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第四章 裁判
1 戦いの火ぶたは…切られた!!
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この世界…裁判所というものは、もちろんある。
しかし…落差が…落差がすごい。
平民同士の裁判なんて、よほどの金持ちじゃなきゃ、役所の会議室みたいなところで
やってしまう。
裁判官を、役所の人間が兼任するなんて、日常茶飯事。
しかし…貴族同士の裁判となると、もちろんグレードが信じられないくらいアップする。
裁判官は、国の基準に従って、試験が行われ選ばれた人間だ。
場所とて…大きなコロシアムを連想させる…まさに専門の場所だと、一目でわかるだろう。
特に今回は…ケルカロス国王陛下が傍聴するという事で、王家の離宮の1つを改装して
作った、裁判所に決定した。
傍聴席は…当然のことながら、貴族でひしめき合い、平民席は…新聞記事席はもちろんの事、
一般席も、まさに満員電車の方が、まだ隙間があるのでは…と、言いたくなる状態だ。
私の悪評が出たことで…この裁判、ファルメニウス公爵家が圧勝するとは限らない…と、
言われたことも、デカいだろう。
ファルメニウスは称賛の的だが、同時に嫉妬の的でもある。
そして…かく言う私は、それこそ嫉妬の的だからね。
私が歯噛みして悔しがる様を…見たいと思っている貴族は、少なからずいるのさ。
まあ…そいつらもまとめて、しばき倒すのが今回の目的なのだが。
さて…私とギリアムは、一番下の法廷の席に座る。
もちろん傍聴席でもいいんだけど。
私もギリアムも、自分の家族同等の人間の事だから、一番近くで見たいのさ。
ちなみに傍聴席には…こっそりとティタノ陛下をお入れした。
見たいってご希望されたのでね。
ツァリオ閣下や、ローエン閣下…王立騎士団の貴族組は、みんな傍聴席に着いたようだ。
私の頭上からは…新聞記事の事もあり、ひそひそ声が止まらない。
計算通りっちゃ、計算通りさ。
数日しかないから…上手くこっちの意図通り、進まないかな…って、思ってたんだけどね。
スマホもないのに、ま~、噂の伝わり方が、早い早い。
ダイヤはラスタフォルスの跡を、継ぎたがっているのに、ファルメニウスが邪魔してる。
出ていくなら、家族同然に育った仲間たちに、永遠に会わせないって言っている。
仲間が大切なダイヤは、それで…足踏みしている…。
ヒドイ目にこそあわせていないが、中ではやはり…貴族の使用人との落差が生じている。
その落差を…私もギリアムも黙認してる…。
結局は使い捨ての、犯罪者だと思っている。
私の歓待パーティーでの、失態については…。
ファルメニウス公爵家でのパーティーだからこそ、分からないと思って、育ちの悪さが
出てしまった。
所詮は…平民同然に育った、卑しい身分の女。
公爵夫人が裸になって踊るなんて、世も末。とっとと、下がるべき。
上の身分の人間達に、ちょっと相手をしてもらったからって、図に乗った。
商会で小金を稼ぐために、あくせくしている人間に、ファルメニウス公爵夫人は務まらない。
優雅で気品のある人間に、黙って譲れ。
恥ずかしげもなく裸になるなんて、淑女にあらず、娼婦である。
…………………………………。
まあ、実情が見えないからわからないだろうけど、真実を知っている人間からしたら、全否定する
内容だよね…ホントに…。
私に言わせりゃ、好きに言え…なんだけどね。
しっかしさっきから、これ見よがしにひそひそしている連中…。
どーも私が傷ついて閉じこもると思っていた連中が…半分以上いるみたいだね。
そうは問屋がおろさねぇよ、ばーか。
ダイヤは…当事者だが、当然みんなに囲まれて、私の近くにいる。
フィリー軍団は、いつだって私の近く。
けど…みんなにだって、ヒソヒソ声が聞こえているから、相当怒っているだろうに。
平然とした顔をして、しゃんとしているのは、さすがプロだ。
そして…私の隣はギリアムだ。もっとも頼れる、私の全てだ。
ギリアムだって怒っているだろうが、ここで言うべきことじゃないし…だいたい作戦として
やっているわけだから…。
今回は完膚なきまでに殲滅するための、いわば布石…。
暴れるなら、ここじゃないって、ちゃんとわかってるな。
ラスタフォルス侯爵家側も…入場してきたか。
やっぱり家族総出で来ているよ。
グレンフォ卿はもちろん、ダリア、ダリナとグレリオ…使用人もいるね。
確か…ルイスだったっけ。
グレンフォ卿は私を気遣っているのか、ちょっと心配そうに見てきている。
でも…他の人間は、良くこれたものだ…って、感じだ。
ダリアはもちろん、ダリナとグレリオも…私を見る目が、敵意に満ちている。
なぜ自分たちに協力しない?なぜ、邪魔をする…そんな目だ。
バカバカしくて、お話にならんな。
おっと。国王陛下と王后陛下も…傍聴席に着いたようだ…。
裁判長が…補佐役と入場して…開廷の口上を述べた。
私は…不思議と落ち着いていた。
どうなるかわからない世の中だけど…私の周りにいるみんなは…大丈夫…。
そんな…漠然とした、根拠のない自信が…私の心にあったから…。
ラスタフォルス侯爵家側の弁護士は、マガルタとヒューバート。
ファルメニウス公爵家側の弁護士は、ハイネンスとバートンだ。
バートンは…私兵の事ではないけれど、場合によって出るかもしれないから、きてもらった。
最初は…ラスタフォルス側からの主張となった。
「皆さま!!この横断幕に掲げられたワッペン画を…まずは見ていただきたい!!」
この世界、当然スクリーンとか無いからね。
何か…観客に見せたければ、わざわざでっかい横断幕に絵を描いて、それを吊るすようになっている。
「このワッペンは…ダイヤ卿が父親から託されたものです!!」
ざわめきが凄いね…。
貴族だったら…これがなんであるか、知っている人の方が多いだろうからね。
「そして…下に書かれた両親の身体的特徴は…まさに父親であるグレッド卿と母親と言われている
イザベラ嬢のものと一致します!!
これをもって…ダイヤ卿がラスタフォルス侯爵家の正式な跡取りであると断定!!
ファルメニウス公爵家に返還要求をしましたが、けんもほろろに断られた!!
ゆえに、こちらは裁判を起こした次第です!!」
ダイヤの意志だってことは、全く言わないんだな。
つーか、返還要求って、物かよ?
本当に、ダイヤの意志を尊重してよかったわ。
観衆のざわめきが凄すぎて、静粛にさせるのに、時間がかかっている。
そしてようやっと静かになったころ、
「裁判長!!
ダイヤ卿の意志を問う前に…この問題について、オルフィリア公爵夫人に尋問したく思います!!
ご許可願います!!」
あれま、ご指名ですか、そうですか…。
まあ、この辺は想定の範囲内さ。
私は覚悟を決めていたんだけど…、
「裁判長!!我が妻は療養中です!!証言台には私が立ちましょう!!」
ギリアムは…耐えられなかったっポイ。
相手が何を言ってくるか…おおよその検討は付いているんだろうな…。
「いいえ!!裁判長!!ダイヤ卿はオルフィリア公爵夫人の私兵です!!
オルフィリア公爵夫人が主として、証言台に立つべきです!!」
「オルフィリア公爵夫人…」
裁判長が私の方を向き、
「証言台に立てないほど、具合が悪いのですか?」
だとさ。まあ…それなら、この法廷自体に来れんわな。
「いいえ」
だから、短く答えたよ。
「ならば…、まずは証言台にお立ち下さい。
途中で具合が悪くなりましたら、退出しても構いません」
「わかりました」
私の言葉は…依然短い。
だって…長い口上なんか、この場で言う必要は、無いからね。
私が証言台に立つと…それだけでまた、ざわめきの大合唱。
警備の人たちが、こぞって注意している。
まあ…ファルメニウス公爵夫人が証言台に立つなんざ、歴史上見てもほぼないだろうからね。
「ではマガルタ弁護士…質問を」
裁判長はもうすでに、汗をかいているようだ。
無理もない。しょっぱなからここまでざわつく法廷なんて、珍しいだろう。
「では…オルフィリア公爵夫人…。お答えいただきたいのですが…。
なぜダイヤ卿がラスタフォルス侯爵家の血を引いている…と、分かった時点で、向こうに連絡を
取らなかったのですか?」
「それは…ダイヤの意思だったからです。
自分は…ファルメニウス公爵家で生きていきたい…とね」
「……ラスタフォルス侯爵家に戻った時に得られる利益を、お話しましたか?」
「いいえ。戻る気が無いなら、不必要な話と思いましたので、しておりません」
これも、本当さ。
「それは…少し、無責任すぎるのでは、ないですか?」
「どう言う事でしょうか?」
「仮にもダイヤ卿は…ラスタフォルス侯爵家の嫡長子です。
本人が望みさえすれば、全ての利権が得られる立場…。
その利権について、何の説明も無しでは、本人の得られる利益を、無下に奪ったのと同等です」
「ですから…先ほどから言っているように、ダイヤはこの問題を、それ以上聞きたがりません
でした。その意思を尊重したまでです」
「本当にそうでしょうか?」
マガルタ弁護士は…私にしか見えないように、不敵な笑みを少しだけ…浮かべた。
「身分の低い者は…往々にして自分の得られる利益を、言い出せない事があります。
心を開いてよくよく話せば…興味を持ったかもしれないと思いませんか?」
「それについては…ダイヤの意思を尊重した…しか、言いようがありません」
「しかし…信頼関係というのは、相手も同じ気持ちか、何ともわかりにくいのです。
アナタ様が…ざっくばらんに話して欲しいと言った所で、遠慮する人や委縮する人が、いないと
お思いですか?」
「もちろん、そう言った方がいるのは、存じております。
しかしながら…ダイヤとはその時すでに、信頼関係が出来上がっていると判断いたしました。
だから…ラスタフォルス侯爵家に関わりたくないと、言った意志を尊重しました」
私は…もっとも根っこの部分を、オウム返しにすることにした…。
相手の表情から…雰囲気から、あくまで意志を尊重する…その言葉を私の口から言わせたいと
しきりに思っているようだと感じたからね。
作戦行動中のシルスに…直接話すわけにはいかなかったけど…。
今回はこの意志ってやつが、全ての根源であり、肝だからね。
「わかりました…。では、質問を変えます」
私は…表情は変わらなくても、マガルタ弁護士の雰囲気が、あきらかに変わったことに感ずいた。
「ここ最近…オルフィリア公爵夫人の行動について、だいぶ新聞で取り沙汰されておりますが、
当然、ご存知ですよね」
「異議あり!!」
すかさずハイネンスが出る。
「本件とは全く関係のない事です!!」
「裁判長!!この裁判の肝はオルフィリア公爵夫人が、しっかりとした権利を、私兵に与えているか
どうかです!!
それを判断するためには…、オルフィリア公爵夫人の人となりを知る必要があります!!
重要な質問ですので、ご許可願います!!」
「……異議を却下します」
裁判長は…考えつつだったが、ひとまず…私が音をあげるまでは、証言をさせる方向にしたようだ。
ま、ヤだったら、病欠すると考えているのかも。
マガルタは…勝ち誇ったようなオーラが、漏れ出てる。
……甘いね。この程度で感情を感じさせるなんて…。
しかし…落差が…落差がすごい。
平民同士の裁判なんて、よほどの金持ちじゃなきゃ、役所の会議室みたいなところで
やってしまう。
裁判官を、役所の人間が兼任するなんて、日常茶飯事。
しかし…貴族同士の裁判となると、もちろんグレードが信じられないくらいアップする。
裁判官は、国の基準に従って、試験が行われ選ばれた人間だ。
場所とて…大きなコロシアムを連想させる…まさに専門の場所だと、一目でわかるだろう。
特に今回は…ケルカロス国王陛下が傍聴するという事で、王家の離宮の1つを改装して
作った、裁判所に決定した。
傍聴席は…当然のことながら、貴族でひしめき合い、平民席は…新聞記事席はもちろんの事、
一般席も、まさに満員電車の方が、まだ隙間があるのでは…と、言いたくなる状態だ。
私の悪評が出たことで…この裁判、ファルメニウス公爵家が圧勝するとは限らない…と、
言われたことも、デカいだろう。
ファルメニウスは称賛の的だが、同時に嫉妬の的でもある。
そして…かく言う私は、それこそ嫉妬の的だからね。
私が歯噛みして悔しがる様を…見たいと思っている貴族は、少なからずいるのさ。
まあ…そいつらもまとめて、しばき倒すのが今回の目的なのだが。
さて…私とギリアムは、一番下の法廷の席に座る。
もちろん傍聴席でもいいんだけど。
私もギリアムも、自分の家族同等の人間の事だから、一番近くで見たいのさ。
ちなみに傍聴席には…こっそりとティタノ陛下をお入れした。
見たいってご希望されたのでね。
ツァリオ閣下や、ローエン閣下…王立騎士団の貴族組は、みんな傍聴席に着いたようだ。
私の頭上からは…新聞記事の事もあり、ひそひそ声が止まらない。
計算通りっちゃ、計算通りさ。
数日しかないから…上手くこっちの意図通り、進まないかな…って、思ってたんだけどね。
スマホもないのに、ま~、噂の伝わり方が、早い早い。
ダイヤはラスタフォルスの跡を、継ぎたがっているのに、ファルメニウスが邪魔してる。
出ていくなら、家族同然に育った仲間たちに、永遠に会わせないって言っている。
仲間が大切なダイヤは、それで…足踏みしている…。
ヒドイ目にこそあわせていないが、中ではやはり…貴族の使用人との落差が生じている。
その落差を…私もギリアムも黙認してる…。
結局は使い捨ての、犯罪者だと思っている。
私の歓待パーティーでの、失態については…。
ファルメニウス公爵家でのパーティーだからこそ、分からないと思って、育ちの悪さが
出てしまった。
所詮は…平民同然に育った、卑しい身分の女。
公爵夫人が裸になって踊るなんて、世も末。とっとと、下がるべき。
上の身分の人間達に、ちょっと相手をしてもらったからって、図に乗った。
商会で小金を稼ぐために、あくせくしている人間に、ファルメニウス公爵夫人は務まらない。
優雅で気品のある人間に、黙って譲れ。
恥ずかしげもなく裸になるなんて、淑女にあらず、娼婦である。
…………………………………。
まあ、実情が見えないからわからないだろうけど、真実を知っている人間からしたら、全否定する
内容だよね…ホントに…。
私に言わせりゃ、好きに言え…なんだけどね。
しっかしさっきから、これ見よがしにひそひそしている連中…。
どーも私が傷ついて閉じこもると思っていた連中が…半分以上いるみたいだね。
そうは問屋がおろさねぇよ、ばーか。
ダイヤは…当事者だが、当然みんなに囲まれて、私の近くにいる。
フィリー軍団は、いつだって私の近く。
けど…みんなにだって、ヒソヒソ声が聞こえているから、相当怒っているだろうに。
平然とした顔をして、しゃんとしているのは、さすがプロだ。
そして…私の隣はギリアムだ。もっとも頼れる、私の全てだ。
ギリアムだって怒っているだろうが、ここで言うべきことじゃないし…だいたい作戦として
やっているわけだから…。
今回は完膚なきまでに殲滅するための、いわば布石…。
暴れるなら、ここじゃないって、ちゃんとわかってるな。
ラスタフォルス侯爵家側も…入場してきたか。
やっぱり家族総出で来ているよ。
グレンフォ卿はもちろん、ダリア、ダリナとグレリオ…使用人もいるね。
確か…ルイスだったっけ。
グレンフォ卿は私を気遣っているのか、ちょっと心配そうに見てきている。
でも…他の人間は、良くこれたものだ…って、感じだ。
ダリアはもちろん、ダリナとグレリオも…私を見る目が、敵意に満ちている。
なぜ自分たちに協力しない?なぜ、邪魔をする…そんな目だ。
バカバカしくて、お話にならんな。
おっと。国王陛下と王后陛下も…傍聴席に着いたようだ…。
裁判長が…補佐役と入場して…開廷の口上を述べた。
私は…不思議と落ち着いていた。
どうなるかわからない世の中だけど…私の周りにいるみんなは…大丈夫…。
そんな…漠然とした、根拠のない自信が…私の心にあったから…。
ラスタフォルス侯爵家側の弁護士は、マガルタとヒューバート。
ファルメニウス公爵家側の弁護士は、ハイネンスとバートンだ。
バートンは…私兵の事ではないけれど、場合によって出るかもしれないから、きてもらった。
最初は…ラスタフォルス側からの主張となった。
「皆さま!!この横断幕に掲げられたワッペン画を…まずは見ていただきたい!!」
この世界、当然スクリーンとか無いからね。
何か…観客に見せたければ、わざわざでっかい横断幕に絵を描いて、それを吊るすようになっている。
「このワッペンは…ダイヤ卿が父親から託されたものです!!」
ざわめきが凄いね…。
貴族だったら…これがなんであるか、知っている人の方が多いだろうからね。
「そして…下に書かれた両親の身体的特徴は…まさに父親であるグレッド卿と母親と言われている
イザベラ嬢のものと一致します!!
これをもって…ダイヤ卿がラスタフォルス侯爵家の正式な跡取りであると断定!!
ファルメニウス公爵家に返還要求をしましたが、けんもほろろに断られた!!
ゆえに、こちらは裁判を起こした次第です!!」
ダイヤの意志だってことは、全く言わないんだな。
つーか、返還要求って、物かよ?
本当に、ダイヤの意志を尊重してよかったわ。
観衆のざわめきが凄すぎて、静粛にさせるのに、時間がかかっている。
そしてようやっと静かになったころ、
「裁判長!!
ダイヤ卿の意志を問う前に…この問題について、オルフィリア公爵夫人に尋問したく思います!!
ご許可願います!!」
あれま、ご指名ですか、そうですか…。
まあ、この辺は想定の範囲内さ。
私は覚悟を決めていたんだけど…、
「裁判長!!我が妻は療養中です!!証言台には私が立ちましょう!!」
ギリアムは…耐えられなかったっポイ。
相手が何を言ってくるか…おおよその検討は付いているんだろうな…。
「いいえ!!裁判長!!ダイヤ卿はオルフィリア公爵夫人の私兵です!!
オルフィリア公爵夫人が主として、証言台に立つべきです!!」
「オルフィリア公爵夫人…」
裁判長が私の方を向き、
「証言台に立てないほど、具合が悪いのですか?」
だとさ。まあ…それなら、この法廷自体に来れんわな。
「いいえ」
だから、短く答えたよ。
「ならば…、まずは証言台にお立ち下さい。
途中で具合が悪くなりましたら、退出しても構いません」
「わかりました」
私の言葉は…依然短い。
だって…長い口上なんか、この場で言う必要は、無いからね。
私が証言台に立つと…それだけでまた、ざわめきの大合唱。
警備の人たちが、こぞって注意している。
まあ…ファルメニウス公爵夫人が証言台に立つなんざ、歴史上見てもほぼないだろうからね。
「ではマガルタ弁護士…質問を」
裁判長はもうすでに、汗をかいているようだ。
無理もない。しょっぱなからここまでざわつく法廷なんて、珍しいだろう。
「では…オルフィリア公爵夫人…。お答えいただきたいのですが…。
なぜダイヤ卿がラスタフォルス侯爵家の血を引いている…と、分かった時点で、向こうに連絡を
取らなかったのですか?」
「それは…ダイヤの意思だったからです。
自分は…ファルメニウス公爵家で生きていきたい…とね」
「……ラスタフォルス侯爵家に戻った時に得られる利益を、お話しましたか?」
「いいえ。戻る気が無いなら、不必要な話と思いましたので、しておりません」
これも、本当さ。
「それは…少し、無責任すぎるのでは、ないですか?」
「どう言う事でしょうか?」
「仮にもダイヤ卿は…ラスタフォルス侯爵家の嫡長子です。
本人が望みさえすれば、全ての利権が得られる立場…。
その利権について、何の説明も無しでは、本人の得られる利益を、無下に奪ったのと同等です」
「ですから…先ほどから言っているように、ダイヤはこの問題を、それ以上聞きたがりません
でした。その意思を尊重したまでです」
「本当にそうでしょうか?」
マガルタ弁護士は…私にしか見えないように、不敵な笑みを少しだけ…浮かべた。
「身分の低い者は…往々にして自分の得られる利益を、言い出せない事があります。
心を開いてよくよく話せば…興味を持ったかもしれないと思いませんか?」
「それについては…ダイヤの意思を尊重した…しか、言いようがありません」
「しかし…信頼関係というのは、相手も同じ気持ちか、何ともわかりにくいのです。
アナタ様が…ざっくばらんに話して欲しいと言った所で、遠慮する人や委縮する人が、いないと
お思いですか?」
「もちろん、そう言った方がいるのは、存じております。
しかしながら…ダイヤとはその時すでに、信頼関係が出来上がっていると判断いたしました。
だから…ラスタフォルス侯爵家に関わりたくないと、言った意志を尊重しました」
私は…もっとも根っこの部分を、オウム返しにすることにした…。
相手の表情から…雰囲気から、あくまで意志を尊重する…その言葉を私の口から言わせたいと
しきりに思っているようだと感じたからね。
作戦行動中のシルスに…直接話すわけにはいかなかったけど…。
今回はこの意志ってやつが、全ての根源であり、肝だからね。
「わかりました…。では、質問を変えます」
私は…表情は変わらなくても、マガルタ弁護士の雰囲気が、あきらかに変わったことに感ずいた。
「ここ最近…オルフィリア公爵夫人の行動について、だいぶ新聞で取り沙汰されておりますが、
当然、ご存知ですよね」
「異議あり!!」
すかさずハイネンスが出る。
「本件とは全く関係のない事です!!」
「裁判長!!この裁判の肝はオルフィリア公爵夫人が、しっかりとした権利を、私兵に与えているか
どうかです!!
それを判断するためには…、オルフィリア公爵夫人の人となりを知る必要があります!!
重要な質問ですので、ご許可願います!!」
「……異議を却下します」
裁判長は…考えつつだったが、ひとまず…私が音をあげるまでは、証言をさせる方向にしたようだ。
ま、ヤだったら、病欠すると考えているのかも。
マガルタは…勝ち誇ったようなオーラが、漏れ出てる。
……甘いね。この程度で感情を感じさせるなんて…。
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