ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第四章 裁判

2 のっけから攻撃して来たねぇ

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「では…オルフィリア公爵夫人。
先日の新聞で…オルフィリア公爵夫人が、ティタノ陛下の歓待パーティーで…行った不祥事が出ましたが、
事実でしょうか?」

意気揚々となったのを、さも出さないように、厳粛に聞いているけどさぁ…。
私にゃぁ、丸わかりだよ。

「いいえ。全くの事実無根ですわ」

だからまずは、本音で行こう。

「しかし…火のない所に煙は立たぬと申しますから…。案外、本当の事では?」

「異議あり!!ダイヤ卿の件とは、関係ありません!!」

ハイネンスは…しっかり仕事してるよ。

「裁判長!!オルフィリア公爵夫人のこの疑惑については…本人の性格を考えるうえで、
重要な事なのです!!許可願います!!」

裁判長…考えあぐねているよう…。

「でしたらそもそも、オルフィリア公爵夫人の性格が、本件と密接に繋がっているという
理由を聞かせてください!!」

裁判長を置いてけぼりにして、ハイネンスが白熱…。

「私兵に非道を行っていないか!!という、疑惑を晴らすためです!!
先の公開演武最終試合で…女性を裸で戦わせるなど、おおよそ同じ女性としてあり得ないと
思わない…。その事一つとっても、非道と言わざるを得ない!!」

「それについては、騎士としての正当な試合であると、公式発表されたでしょう!!
戦争形式…それは、いつ敵が襲い来るやもしれない状態!!
何でもありとは、そういう事です!!」

「アナタは男の方だから、女性に対するその仕打ちが、どれほど心に傷を負わせるか、
わかっていないのです!!」

「失礼な!!社会的弱者を今までずっと扱ってきたのです!!
女性だって沢山いましたし、性被害者にも勝訴をもたらした事は、数知れずあります!!
護衛騎士と言う、特殊な立場でなければ、擁護する気はありません!!」

……本当に、話が別の方向へ行ってるよ。

「ハイネンス!!下がりなさい」

私は…裁判長が止める前に、ハイネンスを止めた。

「アナタが…痛めつけられた女性に対し、真摯に向き合ってきた人だという事、私とギリアムは
ちゃんとわかっていますよ。
でも…この問題は、男の方が言うより、女性が言ったほうが、収まりがいい。
私が…出ます!!許可願います、裁判長…」

「許可いたします、オルフィリア公爵夫人」

なんだかちょっと…ホッとしているような気がするのは、気のせいか?

私はまず…ドロテア嬢に対して、私の護衛を希望したからこそ、そのテストをする旨は伝えてあった。
書類一式は、希望であれば提出する。公開演武の場は、試験会場でもあった。
さらに…4年前の流星騎士団が、ギリアムに進言した一件…。それも話した上で、

「ハートは…この試験に合格して、私の護衛騎士となりました。
そしてドロテア嬢に関しては…4年も前にギリアムに、問題提起されていた。
にも拘らず…この問題について、少しも考えなかったというならば、浅はかと言わざるを得ないと思い
ますがね」

観衆が…色んな意味で、ざわめいたね。
ギリアムが問題提起していた事…知らない人間は多かったんだろう。
そして…ドロテアが、私に試験を申し出ていたことも…な。

マガルタは…流石に分が悪いと思ったのか、

「それについては、わかりました…。
ですが…ファルメニウス公爵家での、歓待パーティーについて、事実無根だとおっしゃるなら、
それを…証明してくださる方はいるのでしょうね?」

「もちろん…あのパーティーには沢山の人がいらっしゃいましたからね…」

にこやかに言ってやる。

「では…証人として、呼んでくださいますか?」

「もちろん…いいですわ」

すると…やっぱりマガルタの顔に…また、不敵な笑みが張り付いた。

「では…。お願いします…。ただし…」

「ファルメニウス公爵家の脅威を…意に介さない方で、お願いいたします」

マガルタのこの言葉に…私はピクリときた。
この短い言葉に…非常に沢山の思惑が、込められていると感じたから。

ファルメニウス公爵家は…良くも悪くも、この国で王家以上に恐れられている節がある。
王家に遠慮して、みんな言わないけどね。
だって普通に考えてもさ…。
現代日本で言えば、警察機構(軍隊)と経済流通…この2つを掌握しているようなもんなんだから。

そんなファルメニウス公爵家が、唯一気を使わなきゃいけないのが、王家だ。
だから…まず真っ先に王家が浮かぶが、そもそも…王家は途中から参加した。
それゆえ参加前の事に関しては、分からない。
ツァリオ閣下だってそう。

だから絶対に…最初から最後まで、知っている人間を出せと言ってくるはずだ。
私は会場に一切いなかったけど…それ自体も証明する人間が必要だ。
そうなると…王立騎士団関係者か、下位貴族になっちまう。

………………………………………。

私は…考えていくうちに、頭の中が冷えていくのを感じた。

マガルタが言った条件に当てはまるのは…ティタノ陛下しかいない。
あの人の言なら…誰もが反論できない。
でもそうなると、ティタノ陛下と私が愛人関係にある…と言うのが、真実味を帯びて
社交界にばら撒かれるだろう。
それは…否定し続ければいいけれど、どこに余波が行くかわからん…。
場合によって、国家間のバランスに、影響を与えることになっちまう。

だからできれば…避けたい…な、と。

この思考の間、どのくらいの時間が経っていたかは、分からない。

でも…私の心の中に、ぼうっ…と、舞子さんの海が浮かんだ時…。
私の頭の中に、架空の電球がいくつもつきまくった!!

そうだ!!
相手の裏をかいたうえで、ぎゃふんと言わせられるかもしれない…まさに、適任がいた。
上手くいく保証なんて、もちろんないけど!!
殺されるわけじゃないんだし、いっちょヤってやらぁ!!

私は…大きく息を吸い、

「わかりました…。では、ローエン閣下にお越し願おうと思います」

透き通った声で…言った。

ああ、マガルタの表情が、変らないけど…僅かにぎょっとしたの、私は見逃さんよ。
やっぱり…想定外だったみたいだね。

「ローエン閣下は…ファルメニウス公爵家内部の、警備の様子を見れる、絶好の機会である
事と…ルリーラ夫人とマーガレット夫人が、久しぶり故、緊張しないように…と、開始直後から
いらしていたのです。
ですから…全体を通しての様子が、分かると思いますよ」

にーっこりとすることも、忘れないよん。

「ああ、そうそう。
内部の警備の様子を見たい…と、仰ったのは、事前にギリアムの許可は得ていることも、
付け加えさせていただきます」

涼しい顔で…ね。

「あの…オルフィリア公爵夫人…」

ふむ…。やっぱり不満そうだね。
ティタノ陛下なんて引きずり出しても、いい事ないと思うんだが…。
それとも…何か秘策でもあるんかぁ?

「先ほどのご説明を…お聞きになっていないのですか?」

「いいえ。聞いておりましたよ。
わかりやすく言えば、ファルメニウス公爵家を怖がらない方…という事ですよね」

「ええ。その通りです」

「ですので、ローエン閣下をお呼びしようかと…」

空気が少し…張りつめたかぁ…。

「失礼ながら、ケイシロン公爵家は…ファルメニウス公爵家より、序列が下ですが?」

「ええ、その通りですよ。……それが何か、問題でも?」

にこやかさは変えずに…ね。

「失礼ながらこの場合は…ファルメニウス公爵家の脅威を受けない方…もしくは、その方の
息のかかった方にお願いするのが、道理かと…」

私はこの言葉で、ピンときた。

なるほど。

マガルタはティタノ陛下を引っ張り出したかったんじゃない。
王后陛下…もっと言えば、ジョノァドの配下の、下位貴族を呼び出したかったんだ。
私はメイン会場にはいなかったが、ファルメニウス公爵家のどこかで見た…と、証言させることは
いくらでもできる。
ジョノァドだったら、私がティタノ陛下を引っ張り出すことの、不利益も計算できると踏んでいて、
おかしくないからな。
もしくは…引っ張り出したら、それをネタに、私を攻撃する手筈を整えているのかも…。
この国の貴族を指定したら…それはそれで、ケチをつけ続けて、最終的にはにっちもさっちも行かん…で、
王后陛下が割って入る…。
そういう段取りなのかもしれんな…。

この考えに至った時…。

私は心の中で、密かにほくそ笑んだ。

これなら…私の策が、成功する可能性大だ。

「マガルタ弁護士の言う事は、もっともですわ。ですから…ローエン閣下にお願いいたしますわ」

心から…にっこりとね。

「あの…。オルフィリア公爵夫人…」

お、来るかぁ?

「先ほどから申し上げた通り!!ファルメニウス公爵家の脅威を退けられる方!!
で!!お願いします」

これで3回目だ…。
しかも…いい方が直接的で、強くなってやがる。
仕込みとしては…上々か…。

私は…ポーカーフェイスをあえて崩し、非常に険しい顔つきを作る。

「そのお言葉は…訂正してください、マガルタ弁護士」

怒気を孕ませ…言葉を吐き出す。

「それではまるで…ローエン閣下がファルメニウス公爵家の脅威に…屈する方だとおっしゃっている
ようなものですよ。
ローエン閣下は、そのような方ではございません」

これ…本心だからさ。んで、本当に怒っているからさぁ…私…。

「いいですか?オルフィリア公爵夫人…」

……まだ何か言う気か?

「現時点で…ローエン閣下は、ファルメニウス公爵家と…大変仲がおよろしいでしょう?」

「まあ…ありがたい事に…」

本当にありがたいよ。あの人…人格者だからさぁ。

「でしたら…。ファルメニウス公爵家を庇いだてすることも…十分にあり得る!!
そのような方は除いて、選んでいただきたいのです!!」

はっはーっ!!失言いただきました~。
確かにアンタの言は、一般の考え方からすりゃぁ、正しいよ…。

でも、このやり取りと発言でわかった…。
アンタは一流じゃない、二流だって…。

「???オルフィリア公爵夫人…」

マガルタが怪訝な顔を向けた。
無理もない。
私は無表情のまま、思いっきり…耳を塞いだから。

何でかって?

だって…この数秒後に、絶対耳栓が必要な事態になるからさぁ…。

マガルタの後ろから…でっかい影が、すうっと近づいた。
私は…いよいよ、耳を抑える手に、力を込めた。
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