフレッドにため息つきつつ、
「メイリン。アナタも、私と一緒にオルフィリア公爵夫人に会いなさいな。
ただ…本当に無礼を働いてはダメよ。
ダリア夫人は…アナタにとってはいい人だったかもしれないけれど、他の人にそうだったかは、
わからないの。
世の中って…そんな風に、複雑にできているものだからね。
アナタもそろそろ、それを勉強した方がいい」
ヴィネラェの言葉に、
「……わかりました」
素直に頷くメイリンだった。
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「オルフィリア公爵夫人…。本日は、お時間を頂き、ありがとうございます」
そう言って…ファルメニウス公爵家の応接間でお辞儀をするのは、エリザ伯爵夫人だ。
もともと定例報告…と言う事で、今日は前から予定に入っていたのだ。
「しかし…よろしかったのでしょうか?
大事な裁判を、明日に控えているというのに…」
「そう言う時だからこそ、聞きたい面もあったのよ。
それに…準備はもうほぼ、整っているし、むしろ裁判の後の方が、慌ただしくなっちゃう
可能性があるからね…」
「わかりました。では…」
私は…マギーやルイーズ、フェイラ…の事も勿論だが、全体的な講座の状態も説明してもらった。
かなり…人気を博しているよう。
私が前世の世界から持ち込んだ、心理療法やセラピーなどの講座が、特に人気だそう。
まあ…この世界って、そう言うのがほぼ確立してないみたいだったからね。
私は心理学者じゃないが、客商売やってると、心理学は切っても切り離せないからさ。
後はあんまり…思い出したくないが、舞子さんの死によって、そっちの方も一時、本気で本を
読み漁ったことがあったんだ。
だから…ギリアムほどじゃないけど、覚えている内容も結構あってさ。
それを、ガフェルおっちゃんや、ダイロおっちゃん、ギリアムにも協力してもらって…形にした。
「ああ、そうそう。
ルイーズは…近々、婚約することになりそうです」
「え~、ホント!!良かった」
私は素直に喜ぶ。
「それは私も聞いたな…。
伯爵家の次男坊で…辺境の領地を持っていて、そちらに行くかも…と」
「じゃあ、王都を離れるんですね…。でも、その方がいいかも」
「私もそう思います。ルイーズはしっかりしていますが、内気な子で…。
王都の社交界は、元々水が合わなかったんです。
相手の男性も…王都の喧騒の中より、田舎でのんびり研究と領地経営をやりたい質のようで。
講座で話しているうちに、意気投合して…。自然とそう言う話が持ち上がりました」
ギリアムの事とか、バカ王女の事とか…折り合いが付けられたなら、良かった。
「フェイラに関しては…。やはり、王女殿下に怯えていますから、まだまだ見ていく必要は
ありますがね。
でも…色んな講座に出て、同じような境遇の人たちと話をして…少しずつ色々考えるように
なっているようです」
フェイラの方も…亀の歩みでも、進んでいるならよろし。
「マーガレット夫人も…刺繍の教室で、だいぶ皆さんと意気投合しまして…。
今度、ケイシロン公爵家で、そう言ったサロンを開く計画をしているようですよ。
この前…ファルメニウス公爵家のパーティーで、オルフィリア公爵夫人に元気づけられたと
仰っていましたから、いい方向に行っているようですね」
エリザ伯爵夫人が…にこやかに説明してくれた。
私も…かなり嬉しいよ。
「次に社交界の情報ですが…」
ここで…エリザ伯爵夫人の顔が曇る。
「やはり…男爵令嬢で、一定数…オルフィリア公爵夫人と親しかったと言っている者がいますね」
「まあ、そうでしょうね。私が親しかった人なんて、皆無なんだけど」
私は…ドレスなんて用意できる経済状況じゃなかったし、そもそも付き合いが無いから、
パーティーのお誘い自体が、ほぼなかったっての!!
お義理で出たモノだって…今更子供の集まりに紛れる気はなかったから、お断りしたし。
だいたい…変なのしか、寄ってこなかったしな。
「それについては…オルフィリア公爵夫人に確認を取りますで、やり過ごしてます」
「それでいいわ。優遇しろって、あまり五月蠅ければ、私が出るわ」
にこやかーに言う。
「あとは、その…アンナマリー・デラズヴェル男爵令嬢をご存じでしょうか?」
「ご存じも何も、今…我が家で保護している」
ギリアムの顔がむっすーとし出す。鉢の件が、まだ尾を引いているようだ…。
「そのアンナマリー嬢なのですが、現時点でオルフィリア公爵夫人に師事しているため、
ファルメニウス公爵家に滞在中で、近々…上位の方の婚約者としてお披露目される予定だと…。
その際は、オルフィリア公爵夫人がシャペロンを務めると、まことしやかに噂されておりまして…」
ありゃまぁ、そんな話が出てましたか…。
「事実無根だ!!」
ギリアムが眉間の皺を濃くして、
「攫われた際、その犯人が…全容がつかめていないから、保護していることもある。
そんな話は全くのデタラメだ!!」
かなり…まくし立てる。私はそれを落ち着かせ、
「ギリアムの言った事は、本当ですから…。
そちらでは、事実無根と言う事で、対処をお願いします…」
震源地はだいたい予想がつくが…。
今は黙っておこう。
ひとまずこの話を最後に、エリザ伯爵夫人との話は、お開きとなった。
明日の裁判に…集中しないといけないからね。
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